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烏野の守護神が帰ってくる日。こんな日でも私の起床時間は変わらない。朝は本当に苦手だからそこは許して欲しい。そして+αで私は寝起きが悪いから朝は機嫌が悪い。欠伸をしながら第二体育館を目指し歩いて行くと体育館の開いてる入口から潔子先輩が入って行くが見えた。そして次の瞬間、バチンという音が聞こえた。バチンってどんな音だ。手のひら打ちの音に似てたなと思いながら潔子先輩が入って行った入口で靴を履き替えて中に入る。するととても大きな声で名前を呼ばれた。
「蜜景ー!!」
「っ!?」
顔を上げると同時に自分の身体が浮いた。それに驚きながら私の身体を抱きかかえて、その場をくるくると回る張本人である奴のTシャツをしっかり掴んだ。相変わらず逞しい奴である。こんなに身体小さいのに。いや、私より大きいし、小さいって本人の前で言ったらめちゃくちゃ怒られるから言わないけど。
「夕。……おかえり」
「おう!ただいま!」
夕の行動に少し驚いたが怒る事ではないのでとりあえずおかえりと言えば夕はニィっと笑って応えた。が、夕の顔にもみじ形に赤くなっていた。これは多分さっき手のひら打ちを食らった証拠。お前、潔子先輩に何したよ。
「夕、降ろせ」
「おう。てかお前、ホント朝機嫌わるいなぁ」
私は今の状況を思い出し、夕を見下ろしてそう言えば夕は返事をして私を体育館の床に降ろす。私を見つけるなり駆け寄ってきて私を持ち上げたこの男は西谷夕。昨日、日向君たちと話していた烏野の守護神だ。今ここに居るということは一ヶ月の部活禁止も解けたということ。
「全く…西谷と蜜景は相変わらず仲いいなぁ」
笑いながら少し呆れ気味に大地先輩は言うが、孝支先輩は仲良すぎだろと言う。そうかなと思いながら夕を見るが夕も首を傾げた。すると龍が飛雄君と日向君に「こいつらいっつもこんな感じだからな」と言っていた。うん。違わないからなんにも言えない。
「蜜景、怪我してないか?」
「うん。大丈夫だよ、力。ありがと、う!?」
突然、腕を握られ驚いていると腕を握ったのは夕だった様だ。なんで今、腕握られたんだ。不思議に思っていると夕は私の掌を見て「これ、どうした」と真剣な顔で聞いてきた。ああ、やばい。怒ってる。
「一年生の3対3の時にな…。自分で作った傷…」
「はあ!?自分で傷作るなよ!!」
「…うん、ごめん」
なんで夕が怒るのかわかっている。私のことを心配してくれているからだ。本当に優しいヤツである。そんな夕に私は「これからは気を付ける」と言えば「ホントだな」と聞いてくる。その問いに私は頷いた。
「ならいい!あ、そうだ。蜜景!コイツお前の後輩だろ!北一って言ってたし!!」
夕は思い出したかのように飛雄君を指さして私に言う。こらこら、人に指を差すんじゃないと思いながら肯定した。
「そうだよ。飛雄君は私の自慢の後輩」
「だろうな!さっきコイツのサーブ取ったんだけど、なかなかすごかったぞ!」
「あ、あざす」
夕はそう言って飛雄君のジャンプサーブを褒める。そしてさり気無く夕は飛雄君のジャンプサーブとったと言う。全く訛ってない様で安心したし、飛雄君のすごさがわかるとは流石、夕だな。
「訛ってないようで安心した。夕は本当にかっこいいな」
「だろ!!」
「けど、潔子先輩に変なことしたら許さない。」
「ぅっ………!で、旭さんは??戻ってますか?」
夕のその言葉にみんな口を閉じる。1年生である飛雄君と日向君は首を傾げているが、他のみんなはなんて言えばいいか迷っているようだった。もちろん私も。大地先輩が間を空けて、戻っていないことを夕に告げる。
「───あの根性無し…!!」
「!!こらノヤ!!エースをそんな風に言うんじゃねえ!」
「うるせえ!根性無しは根性無しだ!!」
案の定、夕はエースである旭先輩の事を根性無しと言う。やっぱりまだ怒っていたか。いや、怒るには近いが少し違うかもしれない。
「!待てって!夕!」
「前にも言った通り、旭さんが戻んないなら俺も戻んねえ!!」
体育館から出ていこうとする夕に私が引き留めようとする。が、やっぱりダメなようだ。前から言っていた通り本当に旭先輩が戻ってこない限り本人も戻って来ないつもりらしい。夕は体育館の扉をバンッと閉めて、出て行ってしまった。でも夕がそう言うのも理由がある。私も理由をちゃんと理解している。
「はぁ……すみません、先輩。連れ戻してきます」
「あ!蜜景ちゃん!」
やっぱり引っ張ってくるかとそう思い、大地先輩と孝支先輩にそう伝えて体育館の外へ出た。辺りを見渡せば学ランの小さな男の姿が直ぐに飛び込んでくる。私は靴を急いで履き替え後を追う。
「なあ!待てよ!……待てって!夕!」
「何で黙ってた!!」
夕の学ランの裾を掴み引き止めると手を払い退けられ、怒鳴られる。怒鳴られたって怖くない。あの時に比べたら、全く。だけど、何で旭先輩が居ないことを黙ってたのかこいつに説明してやらないと、きっとこいつはカリカリしたままでいなきゃならない。
「お前に戻ってきて欲しかったから。」
「俺が戻ってきたって!!旭さんが居ないんじゃっ…」
「わかってる。でも夕が居なきゃ、旭先輩だって尚更戻って来ない」
「!!…」
そうだ、夕が戻って来ていなければ旭先輩はきっと戻ってこないのだ。それを夕はわかってない。事は無いはずなんだが、今はそんなこと考える余裕もないのかもしれないのだろう。
「だから、帰って来れる夕から先に帰って来て欲しかっ」
「レシーブ教えてください!!」
「!!」
私がそう言っている途中に誰かの声で語尾の方はかき消されてしまった。この声は日向君。なんで君がここに来ているんだ。てかレシーブ教えてくださいって。言ってくれたら私だって教えてやるのに。
「ニシヤさん、リベロですよね!?守備専門の…」
「ニシノヤだ」
「あっスミマセッ…」
「なんで俺がリベロだって思う?小っちぇえからか?」
そう言いながら夕はベンチに座る。自分で小さいって言うのはいいんだな。夕は。まあ、自分で言うのはいいけど人に言われるのは嫌、ってパターンなんだろうけど。だけど、日向君は馬鹿正直な子である。頷きそうだ。夕がキレるなら止めなければ。
「えっ?…いや、レシーブが上手いから…だってリベロは、小さいからやるポジションじゃなくて、レシーブが上手いからやれるポジションでしょ?」
「!…日向君…」
「お前…よくわかってんじゃねーか」
ああ、本当によく分かってる。何だ、日向君。ちゃんとわかってるじゃないか。リベロが何たるかを。あ、でも大地先輩が言ってた〝アレ〟もあるか。
「あと主将が〝守護神〟て言ってたし!」
「守っ!?な、そん、なんだソレ…そんな大げさな呼び方されたって俺は別にっ」
やっぱりそうだった。まあ、そりゃあ喜ぶよな。守護神とか本当にかっこいい名称だし。照れながら頭を抱え「ホントに言ってた?」なんて日向君に聞いている。日向君は何度も頷いてから自分はまだレシーブが下手くそだと、バレーボールで一番大事なトコなのにと話した。クソ及川先輩のサーブのことを思い出しているんだろうな、日向君は。
「だから、レシーブ教えて下さい!!西──…西谷先輩!!」
はい、夕に雷が落ちました。あ、雷ってお怒りじゃない方の雷だからな。衝撃って言ったら正解だと思う。
「……お前…練習の後で…ガリガリ君奢ってやる…」
「えっ!?」
「なんつっても俺は──〝先輩〟だからな!!」
龍といい夕といい、なんで先輩呼びにここまで弱いのか。こいつらもしかして中学の時、部活で先輩呼びされてないから免疫ないのか。部活に戻るワケではないが、これで夕はとりあえず部活には来てくれるだろう。日向君には感謝しなければならない。私も部活帰りにでもなんか奢ってやるかな。
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「だからよー、お前らよー。サッと行ってスッとやってポンだよ」
部活もあっという間に終わってしまい、後片付けをしている時、一年生レシーブ下手くそ組に夕のレシーブ講座が開かれていた。だが、夕の説明を聞いている日向君、月島君、山口君は頭に疑問符を浮かべながら首を傾げていて、夕が何を言ってるか全く理解できていなかった。
「…だめだ…〝本能で動く系〟の奴は何言ってんのかサッパリわからん」
え、お前も本能で動く系だろ。と龍のセリフを聞いて私の目が点になる。お前も夕と大して変わらないと思うが。あ、変わったわ。夕の方がかっこいいんだった。
「そうですか?俺なんとなくわかりましたけど」
「ちなみにお前がなにか説明する時も周りは何言ってるかわかってねぇからな!バッとかグワッとかよ!」
夕の言いたいことがなんとなくわかっている飛雄君に龍がそう言うと、飛雄君は「え」と声を漏らした。飛雄君はほんとにかわいいなあ。自分じゃわからないもんなあ。
「私は夕と飛雄君の言ってることわかるよ」
「ああ、お前も本能で動く系だからな」
龍と飛雄君の会話に入ってそう言えば龍に変な顔されてそんなこと言われた。何だその顔、腹立つ。でも飛雄君は嬉しそうな顔してるからいいや。
「確かに私は本能で動いてるって言ったら動いてるけど、説明はちゃんと出来るぞ」
「あの…西谷さん」
「?」
「〝旭さん〟って誰ですか?」
私は日向君の口からその名前が出たことに驚いた。なんでその名前を知っているんだ。ああ、朝からみんな言ってたな。でも日向君。夕にその名前を出したらダメだ。だが夕は怒るわけでもなく旭先輩の話を始める。夕が旭先輩を「烏野のエースだ、一応な」と言うと日向君は少し黙り込むと自分がエースになりたいと言った。そう言った日向君に飛雄君は「あいつ、まだあんな事…!」と言葉を漏らす。
「その身長でエース?」
「……………」
「いいなお前!!だよな!カッコイイからやりてえんだよな!いいぞいいぞなれなれエースなれ!」
夕は日向君の目標を笑うことなくむしろエースになれと言い始めた。そして今のエースより断然頼もしいと言う。おいおい、夕がそんなこと言っちゃダメだろと思うがそれはあえて口にしない。言ったらまた荒れそうだ。
「けどやっぱ〝憧れ〟といえばエースかあ」
「ハイ!エースカッコイイデス!」
「〝エース〟って響きがもうカッコイイもんなちくしょう。〝エーススパイカー〟って花形に比べたらセッターとかリベロはパッと見、地味だもんな」
夕のその言葉に隣で居る飛雄君がムッとする。それを私と孝支先輩が宥めた。宥めている最中に夕は言葉を続ける。
「けどよ。試合中、会場が一番〝ワッ〟と盛り上がるのはどんなすげえスパイクよりスーパーレシーブが出た時だぜ」
高さ勝負のバレーボールでリベロは小さな選手が生き残る唯一のポジション。けど、夕はこの身長だからリベロやってるわけじゃないと言った。
「たとえ身長が2mあったって俺はリベロをやる。スパイクが打てなくても、ブロックが出来なくてもボールが床に落ちさえしなければバレーボールは負けない。そんでそれが一番できるのはリベロだ」
夕はそう言うと右手で親指を突き出して自分を指刺した。セリフとその動作で日向君は夕に向かってカッコイイと言う声を漏らす。日向君わかるよ。ああ、夕ほんとにかっこいい。今まじで心臓ドキってした。はぁー、夕はリベロの鑑だな。すると夕は照れて日向君にガリガリ君ソーダ味とナシ味2本奢ると言う。
「─で、お前の特技は?〝エース志望〟」
「えっ」
「レシーブはへったくそだしな、なんかあんだろ」
「うっ…お…とり…」
「あ?鳥?」
「おっ、囮…」
日向君は自信無さげにそう言う。やっぱり、日向君的には気に入ってないんだな、最強の囮。そんな様子の日向君に夕も「なんでそんな自信無さげに言うんだ」と言った。
「…〝エース!〟とか〝守護神!〟とか〝司令塔!〟とかと比べてなんかパッとしないって言うか…」
「呼び方なんて関係無ぇだろ」
「でも」
「お前の囮のお陰で誰かのスパイクが決まるならお前のポジションだって重要さは変わんねえよ。〝エース〟とも〝守護神〟とも〝司令塔〟ともな」
「……………ハイ…」
そう言った夕の言葉は説得力のある言葉だった。横に居る飛雄君も頷いて夕の言葉を聞いていた。やっぱり、夕は言うことが違う。
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