彩夏花香
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「ねえ、花火大会」
「…ああ、河川敷の。そーいえば明日だっけなあ」
「い、行かない?」
「そうだなあ、いいけど?行く?行っちゃう?」
「うん!行っちゃおうぜー」
放課後の帰り道。
…そんなどことなくアホな会話で、今日の約束は交わされた。
彩 夏 花 香
時刻は夕方の7時。
約束の時間になって、私はミチルの携帯に電話を鳴らす。
私はとんでもなくワクワクしていた。なぜなら―――
4コール目でミチルの応答が聞こえるなり、私は「今どこ?」と現在位置を尋ねる。
「もうお前んちの側。もうすぐ着くから外でててよ」
「わかった!」
携帯切って、バッグに仕舞う。
ちょっと背伸びしたミュールをひっかけて、玄関前にある鏡で最終チェックを済ませて。
「いってきまーす!」
ダイニングに向かって叫ぶと、お母さんがパタパタとでてきた。
「あんた何時ごろ帰るの?」
「ん、んー花火が終わるのが9時だから、9時半くらい?」
「そう、気をつけなさいよ」
「まあ送ってもらえると思うけど」
「あ、そう。でも送り狼って言葉があるんだから、油断しちゃダメよ」
思わず噴出す。
ミチルが送り狼なんて!ありえ な い‥って否定…したいけど、あいつも一応オトコノコなわけで。
まあでもその心配はなんの根拠もないけどとりあえずないことにして、流しておいた。
玄関のドアを開ける。ミチルの姿はまだない。
そそくさと玄関を後にして、門を開ける。
ミチルが来るルートである右の道路を見ると、ちょうど発見。
「へ?…」
思わず間抜けな声を漏らしてしまう。
あれ、だってミチル…ジーンズにTシャツ?浴衣じゃない。
私に気付いたミチルも、同じく…みるみる精気をなくしていくのが分かる。
「…、浴衣は?」
「…お前こそ浴衣は?」
前まで歩いてきたミチルに開口一番、そう尋ねる。
けど同じ質問を返されて、私も言葉にぐっと詰まる。
「俺は、アレだ、一着だけあったのがちっさくてよー」
「…同じく」
片手を力なく挙げて答えると、ミチルがマジかよ~なんて情けない声を出す。
「お前は着てこなきゃダメだろ!つーか義務だろ!」
「な、なに義務って」
「祭りに浴衣で来ない女なんてなあ、し、っししかも、デデ・デートでだぞ!これはなあ、肉の入ってないすき焼きくらい味気ねーことなんだよ!」
「うわ、何その例え…(しかもデートのとこでどもりすぎ)」
「…なあマジで浴衣、他になかったのか?」
「いや、ね、お母さんの借りようとしたんだけど高いからそれはダメって…」
「そうか…」
「私だって着て来たかったんだってば」
遠い目で残念そうにため息を吐くミチルに、つられて私もため息をついてしまいそうになる。
私だって浴衣着てお祭デートしたかった…というのも当然あるけど、実は何よりもミチルの浴衣姿を楽しみにしてたからショックはでかい。
…でも考えようによってはこの妙にうまく事が運ばないところが、現実的で、私たちらしい気もする。
そう思い直すと妙に可笑しくなった。
「ホ、ホラ、まあ気ー取り直して!早く行こうって」
「あ、ああ」
立ち直りが早いところが私の唯一の長所だ。
せっかくのデートなのに、しょっぱなから沈んでテンション落としてちゃ勿体ない。
まだ妙に沈んだ様子のミチルの肩をはたいて、会場への道を促した。
***
会場はこの花火大会のために競技場が開放されていて、まさに人で溢れ返っている。
ちょっと気後れして立ち止まると、ミチルが私の腕を引っ張る。
「何止まってんのよ。こうなったらいい場所見つけるぞ」
言いながら人混みの中をずんずん進む。
こう無自覚に、何気ないところで男らしく振舞われると、ちょっとときめいてしまったりなんかする。
特にごった返してたのは入り口付近だけだったようで、中に進むといい具合に人がばらけていた。
私はやっぱり屋台に目を奪われて、いい場所を探そうと先に進もうとするミチルをひっぱってまず射的のお店を覗いた。
「ね、100円だって。やんない?」
「ええ?‥なんか欲しいのあるわけ?」
「あ、えーとね…」
そういえば、ただ射的が楽しそうだからって目を輝かせてた私には盲点だった。
そして眺めた商品の一つに目をとめて。
「あれ、あれがいい」
「どれよ?」
「あのカツラ」
「カツラぁ?」
「殿さまのカツラ。あとでミチルに被せて写メんの」
「ざけんな!誰が被るか!自分で被れ!」
「えー、じゃいーや、明日学校もってって堂本たちに被らせる」
「ああそうしろ。…つーかよりによってカツラってお前」
「いいじゃん、面白いじゃんか」
「はあ‥ま、いいけど。よし、やったらあ!」
「あ、ミチルじゃまず無理だろうから私もやるよ。おじちゃーん、ハイ2人分」
「(…)」
麦わら帽子にタンクトップ姿のおじいちゃんは、「毎度」ってニッカリ笑って。
渡された射的用の銃をまずはミチルが構えて、標準はもちろんカツラに定める。
そして、パンと発射されたコルクはターゲットに掠っただけ。
「はい残念」
「いや、無理だろ。まず倒れねえよアレ。景品としてあるのがおかしいぜ」
「あ~あ、これだからダメだねミチルは。はいはい、どいて」
「クッソ‥」
銃の先端を、じっとターゲットのちょんまげ部分に定める。
そして。
パン!と勢いよくコルクは狙い通りカツラのちょんまげ部分を少し掠って…ハズレ。
暇つぶしに集って見てた観衆もあ~と落胆の声をあげる。
「自信満々に言ってたわりには俺と変わんねえじゃねーか…」
「いやいや、ミチルよりはイイ線いったと思うんだけどなー」
「どこがだよ…まあ、縁がなかったってこった。他行こうぜ」
「おーい兄ちゃん、可愛い彼女にコレ取ってやったらどうだい?」
行こうとしたその瞬間、おじちゃんがそう呼び止めた。
おじちゃんが手に持って示したのは小さな赤い花模様のかんざしで、先には花の形のチャームがついてる。
「あ、かわいい」
「お譲ちゃんによく似合うだろうよ。どうだい、お兄ちゃんもう一回」
おじいちゃんはお上手なことを言って、ニッコリ営業スマイル。
ミチルを見ると目がかち合って、「欲しい?」って聞いてくる。
「あ、うん。じゃあほしい」
「ヨッシャ、待ってろ!」
再び銃を構えたミチルは、かんざしに標準を合わせて。
さっきよりも慎重なようで、狙いを定める時間が少し長い。
そして、パン!と射撃した瞬間、かんざしが支えごと倒れた。
「おーし、おめでとう」
「…!?当たった…!?ついに、ついに俺の時代が…」
「え、ウソ!当てたの?ミチルのくせに?」
「だぁーからお前、一言多いんだっつーの!」
「ハハ、ご、ごめんごめん」
「はいよお嬢ちゃん。兄ちゃんと末永く幸せにな」
「え、!?あ、えーーっと‥ありがとうございます‥ハハ」
まるで結婚を祝福するかのようなセリフにどう反応していいのか困る。
すると周囲の兄ちゃんがピューなんて冷やかすもんだから、私たちは居た堪れなくてそそくさと出店を後にした。
***
しばらくぶらついて、私たちは隅っこのフェンスの段差に腰を落ち着ける。
お互いの顔の火照りが冷めるかと思って、私はある提案をした。
「あー、か、かき氷でも食べない!?」
「そ、そうだな」
「さっき通りかかった場所にあったから、私行ってくる」
そう言って立ち上がりかけた時、腕を引かれて中腰の体勢で止まる。
引かれるまま座り直した私と逆に、ミチルが立ち上がって。
「いいから、俺が行くからお前はここにいろって」
「え…」
「何がいい?」
「あ、イチゴ‥」
「わかった。ここにいろよ!」
「…うん。じゃあお願いしまっす」
ミチルが行ってから、私は改めてポケットに仕舞ったかんざしをまじまじと眺める。
…来年はこれを付けて、ちゃんと浴衣で。またミチルと二人でここに来よう、なんて決めて。
頬が緩むのを堪えながら、私は周りの、既に場所を陣取ってる人たちを眺める。
…やっぱりカップル多いなあ。
でも私とミチルも傍から見ればただの一カップルなんだよなあ。
そう思うと未だに不思議で気恥ずかしい気分になる。
ミチルと付き合い始めてから、そろそろ半年の月日が流れようとしてる。
くだらないケンカは数回。
手は時々繋いでくれる。キッスもそれなりに。
でも回数を重ねても、普段の私たちのテンションのせいだろうか。
触れ合うとなるとやっぱり未だにドキドキして、お互いに顔赤くする始末。
半年経っても成長してないんだなあ、なんて呆れながらも嬉しくなる。
…また半年後にはどうなってるかなんて分からないけど、出来ればまたこうして苦笑いできたら、なんて思う。
かんざしをボーッと眺めていると突然隣に誰か座ってきて、ハッと現実に浮上する。
「――あ、ああ、おかえり。いくらだった?」
「420円。でもいいよ別に」
「ダメダメ、さっきかんざし取ってもらったから」
「いいって、奢るから」
「もーかっこつけない…よんひゃく、と…あ、ちょうどある。はい」
半ば強引に420円を握らせると、いちごのかき氷を地面に置いて渋々財布に小銭をしまった。
ミチルに限らずなんだろうけど、なんで男の子ってすぐ奢ることでかっこつけようとすんだろう。
いまいち男心ってもんを理解できない私は、そんなヒネくれたことを考えてしまう。
そんなプライドより、かっこいい一面を見せてくれれば充分なのに、って。
かき氷を受け取って一口ほおばると、キンとした冷たさが軽い電流のように身体中を駆け巡った。
「んまーい」
「今何時?そろそろ花火、始まるんじゃないの」
「ん、そうだね…7時50分」
「あと10分か…」
「屋台ってまだけっこうあったよね、花火見たらあんず飴食べたいかも。あ、でも綿菓子もいいなー迷う」
「…」
「でも焼きそばとかの主食系も捨てがたいよね、たこ焼き…はおやつか。お好みとか他に何あったっけ」
「ホンットお前は色気より食い気だよな…」
「そうだねー、育ちざかりですから」
呆れたように噴出すミチルに私はニッと笑い返す。
ああなんか、カップルっぽいことしてるなーなんて頭の隅でアホなこと思う自分がいる。
一緒につつき合ってかき氷の白い部分が大分減ったところで、ドーン!と大きな合図。
周囲がワッとざわめき立つ。
合図を皮切りに、花火はどんどんと空に大きな花を咲かせては散っていく。
「キレー、でっかいねー」
「ああ…まるで俺たちの夏だ…」
「え?」
「でっかく輝くためにラケットを振り続けた日々…なのにあまりにも儚かった俺たちの夏を、まるで象徴しているかのようじゃねーか…」
「(何いってんのこの人)」
なんか浸ってるミチルに白い目を向けてから、私は大きな芸術に見入る。
いろんな色をまとっていろんな形をした花火が目の前で華やかに広がって消えていく。
やっと夏が来た感じがして、嬉しくなる。
30分くらい見たところで、私は自分のお腹の虫が騒ぎ始めているのを感じた。
大分溶けかかったかき氷を流し込んで、ミチルに声をかけようとする。
「ミ…、…」
でもかなり真剣に見入ってる様子だから邪魔しちゃ悪いなって思って、私はそっとその場を後にした。
出店が並ぶ通路はさっきよりも混んでいて、それでも人を掻き分けどうにか焼きそば屋さんの前に辿りつくことができた。
さすがに並んでいて、私は5人目の最後尾につく。
花火は相変わらず華やかに空に散っていて、珍しく食い入るように見つめてたミチルの横顔を思い出して少し笑いそうになる。
きっとあのセリフ通り、自分の3年間を花火に重ねてるんだろう。
そういう部分では私よりもロマンチストなミチルが意外で、また笑えた。
順番が回ってきそうなところで、私はポケットの財布をまさぐる。
財布からお金を準備したところで、アレ?なんてふとある違和感に気付いて、ぱっとポケットを押さえる。
…感触がない。
地面を見る。…落ちてない。
財布を見る。…引っ掛かってもない。
もう片方のポケットをまさぐっても、ない。
あれこれ探してるうちに順番が回ってきてしまったようで、それでもそれどころじゃない私はかんざしを探すことにした。
ここに来る前はあったはず。落とさないようにって、ポケットの中を確認してたから。
なのにどうして、って考えを巡らせてすぐ、思い当たる節にぶちあたる。
ここに向かう途中、もみくちゃにされた時に落としたとしか考えつかなかった。
でも探そうにも人の数がすごくて、足元を探すのは不可能に近いし、もし見つけることができてもすでに悲惨な状態かもしれない。
私はけっこうショックで、ふらふらと人に揉まれて地面を探しながら歩いた。
せっかくミチルが、奇跡に近い本気を見せて取ってくれたのに。
あのかんざし…可愛かったのに。
「!あ?」
と、キランと光るものを見つけて、私はとっさに屈んで手を伸ばす。
でも、次の瞬間鈍い痛み。
「!?あっすみません、踏んじゃった‥大丈夫ですか?」
「ああ、はい、私の自業自得です‥こっちこそすみません」
浴衣の女の子は驚いて申し訳無さそうに謝ってくれたから、逆に申し訳なくなった。
赤くなってジンジンする指先を庇いながら、見つけたそれをよく凝視すると、正体は誰かが落としたピンバッチ。
…そんなにうまく見つからないか、なんてこっそり肩を落とす。
それでも諦めまいと周辺を探したけど、見つからず終いで。
仕方なく来たルートを慎重に探りながら戻っていると「おい!」なんてミチルの声。
「あ、…あれ、ビックリしたー」
「んで急にいなくなんだよお前は!探しちゃっただろ!」
「あ、ごめん。あんまり真剣に花火見てるもんだから…」
「んな変なとこで気ぃ遣うんじゃねえよ!声かけろ!!」
「ゴッゴメン‥」
「…ったく、もういいけどさ‥どうせ腹でも減ったんだろ?」
「いや、うん、まあ、そうなんだけど‥」
「?なんだよ、歯切れ悪いねえ」
どうしよう、言ったほうがいいんだろうか。
でも私の不注意で、せっかく取ってくれたかんざしをなくしてしまったことを告げるのは、なんだか抵抗がある。
…別に伝えたところでミチルは怒りはしないだろう。それは分かるんだ。
これでもそこまでちっちゃい男じゃないし、それにあんまり物に執着しない人だ。
「う、うーん…ミチルもお腹すいた?」
「ああまあ、空いたといや空いた‥ってオーイ、何さっきから地面見てんだよ」
「うん、ちょっと」
「なんか落としたの?」
「う…、」
違う、ミチルがどうこうじゃなくて、私が諦められないんだ。
いくらの価値があるかははっきりと分からないけど、きっと百円台の、あのかんざしのことが。
「なんだ、図星かよ」
「……かんざし」
「へ?」
「かんざし、落としちゃったみたい。…ごめん」
「ああ、なんだ。財布とかなら話は別だけど、まーこの人混みで落としたとあっちゃ仕方ないだろ。諦めな」
ほら、やっぱり。
でも、でもさ、
「だってあれミチルが取ってくれたんじゃん。一発百中で」
「でもたかだか100円の価値だろ?別の買えばいいんじゃないの」
「……」
「……」
「……」
「…ったくよ~仕方ねえなあ。じゃあまた取ってやる!一発で!」
「!…ってことはまたあのお店行くんだね?」
「!…あ、やっぱ、前言撤回で」
「…はあ…」
ため息ついてまた地面を探し始めると、ミチルがふと呼び止める。
「?マコ、」
「え、なに、見つかった?」
「なんでさっきから手え押さえてんのよ」
「?ああ、いやこれ、さっき人混みでちょっと踏まれてさ」
「ハア!?踏まれ…?ちょ、ちょっと見せてみろ!」
「まあ‥さっきまで痛かったけど、別にもう平気だし」
言わない方が良かったな、なんて今になって思いながら、まだ赤い指先を見せてみる。
「これじゃ手ーつなげないね」
アハハなんておちゃらけると、バカ言ってんなって怒られる。
ミチルをからかうのは本当に楽しい。
ニヤニヤしてると、急にマジな目をしてミチルが言った。
「…よし分かった。今度二人で買いに行くぞ!」
「え‥?」
「んだよその、やる気のない反応は…浴衣とかんざしだよ」
「え、え!ホント?じゃあミチルも買うんだからね、その時一緒に」
「わかったわかった」
「ヨッシャー!で?で、いつ行く?早速なんだけど」
「お前はそーいうことになるとすぐ急かすんだよな…とりあえず今は腹ごしらえが先なんじゃないの?」
「あ、そうそう、そういえばお腹減った。焼きそば食べたい」
「じゃ行ってくるからここでじっとしてろよ」
「は、はーい…」
屋台の通りに紛れていく背中を眺めながら、単純細胞な私は打って変わって浮かれ気分になって。
あのかんざしのことはやっぱり気になるけど、これも縁がなかったと諦めるしかないんだろう。
だったらいつ行こう、どこに行こう、今の時期なら浴衣も大分値下げしてあるだろうから、ちょうど狙い目だ。
じっとしてろよ、の忠告を忘れてついうろうろしながら考えてると、ふと足元に違和感。
何か踏んづけてしまったようで見てみると、それは土に埋もれた―――
咄嗟に拾い上げて、こびりついた土を払う。
紛れもなくそれは、あのかんざしだった。
チャームは無事で、ただやっぱり塗装はところどころ剥がれてボロボロだったけど、安心して嬉しくてとにかく良かったと思った。
そしてハッとして、すぐさまじっとしてろと言われてた場所へ戻った。
ミチルはもう戻っていて、私に気付くとやっぱり怒ってきた。
でも伝えたくてしょうがない私は「あったよ!かんざし!」って目の前に突きつけてはしゃぐ。
「ど、どこにだ?」
「向こうのほう、うろうろしてたら何か踏んづけちゃって、見たら…」
「…オ、オイオイ、なんであんなとこに‥よく見つけたな」
「ホントね…、さすがミチルが一発で取っただけあって、奇跡のかんざしだよマジ」
「んなに奇跡を強調しなくたっていいじゃねえか…」
「はは、いやごめんね。あ、焼きそばありがと」
「……これ食ったら、また色々周るか?」
「そうだね、もちろん!」
ミチルがどこか上機嫌なのが見て取れて、なんだかこっちまで嬉しくなる。
その証拠に、左手に温もり。
「まあ、こっちなら大丈夫だろ」
ミチルがこんな人がたくさんいるところで手を繋いでくれるのは初めてのことだったから、驚きつつぎゅっと握る。
「珍しいね、いつもはシチュエーション的に嫌がるはずなのに」
「ま、また勝手にあっちこっち行かれたら困るんだよ!」
「どもりながら言われてもねえ」
赤い顔に笑うけど、私も熱いのが分かるから無闇にからかうのはやめておいた。
気が付けば花火はクライマックスで、休むことなく派手な花火の打ち上げが続いてる。
「ねー」
「?」
「来年もさ、また来ようね」
「そうだなあ。…浴衣で」
少し大きめの声で約束を交わしながら、私は来年に向けてこのかんざしを塗装し直すことを考えていた。
2006.8.25
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