3対3
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
翌日、土曜。この日がやってきた。そう、飛雄君がセッターをやれるかやれないかをかけた大事な試合だ。
「よーし、じゃぁ始めるぞ。月島達の方には蜜景が入るから」
「えっ!?蜜景先輩が!?」
そうだ。月島君達の方には私が入らなきゃならない。いや、自分から出たいって言ってこうなったんだけど。日向君が声を上げて驚き、飛雄君も口にはしないが驚いている様だ。
「蜜景はマネージャーだがたまに練習にも参加してもらってる。実力は相当なものだから本気でやらないと痛い目見るぞ?まあ、影山はわかってると思うがな」
大地先輩、酷い。そうやってハードルを上げるんだ。人数合わせに練習に参加させてもらってるがブランクはあるも同然である。やばい、自分がちゃんと動けるか心配になってきた。月島君と山口君がいるとこに行きながら心の中で呟いた。
「月島君、山口君」
「はい!」
「昨日も話したけど…」
「あー、オホンッ。小さいのと田中さん、どっちを先に潰…抑えましょうかあ」
「……。」
「あっ、そうそう王様が負けるとこも見たいですよねえ」
「ちょっ…ツッキー聞こえてるんじゃ…?ヤバイよっ」
そう言って月島君にコソコソっと言っている山口君。月島君は「聞こえるように言ってるんだろうが」と言い「冷静さを欠いてくれたら有難いなあ」と付け足す。うん、私がこっちのチームじゃなく外で見てたなら確実にキレてたな。まあ、それも作戦って言ったら作戦だからなあ。
「月島君、君は本当にいい性格の悪さしてるな。私も人の事言えないが」
「─とくに、〝家来たち〟に見放されて一人ぼっちになっちゃった王様が見ものですよね」
ああ、やっぱりこれ同じチームでも腹立つな。でも飛雄君の為なのだ。よし、頑張ろ。久しぶりに飛雄君とバレーできるんだしな。
「ねえねえっ 、今の聞いたあ??」
すると急に龍がオネエ言葉とオネエ動作で飛雄君と日向君に話しかけ始める。え、何あれ、ウケる。
「あ〜んなこと言っちゃって月島クンってばホーントっ……擂り潰す!!!」
「はははー、言うと思った」
龍の言葉を聞き、やっぱり本気出さなきゃダメだなと思った。
3対3が始まり、飛雄君達のチームがリード。ブロックで飛ぶ長身の月島君を吹っ飛ばす程のパワーのあるスパイクを打つ龍は絶好調だ。
「田中ウザイ」
「喜びすぎ」
「一々服脱ぐな」
「龍を煽ったのは失敗だったカモなあー。てか龍、服着ろ!!」
私が月島君にそう言えば彼はチッと舌打ちをした。おお、ポーカーフェイスかましてると思ったけど、実は結構感情を表に出しちゃう子なんだな。次の向こうの攻撃、飛雄君は日向君にトスを上げるが日向君のスパイクは月島君に阻まれる。でもみんな、日向君のジャンプ力に驚いてる。それから何度も何度も日向君のスパイクは月島君に止められていた。
「月島君、ナイスブロックー」
「どうも」
「これで何本目だ?」
「田中の方は結構決まってるんだけどなぁ」
「くそ…」
「ほらほらブロックかかりっぱなしだよ?〝王様のトス〟やればいいじゃん敵を置き去りにするトス!ついでに仲間も置き去りにしちゃうヤツね」
「はいはい、月島君そこまでなー。飛雄君、気にするなよー?んじゃぁ、山口君ナイッサぁー」
常に飛雄君に喧嘩を売り続けている月島君に注意して、飛雄君にも声をかけて次のサーブを打つ山口君に声をかける。だが山口君の打ったサーブは向こうに入らずネットにかかってこっち側に落ちてしまった。はい、月島君の舌打ち頂きました。さてさて、次は何と飛雄君のサーブじゃないか、と考えながら腰を落として構える。飛雄君がサーブトスを上げて打つ。ボールはあっと言う間にこっちのコートに入って来た。私は瞬時にボールの落下点に移動する。
「!?」
確かに高校で初めて見た飛雄君のジャンプサーブはすごいと思った。でも、取れないサーブじゃないんだよな。ボールの威力と回転を殺し、月島君のいるあたりに上手く上げる事が出来た。月島君がトスを上げ、山口君がそれを打ち、日向君が取ろうとするが取れずにこっちの得点になる。
「…流石っスね、蜜景さん」
「いや、そうでもないよ。私よりレシーブ上手い人はいくらでもいるしな。でも君に褒められるのは悪い気しない」
飛雄君にそう言ってからボールを拾いに行こうとすると月島君はが飛雄君に「ホラ王様!そろそろ本気出したほうがいいんじゃない?」とか言っていた。すると日向君が「なんなんだお前!昨日から突っかかりやがって!王様のトスってなんだ!!!」と月島君を指差して怒鳴る。
「君、コイツがなんで王様って呼ばれてるか知らないの?」
「?こいつがなんかすげー上手いから…他の学校の奴がビビってそう呼んだとかじゃないの?」
「ハハッ。そう思ってる奴もけっこう居ると思うけどね」
「??」
「…噂じゃ〝コート上の王様〟って異名。北川第一の奴らがつけたらしいじゃん。〝王様〟のチームメイトがさ」
そうだ。飛雄君についている〝コート上の王様〟という異名は飛雄君と同じチームメイトの子達、つまり私の後輩達がつけた。意味は、自己チューの王様。横暴な独裁者。
「噂だけは聞いたことがあったけどあの試合見て納得いったよ。横暴が行き過ぎてあの決勝ベンチに下げられてたもんね」
その試合は私も良く覚えている。決勝まで残ったと言う話を聞いていたから我が母校の優勝の瞬間を見ようと試合を見に行った。でも北川第一は敗退。飛雄君のトスにスパイカー達はついていけず、第1セット相手のセットポイントで飛雄君がトスを上げた先には誰も居なかった。 あの日、何度かコンビミスはあった。だけどあれはミスじゃなかった。なのに、あの時のは誰も飛雄君が上げたトスを打とうとしなかった。それが今一番、飛雄君が恐れていることだと思う。それを分かってて月島君は飛雄君に言っている。
「速攻使わないのもあの決勝のせいでビビってるとか?」
「…てめえ、さっきからうるっせんだよ」
「田中。」
大地先輩は月島君につっかかろうとする龍の名前を呼び、首を振った。やめておけという意味だ。龍も大地先輩にそう言われ食い下がる。
「…ああ、そうだ。トスを上げた先に誰も居ないっつうのは、心底怖えよ」
飛雄君の口からあの日の事を聞くのは二度目だ。一度目は三ヶ月前に会った日。二度も聞いたが私は彼がどれだけ辛い思いをしたのかは想像出来ない。確に飛雄君にも悪いところがあった。でも要するにそれは彼の〝勝利への執着〟が生み出したものだ。誰が悪いとかじゃないと、私は思ってる。一先ずは、だが。大体、飛雄君にこの不名誉溢れる名前を付けた主犯も誰か分かってる。
「えっ、でもソレ中学のハナシでしょ?おれにはちゃんとトス上がるから別に関係ない」
みんなの沈黙を断ち切ったのは日向君。彼はどうやってお前をブチ抜くかだけが問題だ!とまた月島君を指差して言う。それには大地先輩も龍も笑っていた。日向君はいい意味でのKYらしい。
「月島に勝ってちゃんと部活入ってお前は正々堂々セッターやる!そんでおれにトス上げる!それ以外になんかあんのか!?」
月島君を指差したまま今度は飛雄君にそう言う日向君。飛雄君の顔はなんとも言えないような顔になっていた。私はそれを見てつい笑ってしまう。飛雄君のこんな顔は久しぶりに見た気がしたのだ。
「──そういう…いかにも〝純粋で真っ直ぐ〟みたいな感じ、イラッとする」
気合で身長差は埋まらない。努力で全部なんとかなると思ったら大間違いなんだよ。と言い残して、後ろに下がって行く月島君を見て疑問に思う。断言はできないけど彼にも色々あったのだろうなと思った。
月島君の打ったサーブを龍が拾い、龍と日向君が同時に「俺に上げろ!!」と声を上げる。日向君はまだ真っ向勝負で月島君には勝てない。だから上げるのは龍の方だ。そう思ったのに。
「影山!!」
「!?」
「居るぞ!!」
いや、君いつの間にそこに居たんだよと驚く。飛雄君は龍にトスを上げる体制になっていたにも関わらず、日向君にトスを上げた。日向君はそれをなんとかこっち側にボールは返す。落下点に腕を伸ばして飛び込むが流石にこれは届かない。
「アッブねー…空振るとこだった…」
「お前、何をイキナリっ」
「でもちゃんと球来た!!」
「!」
「中学のことなんか知らねえ!!おれにとってはどんなトスだってありがたぁ〜いトスなんだ!!おれはどこにだってとぶ!!どんな球だって打つ!!だからおれにトス、持って来い!!」
飛雄君に力強くそう言った日向君。私は今まで飛雄君にこんなことを言った子は見たことがなかった。でも流石だな飛雄君。龍にトス上げようとしてたのに日向君の声と動きに咄嗟に反応してあそこまで正確なトスを上げるとは。ホント、すごいよ飛雄君。
龍が飛雄君と日向君に速攻を使えるのかと話していた。でも日向君は山なりのトスしか打ったことがないと言うが君は中学の最後の大会で素人セッターのトスミスを打ってたよな。
「えっ?でもどうやったか覚えてないです」
「〜っ」
「でもおれどんなトスでも打ちますよ!打つからな!!」
合わせたこともないのに速攻なんてまだ無理だろ。飛雄君がそう言えば日向君は驚いたような顔になり「なんだお前変!そんな弱気なのきもちわるい変!!」と飛雄君を指さして声を上げる。
「…うっせーな」
「〝王様〟らしくないんじゃなァ〜い?」
「今打ち抜いてやるから待ってろっ!!」
「まァーたそんなムキになっちゃってさぁ。なんでもがむしゃらにやればいいってモンじゃないデショ」
「?」
「人には向き不向きがあるんだからさ」
ネット越しに日向君にそう言った月島君の言葉に龍が月島君につっかかろうとする。が、それを龍の名前を呼んで止めさせる。
「…………確かに中学ん時も…今も…おれ、跳んでも、跳んでも、ブロックに止められてばっかだ」
バレーボールは〝高さ〟が重要な競技。いくら高く跳べても圧倒的な身長差は埋まらない。日向君の気持ちは私もわかる。私も女子の中でも小さい方だからな。
「だけど、あんな風になりたいって思っちゃったんだよ。だから不利とか、不向きとか関係ないんだ。この身体で戦って勝って勝って、もっといっぱいコートに居たい!」
「─…!」
「…だからその方法が無いんでしょ。精神論じゃないんだって。〝キモチ〟で身長差が埋まんの?守備専門になるなら話は別だけど」
「…スパイカーの前の壁を切り開く…」
「?」
「その為のセッターだ」
「……??」
キュキュとシューズが床に擦れる音を響かせながら、日向君の隣に立った飛雄君はそう言う。この二人、もしかしたら大地先輩の言ってた通りいいコンビになるかもな。てか、なんか手がやたら痛いな。疑問に思いながらチラッと自分の掌を見て私は少なからず焦った。
「…………マジで?…成田ー。ちょっとタイムー」
レフェリーをしている同級生の成田にタイムを要求する。成田は不思議そうな顔をして頷く。やばいマジやばい。いや、ホントにこれやばいぞ。こんな状態でボール触ったらボールが大変な事になる。弁償させられる。
「先輩、すみません」
「?蜜景どうした?」
先輩達と同級生達がいる方に近寄って行くとみんな、なんだ?という顔をしていた。とりあえず現状説明の為、両手の掌を向けて見せるとみんなの顔が青くなり大地先輩が「誰か救急箱ー!!!」と声を上げ、孝支先輩には「蜜景ちゃん!!水道!!水道行くよ!!」と言われる。龍が横からどうした?と来たので掌を見せたら、お前馬鹿か!!と怒られてしまった。
「え?どうかしたんですか?」
今度は日向君と飛雄君が寄って来たので掌を見せる。日向君の顔は先輩達のように青くなり「ひいっ!血ぃっ!!」と悲鳴を上げる。そう、私の両手はうっすら赤色に染まっていた。飛雄君も「だっ、大丈夫ですか蜜景さん!!」と焦った様子で言う。「大丈夫、大丈夫」と笑っていると潔子先輩に「蜜景、行くよ」と引っ張られ、一度体育館を後にした。