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コツンって小さな音に気付いてそっと視線を向けた先は、机の前右足。
側に小さく折り畳んだ白い紙が転がっているのがすぐ目に付いた。
そして私の目線は、斜め前方に移動する。
窓際の後ろから二番目の私の席から、隣の列の後ろから四番目の席に位置する福士は至って普通に、 先生が解説しながら黒板に書いていく板書をノートに写していた。
私は先生が黒板に向き直った隙をみて、紙を拾った。
『朝堂本にメールでふられたって泣きつかれたぞ!かわいそー!』
思わず眉間に皺が寄る。
泣かれたところで泣きたいのはこっちだ。なんでいちいち報告してんの!
ここ連日のメール攻撃にさすがに参って、止む気配のない受信メールに止めを刺した昨日の晩。
ただ本心を言っただけだし、悪くないはず‥なのに、責められるの?
口を出そうになるため息を飲み込んで、リーフレットを一枚取り出す。
こうやって先生が見回りにでも来ない限り好き勝手できるのがこの席のいいところだ。
先生の隙を窺いながら狙いをつけて、身を乗り出す。
白い四角形は狙い通り福士が座る椅子の後ろ左足へ当たって落ちた。
…気付いたよね。
少ししてから紙へと手を伸ばした福士の後姿を、私は半ば睨むように見ていた。
内容は『だって気持ちは動かなかったもん』って、走り書き。
もともと福士と仲良かった私はよく福士とつるんでる堂本とも話すようになって、とまあよくある成り行きの末、 友達同士というポジションが成り立っていったわけだけども、
どういうわけかやたら気にいられてしまい、好きな人がいるといっても引かない上に「俺がそいつよりいい男だって分からせてやる!」って どこからくるのかも分からない自信をぶつけてくる始末で。
どうせ無理だと分かってたから流していたけど、ほんとにあの粘り強さはどこからくるのか。
それをテニスに向けていればもっと上を目指せてたのかもしれないのに、と思ってしまう。
そして授業も後半戦にさしかかった頃。
二度目のメモが、椅子の近く‥ではなく、今度は机の上に着陸した。
『モノズキっているんだよな←堂本 でもいい奴だろ?』
文頭が不本意だけど、私もけっこうな物好きだろうから否定はしないでおく。
確かに、根は悪い奴ではないと思う。会話してる分にも普通に楽しい。
けどそれとこれとは別であって。
しかもいい奴だろ?って、なんかくっついて欲しいみたいな感じだよねこいつ。
それらしき態度で匂わせたこともあるのに、ことごとく流された。
そろそろ気付いてくれてもいいと思うんだけど。
大体こうなったのもあんたのせいだっつうのこの鈍感バカ男。(責任転嫁)
二度目の返事。
もういい、そろそろ勝負にでよう。
本人の頭だとかは当たった後にとんでもない方向へ飛んでってしまう可能性が高いからあんまり狙わないのだけど、 今の気分としては狙ってやりたい気分だったからえいっと飛ばした。
と、見事命中。運良く椅子の下へ落ちた。
頭押さえて軽くこっちを睨む福士に、私はニヤっと口角を上げる。
『あの人には適わないけどね』
三度目の、福士からの返事。
『好きな奴って誰?そろそろ教えろ!』
きた。
結構身近な人?って思わせぶりな言葉も、分かり易くてもこいつには通じないヒントを返すのはもうやめよう。
そう言って期待しては的外れな答えを返されて、何度うんざりしたことか。
そっと、ペンの先で白紙をなぞっていく。
ノートのグリッド線にそって、大きくも小さくもない字で、はっきりと。
福士は本気でバカだし相手によって弱腰になったり態度でかくなったりするし、外では評判悪いのも頷けるけど、 側にいるとほんと見えてくるんだ、アイツのいろんないいところ。
普段はバカ面ばっかだけど、部活中は部を仕切る部長らしい表情になるのとか
部のトレーニングメニュー考えてる時の真面目な顔とか
委員会で遅くなった時、帰りが一緒になった福士が家離れてるのにわざわざ送ってくれたり
理科の実験でビーカー割って怒られたあと、何だかんだ言いながらも私の役目だった片付けを手伝ってくれたのは記憶に新しい。
大会前、自信満々に優勝宣言しながら時々ピリピリしてたのも、ちゃんと知ってる。
部員の期待を背負って少なくとも、プレッシャーと戦って勝ち抜いてきたはず、都大会までは。
諦めが良すぎるのもまたアレだったけど、堂本に負けないくらい物好きな私は、改めて自分の想いの深さを認識する。
『福士ミチル。これがすきな相手の名前です(この鈍感!)』
さあ、反応はいかに。
紙を折り畳んでいるところで、予想外の出来事。
机の上、勢いよく転がってきた福士からの四度目の手紙。
不思議に思いながら広げたところでまた不意打ちをくらった。
『やっぱさっきのナシ!!』
なんで?ここへきて…意図がわからない。
せっかく勝負に出ようとしたのに、出鼻を挫かれた気分だ。
仕方なしに今伝えようとしてた返事は保留にして、彼の真意を図るため私はまたルーズリーフを破いていく。
「(俺じゃなかったらどうすんだよ‥)」
2004.10.19
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