終わりと始まり
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「ここに来るの久しぶりだな…」
中学総合体育大会、男子バレーボール競技が行われる市民体育館。去年もここに来たが、私は中学で男子バレーボール部のマネージャーをしていたから大会があるごとに来ていた。
「てか、早く来すぎたか?」
携帯の時計を見ると、待ち合わせより早かった。そりゃ、先輩達もまだ来ていない。さてこれからどうしたものか。とりあえずトーナメント表でも見て来ようとトーナメント表を探す。
「……あった」
直ぐ近くにトーナメント表を見つけ、そこから今日の目当ての学校であり、我が母校の北川第一中学校の名前を見つけた。そして対戦相手だが、雪ヶ丘という学校だった。うん、知らない。それよりもなんか、私の近くを通り過ぎる中学生達にすごい見られてる気がする。
「…このジャージの所為か?」
私が現在着ているジャージは黒地に〝烏野高校排球部〟と背中に白いプリントをされているジャージだ。でも黒のジャージ着てる子なんているだろうと思ったが案外居なかった。まあ、それはいいとして二階に行って場所でもとっとくか。先輩達に連絡をしておこう。
二階観客席に行き北川第一対雪ヶ丘の試合がよく見える場所を見つけた。北川第一のレギュラーに入れなかった選手達の対面の席になるが距離も離れているし、あの時より髪も短くなってる。私の顔なんて殆ど覚えてないだろうから私だと思われる事はないだろう。しかし、相変わらずの部員の多さに感心する。声も良く出ているし。
「あ、飛雄君だ…」
我が後輩である北川第一のメンバーの中から一人、ウォームアップしている姿を眺める。彼は影山飛雄君。私の一つ下でポジションはチームの司令塔であるセッター。身体能力が高くて類まれないバレーボールセンスを持っている、いわゆる〝天才〟と呼ばれる子だ。
「いつ見ても綺麗なトス上げるな、飛雄君は…」
「大地さん!スガさん!蜜景居ました!」
一人で自分の頬が緩んでいることを自覚しながら飛雄君の観察をしていると知っている声が聞こえた。同級生で同じバレー部の田中龍之介だ。龍の後ろから主将の澤村大地先輩と副部長の菅原孝支先輩が現れる。
「悪い、遅れた」
「お疲れ様です」
「場所取りありがと、蜜景ちゃん」
「いえ、大丈夫です。私が早く来すぎただけですし。てか龍。頼むからあんまりでかい声で私の名前を呼ばないでくれ」
龍は短くああ、と返事をして悪いと軽く謝る。彼は私が母校の後輩に関わりたくない理由を知っている。まあ、色々あるのだ。
「おっ、始まりますよ!」
「おう」
我が母校の対戦相手、雪ヶ丘中学校。やっぱりみんなすごい小さい。コートに入ると尚更小さく見える。ウォームアップから見てたがあれは素人の寄せ集めだ。多分、人数が足りなかったんだろうな。 あーあ、中学最後の大会の一回戦で我が母校と当たるなんて、可哀想に。
「でもなんで中坊の試合なんか…」
「〝王様〟を見に来たんだよ。〝コート上の王様〟」
「王様?」
「鋭いトス回しに加えて、ブロックやサーブでもガンガン点を稼ぎ、抜群の身体能力とバレーセンスでコートに君臨する〝王様〟!来年戦う事になるかもだろ?それに蜜景はあいつのことよく知ってるだろ」
「もちろんですよ。あの子は私の1番自慢の後輩ですから」
大地先輩が飛雄君の事や異名について話すが〝コート上の王様〟と言う本当の意味は全く別物だ。飛雄君の前でその異名を口にするのは禁句なのだから。でも私はその〝コート上の王様〟という異名は好きだ。何より王様ってのがかっこいい。
「へーっ、なんか感じ悪っ」
「まぁ、ただの噂だし〝王様〟の名の由来もよく知らないけどね…」
龍は常にそう言うのには気に食わない習性だからそれはいいとする。別に悪い奴じゃないしな。大地先輩の言っている噂は本当の事だという言葉は飲み込んだ。今、言うことじゃない。でも飛雄君はいい子なんだ、本当に。
「そんなんじゃないですよ、あの子は…」
「?蜜景ちゃん?」
「あの子は本当に…すごく、いい子ですから」
「ふーん……それにしても…〝王様〟の相手はどこだァ!?高校生対小学生みたいな身長差だなァ」
龍が言う通り、北川第一の対戦相手やっぱり知らないところだと思ったら案の定身長の小さい子達ばっかりだった。しかも人数ギリギリ。これは早く終わるだろうな。試合開始の笛が鳴り、北川第一からのサーブでスタート。雪ヶ丘の5番君がレシーブし、そして6番君がトスを1番君に上げた。が、1番君が打ったボールは北川第一のブロックに阻まれ、雪ヶ丘側のコートに落ちた。
「あチャー…捕まったか!」
まあ、当然だ。雪ヶ丘の方は全員素人。おまけに今ブロックしたのは飛雄君。彼はブロックも得意だ。素人のスパイクをどシャットする事なんて彼からすれば朝飯前だろう。
「でも…凄ぇ跳んだな」
孝支先輩が言った通り、1番君のバネには確かに驚かされた。だがその後も1番君は何度も何度も我が母校のブロックに阻まれ続け、1セット目は北川第一がとった。
第2セットも始まるも、雪ヶ丘の1番君はずっとブロックに阻まれていた。そしてあっという間に北川第一がリードしたまま22対7になった。
「あいたー!また捕まったーっ!!」
尚もブロックに阻まれている1番君に龍はそう言葉を零す。だが、彼はよく動いている。色々下手くそだが。あれで身長があればもっとまともに戦えていると思う。それでも我が母校には勝てないだろうが。龍も私と同じ事を言っていて、大地先輩が頷いた。
「後は……雪ヶ丘にちゃんとしたセッターが居たらあの1番もきっと活きるんだろうけどなあ。でも初心者寄せ集めみたいなメンバーをよく一人で支えてるよ、あの1番。逆に─…影山は周りの恵まれた面子をイマイチ活かしきれてないよな。影山個人の力は申し分ないはずなのに。まるで─…独りで戦ってるみたいだ」
大地先輩の言うことは間違ってない。私は拳をぎゅっと握る。その通りなのだ。だけど、私は、飛雄君の味方で居てあげたい。誰になんと言わようと。
「もっと速く!!」
その声に私はハッと現実に戻され、試合に目を向けた。その声は飛雄君で、恐らく飛雄君は速いトスを上げたのだろう。今のクイックに入ってきていたのは……ああ、金田一だ。飛雄君のトスはとても速い。だから飛雄君はそれに合わせる為にもっと早くにクイックに入って来いと言っているのだ。
「じゃあお前らが本気でやるのはいつだよ!?決勝か!?」
そしてまた飛雄君の怒鳴り声が体育館に響いた。怒鳴っている内容で大体あいつらが言ったことを理解した。こう言ったのだろう。「相手のブロックいないも同然なのに何をまじになってんだ」と。飛雄君の毛を逆撫でするのが好きなようだ。あいつらは。
「ほっんと…あいつらムカつく…」
北川第一からのサーブ。雪ヶ丘の3番君はレシーブミスをし、ボールは他所に飛んだ。すると1番君はそれを追いかける。2階席にいる客はそれは無理だろと言う。結局1番君はボールに飛び付くが追いつけずそのまま転がって壁にぶつかった。なるほど、1番君。私は君を見くびっていたようだ。ボールを追いかける理由はただ一つ。ボールは落ちていないから。どんなに劣勢だろうが戦い続ける理由はひとつ。まだ、負けていないから。
北川第一のサーブ、雪ヶ丘の1番君がレシーブ。5番君が足でボールを上げた。1番君が跳び、それを打った。ボールは金田一の手に当たり北川第一のコートの後ろに飛んで行った。それを追いかけていたのは国見。だが国見は諦めて追いかけるのをやめた。それを見ていた飛雄君は「最後まで追えよ!!」と怒鳴った。
「今の一点は奇跡じゃない!!獲られたんだ!!アイツに!!点を!!獲られたんだよ!!」
雪ヶ丘の1番君を指差してそう怒鳴る飛雄君。それを苦笑い浮かべている国見。やっぱり私はこいつらが一番嫌いだ。雪ヶ丘の1番君は奮闘しているが崖っぷちなのは変わらずだが、一体どうするのか。
次の雪ヶ丘のサーブはネットイン。そのボールを北川第一の金田一がとるがネットの向こう側に返る。雪ヶ丘はそれを繋ぎ、セッターがトスを上げた。
「!」
だが、セッターが上げたトスは1番君がいるところと反対側に上がった。トスミスだ。でもドリブルは取られていない。でももうこの試合は終わったな。誰もいないところにトスが上がっても誰も打てない。そう思った矢先、信じられないものを見た。気が付けば誰も居ないはずのボールの所にその1番君は跳んでいてそれを打っていた。
「マジか!!打ったよアイツ…!」
「驚いたな…」
「あんなムチャブリトスを…」
だが、1番君が打ったボールはコートの外に落ちた。つまりアウト。ここでゲームセット。我が母校、北川第一の勝利。だけど、彼らは大差で勝ったと表情ではなかった。そう、〝コート上の王様〟という不名誉な異名を付けられている彼も。
「〝コート上の王様〟か…」
「高校に入って来たら厄介な敵になりそうだな」
「あのチビも楽しみっすね」
そうだ、来年は敵として戦うことになるだろう。飛雄君も、あの1番君も。
「蜜景、行くぞ」
「はい。……来年、大会で会えるのを楽しみにしてるよ、二人共…」
▷おまけ
「気のせいかな…さっき緋蜂さんみたいな人居たんだけど…」
「マジで!?」
「おー。名前も蜜景って呼ばれてたし…でも髪型が違ったから人違いか?」
「でもさー、逆に王様の働き蜂だから来ないのもおかしくね?王様にご執心なんだから来ててもおかしくねーべ?」
「……そりゃあそうだわなっ!働き蜂様だもんなー!!あははははっ!!!」
「おい。」
「っ!!??」
「お前ら、今何話してた?」
「やべ……影山先輩だっ…」
「今のき、聞かれてたんじゃ…」
「べ、別に何もっ」
「俺の聞き間違いじゃなけりゃ、蜜景さんがどうとか聞こえたんだが?」
「い、言ってまっ」
「次言ったら許さねぇからな」
「っっ!!…すっ!すみませんんんんっ!!」
「ちっ…(蜜景さんのこと悪く言う奴は許さねえ)」