Your Song
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目が覚めたのはどうやら明け方のようだった。登り始めた陽がカーテンの隙間から射している。
嫌にリアルな夢だった。どこからどこまでが夢だったのかもよく分からない。あの喫茶店で彼に会ったところから夢だったりしないだろうか──さすがにそれはないか。それにしても、彼に会っただけでこんな夢を見るなんて自分も相当だと名前はほとほと呆れ果てた。欲求不満なんだろうか。開かない瞼と格闘しながら、時間を確認しようと枕元を弄 るが、いつもあるはずの携帯がない。
「ひ……っ」
ゴッと鈍い音がして、何だかモサッとしたものを肘で小突いてしまったことに気付く。彼は起きる気配がなく、健やかに寝息をたてている。余程疲れているらしい。そこで名前は漸 く、自身の腰へ絡み付く浅黒い腕の存在に気が付いた。……ひょっとして、夢、ではなかった……?
当然──というのもおかしい気がするが──名前は何も身につけていなかった。何とか腕を引き剥がして起き上がろうと試みるが、酒のせいだけでもなさそうな鈍痛が全身にのしかかり上手くいかない。夢じゃ、なかった。そう分かった瞬間に、遠くの方で携帯のアラームが鳴り響く。余韻に浸る間もなければ、思い出して恥ずかしくなる暇もない。重たい身体に鞭打って、足元へ散らばった衣類を掻き集めながら可及的速やかに、そして静かに寝室を出た。
◇
『浮腫解消!』と銘打たれた動画に倣 ってマッサージをしてはみたものの、所詮は気休めだった。酒と寝不足と涙とで顔はパンパンだし、ファンデーションも全くのらないし、薄っすら隈まで出来ている。はぁ、と小さく溜息をつけば、それと同時に洗面所のドアが開き、彼が大欠伸をしながら現れた。
「ああ、久しぶりによく寝た」
「……そんな寝た?」
時間的にはそんなに寝てないんじゃないか、……というところまで考えて、顔が熱くなるのでやめた。降谷はくすっと笑いながらブローしたての名前の髪を掬 い上げ、そっと唇を落とす。そんな仕草を見せられては──結局、鏡に映る名前の顔はさながら茹で蛸のようだった。
「いい匂い」
「……シャワー浴びたから」
「起こしてくれれば良かったのに」
「いや、なんかすごいよく寝てたし……」
「起きたらいないなんて、寂しいだろ」
「何人にそう言ってきたんだか」
「なんだ、妬いてるのか?」
「妬いてない」
妬いてない。それは本当だ。というか、妬くとか妬かないとかよりも、未だにこの状況を現実だと信じきれていないというか、理解できていないといった方が正しいかもしれない。
シッシッと払った手を掴まれて、彼の唇が触れる。そのままその頬に触れるよう導かれ、額同士が重なった。視線がかち合えば、息が止まってしまいそうで、瞬きすら出来ない。どうしてそんな、真剣な顔、するの。
「……な、に」
「俺は妬いてる。今まで名前に触れてきた男全員に」
「は……」
「……もっと早く、こうしたかった」
碌に働かない思考回路とは裏腹に、心臓だけが異常なまでにバクバクと脈打つ。どこか儚げな瞳が伏せられて、ああ、睫毛長いな、なんて思っている間に優しく口付けられた。
「夢を見たよ。名前と初めて会った時の夢」
「ええ……」
名前にとってはあまり思い出してほしくないようなそれを、降谷は愛おしげに回想する。
あの日はバケツをひっくり返したような土砂降りで、私はずぶ濡れで、雨に融けていなくなってしまいたかった。だけどそんな、弱くてボロボロな私を見つけて、拾い上げてくれたのはあなただった。
「あんなに雨降ってても分かるくらい泣いてた」
「……うるさいなぁ」
「はは! ……でもあの時、……」
「な、何、急に黙らないでよ」
「……僕が守りたいって。きっとあの日からずっと、そう思ってた」
「…………っ」
思わず目を逸らす。そんなの、嘘。信じない。だってそんなの、そんなわけない。適当なこと言って誤魔化そうとしているだけ。分かってる。大丈夫。あんな、酒の勢いみたいな夜の言葉も、その翌朝の取ってつけたような愛情表現だって。いくら想い人相手だとしても、舞い上がって間に受けるほど子どもじゃない。
「また嘘つき、って顔してるな」
「……うん」
「素直でよろしい。でも参ったな。どうしたら信じてくれる?」
全然参ってなさそうな顔で、降谷は言う。
──お願い。そんな優しい顔で、愛おしそうな瞳で、私を見ないで。
「……っ」
「……そんなかわいい顔しないでくれ」
重ねられた唇の隙間から入り込んで来た彼の熱い舌が、名前のそれを絡めとる。何度も何度も角度を変えて慈 しむような、本当に、愛されているかのようなキスだった。やっぱりもう、ダメだ。
「……いっこだけ、お願い聞いて」
「一つでいいのか? 謙虚だな」
「もう、いなくならないで」
傷付けられてもいい。傍にいられるなら。
「……勘弁してくれ」
「……え、あ、ごめ……」
「いつからそんなかわいいこと言うようになったんだ」
「は」
綴じられたシャツのボタンを一つ外し、昨夜のように、降谷は名前の首元へと吸い付いた。襟でギリギリ見えないところに新たに浮かび上がった鬱血痕をそのまま舌で舐め上げて、その上からがぶりと歯を立てる。それはもう、昨日の最中、首へ噛み付いた時よりもずっと思いっきり。
「いった!」
「いてっ」
驚いて思わず突き飛ばしてしまった、が、本当に痛かったのだ。反射的に涙が滲んでしまうほど、冗談でなく、本当に噛み千切られてしまうかと思った。
「な、何……ドラキュラ……?」
「……今のは名前が悪い」
「え、な、なんで……」
降谷は再度名前を抱き寄せて、そこへもう一度舌を這わせる。噛まれた箇所はひりひりと痛むのに、背中はゾクゾクして、身体が熱くなるのが分かった。
「僕になら、傷付けられてもいいんだろう」
「いや物理的にはちょっと……」
「……戯言 かもしれないけど」
──名前を傷付ける僕以外の全てから、僕が名前を守りたい。完璧に出来るかは分からないけれど、それでも、名前の笑顔を守るのは僕でありたい。……だから、名前を傷付けてしまう僕を受け入れて、受け止めて、僕の傍にいてほしい。
「……ど、ゆ……意味……」
「そのままの意味だよ」
「零、ほんとに私のこと好きなの……?」
うそ、だって、そんなの。ただでさえ働いていない頭が余計に大混乱で、もう訳が分からない。この期に及んで嘘を吐くとも思えないけれど、でも、だって、そんなこと、ある?
「はは! ここまで言ったのに、まだそう聞き返すのか。存外意地が悪いな」
「だ、だって……」
「……そうだな。言ってもいいが、イエス以外受け付けないぞ」
好きとか嫌いとか、そんな言葉では言い表せない。名前が僕を必要としてくれて、愛してくれて。僕がどれだけ救われていたか知らないだろ。名前と出会ったあの日から僕は、僕が、この国を守りたかったのは。
「……もちろん、それだけが理由じゃない。だから絶対に、いつでも守ってやると約束は出来ない。でもこれだけは知っていてほしい。名前は僕にとって大切で、守りたくて、……愛おしくて仕方ない存在なんだ」
だから、僕の傍にいてほしい。
「……そもそも、恋人のフリを持ち出したのだって。どうにか名前を繋ぎ止めたかったからなんだが」
「いや、さすがにそれは嘘」
「本当だって。僕も自分で気付いたのは後になってからだけど、理由がないと連絡も出来ないような、ただの同期になりたくなかったんだ。きっと」
ちゅ、と名前の頬に軽く唇を落とし、降谷は眉を下げて笑う。それは名前の知っているようで知らない、けれど紛れもなく降谷零という男の、本心にも思えた。私が受け入れるかどうか、いつも自信満々なくせに、ほんの少しだけ不安を抱いている。そしてそれを悟らせまいと、笑っている。泣きたいくらい愛おしくて、先刻彼が私にしたのと同じ場所へ、同じように噛み付いた。
「……それは、イエスってことでいいのかな?」
「……それ以外受け付けないって、零が言った」
「はは、確かに」
「それ以外なんてある訳ないって、分かってるくせに」
「そんなことないさ。買い被り過ぎだ」
「……ねえ、これ、他の人に見せる?」
自分がされたように、かなり強く歯を立てたはずなのに、彼は特に痛がる様子もなく。それどころか些か、嬉しそうにすら見える。
「そういう捜査のやり方もないわけじゃないが、僕はしないぞ」
「……だって、零がどこで何してるか、全然知らないし」
「……そうだな。でも、名前を悲しませるようなことはしないよ。約束する」
「……ん」
本当にそれが守られる約束かどうかなんて、私には分からない。だけどもう、それでいい。嘘は墓場まで持って行ってくれる。そういう人だと、信じることにしよう。こんなにも愛おしい人が、私を大切だって言ってくれる。それだけで奇跡だ。私ももう、この人を失いたくない。私を守ると、守りたいと言ってくれるこの人を受け入れて、私が守ってあげたい。彼の首に腕を回して、初めて自分から、その唇に自身のそれでそっと触れた。
◇
「そいえばさあ」
「ん?」
「絶対コナンくんに怪しまれてると思うんだけど」
「ああ……」
「……そういえば、嘘つきって言われたって……」
「……いや、まあ……あの子は本当にとんでもない子だな」
「…………」
「名前がそんなに気に病むことないよ。降谷零だけじゃなく、安室透だって愛してくれるんだろ?」
「何その自信」
「ほら、否定しない」
「…………」
「僕がどんな立場の時でも、君が僕の恋人だってことに変わりはないからな。だから安室透の時も、そうじゃない時も、名前は堂々と僕の恋人だって顔してればいいのさ」
「……っ」
「照れてるのか?」
「……うるさいなあ」
「ははっ、本当に一層かわいくなったな、名前は」
「……あ、そこで降ろして」
「何故? 目の前まで送って行くよ」
「だって、いや、なんか……」
「見せびらかしてやればいいじゃないか」
「ん……っ、な、なにすんの! バカ!」
「恋人同士なんだから、いってらっしゃいのキスくらいなんてことないだろ」
「……っば、バカ! バーカ!」
真っ赤な顔で車から飛び降り駆けていく、愛おしい彼女。……もう絶対に、失わない。その後ろ姿が見えなくなるまで見送って、束の間の休息に想いを馳せた。
嫌にリアルな夢だった。どこからどこまでが夢だったのかもよく分からない。あの喫茶店で彼に会ったところから夢だったりしないだろうか──さすがにそれはないか。それにしても、彼に会っただけでこんな夢を見るなんて自分も相当だと名前はほとほと呆れ果てた。欲求不満なんだろうか。開かない瞼と格闘しながら、時間を確認しようと枕元を
「ひ……っ」
ゴッと鈍い音がして、何だかモサッとしたものを肘で小突いてしまったことに気付く。彼は起きる気配がなく、健やかに寝息をたてている。余程疲れているらしい。そこで名前は
当然──というのもおかしい気がするが──名前は何も身につけていなかった。何とか腕を引き剥がして起き上がろうと試みるが、酒のせいだけでもなさそうな鈍痛が全身にのしかかり上手くいかない。夢じゃ、なかった。そう分かった瞬間に、遠くの方で携帯のアラームが鳴り響く。余韻に浸る間もなければ、思い出して恥ずかしくなる暇もない。重たい身体に鞭打って、足元へ散らばった衣類を掻き集めながら可及的速やかに、そして静かに寝室を出た。
◇
『浮腫解消!』と銘打たれた動画に
「ああ、久しぶりによく寝た」
「……そんな寝た?」
時間的にはそんなに寝てないんじゃないか、……というところまで考えて、顔が熱くなるのでやめた。降谷はくすっと笑いながらブローしたての名前の髪を
「いい匂い」
「……シャワー浴びたから」
「起こしてくれれば良かったのに」
「いや、なんかすごいよく寝てたし……」
「起きたらいないなんて、寂しいだろ」
「何人にそう言ってきたんだか」
「なんだ、妬いてるのか?」
「妬いてない」
妬いてない。それは本当だ。というか、妬くとか妬かないとかよりも、未だにこの状況を現実だと信じきれていないというか、理解できていないといった方が正しいかもしれない。
シッシッと払った手を掴まれて、彼の唇が触れる。そのままその頬に触れるよう導かれ、額同士が重なった。視線がかち合えば、息が止まってしまいそうで、瞬きすら出来ない。どうしてそんな、真剣な顔、するの。
「……な、に」
「俺は妬いてる。今まで名前に触れてきた男全員に」
「は……」
「……もっと早く、こうしたかった」
碌に働かない思考回路とは裏腹に、心臓だけが異常なまでにバクバクと脈打つ。どこか儚げな瞳が伏せられて、ああ、睫毛長いな、なんて思っている間に優しく口付けられた。
「夢を見たよ。名前と初めて会った時の夢」
「ええ……」
名前にとってはあまり思い出してほしくないようなそれを、降谷は愛おしげに回想する。
あの日はバケツをひっくり返したような土砂降りで、私はずぶ濡れで、雨に融けていなくなってしまいたかった。だけどそんな、弱くてボロボロな私を見つけて、拾い上げてくれたのはあなただった。
「あんなに雨降ってても分かるくらい泣いてた」
「……うるさいなぁ」
「はは! ……でもあの時、……」
「な、何、急に黙らないでよ」
「……僕が守りたいって。きっとあの日からずっと、そう思ってた」
「…………っ」
思わず目を逸らす。そんなの、嘘。信じない。だってそんなの、そんなわけない。適当なこと言って誤魔化そうとしているだけ。分かってる。大丈夫。あんな、酒の勢いみたいな夜の言葉も、その翌朝の取ってつけたような愛情表現だって。いくら想い人相手だとしても、舞い上がって間に受けるほど子どもじゃない。
「また嘘つき、って顔してるな」
「……うん」
「素直でよろしい。でも参ったな。どうしたら信じてくれる?」
全然参ってなさそうな顔で、降谷は言う。
──お願い。そんな優しい顔で、愛おしそうな瞳で、私を見ないで。
「……っ」
「……そんなかわいい顔しないでくれ」
重ねられた唇の隙間から入り込んで来た彼の熱い舌が、名前のそれを絡めとる。何度も何度も角度を変えて
「……いっこだけ、お願い聞いて」
「一つでいいのか? 謙虚だな」
「もう、いなくならないで」
傷付けられてもいい。傍にいられるなら。
「……勘弁してくれ」
「……え、あ、ごめ……」
「いつからそんなかわいいこと言うようになったんだ」
「は」
綴じられたシャツのボタンを一つ外し、昨夜のように、降谷は名前の首元へと吸い付いた。襟でギリギリ見えないところに新たに浮かび上がった鬱血痕をそのまま舌で舐め上げて、その上からがぶりと歯を立てる。それはもう、昨日の最中、首へ噛み付いた時よりもずっと思いっきり。
「いった!」
「いてっ」
驚いて思わず突き飛ばしてしまった、が、本当に痛かったのだ。反射的に涙が滲んでしまうほど、冗談でなく、本当に噛み千切られてしまうかと思った。
「な、何……ドラキュラ……?」
「……今のは名前が悪い」
「え、な、なんで……」
降谷は再度名前を抱き寄せて、そこへもう一度舌を這わせる。噛まれた箇所はひりひりと痛むのに、背中はゾクゾクして、身体が熱くなるのが分かった。
「僕になら、傷付けられてもいいんだろう」
「いや物理的にはちょっと……」
「……
──名前を傷付ける僕以外の全てから、僕が名前を守りたい。完璧に出来るかは分からないけれど、それでも、名前の笑顔を守るのは僕でありたい。……だから、名前を傷付けてしまう僕を受け入れて、受け止めて、僕の傍にいてほしい。
「……ど、ゆ……意味……」
「そのままの意味だよ」
「零、ほんとに私のこと好きなの……?」
うそ、だって、そんなの。ただでさえ働いていない頭が余計に大混乱で、もう訳が分からない。この期に及んで嘘を吐くとも思えないけれど、でも、だって、そんなこと、ある?
「はは! ここまで言ったのに、まだそう聞き返すのか。存外意地が悪いな」
「だ、だって……」
「……そうだな。言ってもいいが、イエス以外受け付けないぞ」
好きとか嫌いとか、そんな言葉では言い表せない。名前が僕を必要としてくれて、愛してくれて。僕がどれだけ救われていたか知らないだろ。名前と出会ったあの日から僕は、僕が、この国を守りたかったのは。
「……もちろん、それだけが理由じゃない。だから絶対に、いつでも守ってやると約束は出来ない。でもこれだけは知っていてほしい。名前は僕にとって大切で、守りたくて、……愛おしくて仕方ない存在なんだ」
だから、僕の傍にいてほしい。
「……そもそも、恋人のフリを持ち出したのだって。どうにか名前を繋ぎ止めたかったからなんだが」
「いや、さすがにそれは嘘」
「本当だって。僕も自分で気付いたのは後になってからだけど、理由がないと連絡も出来ないような、ただの同期になりたくなかったんだ。きっと」
ちゅ、と名前の頬に軽く唇を落とし、降谷は眉を下げて笑う。それは名前の知っているようで知らない、けれど紛れもなく降谷零という男の、本心にも思えた。私が受け入れるかどうか、いつも自信満々なくせに、ほんの少しだけ不安を抱いている。そしてそれを悟らせまいと、笑っている。泣きたいくらい愛おしくて、先刻彼が私にしたのと同じ場所へ、同じように噛み付いた。
「……それは、イエスってことでいいのかな?」
「……それ以外受け付けないって、零が言った」
「はは、確かに」
「それ以外なんてある訳ないって、分かってるくせに」
「そんなことないさ。買い被り過ぎだ」
「……ねえ、これ、他の人に見せる?」
自分がされたように、かなり強く歯を立てたはずなのに、彼は特に痛がる様子もなく。それどころか些か、嬉しそうにすら見える。
「そういう捜査のやり方もないわけじゃないが、僕はしないぞ」
「……だって、零がどこで何してるか、全然知らないし」
「……そうだな。でも、名前を悲しませるようなことはしないよ。約束する」
「……ん」
本当にそれが守られる約束かどうかなんて、私には分からない。だけどもう、それでいい。嘘は墓場まで持って行ってくれる。そういう人だと、信じることにしよう。こんなにも愛おしい人が、私を大切だって言ってくれる。それだけで奇跡だ。私ももう、この人を失いたくない。私を守ると、守りたいと言ってくれるこの人を受け入れて、私が守ってあげたい。彼の首に腕を回して、初めて自分から、その唇に自身のそれでそっと触れた。
◇
「そいえばさあ」
「ん?」
「絶対コナンくんに怪しまれてると思うんだけど」
「ああ……」
「……そういえば、嘘つきって言われたって……」
「……いや、まあ……あの子は本当にとんでもない子だな」
「…………」
「名前がそんなに気に病むことないよ。降谷零だけじゃなく、安室透だって愛してくれるんだろ?」
「何その自信」
「ほら、否定しない」
「…………」
「僕がどんな立場の時でも、君が僕の恋人だってことに変わりはないからな。だから安室透の時も、そうじゃない時も、名前は堂々と僕の恋人だって顔してればいいのさ」
「……っ」
「照れてるのか?」
「……うるさいなあ」
「ははっ、本当に一層かわいくなったな、名前は」
「……あ、そこで降ろして」
「何故? 目の前まで送って行くよ」
「だって、いや、なんか……」
「見せびらかしてやればいいじゃないか」
「ん……っ、な、なにすんの! バカ!」
「恋人同士なんだから、いってらっしゃいのキスくらいなんてことないだろ」
「……っば、バカ! バーカ!」
真っ赤な顔で車から飛び降り駆けていく、愛おしい彼女。……もう絶対に、失わない。その後ろ姿が見えなくなるまで見送って、束の間の休息に想いを馳せた。
