Your Song
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「ゼロの執行人」後の話です。ややネタバレを含みます。
来客を告げるのはインターホンではなく、玄関のノブがガチャガチャとなる音だった。次いで、ドアを勢いよくガンガンと叩く──というよりはむしろ、殴るような音。念の為言っておくが、今は真夜中も真夜中、丑三つ時である。こんな非常識なことするの、強盗以外に思い当たるのなんて一人しかいないが。
玄関を開けようとすると、どうやら向こう側からドアに凭れかかっているらしく、なかなか開かない。やっとの思いで押し退ければ、ボロボロの格好で、ボロボロになった降谷が立っていた。
「うわ……」
「……うわとはなんだ、うわとは」
「いや……」
あれからちょうど一週間。名前もそこそこ忙しく走り回ったものだが、やはりどうやら、彼には到底及ばないらしい。彼の部下である風見曰く、今回はまた輪をかけて好き勝手に滅茶苦茶やっていたようだ。やつれた顔、ボサボサの髪、肌もガサガサになってしまっている降谷は、名前の第一声に対し不服そうな声を上げながら、それでも安心したように笑っていた。彼にとってそういう場所になれているのなら、こんな夜中に押しかけられるのも嬉しいくらいだ。……近所迷惑だし、彼ならそのうち破りかねないので、ドアを殴るのはやめてほしいけれど。
「……はあ……落ち着く」
「わ、分かったから、靴脱いで……」
覆い被さるように名前を抱きしめて、降谷はそのまま彼女の首元に顔を埋めた。よしよし、と子供にするように頭を撫でてやると、そう経たないうちにズシリ、と体重をかけられ、アレこれもしかして、寝……?
「お、重……」
支えきれずに降谷ごと倒れ込んでしまったが、それでもやはり、起きる様子はない。こういう、三和土 で眠ってしまうようなことは初めてではなかった。どうやって入ったか知らないが、名前が帰宅した時に玄関で行き倒れていることすらあったのだから。その後合鍵も渡したけれど、本当に極限まで眠い時、思考回路が機能していないのか「鍵を使って玄関を開ける」という行為すらままならないことがあるらしい。それがまさに今、今日のような日だ。完全に眠りに落ちてしまっている自分より体格の大きな成人男性を寝室まで運び、着替えさせ、というのも実のところ、仕事を終えて帰宅した名前にとってはかなり重労働だった。だがそれでも、そんなにも疲れているのにわざわざ会いに来てくれることの嬉しさが未だに勝ってしまう。……申し訳ない気持ちもあるので、正直なところ複雑ではあるけれど。
◇
引き摺りながら何とか降谷をベッドの脇に敷いた布団の上に寝かせ──余談だが、行き倒れをベッドに寝かせるのは非常に困難だったので、この常習犯の為だけに以前新しく購入した敷布団である──名前は溜息をついた。替えの服を用意し、一度寝かせた体を起き上がらせ、自分のそれで支えながら服を脱がす。これが結構大変で、介護士さんって本当にすごい。
「……あ」
と、彼の左腕が包帯でぐるぐる巻きにされていることに気付いた。脱がすところまではやってしまったけれど、あまり動かしたら痛いだろうか。でも脱がせてしまった手前、このままという訳にもいかない。
悶々と悩んでいるうちに、私に寄りかかる上半身の重みが少しだけ軽くなった。どうやら目が覚めたらしい。
「……大胆だな」
「はい?」
「名前の方から誘ってくれるなんて、珍しいじゃないか」
「寝言はいいから、起きたなら自分で服着て」
「はは、はいはい」
半分寝惚けた状態で、彼は私から受け取った服を被る。なんかちょっと、かわいい。
「腕、大丈夫なの?」
「ん? ああ、大したことない」
「……ふーん」
「いででで、嘘うそ、大丈夫じゃないです」
「明日仕事は?」
「明日……明日は今の所とりあえず何も」
ふぁ、と大欠伸をして、降谷は布団へ潜り込む。明日は私も休みだし、彼もそうなら、少しはゆっくり出来るかな。掛け布団を半分捲り、彼はベッドへ腰掛ける私を手招きした。
「え」
「え、じゃないだろ。いつも一緒に寝てるじゃないか」
「そ、そうなんだけど」
普段は名前が眠った後に降谷が潜り込んで来るか、もしくは降谷が先に眠ってしまっているかなので、彼が起きてるところに入って行くのは何故だか、少し、照れ臭い。
「……照れてるのか?」
「う」
「はは、本当にかわいいな名前は。ほら、早くこっちにおいで」
そっと立ち上がって彼の隣に横たわれば、零は掛け布団をふわりと直し、私をぎゅっと抱き寄せる。数秒と経たないうちに、また規則的な寝息が聞こえてきた。
「……お疲れさま」
今日も帰って来てくれて、ありがとう。その頬に優しく唇で触れて、名前もゆっくりと目を閉じた。
来客を告げるのはインターホンではなく、玄関のノブがガチャガチャとなる音だった。次いで、ドアを勢いよくガンガンと叩く──というよりはむしろ、殴るような音。念の為言っておくが、今は真夜中も真夜中、丑三つ時である。こんな非常識なことするの、強盗以外に思い当たるのなんて一人しかいないが。
玄関を開けようとすると、どうやら向こう側からドアに凭れかかっているらしく、なかなか開かない。やっとの思いで押し退ければ、ボロボロの格好で、ボロボロになった降谷が立っていた。
「うわ……」
「……うわとはなんだ、うわとは」
「いや……」
あれからちょうど一週間。名前もそこそこ忙しく走り回ったものだが、やはりどうやら、彼には到底及ばないらしい。彼の部下である風見曰く、今回はまた輪をかけて好き勝手に滅茶苦茶やっていたようだ。やつれた顔、ボサボサの髪、肌もガサガサになってしまっている降谷は、名前の第一声に対し不服そうな声を上げながら、それでも安心したように笑っていた。彼にとってそういう場所になれているのなら、こんな夜中に押しかけられるのも嬉しいくらいだ。……近所迷惑だし、彼ならそのうち破りかねないので、ドアを殴るのはやめてほしいけれど。
「……はあ……落ち着く」
「わ、分かったから、靴脱いで……」
覆い被さるように名前を抱きしめて、降谷はそのまま彼女の首元に顔を埋めた。よしよし、と子供にするように頭を撫でてやると、そう経たないうちにズシリ、と体重をかけられ、アレこれもしかして、寝……?
「お、重……」
支えきれずに降谷ごと倒れ込んでしまったが、それでもやはり、起きる様子はない。こういう、
◇
引き摺りながら何とか降谷をベッドの脇に敷いた布団の上に寝かせ──余談だが、行き倒れをベッドに寝かせるのは非常に困難だったので、この常習犯の為だけに以前新しく購入した敷布団である──名前は溜息をついた。替えの服を用意し、一度寝かせた体を起き上がらせ、自分のそれで支えながら服を脱がす。これが結構大変で、介護士さんって本当にすごい。
「……あ」
と、彼の左腕が包帯でぐるぐる巻きにされていることに気付いた。脱がすところまではやってしまったけれど、あまり動かしたら痛いだろうか。でも脱がせてしまった手前、このままという訳にもいかない。
悶々と悩んでいるうちに、私に寄りかかる上半身の重みが少しだけ軽くなった。どうやら目が覚めたらしい。
「……大胆だな」
「はい?」
「名前の方から誘ってくれるなんて、珍しいじゃないか」
「寝言はいいから、起きたなら自分で服着て」
「はは、はいはい」
半分寝惚けた状態で、彼は私から受け取った服を被る。なんかちょっと、かわいい。
「腕、大丈夫なの?」
「ん? ああ、大したことない」
「……ふーん」
「いででで、嘘うそ、大丈夫じゃないです」
「明日仕事は?」
「明日……明日は今の所とりあえず何も」
ふぁ、と大欠伸をして、降谷は布団へ潜り込む。明日は私も休みだし、彼もそうなら、少しはゆっくり出来るかな。掛け布団を半分捲り、彼はベッドへ腰掛ける私を手招きした。
「え」
「え、じゃないだろ。いつも一緒に寝てるじゃないか」
「そ、そうなんだけど」
普段は名前が眠った後に降谷が潜り込んで来るか、もしくは降谷が先に眠ってしまっているかなので、彼が起きてるところに入って行くのは何故だか、少し、照れ臭い。
「……照れてるのか?」
「う」
「はは、本当にかわいいな名前は。ほら、早くこっちにおいで」
そっと立ち上がって彼の隣に横たわれば、零は掛け布団をふわりと直し、私をぎゅっと抱き寄せる。数秒と経たないうちに、また規則的な寝息が聞こえてきた。
「……お疲れさま」
今日も帰って来てくれて、ありがとう。その頬に優しく唇で触れて、名前もゆっくりと目を閉じた。
