青葉城西 練習試合
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おかしい。烏野ベンチでドリンクやら準備をしながら城西側を観察する。今日、一番会いたくない人がいない。まあ、会いたくないから別にいてくれなくていいんだが。でも一応、飛雄君に聞いておこう。
「飛雄君」
「はい」
「あの人、居ないんだけど」
「ですね。俺も思いました」
「何で居ないんだ?」
「……蜜景さん」
飛雄君に名前を呼ばれて、首を傾げると彼は「アレ」とだけ言った。アレ?アレって何だ、と思いながら青城側を見るとベンチから〝憎たらしい後輩、その二〟の国見が金田一と話しながら私を睨み見ていた。ああ、この事か。めっちゃ見てる、睨んでる。でも、残念。君らが睨んでもなんにも怖くないんだよー。因みに〝憎たらしい後輩、その一〟は金田一である。
「烏野高校対青葉城西高校、練習試合始めます!!」
そして、練習試合が始まった。城西側からのサーブ。大地先輩が取ろうとしたのだが横にいた日向君が奪うように手を出す。おいおい、どう考えても君のボールじゃないでしょうが。そしてカバーで力が龍に上げるが、打った龍のスパイクは綺麗にブロックされてしまった。それからも完全に呑まれている日向君がミスを連発。何やってるんだ日向君。しかも1セット目の相手のセットポイントで、サーブは日向君って。大丈夫か、あの子。ちゃんと息してるのか。彼は笛の音にびっくりしてサーブ打った。
「!!?」
緊張したままの日向君が打ったサーブは、真っ直ぐ低く飛び、飛雄君の後頭部にぶち当たってしまった。この時点で相手のポイント。笛が鳴り、今ので第一セットが終わったと知らせ、私はハッとして後頭部にボールを食らった彼の名前を叫ぶ様に呼んだ。
「!!と、飛雄君んんっ!!?」
慌てて 「冷やす物!氷!氷嚢!貰ってくる!」 と早口で言ってその場から走り出そうとすると孝支先輩に捕まえられて「蜜景ちゃん!落ち着いて!気持ちはわかるけど!」と言い聞かされた。
「これが落ち着いていられますかぁっ!!」
「ちょ!いつものクールな蜜景ちゃんはどこ行ったの!?」
孝支先輩はわかってない。私が飛雄君の事になったら取り乱すって事を。当然だ。私の大事な後輩だ。取り乱さない方がおかしい。そして私が孝支先輩に捕まっている一方で、大地先輩が飛雄君を落ち着かせようと必死になっていた。
「ま、待て、影山!気持ちはわかるが抑えるんだ!」
「………まだ…何も言ってませんけど」
そう言った飛雄君の顔は本気で怒っている顔だった。だから孝支先輩は飛雄君が日向君に何かしようものなら飛雄君を押さえようと構えていた。
「…ぶ、ォハーッ!!ぅオイ、後頭部大丈夫か!!」
「ナイス後頭部!!」
周りで焦りまくっている人が多い中、龍と月島君は2人ゲラゲラと笑い散らす。その様子を見た孝支先輩は「煽るのもダメだっつーの!!」と怒鳴り、大地先輩は「ヤメロお前らっ」と必死になっていた。すると飛雄君がゆっくりと日向君のもとに歩いていく。
「はっ!飛雄君!」
「…………………………………お前さ」
「ッ……………ハイ」
「一体何にビビってそんなに緊張してんの??相手がデカイこと…?初めての練習試合だから…?俺の後頭部にサーブをブチ込む以上に、恐いことって…なに?」
「……とくにおもいあたりません」
冷や汗をかきまくる日向君にそう言いながら自分の後頭部をバシバシと叩く飛雄君。顔はまあ、笑っている。だが目が怖かった。私あんな風に怒る飛雄君初めて見たよ。
「じゃあ!もう緊張する理由もないよなあ!もうやっちまったもんなあ!一番恐いこと!それなら……とっとと通常運転に戻れバカヤローッ!!!」
飛雄君はコートを指さして日向君にそう怒鳴ると日向君の元から離れた。何だ、大丈夫じゃないか。いや、それよりも飛雄君が心配だ。特に後頭部。自分でシバキ回ってたよ、絶対痛い。
「飛雄君、頭痛くないか?」
「はい、大丈夫っス」
「ホントに?違和感とかあったらすぐに言うんだぞ?」
そう言って飛雄君にタオルとドリンクを渡した。彼はタオルとドリンクを受け取ると素直に返事をしてくれた。うん、ひとまず大きな問題にもならなくて良かった。
「おいコラ日向ァ!!」
と、思ったが龍が日向君の方に近づいて行った。あ、これやばくないか。そう思うが龍を止めようとは思わなかった。
「…オマエ」
「……ハイ」
「他の奴みたいに上手にやんなきゃとか思ってんのか、イッチョ前に」
龍が正座をしている日向君に腕を組んで聞く。すると日向君は「ちゃんとやんないと交替させられるから。最後まで試合に出たいから」と途切れ途切れにそう言った。確かに試合には最後まで出たいよな。わかるよ、それは。
「……オイ…ナメるなよ!!お前が下手糞なことなんかわかりきってることだろうが!」
「え゙っ…」
「わかってて入れてんだろ、大地さんは!」
それからも龍は説教を続ける。交替させられた時のことは、交替させられたときに考えろってな。いや、確かにそれはその通りだと思うが。すると横から武田先生に「助けなくて平気?」と聞かれた。私が答える前に孝支先輩が「あ、ハイ」と返事をして、武田先生は不安そうに「そ…そお?」と言った。
「良いかァ!バレーボールっつうのはなあ!ネットの〝こっちっ側〟に居る全員!もれなく〝味方〟なんだよ!!」
龍の大きな声にそっちに振り向く。龍の言葉を聞いているといいことを言っている。まあ、ああ言うのは裏表ない奴が言うから効果があるんだけど。要するに、私みたいな奴が言っても効果ないって事だ。
「下手糞上等!!迷惑かけろ!!足を引っ張れ!!……それを補ってやるための!!〝チーム〟であり、〝センパイ〟だ!!」
「…………おいおい…」
「ホレ、田中先輩と呼べ!」
「田中先輩!」
「わはは!もう一回!」
「田中先輩!!」
「わはは!!」
「…〝先輩〟って呼ばれたいだけだな、アレ」
「でしたね」
「うん…でも、田中が居て助かった…ああいうことは絶対裏表無さそうな奴が言うから効果があるんだよな…」
あ、大地先輩も私が思ったこと言ってる。みんなやっぱりそう思いますよね。でも龍のお陰で日向君の顔色も戻ったしよかったよかった。
ギャラリーが増えてきたところで第2セットを始めますという審判の声が聞こえた。みんなその声を聞いてコートに向かう中、私は飛雄君を呼び止めた。
「飛雄君」
「?…はい」
「…頑張れ」
私がニッコリ笑って飛雄君にそう言うと、彼は強く返事をしてコートに入っていった。さあ、見てろよ〝憎たらしい後輩その一とその二〟。彼はもう、君らの知ってる飛雄君じゃないから。あ、第2セットは力からサーブか。
「力!ナイッサー!」
審判の笛が鳴り、私もみんなも「ナイッサー」と声をかける。力のサーブは城西側に入り、城西側は憎たらしい後輩その二を使ってスパイクを打つ。月島君がレシーブするがあまり綺麗に上がっていない。
「影山(飛雄君)カバー!」
「ハイ!」
龍と声が被ったが気にしない。大地先輩がライト、龍がレフトで声を上げる。そして飛雄君がボールに手をつける前にセンターで居た日向君がトップスピードでネット側に走り、飛び上がった。飛雄君は既に飛んでいる日向君にネットから離れた場所からトスを上げた。だが日向君の手にボールは当たらず、ネットに当たってコートにボールが落ちる。大地先輩や龍、日向君は、あれ?という顔をしていた。まあ、しょうがない。飛雄君も人間だっていう事だ。すると憎たらしい後輩その一が日向君に何か言っている。おそらく飛雄君の事だろう。
「日向!」
急に名前を呼ばれた日向君は飛雄君の声にビクッと肩を揺らす。飛雄君、また怒っちゃったのか。と思っていたがそうじゃなかったようだ。
「悪い、今のトス少し高かった」
飛雄君はただ日向君に謝っただけだった。うん、やっぱり彼は素直だ。てかあのらっきょうは飛雄君の事をなんだと思ってるんだろうな。まあ、今ので日向君の動きは完全に復活したことがわかった。
そして次の攻撃、力のレシーブから飛雄君は日向君にボールを上げる。そのあまりに速い攻撃に城西側の選手、周りのギャラリーも「え?」という顔をしていた。
「っしゃ!!」
「でたよ…変人トス&スパイク…」
ガッツポーズを取る二人を気持ち悪い物でも見るような目でそう言った月島君に苦笑いを零しながら私は二人にナイスと声をかけた。二人とも嬉しそうに返事してくれる所、私も嬉しくなる。ああ、飛雄君かわいい。
「オォ―――ッシ!!」と、円になってガッツポーズをとる選手たち。それを見て微笑ましい気持ちになる。ただ月島君がすごく嫌そうな顔をしているのが勿体無い。そこから烏野の反撃が始まり、日向君に相手のブロックが跳んだのを狙い、龍がスパイクを決める。すると悔しそうにしている金田一に龍が「試合で見てみろって言ったろ!?」と言っていた。いつそんな話したんだよ。
それからも作戦通りに日向君が機能していた。青城側がタイムアウトをとり、選手たちがベンチに帰ってくる。私はドリンク、潔子先輩はタオルを持って2人で選手たちに渡し、最後に飛雄君にドリンクを渡した。
「ナイストス、飛雄君」
「あざすっ」
「なんであの人が居ないのか知らないけど、居なくて良かったな」
「はい。でも、もしかしたら…」
「出てくるかもだな…。ほんと…会いたくない」
飛雄君とある人のことについて話している時、少し騒がしい方にちらっと顔を向けると月島君が日向君の顔にドリンクを押し付けていた。
「こらこら、月島君やめなさい」
「はーい」
月島君からドリンクボトルを取り上げて、それを日向君に渡す。彼はありがとうございますと言ってドリンクをもらってくれた。すると今度は飛雄君が日向君に「このままセット獲るぞ!!」と言って彼の背中をバシンと叩いていた。飛雄君は気合が入ってる。タイムアウトが終わっても烏野のペースだった。月島君が飛雄君のトスが精密過ぎて気持ち悪いとか言って、そこからまた二人の言い争いになってたが、大地先輩が止めてくれたし、なんやかんやでちゃんとプレーできてるから問題はないんだろうな。あ、ここで二人が前衛か。
「青城チームに負けず劣らずのなんとも威圧的なブロックだね…」
武田先生はバレーのルールを少しでも覚えようとしながら試合を見ている。多分、武田先生ならすぐにルール覚えられるだろうな。てか飛雄君、月島君。顔、顔。
「君はブロックも得意なんだっけ?でもあんまり出しゃばんないでね。180しかないくせに」
「てめーこそフッ飛ばされんじゃねえぞ。ヒョロッヒョロしやがって」
「けっ、けんかすんなよ。な?」
また喧嘩してあの二人は。友達みたいになれとは言わないけど、流石に試合でアレはだめだ。私は飛雄君と月島君の喧嘩を止めている力の三人の様子を見て、黙って見ていられず一度溜息を吐いてから声を張り上げた。
「飛雄!!蛍!!」
「!?」
私が大声を出したことにびっくりしたのか、それとも下の名前を呼び捨てにしたからか、二人共、驚いた顔でこっちを向く。
「今試合中だぞ!!あと先輩を困らせるな!!」
集中切らすな。と私がそう言えば、今度は龍が「敵はネットの向こうだっつーの!!」と二人にツッコミを入れていた。それでも二人共負ける方が嫌なのか、二人でブロックしながら腕同士で押しあっていたが、ちゃんと相手のスパイクをブロックする。うん、流石。やれば出来る子達。
「おしっ!」
「ちょっと。今止めたの僕なんだけど」
「あ゙!?俺の手にも当たった!!」
まだ口喧嘩する二人にいい加減にしろよ。と声をかけようとしたが大地先輩の雷が二人に落とされたのでやめた。それは君たちが悪い。と、思っていたが端から見ていた日向君が飛雄君と月島君が怒られるのを見て笑っていたのを見つけた飛雄君はすぐさま彼のところに行って胸倉を掴み日向君の頭をガクンガクンと乱暴に揺らす。こらこら。