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「緋蜂先輩!」
「んー?」
「緋蜂先輩がマネージャーになったのって怪我が原因でしたよね?でも大王様に言われたからマネージャーになったんですか?」
「!」
バスに乗って烏野に帰る途中、日向君に呼ばれて上を見ると後ろに座ってる日向君が席を立ってそんなことを聞いてきた。あの人、ホントに余計なことをしてくれる。
「日向っ!!てめっ!また!!」
「うん、そうだよ」
「蜜景さんっ!!」
日向君の隣に座ってる飛雄君は立ち上がって前に座っている私を見下ろしながら私の名前を呼ぶ。そんな彼を見上げて私は大丈夫だと言った。話しちゃいけないことでもないし、隠していることでもない。
「…及川先輩に言われたんだよ。マネージャーやってれば、逃げたことにはならないって…」
「蜜景さん…」
「あの人が言った通り、マネージャーをしていれば〝逃げた〟という事が薄れると自分でも思ったしな…」
「まあ、マネージャーになってもバレーは出来ないし、マネージャーなんてクソだって思ってたんだけど」などと笑いながら話すとみんなに苦笑いされた。
「うちに入ってきた時の蜜景はよく覚えてるよ」
「かの有名な〝蜂鳥〟が烏野に来たってな」
私の反対側の席に座ってる大地先輩と孝支先輩が出した中学校の時に呼ばれていた自分の異名に思わず笑う。
「俺達はノワがそんなことになってるの知ってるのは知ってたんだが…うちにマネージャー入部希望で来た時、思わず聞き返しちゃったよ。女子バレー部じゃなくていいのかって」
「そしたらノワちゃん、〝ボクが女子バレー部じゃなくて男子バレー部のマネージャー希望で入部する事がダメなんですか?〟って……俺あの時、内心やばいって思っちゃって…すごいドキドキした…」
ああ、そんなこともあったし、先輩達に冷たく言い放った記憶がある。先輩達ビビってたなぁと思いながら、あの時は本当にすみませんでしたと謝る。あの時の私はまだヤサグレていたのだ。中学生の頃と比べたらまだマシだが。
「あ!〝蜂鳥〟って緋蜂先輩の異名ですよね!」
日向君が私にキラキラした目線を送りながらそう言うので驚いた。なんでこの子、私の異名知ってんだと思い、聞いてみると龍と飛雄君に3対3の試合の時に聞いたと言った。ああ、あの時か。
「まあ、それは中1の時から怪我するまでの間の名前だよ。マネージャーやり始めてからは〝蜜蜂〟って呼ばれてた」
「?蜜蜂?」
「そ。王様の為に尽くす働き蜂…って言う皮肉の意味を込めて〝蜜蜂〟ってな。」
この名前は今日戦った青城にいる私の後輩が付けた名前だ。ろくでもない後輩だが、この名前を付けてくれたことには感謝しておく。
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烏野に着いて、荷物も運び出し体育館を軽く掃除をして部活が終わった。帰り道、龍と飛雄君と日向君が坂の下商店に寄ってぐんぐんバーをもらって出てきたのを見た私は中華まんが食べたかったんじゃないのかと二人に聞く。二人曰く先程来たサッカー部が買って行ったのが最後で代わりにぐんぐんバーをくれたらしい。
「それにしてもよぉ〜。あの優男のサーブ凄かったなァ。最初からアレやられてたらヤバかったぜ…。さすが蜜景と影山と同中の先輩……………アレ?ていうか、影山ってなんで烏野に居るんだっけ?県内一の強豪つったらやっぱ白鳥沢だろ」
「白鳥?」
聞きなれない名前なのか、日向君は首を傾げていた。白鳥沢も知らないとは。本当に烏野の小さな巨人にしか興味無いんだな。と、そう思った私は日向君に白鳥沢学園高校のことを説明してやる。
「白鳥沢学園高校。全国でも必ず8強に食い込む強豪校だよ」
「ほーっ」
「…落ちました。白鳥沢」
「落ちた!?」
「白鳥沢から推薦来なかったし、一般で受けて落ちたんです。蜜景さんに勉強教えてもらったんですけど試験は意味不明でした」
と、飛雄君が言えば龍に「お前、影山の勉強の面倒も見てやってんのか」と言われた。見ちゃ悪いか。かわいい後輩に頼まれたら断れるわけ無いだろうよ。まあ、問題難しいから私も少ししか教えられなかったが。
「あそこは普通に入ろうとしたら超難関だもんな…」
大地先輩の言葉のあと月島君が「へぇーっ〝王様〟勉強は大した事ないんだネ〜」と山口君と笑いながらおつかれースと挨拶して横を通り過ぎていった。
「で、なんで烏野に?まさかお前も〝小さな巨人〟に憧れて?」
「…引退した〝烏養監督〟が戻ってくるって聞いたから」
「うかい?」
「無名だった烏野を春高の全国大会まで導いた名将だよ」
またも頭に疑問符を浮かべて首を傾げる日向君に説明してやった。てか〝小さな巨人〟知っててなんで烏養監督知らないんだよ、この子。と思っていたら飛雄君が日向君に言ってくれた。
「その頃は監督目当てで県外から来る生徒も居たって言うぞ」
「ほーっ」
「〝烏野の烏養〟って名前がもう有名だったよな」
「ああ、凶暴な烏飼ってる監督だってな」
烏養監督の事を話す龍の言葉に私は同意し、昔に噂されていた事を話した。すると孝支先輩が「2・3年は去年少しだけ指導受けたけど、すげえスパルタだったぞ…」と言った。確かにあれはやばかった。見てるこっちまで吐きそうになった。あ、そういえば私も練習に参加したわ。と一人で納得していると飛雄君と日向君が羨ましそうにしていて、孝支先輩が「なんで羨ましそうなんだよ」とツッコミを入れた。
「烏養監督は本格的な復帰が決まってたんだけど、復帰後少しして倒れちゃったんだよ。歳が歳だし…。若い頃は無茶したらしいし…」
「けど別にどの高校に入ったって戦う相手は同じ高校生。勝てない理由なんてない」
「負け惜しみは止せ!カッコつけて言ってもムダだぞ!」
「違いますよっ!!カッコもつけてませんっ!!実際、今日4強に勝ったじゃないですか!」
飛雄君は龍の横で笑う日向君の胸倉を掴んで持ち上げてそう言う。すごいな、飛雄君。片手で日向君持ち上げられるのかと一人で感心する。
「まぁなー!!あの青城に2-1!俺もフリーで決められたし日向のお陰だな!」
「あっあざース!」
飛雄君に持ち上げられたまま、日向君は龍に〝日向のお陰〟と言う言葉に礼を言った。確かに今日の日向君の囮はよく機能していた。金田一とか囮に引っかかってたし。日向君自身にデビュー戦の感想を聞いてみると、飛雄君に降ろされた日向君は言葉は出さないものの、手応えがあったようだ。その嬉しそうな顔と手をぐっと握り閉める姿に私も嬉しくなる。だが、ここで褒めてやる程、私は甘くない。
「まあ1セット目、盛大にやらかしてたけどな」
「先輩たちは優しいからいいとして、同級生の足まで引っ張ってたからな」
「得点と同じくらい失点もしてんだから満足すんなよ」
龍、私、飛雄君の順番に1セット目の日向君のやらかし具合を本人に言った。が、「なんでそんな事言うんだよ!」と孝支先輩に怒られてしまった。でも本当に酷かったよ。自分のボールじゃないのを無理に取ってレシーブ崩れるわ、審判の台にぶつかるわ。あれは審判の人可哀想だった。
「…そうなんだよ…俺達には色々足りてなくて、今日の勝利もギリギリだった」
「いっいっぱい練習します!」
大地先輩の言葉に日向君はそう言って決意を表す。そんな日向君に大地先輩は「個人のレベルアップも大事だな」と言った。少しあたふたしてるから日向君にプレッシャーをかけたとか思ってるんだと思う。
「けど…今の烏野には根本的にメンバーが足りてないんだよ」
「…守備の要の〝リベロ〟。連携攻撃が使えない時でも一人で敵の3枚ブロックと勝負できる〝エーススパイカー〟」
リベロもエースも居るだけどな。飛雄君の言葉を耳して一人、思う。まあ、今は訳あって居ないんだけど。
「蜜景が練習に混ざってくれたり、アドバイスをくれてるけど…やっぱり技術の指導とか試合中の采配をとる監督とかコーチが…」
確かに監督やコーチが居てくれたら、試合中的確な指示や、練習の時手伝ってくれるだろうし。私だけじゃ手が足りないからな。
「エッ、エースならおれがっっ」
必死に「エースになる」と手を挙げて言う日向君に飛雄君がすかさず「お前は〝最強の囮〟だっつってんダロ!」と言う。そうそう。私もその方がいいと思う。
「でも〝守護神〟が戻ってくるって言ってましたよね」
「うん」
飛雄君が大地先輩を見てそう言う。すると孝支先輩が「ウチは強豪じゃないけど特別弱くもない」と話始めた。
「今までだって優秀な人材は居たハズなのにその力をちゃんと繋げてなかった。でもまた皆が揃ってそこに1年生の新戦力も加わって、その戦力ちゃんと全部繋げたら…」
「………夏のインターハイ…〝全国〟がただの〝遠くの目標〟じゃなく〝現実に掴めるもの〟にきっとなる」
住宅地の夜道に大地先輩の言葉が静かに響く。全国が現実に掴めるもの、か。二人が帰ってきてくれたら、きっと出来る。私はそう思った。今のままではダメだ。
「夏のインターハイ…!!聞いたことあるっ!!」
「……けど、そのこれから戻ってくる人は今までどうしてたんですか?」
夏のインターハイと言う言葉に目を輝かせる日向君を他所に、やっぱり疑問に思ったんだろう飛雄君が私達にそう聞いてきた。私は苦笑いを浮かべて「やっぱり気になるよな」と言って言葉を続けた。
「…一週間の自宅謹慎と、約一か月の部活禁止だったんだよ」
「ふ、不良!不良!?」
「違う違う」
「アレはな〜、ちょっとアツすぎるだけなんだよ。イイ奴なんだよ、まじで」
龍がそいつの事を話している時、飛雄君の顔が「田中さんにアツすぎるって言われるとかどんだけだ」と言う顔になっていて思わず笑いそうになってしまった。
「それに、あいつは烏野で唯一天才と呼べる選手だ!…まあ、今はクソ生意気な影山が入ってきたから〝唯一〟じゃなくなったけどな」
「………」
龍にそう言われてキョトンとしている飛雄君に私は「君は生意気じゃないよ」と言ってやる。すると龍に「お前は影山に甘すぎなんだよ」と言われた。
「甘くないし、ホントの事だし」
「はいはい」
「ソイツが戻ってきたら〝先輩〟って呼んでやれよ日向。田中みたくバカ喜びすると思うから」
「バカとか…」
大地先輩の言うことは良く分かる。なんせ龍とあいつはタイプが似てるからな。まあ、イケメソ度と男前度、そして包容力を比べたら全く別物だけどな。
「お前今失礼なこと考えただろ」
「え?何のこと?」
「蜜景!月島みたいに笑うのやめろ!!」
つい月島君のような笑い方をしてしまい、さすがにバレてしまったか。月島君の笑い方って煽りやすいんだよ。龍にするの面白い面白い。
「そう言えば蜜景ちゃんは白鳥沢から推薦来てたって聞いたけど」
「え!?マジで!?」
え、待って孝支先輩。それ誰情報ですか。てか食いつくな、龍。あー、これも説明しなきゃいけないのか。
「推薦が来たってだけで、特に何もないですって。私は烏野に行くことしか考えてなかったので」
と言うか、何故バレー辞めた私のところに推薦が来たのかと、それだけが自分でも謎だった。まあ、思い当たる節があると言えばある。だが、今はそれを言うことは無いだろう。
「え?青城は?」
「青城??無いですね。あの人がいるとことか死んでも嫌です。」
「そんなに嫌なんだ…」
「もちろんです。元々白鳥沢と烏野で悩んでたのを後押しもらって烏野にした訳ですし」
「へー……初耳だな」
「言ったことないからですね」