Your Song
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知っていたよ。名前の気持ちも、名前の気持ちに僕が気付いてるって、名前がわかっていることも。──けれど僕の気持ちには、一ミリも気付いていないということも。
「……酔ってるの?」
控えめに問う名前に、降谷は思わず笑いがこぼれた。酒に飲まれるようではこの仕事を続けられないと、名前だってよく知っているだろうに。
「……酔えてたら、とっくに抱いてる」
彼女の首元に額を預けたままそう答えれば、押し黙った彼女が今どういう顔をしてるのかが目に浮かんだ。鳩が豆鉄砲をくらったよう、滲んだ瞳をまん丸くして、やっぱり「彼が何を考えているかわからない」なんて思っているのだろう。他人のことはよく気が付くくせに、自分に向けられる好意には疎いところ──変わっていないのは名前だって同じだと、降谷は口元が綻んだ。
降谷が最初にコナンたちから名前の名を聞いたのはいつのことだったか。あまりよくは覚えていないが、その日からずっとこの日が来ることはわかっていた。むしろ、来て欲しかった。待っていたと言っても過言ではないかもしれない。
降谷には、名前に言えないことが多すぎた。職業柄と言えばそれまでだが、秘密だらけの自分の人生に彼女を付き合わせるのも忍びなかった。だからこそ降谷は何も言わずに名前の前から消えたのだ。そもそも降谷にだって、彼女以外にも大切なもの、守らなければならないものがあった。
──別れたつもりはない、なんて嘘だ。終わらせるつもりで、墓場まで持っていくつもりで距離を置いた。なのに会いたくて、だけど会いたくなくて、でもやっぱり会いたくて。僕だって、僕の方が、よっぽど自分が何を考えているか分からないくらいだ。無責任に「好きだ」と伝えられる資格もないくせに。
「ふ、るやく……」
「前みたいに、呼んでくれないのか」
「だ、だって……」
だが数年経って、理解した。彼女から離れることで彼女を守っている気になっていたが、それは自身の我儘でしかない。自身の欲と彼女の身の安全を秤にかけ、勝手に後者を選び取ったけれど、その選択には名前の心が微塵も含まれていなかった。その時はそれでも構わないと、名前を傷付けてしまうことは百も承知で背負うと決めたのに、その苛責と会えない彼女への愛おしさは想像の遥か上を行き、日毎のしかかる。黙り込むことで守れるものがあるように、伝えることで、伝えることでしか守れないものだってあるはずだったのに。それに気付けなかった僕は、たくさんの大切なものを失った。失って、漸 く気が付いた。
──これも結局、僕のエゴだ。彼女を危険に晒してしまうかもしれないことに変わりはないのだから。けれど僕は、僕が守りたかったのは彼女のその身だけじゃない。心だってそうだ。傷付けたかったわけじゃない。……いや、違うな。建前だ。僕は結局、名前の涙を拭う役割を、誰にも渡したくなかった。彼女を傷付けてでも名前が欲しかった。どちらを選んでも傷付けてしまうのなら、彼女が傷付いた時に少しでも傍にいられる可能性を手放したくない。だから名前にも、僕の都合なんて考えないで好きだと縋 ってほしかったし、僕だって──愛していると抱き締めて、僕の、僕だけの名前にしたかった。
「君が別れたと思ってるならそれでもいいけど」
「……けど?」
「どうしたら、また……今度は本当の、僕の恋人になってくれる?」
勝手だろう。こんなことを考えているなんて知ったら、名前は離れていってしまうだろうか。あるいはもうその隣には、他の誰かがいるかもしれないのに。多分にあり得るそんな可能性を考えるのも嫌で、降谷はらしくもなく、全てを天に任せた。もしまた会うことが出来たら。もしも、名前があの頃と変わらない気持ちでいてくれたら、その時は。……なんて、神も運命も信じてなどいないのに、都合のいい話だと自嘲しながら。
「……零、……」
「……名前は、相変わらず泣き虫だな」
だけど、僕をその目に映す名前を見たその瞬間──僕は神にも、運命とやらにも感謝したよ。
顔を上げて額を合わせ、降谷は名前のこめかみ辺りに両手を添える。そのまま親指の腹でその涙を拭ってやれば、反射的に瞼を閉じる名前に、どうしようもない愛おしさが溢れ出る。ああ、やっぱり酔ってることにしておけばよかった。「でも、好きだ」と告げ、驚いた彼女の瞳が開いてしまうよりも早くキスをした。
「……酔ってるの?」
控えめに問う名前に、降谷は思わず笑いがこぼれた。酒に飲まれるようではこの仕事を続けられないと、名前だってよく知っているだろうに。
「……酔えてたら、とっくに抱いてる」
彼女の首元に額を預けたままそう答えれば、押し黙った彼女が今どういう顔をしてるのかが目に浮かんだ。鳩が豆鉄砲をくらったよう、滲んだ瞳をまん丸くして、やっぱり「彼が何を考えているかわからない」なんて思っているのだろう。他人のことはよく気が付くくせに、自分に向けられる好意には疎いところ──変わっていないのは名前だって同じだと、降谷は口元が綻んだ。
降谷が最初にコナンたちから名前の名を聞いたのはいつのことだったか。あまりよくは覚えていないが、その日からずっとこの日が来ることはわかっていた。むしろ、来て欲しかった。待っていたと言っても過言ではないかもしれない。
降谷には、名前に言えないことが多すぎた。職業柄と言えばそれまでだが、秘密だらけの自分の人生に彼女を付き合わせるのも忍びなかった。だからこそ降谷は何も言わずに名前の前から消えたのだ。そもそも降谷にだって、彼女以外にも大切なもの、守らなければならないものがあった。
──別れたつもりはない、なんて嘘だ。終わらせるつもりで、墓場まで持っていくつもりで距離を置いた。なのに会いたくて、だけど会いたくなくて、でもやっぱり会いたくて。僕だって、僕の方が、よっぽど自分が何を考えているか分からないくらいだ。無責任に「好きだ」と伝えられる資格もないくせに。
「ふ、るやく……」
「前みたいに、呼んでくれないのか」
「だ、だって……」
だが数年経って、理解した。彼女から離れることで彼女を守っている気になっていたが、それは自身の我儘でしかない。自身の欲と彼女の身の安全を秤にかけ、勝手に後者を選び取ったけれど、その選択には名前の心が微塵も含まれていなかった。その時はそれでも構わないと、名前を傷付けてしまうことは百も承知で背負うと決めたのに、その苛責と会えない彼女への愛おしさは想像の遥か上を行き、日毎のしかかる。黙り込むことで守れるものがあるように、伝えることで、伝えることでしか守れないものだってあるはずだったのに。それに気付けなかった僕は、たくさんの大切なものを失った。失って、
──これも結局、僕のエゴだ。彼女を危険に晒してしまうかもしれないことに変わりはないのだから。けれど僕は、僕が守りたかったのは彼女のその身だけじゃない。心だってそうだ。傷付けたかったわけじゃない。……いや、違うな。建前だ。僕は結局、名前の涙を拭う役割を、誰にも渡したくなかった。彼女を傷付けてでも名前が欲しかった。どちらを選んでも傷付けてしまうのなら、彼女が傷付いた時に少しでも傍にいられる可能性を手放したくない。だから名前にも、僕の都合なんて考えないで好きだと
「君が別れたと思ってるならそれでもいいけど」
「……けど?」
「どうしたら、また……今度は本当の、僕の恋人になってくれる?」
勝手だろう。こんなことを考えているなんて知ったら、名前は離れていってしまうだろうか。あるいはもうその隣には、他の誰かがいるかもしれないのに。多分にあり得るそんな可能性を考えるのも嫌で、降谷はらしくもなく、全てを天に任せた。もしまた会うことが出来たら。もしも、名前があの頃と変わらない気持ちでいてくれたら、その時は。……なんて、神も運命も信じてなどいないのに、都合のいい話だと自嘲しながら。
「……零、……」
「……名前は、相変わらず泣き虫だな」
だけど、僕をその目に映す名前を見たその瞬間──僕は神にも、運命とやらにも感謝したよ。
顔を上げて額を合わせ、降谷は名前のこめかみ辺りに両手を添える。そのまま親指の腹でその涙を拭ってやれば、反射的に瞼を閉じる名前に、どうしようもない愛おしさが溢れ出る。ああ、やっぱり酔ってることにしておけばよかった。「でも、好きだ」と告げ、驚いた彼女の瞳が開いてしまうよりも早くキスをした。
