愛しのエンヴィー
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「うっそでしょ……」
じわりと滲む嫌な感覚に、すぐさまトイレに駆け込んだ。
すると、予感は的中した。
「……どうしよう……」
きて、しまった。
月のもの。
よりによって合宿中に。
周期的にはまだ早いはずだ。
どうして、と頭の中の混乱を落ち着けるように、とりあえず急いで持ってきた荷物の中を漁る。
いつも通学鞄に入れて持ち歩いているポーチをボストンバッグから探し出して、中身を確認する。
4枚。今1枚使ってしまえば、残りは3枚。
合宿はまだ残り3日もある。
どう考えても買い足すか、あるかも分からない合宿所の備品を頼るしかなかった。
外から数人の掛け声と、ボールを打つ音が聞こえてくる。
……今は合宿中、しかも練習の真っ只中、さらにドリンクの準備をしている途中だ。
マネージャーである私があまり姿をくらましているわけにはいかない。
焦りからか、冷や汗がこめかみを伝っていく。
ポーチを手に立ち上がると、再び急いでトイレに駆け込んだ。
・・・
コートに戻ると、1年と2年のマネージャーがドリンクの準備を進めてくれていた。
有難く思いながら抜けちゃってごめんねーと軽く謝って、私も仕事を進めていく。
「……なんか先輩、顔色悪くないですか?」
ドキッとして声の主を見ると、2年のマネージャーである飯田くんがじっと私の顔色を窺っていた。
たらり。
また冷や汗が背中を伝っていくのを誤魔化すように、安心させるべくいつも通りに笑って。
「え、そう?全然元気だけど?」
「……そう、ですか?無理しないでくださいよ」
「はーい」
「……。」
気遣わし気な視線を1年のマネージャーである庄野くんからも感じるけど、気付かない振りをしていつも通り手を動かしていく。
そう、このテニス部。女子は3年のマネージャーである私だけ。
最初は女子マネもいたにはいたが、仕事のキツさに加え特有の男社会に馴染めずどんどん辞めていってしまったせいで、マネージャーも極力男子を採るようになった。
飯田くんと庄野くんが女の子だったら相談もできたのに。
顧問のヤッさんこと山之内も当然男だし、来ているコーチとトレーナーも男。
「生理になってしまい困ってます」とヤッさんに相談できたらいいんだろうけど……大人とはいえ男性、やっぱりちょっと気恥ずかしい。
一人でこっそり解決できるものならしたい。
ポカリの粉末を溶かしながらそんなことを考えていると、お腹の奥が絞られるような鈍い痛みが走って顏を顰める。
普段生理痛はあまりひどくない方なのに、これは一体どういうことだろう。
慣れない環境でストレス感じてたのかな……。
焦りを誤魔化すように、ポカリを注ぐためスクイズボトルに手を伸ばす。
と、手が滑って地面に転がった。
「あ……」
落ちたそれを取ろうとしゃがみ込んだ時、またお腹に鈍い痛みが走る。
同時に、ぐらりと一瞬視界が揺れて、思わず地面に手を着いてしまって。
「……!先輩大丈夫ですか?やっぱ具合悪いんじゃ…」
「ち、違う違う。ちょっとコケただけ!」
落ちたボトルは飯田くんの足元に転がったので咄嗟に拾ってくれた。
恥ずかしーって笑いながらどうにかいつも通りに明るい声を出してみる。笑顔も忘れずに。
大したことない。大丈夫、大丈夫。
自分に言い聞かせながらよっと立ち上がって、手に着いた砂を払う。
「……具合悪いなら福士部長呼びましょうか?ちょうど今小休憩中みたいですし」
「えっ……!?いやいや大丈夫だよ!」
1年の庄野くんがチラリとコートの福士を見遣る。
つられてフェンスに凭れ掛かる福士を視界に捉えるけど、その提案は両手を振って拒否させてもらう。
アイツも激しい練習の真っ只中だし、私のことで手を煩わせるわけにはいかない。
そもそも具合が悪い理由を説明できない。
もし言ったらどうなるんだろう。からかわれるのかな……そしたら殴ってやろう。
それからは、これ以上心配させないよう空元気を振りまきながら、どうにか全員分のドリンクを準備できた。
ひと段落着いた部員たちが入れ違いにドリンクを取りに来る。
お腹の鈍い痛みをやり過ごしながら必死にボトルを配っていたから、田代がじっと私を凝視していたのに気付かなかった。
やっと一息ついたタイミングで田代に声を掛けられる。
「お前、ちょっとこっち」
「えぇ……?」
何故かコートの端に私を連れて行こうとする田代の背に、クエスチョンマークが浮かぶ。
素直にコートの端まで行って向き合うと、「バカかお前」といきなり罵声が降ってきた。
「なっ……」
「具合悪いんだろ?顏みりゃ分かる」
「……!」
「俺、姉ちゃんいるからさ。だから分かるんだよ。今日はもう休めって」
「そ、そうなんだ……でも……」
私がいないと飯田くんと庄野くんの負担が大きくなってしまう。
ただでさえ合宿中はいつもと勝手が違って大変なのに。
そんな私の困惑を汲み取ったように、田代は軽く笑ってくれる。
「ヤッさん呼んできてやるよ。お前がいなくてもなんとかなるように調整してくれんだろ」
「……うん」
「はぁ……お前さ。自分じゃ繕ってるつもりかもしんないけど顏、真っ青だぞ」
「う……そっか……」
「ま、俺に手伝えることがあれば何でも言ってくれ。姉ちゃんに毎月のように面倒見させられて――ってあぶなッ!」
バレた影響で張りつめていた気が抜けたせいだろうか。
視界がぼやけると同時に身体が傾いて、咄嗟に田代の腕を掴んでしまう。
地面がグラグラと揺れている感覚がして、平衡感覚がない。
「貧血だな。しゃーない、おぶさりな」
「……う、うん」
背を向けてくれた田代に素直に身体を預けると、身体がぐんと浮いた。
……おぶられながらようやく平衡感覚が戻ってきたタイミングで、コートの外でトレーナーと打ち合わせをしていたヤッさんを見つけて事情を説明する。
といっても、やっぱり生理という単語は口に出せなかった。
腹痛と眩暈という単語でどうにか察してくれてるといいんだけど。
すぐに休めとの許可を頂き、そのまま田代は合宿所の中へと歩を進めた。
「……アイツ怖ぇ……背中に穴空くかと思ったわ」
「ん?」
「いや、なんでも」
小さい声で何か呟いたかと思ったら、田代はいつものトーンでお茶を濁した。
私も深く追求することはせずに、そのまま何も言わなかった。
コートの中から一際鋭い疑惑の視線が向けられていたなんて、この時の私は知らなかったのだ。
・・・
・・・・・
大きな合宿所ではないから、当然病人用のベッドなんてない。
自室の布団に寝かされながら、田代にあれよあれよと世話を焼かれることになった。
鎮痛薬は幸い部の救急箱に常備されていたからそれと水を貰って、枕を足元に置いて温かくして休むといいとのことだった。
本当に詳しいんだなぁと感心していると、不意に尋ねられる。
「そういえばアレは足りそうなのか?」
「え?……」
アレとはナプキンのことだろうか。
あまりにも普通にさらっと言うから、思わず「いや」と出かけた言葉を呑み込む。
「……えーっと……」
「あ?あー……悪い。俺普通に何度か買いに行かされたことあっからさ、姉ちゃんに言うノリで言っちまった」
「そ、そうなんだ……」
そんな姉弟もいるのか。
買いに行かせるお姉さんもすごいけど、ちゃんと買いに行ってくれる弟もすごいな、と感心してしまった。
ちょっと気まずそうに頬を掻く田代のそんな明け透けな話を聞いたら羞恥心も薄らいできて、素直に言うことにする。
「実は持ってきてる分じゃ足りないの。トイレにもなくて……他のとこにもなかったら買いに行かなきゃ……」
「そっか……女子トイレにねぇんなら望み薄いな。だったら買いに行った方が早いよ。晩飯の後ヤッさんに車出してもらおうぜ」
「え、あー……そう、だね」
ヤッさんもきっと分かってる、よね。
じゃあ宜しくとお願いすると、田代はおうと片手で応えてそのまま練習に戻って行った。
夜ご飯の準備も私たちマネージャーの仕事だ。
それまでにゆっくり休んで体調を整えないとと思いつつ、携帯で目覚ましをセットする。
布団をずり上げて目を閉じると、あっという間に意識は夢の中へと落ちて行った。
・・・
・・・・・
「……先輩、失礼します」
携帯のアラームで目を覚ますとほぼ同時に部屋の扉が開けられた。
まだ頭もぼんやりしていて開ききらない瞼を向けると、そこには庄野くんの姿。
「食事当番、2年の本田先輩に代わってもらいました」
「えぇ?そうなの……?」
「はい。なので先輩はゆっくり休んでください。食事ができたら部屋に運ぶなので」
「……ん?そこまでしてもらわなくても……」
「顧問からそうしろと言われてるんで。じゃあ俺はこれで」
伝えることだけ伝えて庄野くんは扉を閉めてとっとと退散してしまった。
まだ意識はぼんやりしていて、眠りの世界から目覚めきれていない。
とりあえずさっき言われたことを反芻すると……私はまだ寝てていいということになる。
だけど、私は汗臭い身体で運ばれてそのまま眠ってしまったのだ。
さすがにこのままは気持ち悪いと思い、先にお風呂に入ることにした。
サクッとお風呂を済ませて部屋に戻ると、布団の端にお盆が置かれていた。
お盆の上には何故か雑炊。ぱっと見、卵とネギが散らばっているから卵雑炊なんだろう。
ただの生理痛なのに、病人のような扱いをされていることがちょっと気恥ずかしい。
そして更に目を引くジョッキに入った液体。
赤紫の怪しい液体の下には、何やら紙きれが挟んである。
よく見るとそれはメモだった。
“先輩の体調が良くないと聞いて作りました。できれば飲んでください”
男子らしい雑な字で書いてある。
名前が書いてないけど、先輩と書き出されているから恐らくマネージャーの内のどちらかか、交代してくれた例の二年の子だろう。
お礼を言わないとな、と思いながら怪しい色をした液体が入ったジョッキを手に持ってみる。
……重い。色々な意味で。
きっと時々福士が喜々として説いている栄養学の影響だろう。
よりによってコレを真似なくてもいいのに。
しかし好意を無下にするわけにもいかず、意を決して私はその液体を喉に流し込んだ。
その凄まじい味にすぐさま身体が拒否反応を起こしたが、ここで口を離したら飲み切れないと察した私はそのままジョッキを傾け続けた。
最後の一口を飲み切ったその瞬間、私の脳内でファンファーレが鳴り響いた。
よくやった。私えらい。私って優しい。
そんな誉め言葉を並べ立てて自らの努力を讃えた。
とにかく後味も苦いやら甘酸っぱいやらで凄まじく不味い。
一体何が入っていたんだろう……怖くて知りたくもないけど。
添えられていたコップ一杯の水ではその後味を消し切れずに、部屋を出てすぐにある蛇口まで水を注ぎに行ってまた口をゆすいだ。
その後に食べた優しい味の雑炊は、生涯覚えていられるレベルで美味しかった。
・・・
食後、田代とヤッさんと約束通り合宿所を少し下りたところにあるコンビニで目当てのものを買って戻った。
田代も他の部員から色々頼まれたのかカゴを手に軽食を大量に買っていた。
会計も部費持ちで一緒だけど、例の姉弟エピソードを聞いていたお陰で一緒に購入することはあまり気にならなかった。
同世代の異性に対してこう思えるのは貴重だ。
正直田代を見る目が変わった。
「テメェらはここで降りろ。俺は車返しに行くからよ」
ヤッさんが駐車場に車を返しに行く前に私たちを降ろした。
合宿所に入って軽い挨拶を交わしてから田代と別れ、紙袋に入ったそれを手に自分の部屋へと歩き出した時だった。
「――おい、磯野」
背後から声を掛けられて、その声から福士の声だと瞬間的に悟る。
その声音から嫌な予感が過る。
振り向いて顔を見た瞬間、その予感は確信に変わる。
……あぁ、どうやら今日は機嫌が悪いらしい。
表情を見れば大体分かってしまう。
福士の機嫌が悪い理由はいつも何となく想像がついた。
部員に理不尽な不平不満をぶつけられた時。
他校との練習試合で練っていた策をぶつけたのに思い通りにいかなかった時。
今機嫌が悪いのは……私が不調で仕事を休んでしまったせいだろうか。
「なに?」
「……」
福士は眉間に皺を寄せてじっと私を見てくる。
ガサ。
その視線にどうにも落ち着かない思いでいると、右手で隠すように持っていた紙袋が音を立てる。
「……体調悪いんだってな。大丈夫なのかよ」
視線を私の手元に移した福士がぶっきらぼうに言い放つ。
その中身を想像されたくない焦りから、つい声が上擦って。
「うっ、うん!おかげさまで充分休ませてもらったし明日からはまた頑張れそうだよ!」
早口で一息に言い切って、わざとらしく笑ってみせる。
けれど福士は黙ったまま、鋭い視線を私に向けてくる。
……もしかして体調崩したこと、想像以上に怒ってる?
頭に浮かんだ疑念に、部長に対してどう謝罪しようかと考えを巡らせた時だった。
「なんで俺に言わなかったんだ」
「え?」
「調子悪いの、なんで黙ってた」
「あ、えっと……、ごめんなさい。自分ではまだやれると思っちゃって」
軽く頭を下げながら素直に謝罪すると、深いため息が吐き出された。
見上げれば、福士は眉間を揉みながら俯いている。
「お前はそーいうやつだって分かってるけどさ……はぁ、クッソ」
「だ、だからごめんって。もう無理はしないから」
こんなに怒って落胆されるとは思ってなくて、内心焦りながら改めて謝罪する。
でも私だって合宿中にまさかこんな目に合うと思ってなかったし、とんだ災難だった。
素直に福士や周りに言えなかった理由だって察してくれてもいいのに、なんて思う気持ちもある。
そんなもやもやした思いを押し込めてどうにか笑って見せるも、
「――お前らって付き合ってんのか?」
「え?」
返ってきたのは、想定外の言葉だった。
その意味を咀嚼して理解するのに数秒。
突拍子もない質問に、福士に対してこれまで以上にないくらい、大きな声で詰め寄った。
「どっ、どうして!?」
福士の言う“お前ら”とは、きっと田代を指してるんだろう。
私が好きなのはずっと福士なのに、今日の出来事で誤解されてしまったのならやり切れない。
「見りゃ分かんだろ。で?あいつのお陰でラクになったって?」
「いや違うって!田代は、」
「あーあー分かってるって。ま、これ以上のノロケ聞いて欲しけりゃマックと等価交換だけどな」
「……っ」
――誤解してる。
理解した瞬間発した抗議の声も、被せた声に押さえつけられて。
福士の投げやりな態度に、反発したい気持ちが止められない。
「だから違うって!誤解――」
「へーえ?買い物まで一緒に行っといて何を誤解してるって?」
「っ……だから……!」
言い返そうとお腹に力を込めると、鈍痛がひどくなってきた。
ついお腹を押さえると、異変を察した福士が距離を詰めてきて。
「顔色悪いな」
ずいっと顔を近づけてきたかと思ったら、様子を伺うように覗き込まれる。
切れ長の瞳はわずかに顰められていて、怒りと困惑が滲んでいるように見えた。
気まずさから目を逸らしてしまうと、「クソッ……」と福士の呟きが落ちて。
あぁ、こんな剣呑な雰囲気、いやだ。
どうすれば機嫌を直してもらえるのか分からないけど、とりあえず何か言わなきゃ。
「べつに平気だから」
なるべく声のトーンがぶれないように、いつも通りを装った、つもりだった。
だけど。
「――平気なわけねぇだろうがッ!!」
怒鳴られるとは思ってなくて怯んだ瞬間。
ぐいっと顎を持ち上げられて、じっと顔を凝視される。
息がかかるくらい近くに福士の顏があるのに、突然のことに取り乱す間もない。
バサッと何かが落ちた音がした。
恐らく後ろ手で隠していた紙袋だろう。
「何で俺じゃないんだよ」
「え?」
「ンな辛いならアイツじゃなくて俺を頼れってんだ」
「……!」
「はぁ、クソッ…!」
ぎゅっと悔しそうに眉を寄せた福士が、次の瞬間私の唇に何かを強く押し当ててきた。
その何かはほのかに温かくて、少しカサついている。
――唇だ。
キスされていることに気付いて、ただ目を白黒させるしかない
普段より数段低い声のトーンで紡がれた言葉たち。
その意味をかみ砕こうとしてたのに、完全に思考が止まってしまった。
どれくらい時が経っただろう。
数秒にも満たなかった気がするし、数分にも感じられた。
「悪い」
突然唇を離されて、ぼそっと呟かれた謝罪。
気まずそうに瞳を逸らしたまま、福士は走り去ってしまった。
後に残された私は、戻ってきたヤッさんに声を掛けられるまで、ただ茫然とその場に立ち尽くしていた。
・・・・
・・・・・・
私は宿舎の私室で、緊張しながらその時を待っていた。
部屋に戻ってきてから、さっきの福士の言葉とキスの意味をぼんやり考えていたのだけど。
どうにも、期待を抱かせる答えしか見えてこないのだ。
――会いたい。
会ってちゃんと話がしたい。
そう思った時には、スマホでメッセージを送っていた。
“仕事が終わったら、私の部屋の前まで来てくれませんか?話がしたいです。”
数分後、既読がついた後に返信が届く。
“分かった。遅くなると思うから行く前に連絡する。待てなかったら先に寝てくれ”
そのメッセージのやり取りから1時間半が経った。
時刻はもう22時を回ろうとしている。
堂本にちらっと聞いたところによると、合宿中に部長がこなさなきゃいけない仕事量は多くて、それなりに大変らしい。
特に夜は監督・コーチ・トレーナーたちを交えてのミーティング。
それが終われば、彼ら一人一人に今日の練習内容を長文メールでまとめて送り、それとは別に部誌も書かなきゃならない。
きっと今頃はその作業中だろう。
何か手伝えたら良かったな。
明日からは私でも出来ることがないか聞いてみよう。
「……ん~~~……」
そんなことを思いながら、布団に寝転がって伸びをする。
息をつくも、緊張で眠気はやってきそうにない。
考えるのは福士のことばかりで、心臓がずっと落ち着かない。
だから数分後にスマホのバイブ音が鳴った時は、大袈裟なくらい肩が跳ねてしまった。
“今から行く。起きてるか?”
“うん、待ってる”
福士たちが泊まる男子部屋から私が泊まる女子部屋は、当然ながら少し離れている。
部屋の前で待つこと数分、まだ姿は見えてこない。
あれ?そろそろだと思うんだけど……。
不思議に思いながらそこから待つことさらに数分。
「悪い、待たせたな」
「ううん。お疲れさま……?」
ようやく現れた福士の片手には、どこか見覚えのあるジョッキが握られていた。
「ほ、ほら、詫びの品だ。ありがたく受け取んな」
言うなりずいっと差し出されるジョッキ。
中身の液体は、赤とも紫ともいえない色をしている。
気まずそうに視線を逸らしているあたり、あまり良くない雰囲気を察して敢えて持ってきたのだろうか。
「え。あ、ありがとう……?」
悍ましいそれをおそるおそる両手で受け取りながら、夕方にもこれと似たものを飲んだ――と思い返したところで疑念が湧く。
確信を得るため、それを一気に喉に流し込んだ。
瞳の端に映る福士は、私が躊躇なく一気したことに驚きながらも嬉しそうに見える。
「……………――ぷはっ」
やっぱりそうだ。苦くも甘酸っぱい、この凄まじくまずい味。
夕方に飲んだドリンクと同じ味だ。
「まずい……」
「もう一杯?」
「いらんわっ!!」
突っ込みながら、すぐに近くの水道の蛇口を捻り水をガブ飲みする。
「このドリンクには造血成分であるビタミンB12、ビタミンB6、葉酸、銅に加えて吸収を促すビタミンCも豊富に含まれていてだな……」
その間にもいつもの蘊蓄が始まるけど、口をゆすぎながら心底思う。
栄養満点なのはいいけど味見!!
「栄養満点なのはいいけど味見!!」
心からの咆哮が抑えきれずについ叫んでしまった。
まぁ……確かに味に関してはまだまだ改良の余地があるな。なんて歯切れの悪い返事。
やっと口の中に残る謎の苦みが収まったところで、蛇口を捻って水を止める。
「はぁ……夜ごはんについてきたあのドリンク、福士からだったんだね」
挟んであったメモには“先輩の体調が良くないと聞いて作りました”と書いてあったから、騙された。
手の甲で口元の水滴を拭いながらそう言うと。
「何でそう思うんだ?」
「だって同じ味だったもん」
「なっ……夕方のとは配合が違うぞ?同じなはずは、」
「やっぱり」
「……」
振り返ると、少し驚いたように目を見開いたミチルは、墓穴を掘ったせいで押し黙った。
そうしてくれた意味。
それって、それってさ……。
どうしても期待が膨らんでしまう。
「あのおかゆも、実は福士が作ってくれたんじゃないの?」
「……さぁな。田代かもしれないだろ」
「もう。どうしてそこで田代が出てくんの」
またその名前が出てきて、つい咎めるような口調になってしまう。
買い物に付き合ってもらっただけでそこまで疑われるなんて……。
どうしたら信じてもらえるだろうと考えたところで、廊下から男子の談笑する声が聞こえてきた。
その笑い声はどうやら2階からのもので、ちょうど階段を下りているのか徐々に大きくなってくる。
このままここにいたら見つかってしまう。
私は咄嗟に福士の腕を引いて、部屋の中に引き入れた。
ドアを閉めたあと、男子数人の声が1階の廊下に響いてきた。
ふぅ、と胸を撫でおろしたあと、腕を引いた福士が固まっていることに気付く。
「あ……」
このシチュエーションはまずい。
女子一人の部屋。招き入れられた男子。敷きっぱなしの布団。
監督たちに見られたら一発アウトだ。
「おっまえ……」
慌てて腕を離すと、福士は両手で顔を覆って盛大なため息をついた。
「キスした男を簡単に招き入れるんじゃねぇよ……」
「……う」
「どうなっても知らねぇぞ」
「だ、だってあのままだと見つかってたし……」
「……」
福士は眉を寄せて、何ともいえない表情のまま押し黙ってしまった。
こんなことならこっそり外に出て待ち合わせた方が良かったかもしれない。
「……で。話って?」
「あ、えっと、」
話しのきっかけが掴めずにいると、福士の方から振ってきてくれた。
誤解を解いてはっきりと気持ちを伝えるために来てもらったんだから、ちゃんとこの機会を活かさないと。
立ち話もなんだから、とりあえず意識しないよう布団を奥に追いやって、部屋の壁に凭れ掛かるように膝を曲げて座った。
向かい合うのは気恥ずかしいから横並びで。
仕切り直すように、話の続きをした。
落ち着きなく、両手をそわそわ触りながら。
「あの、田代とは本当に付き合ってないよ。なんか誤解してるから、念を押しておきたくて」
「……今日お前が具合悪くなった時、田代がお前を運んだだろ」
「ん?うん」
顔は見れないけれど、声は真面目モードの低いトーンだ。
「よりによっておんぶで。んでアイツが看病して、しまいにはヤッさんと買い出しに行ってる。お前らそこまで仲良かったか?俺が知らないだけでずっと仲良くやってたんじゃねぇの?
声色に、だんだん不機嫌さが混じっていく。
自惚れじゃないよね?
チラッと横目で盗み見れば、眉を寄せて、いつもよりも目が吊り上がっている。
「ふふっ」
つい笑ってしまうと、その目で睨まれる。
……これって “嫉妬”だよね。
好きな人から妬かれるって、けっこう嬉しいものなんだ。
「だから違うんだって。あのね……」
事の顛末を説明した後、福士は思いっきり息を吐き出して脱力した。
「分かってくれた?」
「まぁ、そうだな。……理解はした」
何だか歯切れが悪い返答に、つい眉が寄る。
まだ納得してくれないのだろうか。
「てか田代のヤツ、多分お前のこと……」
「ん?」
「いーや、何でもない」
何やら小声で呟かれた言葉に「田代」の名前が含まれていた気がして、口を噤んだ。
多分、福士は田代が私のことを好きだと勘違いしている。
あり得ないとまでは言えないけど、これ以上こじれたくない。
……とりあえず誤解は解けた。
依然両手をそわそわいじりなら、次の言葉を探す。
募らせた想いを伝えるなら、きっと今だ。
どう言おうか――
「悪かったな」
膨らんでいた緊張は、不意に投げられた言葉によって破裂した。
「えっ、なっ、何が!?」
「?いや……さっきのこと」
「あっ、あぁ」
いつの間にか福士は上半身をこちらに向けていた。
見上げれば少し気まずそうな、だけどまっすぐな瞳で見下ろされている。
必然的に目が合ってしまって慌てて横に逸らした。
「謝らないで。うれし、かったよ」
逸る想いを抑えきれず、とっさに頭に浮かんだ言葉を口に出していた。
顔がどんどん熱くなってくる。
「言ってくれた言葉も、その……キス、も」
「それ……マジか?本気と書いてマジで言ってんのか?」
福士が前のめりになって、二人の距離がぐっと縮まる。
ちらと見上げれば、今度は胡乱な瞳で覗き込まれている。
完全に挙動不審になりながら、落ち着かずにいた両手を交差させて、ぎゅっと握る。
固く、固く。
「うん。……マジで。」
ここまで言えば分かってくれるよね。
気持ちが伝わるようにマジな瞳で見つめると、不安気だった瞳が一瞬揺らめいた。
「……その言葉、都合の良いようにとっちまうぞ」
「ど、どうぞ」
やっと気持ちが伝わったことにホッとする間もなかった。
安堵したように一瞬笑った福士の顏が、だんだん近づいてくる。
……近づいてくる?
さっきの光景が脳裏を過る。
これは、またされるのかな――。
覚悟を決めてぎゅっと目を瞑るも、予感していた感触はやってこない。
「…………?」
瞳を開けて見ると、何やら片手で顔を抑えて俯いていた。
どうしたんだろう。
状況が飲み込めずにいると、突然肩を上下させて「はぁー…」と盛大に息を吐き出した。
なに、なに何なの?
私、何かしてしまったんだろうか。
焦りが生まれたと同時に、ぽそりと呟かれた言葉は。
「……ダメだ」
「えっ?」
「悪い、戻る」
そう言うやいなや立ち上がってしまう福士。
訳が分からなくて、身体が咄嗟にその腕を掴んでいた。
中腰の体勢で固まる福士を見上げる。
「何で?その、もうちょっと……」
福士の瞳に映る自分はまるで縋るような顏をしていて、頬に熱が集まる。
そんな自分を見つめる福士は、眉を寄せて何やら苦心している。
一拍おいて強く瞳を閉じたかと思えば、ドカッと正面にあぐらをかいて座り直した。
キッと鋭い瞳に射抜かれる。
「――よし。もう知らねぇぞ」
「な、何が?だっていきなり帰るって……」
「お前、危機感足りな過ぎだろ。二人っきりの部屋でまたキスなんかしたらどうなるか分かんねぇの?」
「!?そ、そっか……」
思わぬ言葉に羞恥から視線を逸らす。
確かに想像力が足りてなかった……。
視線を落とした先に未だに掴んだままの福士の腕が見えて、また顔が熱くなる。
これじゃあ、離れないでって言ってるも同然だ。
「まぁ、もう遅いけどな」
ぐいっと顎を持ち上げられると、口角を上げて、意地悪な顏をした福士が映る。
その瞳の奥には、“男”の本能が揺らめいていた。
こんな顏、知らない。
まるで獲物を狙うような眼差しに貞操の危機を感じて、背中に嫌な汗が伝う。
「あの……、ちょ、待って」
「待てるかよ。お前が引き留めたんだ」
諦めな、と紡いだ唇が降りてくる。
あっという間に接触したそれは、さっき触れた時よりも温かく感じる。
覚悟を決めて瞳を閉じると、またもやあっという間に離れていく感触。
え?と思って瞳を開きかけた時、再び塞がれる。
何度か角度を変えて繰り返される軽いキス。
緊張していると、今度は長いものに変わった。
まるで唇を食べられているようで恥ずかしい。
キスって軽いものだけじゃなくて色々あるんだなぁ、と思いながら浸るも、だんだん呼吸が続かなくなってきた。
どう呼吸すればいいのか分からなくて唇を開いた瞬間、福士の舌が滑り込んできて。
「っ!?」
肩が跳ねて目を開きそうになった瞬間、いつの間にか後頭部を押さえられていて、逃げられないと悟った。
口内を縦横無尽に動く舌に、されるがまま縮こまっているしかない。
だけど歯列をなぞられ、上あごを撫でられたりしていると、だんだん頭がぼうっとしてくる。
やがて、ちょんと福士の舌先が私のものに触れる。
おずおずと舌を動かしてみると、容赦なく絡めとられて。
翻弄されながらも必死に舌を動かしていると、だんだん固まっていた身体から力が抜けていく。
……気持ちいい。
こんな大胆なことをしてるのに、素直にそう思った。
「んぅっ……」
鼻から抜ける自分の声がやたら艶っぽくて恥ずかしい。
だけどどうしようもなかった。
舌の付け根、上あごの感触、舌のザラザラとした熱さ。
未知だったお互いの粘膜を探り合うことがやめられない。
福士の白いTシャツの胸元をぐっと握りしめる。
もうしばらくこうしていたいな……。
夢中になっていると、福士の手が左耳に触れた。
びくっと震えてしまうと、今度は撫でるように触ってくる。
そうされると、吐息混じりの変な声がでてしまう。
耳が弱いことを知られた。
脳裏に福士の意地悪なしたり顔が浮かぶ。
恥ずかしさと気持ちよさから、目じりに溜まった涙が落ちていくのが分かった。
「……っはぁ……」
「……磯野ッ……」
ゆっくりと唇が離されていくのが分かった。
瞳を開けると、繋がれた唾液がぷつんと途切れていく。
あがった息で私の名を呼ぶ福士の唇の端からは、零れた唾液が伝っている。
その色気にあてられると、ますます福士しか見えなくなって。
「…ふ、くし…っ、」
つられて名を呼ぶけど、やたらと蠱惑的なトーンになってしまった。
身体中が熱い。
唇から垂れた唾液が、顎を伝って落ちていく。
そんな私の顏を、福士も熱っぽい瞳で見下ろしている。
「……、ふぅーーーーーーっ……」
一拍の後、福士は今まで見たこともない程きつく瞳を閉じた。
そのままずいぶん長いため息を吐きながら、口元を腕でぐいっと拭った。
不思議に思いながらもその妙にかっこいい仕草に見惚れていると、胸の中に強く引き込まれた。
私も両腕を背中に回して、上半身を引き寄せる。
消灯時間はとっくに過ぎている。
……この流れのまま抱かれてしまうんだろうか。
横目で敷きっぱなしの布団を盗み見る。
それはさすがに色々とマズイので避けなければ。
だけど私もぎゅっとしたくてしてしまった。
この状況でどうすれば……。
働かない頭の中でそんなことを考えていると、耳元に息を吹きかけられる。
「ヒャッ!?」
「フッフッフッ。弱点いっこ見っけ」
「~~!」
急に楽しそうに言われて、強めに背中を叩いて反撃する。
「イデッ!んな思いっきり叩くんじゃないわよ!」
「うぅ……ずるい。私も福士の弱いとこ知りたい」
大分恥ずかしいこと言ってるなと口に出してから気付いて、胸に顔を埋めて誤魔化す。
福士のシャツに口周りの唾液が染みこんでしまったけど、大目にみてもらおう。
「そんなのこれからいくらでも知ってもらうことになるんじゃねーの。俺だってお前が知らないような弱点、もっと見つけてやるし」
「……い、言ってて恥ずかしくないの?」
「まったく」
潔い返答につい笑ってしまうと、後頭部に再び優しい熱が触れた。
福士の手だ。
見た目よりも大きくて、マメだらけの固い手のひら。
私はこの手にこうして触れられる日を夢見てた。
「お前はすぐ無理するところも弱点だな。ったく、さっきも言ったけど調子悪いならすぐ言えってんだ」
ゆるく撫でられながら、福士の言葉でふと悟る。
私の心配は杞憂に終わったということに。
……ちゃんと、我慢してくれたんだ。
「うん。ごめん」
「もういいよ。明日からは困ったことあったら俺を頼れよ。部長なんだし」
「そうだね……それに彼氏だしね」
「……だから……もう他のヤツに身体触らせるなよ」
「え?触らせ……?」
「おんぶとか」
胸元から福士を見上げると、拗ねたように口を尖らせていた。
福士の独占欲が見えて、嬉しくて口角が上がってしまう。
「ふふ、わかった」
「よし。んじゃあ明日の朝はもっとスペシャルなドリンク作ってきてやる。期待して――」
「あ、それは結構です」
「WHY!?」
「だから味を何とかしてってば」
抱きしめ合いながら普段のノリで会話を交わす私たちは、さぞや変だろう。
多幸感に酔いしれながら、そんなことを思ってまた笑んだ。
しばらくそうした後、「そろそろ戻る」と立ち上がった福士を見送る。
お互い名残惜しさを感じながらも、それを口に出すことはない。
言ってしまったら、今度こそ理性を手放してしまうかもしれないから。
廊下に繋がるドアを開ける直前「ゆっくり休めよ。おやすみ」と言いながら額にキスをされて。
おやすみ、と頬を熱くしながら返した私を満足げに見下ろして背を向けた。
何だかすっかり翻弄されてしまってる。
福士ってこんなにスマートでかっこ良かったっけ……。
消灯時間を過ぎた廊下に人の気配はなく、すっかり薄暗い。
スマホのライトをかざしながら、ゆっくりとドアを開いて出て行く福士の耳はよく見ると赤かった。
……なんだ、向こうもいっぱいいっぱいなんだ。
それが分かって一人でニンマリしてしまう。
まるで現実感がないような、ふわふわした幸せに浸りながら夜は更けていった。
―――翌朝。
今日行う練習内容を部員に告げる福士の声がコートに響く。
部員それぞれに振り分けて指示を飛ばすその横顔を、タオルを畳みながらぼうっと眺める。
部長やってる福士はやっぱりかっこいいなぁ。
各々がコーチや監督の指示の元、練習を始める。
私も慌ててまだ残るタオルを急いで畳んでいく。
「あ、おーい福士」
そこで思い出したようにヤッさんが福士を呼んだ。
何となしにその様子を眺めながら手を動かす。
なんすか?と足を向けた福士を見て、含みのある笑みを湛えたヤッさんが言った。
「イチャつくならもっと人目のつかないとこでしなきゃいかんぞー」
「はぁ!?」
すでに練習が始まっているとはいえ、周囲にいた部員には耳に入っただろう会話。
少し離れた距離にいる私の耳にも届いた。
あろうことかヤッさんは、「な?」と言わんばかりに私に視線を投げてきた。
――そうか、昨日買い出しに行った後ヤッさんは車を返しに行っていたはずだ。
つまり戻ってきた時に福士とのアレコレを目撃されてしまっていたということ……。
え!?どういうことっすか!?と数人の部員が練習そっちのけで福士とヤッさんに詰め寄りはじめた。
いかにも興味津々といった様子で、私にもチラチラ視線を寄越す。
ヤッさんのバカー!!何も今ここで言わなくたって……!!
心のうちで思いっきり叫ぶ。
恥ずかしくて居たたまれない思いを抱えて、俯きながらタオルを畳み続けるしかなかった。
飯田くんたちが離れたところにいて良かった……この感じだと話伝わっちゃいそうだけど。
練習後……今日の夜には確実に。
想像してうんざりしていると、ふと影が差した。
「うまく行ったのか?福士と」
見上げると、田代が立っていた。
どう言えばいいのか分からず、えっと、と言い淀む。
だけど誤魔化しても仕方ないと思って、うん。と頷いた。
「……そっか、良かったな。今日は体調平気か?」
「ありがとう。もう大丈夫」
笑って言うと、そっか、とどこか寂し気に笑う田代。
「んじゃ俺はお役御免だな」
「いやすごく助かったよ。本当ありがと」
「おう」
背を向けて歩き出したその背中には、いつもの元気がないように見える。
もしかして――
いいや、自意識過剰かもしれないし、仮にそうだと気付いたところで仕方ない。
今まで通り部活仲間として仲良くやっていくだけだ。
福士と監督の方を見れば、福士は「ンなこといいからお前ら練習しろ!!」と赤い顏で怒声を飛ばしていて、監督はニヤニヤと「後で、後でなー」と詰め寄る部員たちを宥めている。
本当、意地が悪い監督だな……。
ため息をつきながら畳んでいるタオルに福士と書かれていることに気付いて、心臓が跳ねる。
気恥ずかしくも愛しい思いで撫でながら、ぼんやりと思う。
今日の夜には間違いなくテニス部公認カップルになってるんだろうな……。
お互い思いっきり冷やかされる覚悟をしなくちゃね。
タオルで赤い顔を隠すふりをして、軽く唇を押し付ける。
すぐに気持ち悪いことをしたことに気付いて、ますます熱くなった顏を隠してくれるそれからは、優しい太陽の香りがした。
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いざという時に余裕なく慌てるミチルちゃんも大好きだけど、いざという時に男っぽくなるミチルちゃんも大好物です。(こじらせ)
理性飛ばしかけちゃう男の子っていいよね…。
2023.6.15
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