3対3
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「なんで掌が爪で切れるほど手え握り締めてたんだ!!」
「…ついですね」
潔子先輩と水道に向かって手を洗い、タオルで水気を吹いて体育館に戻ってくると今度はみんなに怒られた。潔子先輩に手当を受けながら謝る。でも切れたものはしょうがないじゃないか。なんか気がついたら手を握り締めてたんだし。
「出来た」
「あ、潔子先輩ありがとうございます。…さ、続きしましょうか」
「なっ!無理だ!」
「蜜景…」
「無理じゃないです。」
「蜜景!!」
潔子先輩にお礼を言って立ち上がると同級生で同じクラスの力が強く私の名前を呼んだ。少し驚きながらも何?と聞けば、包帯だらけの私の手をそっと握る。
「これで…ホントにするのか?…」
するのかって言われても困る。する以外の選択肢って他にあるか?と言えばみんなに止めとけと全力で止められた。でもこんなので引き下がるわけにも行かない。私は力の手を軽く振りほどき、近くにあったボールを拾ってその場でトスを何回か上げてみる。うん、ちょっと痛いが大丈夫。まあ、スパイクとサーブは難ありだろうがこのくらい我慢すれば問題ない。ボールに触るのはほんの一瞬だしな。あ、でもその一瞬が痛いのか。
「月島君、山口君。二人共手は抜かなくていいよ。怪我してもヘマはしない。さっき通りのプレーをしてくれたらいいから。」
「で、でもっ…」
山口君がやたら渋っている。何だよ。私が怪我人だから満足にプレーもできないだろうって思ってるのか。
「蜜景」
「?はい」
今度は大地先輩に声をかけられる。やばい、大地先輩怒らせたか。でも中途半端なことはしたくない。
「はあ……止めたって聞かないんだろうな、お前は…」
「え?今ディスりました??」
「いやいや、褒めてるよ。……とりあえずそんなに出血も酷くないみたいだからこのまま試合は続けてもいい。けど、終わったらあとは大人しく座って見学。片付けとかも手伝いも何もさせない。わかったな?」
「りょ、了解です…」
怒られると思った。いや、ホントに良かった。よし、気を取り直して試合再開だ。月島君と山口君に「そういう事だから、引き続きよろしく頼むよ」と伝える。山口君は元気に返事をしてくれたし、月島君も返事してくれた。月島君君は普通にしてたらいい子だし、山口君も普通にいい子だ。準備運動をしながらコートに戻ろうとしたら孝支先輩に声をかけられた。
「蜜景ちゃん、やっぱり止めといた方が─…」
「いえ、やりますよ孝支先輩。自分でやりたいって言っておいて途中で投げ出すなんて……そんな無責任なことは出来ません」
それだけ言い残してコートに戻る足を進めた。中断して悪かったと謝れば飛雄君や日向君は首を横に振る。龍も心配して声をかけてくれるが問題ない。
「あ、そうそう。怪我してるからって手加減しなくていいからな。同情と手加減されるのが一番嫌いだからさ……ボク。」
思い出したかのように日向君たちに言うと彼らは恐る恐る頷いた。そしてポジションに付くと月島君に「先輩ってバカなんですか?」と言われたので、私は笑いながら「そうだな、バカかもな」と返した。
「よし、月島君ナイッサー」
月島君のサーブから再開された試合。日向君がレシーブし、それを飛雄君が日向君にトスを上げる。が、日向君は飛雄君のトスを打てない。やっぱり日向君には飛雄君のトスは行き成りじゃ合わせられないよな。日向君に怒鳴りかけた飛雄君を見ながら思った。
それからも何度も何度も日向君は飛雄君のトスを打とうと奮闘するがやっぱり難しいらしい。てか、ネットに絡まるって。日向君、君は網に捕まる魚か。そしてまた言い合いを始める飛雄君と日向君。その二人の会話にツッコミを入れる龍を含めた3人の会話を微笑ましく見守った。
「それじゃあ中学の時と同じだよ」
すると孝支先輩がボールを拾い、飛雄君に話しかけた。飛雄君のトスが日向君のすばしっこさと言う武器を殺しているのではないかとか。日向君は中学の時、ギリギリ飛雄君に合わせてくれてた子達とは違うけど、日向君の素材はピカイチとか。まだ言いたいことがまとまってない様子の孝支先輩。
「なんつーか、もっと日向の持ち味っていうか、才能っていうか、そういうのもっとこう…えーっと…なんかうまいこと使ってやれんじゃないの!?」
それを聞いた飛雄君。なんかうまいことってなんだってという顔をしていた。まあ、気持ちは分かる。〝なんかうまいこと〟な。日向君のスピードとバネと反射。確かにこれだけは本当に凄いんだよな。でもどうやってそれを生かすか。
「……俺も…お前と同じセッターだから、去年の試合…お前見てビビったよ。ズバ抜けたセンスとボールコントロール!そんで何より…敵ブロックの動きを冷静に見極める目と判断力!!…俺には、全部無いものだ」
「そっ、そんなことないっすよスガさん!」
「龍。一回聞いとこ」
「………」
「技術があってヤル気もありすぎるくらいあって、何より…〝周りを見る優れた目〟を持ってるお前に…仲間のことが見えないはずがない!!」
飛雄君は孝支先輩に言われた言葉について困った顔になっていた。でも何か考えが浮かんだのか飛雄君は日向君に「俺はお前の運動能力が羨ましい」と言った。飛雄君でも羨ましいと思うことがあるのか。私、初めて知ったよ。
「だから能力持ち腐れのお前が腹立たしい!!」
「はああっ!?」
「それならお前の能力、俺が全部使ってみせる!」
「何だ?」
「?」
「お前の1番のスピード。1番のジャンプでとべ。ボールは俺が持って行く!」
そして次は私のサーブから試合再開。飛雄君の異常な集中を感じた時から本気を出していた方が良かったかも知れない。ボールをその場で床に打ち付け弾ませる。やっぱり掌は痛い。血だらけになったんだ。痛いに決まっている。でも手を抜く気はないし、抜かれたくもない。笛の音が聞こえ、ボールを両手で持ち、額に当てて息を吐いた。
「……よし」
ボールを高く前にトスする。助走でキュッキュッと床とシューズの擦れ合う音が鳴る。高くジャンプし、落ちてくるボールを打った。
「っ!」
掌に痛みが走るがボールは狙い通りにラインギリギリに向かって飛んで行く。スピードもある。けど、いつも通りのサーブじゃないから龍に簡単に取られてしまった。そしてそのまさかな、という展開だ。飛雄君のトスに合わせられていなかった日向君が速攻を決めた。しかも驚くことはもう一つ。
「……なあ…。今…日向君…目え瞑ってたぞ」
「はァっ!?」
「?…あの、どういう…?」
「ジャンプする瞬間からスイングするまでの間、日向君は目を瞑ってた…。つまり飛雄君がボールを全く見ていない日向君の掌ピンポイントにトスを上げたんだ…。スイングの瞬間に合わせて…寸分の狂い無く…」
「ハァッ!?」
驚きまくってるみんなを他所に日向君は球が手に当たったことに大喜びしている。本当に信じるかよ、普通。君達、因縁の相手だろうが。しかも会って間もないのに。
「……しかし…流石、自慢の後輩だ…飛雄君は…」
やっぱり彼は、飛雄君は凄い。みんなが出来ないことをやってのける。私は飛雄君が持つ力の先の先の先を見てみたいから、彼を応援するんだ。それから何度か飛雄君は日向君にトスを上げる。だか失敗して顔面にボールをぶつけたりもしていた。てか顔面にトス喰らう子、始めて見たけど。
「山口君、ナイッサー」
山口君のサーブから試合再開。龍がレシーブしたと同時、日向君がネット前に詰める。月島君は危機感を持ったのか、山口君を呼びブロックを2枚にする。だが、日向君は月島君と山口君のブロックを素早く躱した。
「!?」
「!!」
完全にブロックを躱した日向君は高く飛び、飛雄君のドンピシャのトスを打った。こっちに飛んで来るボール。腕を伸ばし何とか触ることはできたがボールを上げることはできなかった。
「─オシ!!!」
飛雄君のトスは上手く日向君の手に上げられるようになっていた。日向君が機能してきたことで、龍もスパイクを決められるようになってきた。日向君の瞬発力と運動量、それに付け加え飛雄君の恐いくらい精密なトスがあるからこそできること。我が後輩ながらなんて恐ろしい子だ。流石は私の自慢の後輩、飛雄君。そしてついに1セット目を取られてしまった。
「どうだオラァァァ!!月島ァコラァァ!!俺と日向潰すっつったろうがァァ!!やってみろやおらァァ!!」
「…………………………」
「気にすんなよ月島君。あんなの放っとけ」
「緋蜂先輩…」
「取られたら、取り返す。それだけだ」
「……はい」
「あと……やられっぱなしっていうのもボクの性分じゃない。」
「!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
第2セットは私のサーブから開始。そうだ、やられっぱなしは私の性分じゃない。これは試合だ。勝ち負けがある。もちろん、飛雄君には勝ってもらいたい。そして私の目の前でセッターをやって欲しい。でも、私は負けたいわけじゃない。全力を出す。全力を出して勝ってくれる方が私はその方が嬉しいし。ボールを前に高くトスし、高くジャンプ。ボールが落ちて来た所を思い切り腕を振り下ろしてボールを打った。あれ、掌痛くない。ボールは白線上に落ちノータッチサービスエース。
「お、ラッキー」
「さ、殺人サーブっ…」
「相変わらず、えげつない強烈なサーブだな…蜜景は」
「あれが、蜜景さんのサーブだ」
私のサーブを見てビビっている日向君に龍と飛雄君が何か話している。だが、威力はやっぱり落ちている。次は多分取られるな。そしてボールを受け取りもう一度その場でボールを跳ねさせる。笛が鳴り、さっきと同じ様にジャンプサーブを打つ。今度は龍がちゃんとボールを拾った。龍が上げたボールの落下点へ飛雄君が行く。龍か日向君か、どっちで来る。飛雄君が上げたのは龍の方。龍はスペースの空いている所に打ってきた。
「ビンゴっ」
「緋蜂先輩ナイスレシーブ!!」
「山口」
私がそのボールを拾い、月島君が上げたトスを山口君が打つ。日向君がブロックで跳ぶが、ブロックの手に当たりブロックアウトになった。
「月島君ナイストス、山口君ナイスキー。その調子で次も頼むよ」
「ハイっ!」
わざとにコートに打ちやすそうなスペースを空けてやれば、スパイカーはそこに打ってくるからそれを絞ってボールを拾う。そういう作戦を立てるのは得意な方だ。それに高さとか力で勝てないことなんて分かりきってる。私は女だから。男との体格も力もどうやったって勝てない。でもその他なら、レシーブとボールコントロールなら負けない。
だが向こうも食いついて来る。なかなかの接戦だ。次のスパイクを打ったのは日向君。彼は私の左側に打ってきた。反応が少し遅れてボールを拾えない。残り4点のところで次から日向君は私の左側ばかりを打ってくる。忘れてた。彼は、飛雄君は私の左目の事を知ってるんだった。飛雄君はトスで日向君に私の左側を狙えと言っている。それにあの速攻だ。わかっていても間に合わない。それでもその左側を狙ったボールを拾おうと飛び込み手を伸ばすが拾えなかった。結局、私はそのボールを一度も拾えないまま、25対21で私達は負けてしまった。勝ったのは飛雄君と日向君。これで飛雄君はまたセッターを出来る。転がっていったボールを見ながら座り込み、嬉しい筈なのに素直に喜べない自分がいることに気がついた。
「……くそっ!!」
気が付けば私はそう口にし、自分の手を固く握ってコートに大きく叩きつけていた。痛む手を見つめて、私はまだバレーをして悔しいと思う気持ちが残っていたんだなと思う反面、その大きな音で自分が何をしたか気が付く。ちらっと先輩たちを見ると青ざめた顔で「やめなさい!」と怒られた。
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コートの端に座って1年同士の会話を聞き微笑ましい気持ちになりながら潔子先輩に両手の包帯を替えてもらう。
「潔子先輩、何回もありがとうございます」
「…蜜景は私をそんなに心配させたいの?」
「え…」
潔子先輩は私の顔をじっと見てそう言った。そっか、潔子先輩は私を心配してくれたんだ。潔子先輩だけじゃなくて大地先輩も孝支先輩も、他のみんなも。
「心配かけて、ごめんなさい…」
潔子先輩に「次からは気を付けてね?」と微笑み付きで言われて少し舞い上がりそうになるのを抑えて返事をした。すると大地先輩が私と潔子先輩の名前を呼んだ。
「〝アレ〟もう届いてたよな?」
潔子先輩は大地先輩の言葉に頷き、大地先輩がいう〝アレ〟を取りに向かった。私が行きますと言って立ち上がろうとしたら潔子先輩に「蜜景は座ってて」と言われてしまった。潔子先輩に「すみません」と言い、言われた通りにその場に座った。
「蜜景」
「力…」
力に名前を呼ばれ何かと思い、見れえば力の手には氷のうが握られている。保健室から取ってきてくれたのか。ありがたい。
「はい。ちゃんと冷やせよ」
「ありがとう、力」
「本当に無茶苦茶するよな、蜜景は」
「そうか?」
「そうだよ、危なっかしい」
「ははっ、ごめん。心配してくれてありがとう」
そう言えば、力は「どういたしまして」と言いながら私の手を取り、立てらせてくれた。すると大地先輩に名前を呼ばれる。ああ、アレやるのか。大地先輩達がいる方へ歩いて行き力の隣に立った。
「これから烏野バレー部として、せーの!」
「よろしく!!」
「…おす!!」