Anniversary
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「おっ……おい、福士」
「んあ?」
「あの子かわいくね?」
放課後のマックは他校生のたまり場だ。
田代は俺の斜め後ろを指差しながら興奮気味に口角を上げている。
「お前、彼女にチクんぞ」
「そーいうお前だってちゃっかり見てんじゃねーか」
そいつは仕方ない。男の性ってヤツだ。
…まあ確かに田代のタイプだな、キレイ系で。
「いいよなー女子高生。俺もあんな可愛い子が多い学校選ぶわ」
「どんな基準だよ」
呆れ気味に言いながらコーラを一口流し込む。
こいつは根っからの女好きだな…。
つい彼女の顔を思い浮かべ、そっと同情してしまう。
「……で?一体何なんだよ」
相変わらず俺の斜め後ろをチラチラ見ながら、田代は俺に聞いてきた。
昼休みに「放課後ツラ貸してくれ」って呼び出した理由。
……正直話すのは気恥ずかしいが、時間がない。
「あー…お前さあ、先々月確か彼女の誕生日だっただろ?」
「ああ」
「プレゼント何やったんだ?」
「あー…?確か…指輪だな」
「…どこで買った?」
「ん、何だ?もしかして彼女誕生日近いの?」
ビンゴ。
俺の仲間内で彼女がいるのはコイツくらいだったから、女が喜びそうなものを知ってるんじゃないかと思い、ちょいと相談に乗ってほしかったのだ。
その旨を話すと、田代は珍しいこともあるもんだなと笑った。
そうだ、滅多に相談など持ちかけない俺が聞いてもらいたい話があるとマックの奢り付きで誘ったんだ。
…俺は今、切羽詰まっている。
「指輪は普通に店で買ったけど……何、指輪やるつもりなのか?」
「いや…でもサイズ知らないんだよな」
「かーっダッメだなー。そういうのはさり気なく前もって聞いとくんだよ」
「うっせ」
田代の小馬鹿にしたような言い方にイラついて、ぶっきらぼうに言い放つ。
俺には女の好み、ましてや扱い方なんて分からない。
何せ2ヶ月前に初めてできた彼女なんだ。
彼女とは日直当番になってからよく話す仲になり…メールや電話もするようなり…気付いたら惚れてた。
そして2ヶ月前、なんと向こうから告白してきたのだ。
彼女は告るのも付き合うのも俺が初めてだと嬉しそうに言っていた。
つまり、誕生日は俺たちにとっちゃ初めてのイベントなワケで・・・そりゃあ気合入れざるを得ないだろう。
「じゃあお前の彼女の好きなモンでいいじゃねーか」
「好きなモンっつったってな…」
「キャラクターグッズとか。ま、色気はねーけど」
それも考えたが、やっぱり誕生日プレゼントに彼女が彼氏に期待するのはアクセサリーなんじゃねえのか?
ポテトを食いながら、そんなふうにも思ってしまう。
――その時、テーブルに置いてあった田代の携帯が震えだした。
「お、わり。彼女からだ」
「ああ、いいよ出て」
通話を始めながら席を外す田代をぼんやりと見送って、俺は一つため息を付いた。
田代は指輪をアクセサリーショップで買ったって言ってたな。
…あんな女だらけの空間によく一人で入っていけたもんだぜと感心してしまう。
でもマコの喜ぶ顔を想像したら、特攻する価値はあるんじゃないの?なんて思えてきて………
瞬間ハッとする。…俺クサすぎんだろ!
噴出しそうになるのを誤魔化すようにコーラを流し込む。
と、流し込みすぎたのか器官に入ってしまい、エホッ!と咳き込む。
ここにマコがいたら優しく背中をさすってくれんだろうな、なんてこんな最中にもその姿を想像してしまい、改めて己の頭が沸いてることを実感せざるを得なかった。
やっと咳が落ち着いたところで田代が戻ってくるなり、何やら嬉しそうに切り出してきた。
「よし、食ったな?今から駅前行くぞ」
「はあ?何で」
「いいからいいから!なっ」
ポカンとする俺を急かすように店を出て、足早に駅前へと向かう。
ったく、相談もまだ途中だってのに、何だってんだよ。
ぶつくさ言いたい気持ちを抑え込んで、前を歩く田代の伸びる影を踏むように、とにかく足を進める。
やがて煌々と明るい駅前に着くと、田代は駅ビルの中に入っていった。
…どこか嫌な予感を感じながら着いて行くと、ちょうど停まったエレベーターに乗り込む。
それに続くと、田代は当然のように「6」のボタンを押した。
上部のフロア案内を見ると、6階は「雑貨・インテリアフロア」となっている。
………こりゃ予感的中だな。
6階に着くと、田代は「こっち」と言ってまた勝手に歩き出す。
このフロアの客層は男女半々だったが、足を止めた店には、やはり女しかいなかった。
「下調べってのは重要だからな、まず色々見てみたらどうだ?」
「んなのは分かってるよ…」
所狭しと並んでいるアクセサリーは確かに、今一番見てみたいジャンルなんだが、この雰囲気はキツい。
店内は、いかにも女が好きそうな煌びやかな装飾が施されているし。
”男性お断り”オーラ満載な店内を顔を引きつらせながら観察していると、定員と目が合い、微笑まれる。
「いらっしゃいませえ、どうぞ。もっと近くでご覧くださあい」
そう高い声で言われちゃ腹を括るしかない、田代に付いておずおずと近寄っていく。
客や店員の生暖かい視線が何っとも居心地が悪いが、こうなりゃ田代もいることだしさっさと吟味していいのがあったら即決して撤退しよう。
そう思った俺はまずそれぞれの値段をチェックしてみる。
手ごろなモンもあればショーケースに入った高値なものまで、本当にピンキリだ。
リング…ネックレス…ピアス、は付けられないから除外だな。
「んー、俺だったら……これ、こんなんどうよ?」
と、田代が持って見せたのは、全面にキラキラしたのが付いてる若干派手めなリングだった。
「いや、ちょっと彼女のイメージとは違うぜ…ていうかリングはサイズ知らねえって言っただろ」
「*号だってさ」
「は?」
「俺も知らなかったんだけどさー、俺の彼女とお前の彼女って知り合いらしくて。で、聞いてみたら知ってたぜ、指輪のサイズ」
「そうだったのか…!?」
いや、それは知らなかった。
でも、これでこれまでの田代の行動の理由がやっと理解できた。
まあ多少強引だったが、少しは感謝してやるか。
それからは指輪のサイズも分かったことだし、指輪に狙いを定めて吟味することにした。
他にも店を回って検討した結果……即決とはいかず時間はかかったが、何とか良さそうなものを買うことができた。
でもただでさえあの空間が苦痛な俺にとってみれば、今日納得のいくものを買えたのは田代のおかげだろう…。
「礼はまたバーガーでもゴチしてくれよ。今度はモスでもフレッシュネスでもいいぜー」
「へいへい、しょうがねえな」
さりげなくグレード高いものをリクエストしながら、田代は改札へと消えていった。
それを見送ってから、俺は歩き出す。
「よし」
財布も軽いが、足取りも軽い。
喜んでくれるといい、そんな不安も若干抱えつつ。
明後日に見れるであろうマコの笑顔を思い浮かべ、勝手に耳の辺りが熱くなる。
…どんだけだよ、俺。
浮かれた気持ちを落ち着けようと、わざとらしい咳払いを一つ。
ただ効果はいまいちで、家に帰ってからも顔の熱が引かず、風邪でも引いたのかと心配されてしまう俺だった。
* * * * *
**月**日。
私は今日で15歳を迎えた。
0時ジャストに友達からの「おめでとう」メールが来て、嬉しくてすぐに返信を書き始めた。
その途中で携帯の画面が突然、着信画面に切り替わる。
表示されている名前は、今一番声が聞きたかった人のものだ。
すぐに通話ボタンを押して、応答する。
「はい!」
『…あ、俺』
「うん」
『誕生日おめでとう…ゴザイマス』
「あは、ありがとうゴザイマス」
若干ぎこちない言い方に笑いながら同じイントネーションで返すと、福士くんは「真似すんなよな」って笑った。
ああ、嬉しい。覚えててくれてたこともそうだし、こうして電話をくれるなんて。
『あー…明日なんだけど、練習終わるまで待っててくれない?』
「うん、もちろんいいよ」
『んじゃあ教室まで迎えに行くぜ』
「あ、いいよ。終わる頃に校門のところで待ってるから」
『いや、あいつらに見つかりたくねえんだよ…だから教室で』
「あ、そっか。うん分かった」
『悪いね』
そうか、からかわれるのが苦手なんだ。
からかわれて赤くなっちゃう(であろう)福士くんも見てみたいんだけどなあ…なんて思いは今は閉まって。
明日は一緒に帰れる、それだけで幸せ過ぎてついついニヤけてしまう自分は、相当に沸いている。
『じゃあまた明日な』
「うん。お休みなさい」
『…お休み』
そして、ツーツーと聞こえてくる通話終了音。
私は携帯をベッドに放って、両手で頬を触ってみる。
…熱い。ついでに心臓もうるさい。
最後の「お休み」の言い方が、やたらと穏やかで優しかったから、調子が狂ってしまう。
「自分キモ…」
そう呟きながらも、勝手に口角が上がってしまうのを止められない。
結局途中だった友達への返信を書き終わるまで、顔の熱が引かなかった。
……まったく、重症だ。
普段はアホっぽいくせに、たまにかっこいいんだから困る。
例えば、試合中の一生懸命な姿。
一枚くらい写メが欲しいな…そんなことを思いながら、いつの間にか深い眠りについてしまった。
……
……………
そして翌日。
約束通り教室で待っていると、福士くんが迎えに来てくれた。
「お待たせ」
「ううん。お疲れさまー」
読んでいた本をバッグに仕舞いながら、帰り支度をしようと席を立つ。
けど、福士くんが何か言いたそうに近づいてきたから、「どうしたの?」と声を掛ける。
「いや、おめっとさん。まだ直接言えてなかったよな」
「あー、ありがとう。15歳になっちゃったよー」
「ああ、そんで…これ」
ずいっと差し出してきたのは、小さな紙袋。
何かと目を見開く私に、福士くんは「プレゼント」って付け加えてくれて。
驚きと喜びが同時に湧き上がってきて、大声を上げてしまう。
「えー!?ホントに!ありがとう!」
「声デケーよ!」
「あ、ごめん!つい…あ、開けてもいい?」
「ああ」
シールを丁寧に剥がすと、紙袋の底にあったのは四角形の小さな箱。
もしかしてこれって?なんて期待を抱きながら、私はその小さな箱をゆっくりと開けてみる。
そして想像した通り中に入っていたのものは、可愛い指輪だった。
作りはシンプルだけど、真ん中に私の好きなモチーフが付いていて、すごく好みだ。
「可愛い…!うーわ、いいのこれ?こんなの貰っちゃって…」
「ったり前だろ。大体俺が持ってたところで使い道ねえよ」
「そう?女装する時とか…」
「ああそうね…ってするか!」
「あははは…!やー、ありがとう、すっごく嬉しい」
「ああ、試しに付けてみ」
言われて、右手の薬指にリングを通すと、びっくりするくらいピッタリだった。
驚くと、その理由を知らされてさらに驚いた。
仁科さんが教えてくれたというのだ。
しかも仁科さんは田代くんの彼女でもあったみたいで、二重にビックリした。
「仁科さんは情報通みたいだからねー…でも指輪のサイズまで知られてたとは…」
「ま、俺は助かったけどな」
「うん、あー。ありがとう、最高に嬉しい!もうずっとつけとく」
「イヤー学校では外しておいてくれると…」
「あー恥ずかしいから?」
福士くんのおかしな言い方に笑いながらそう聞くと、「そりゃそうだろ」って、ちょっと目を逸らされる。
この仕草は照れてる証拠。
「分かった。じゃあデートの時は忘れずに付けてくね」
「あ、ああ‥」
愛しさがこみ上げてきて、頬が緩む。
シルバーの指輪をまたついつい観察し始めると、急に影が差して、みるみる視界が真っ暗になった。
そして福士くんの体温やほのかな汗の匂いや心音がダイレクトに伝わってきて、心臓がみるみる間にうるさくなっていく。
だけどそれは福士くんも同じだ。音がすごく早い。
つい笑ってしまうと、「何よ」ってちょっとスネ気味の声が掛けられる。
「別にー」
そう笑いながら私は、大胆な福士くんの行動に背中を押されたように、その頬めがけて唇を押し当てた。
私は最高に幸せ者だ。
あなたと出会えて、こうして隣にいられる関係になれたことが幸せだ。
私の誕生日を祝ってくれてありがとう。
そんな感謝を込めて。
真っ赤になって頬を押さる彼に、負けじと私も耳の辺りを熱くしながら、また胸に顔を押し付ける。
さっきよりもお互いの心拍数が上がってることに気付いてまた恥ずかしくなったけど。
福士くんの腕の中は心地よくて、改めて私は幸せというものを実感するのだった。
HAPPY BIRTHDAY!!
2010.12.30
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