Your Song
rename
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ちゅ、と、頬に唇を落とされる感覚で名前は目を覚ました。薄っすらと瞼を開けば、コンセントのスイッチやら家電のランプやらのささやかな明かり程度ではよくは見えないが、降谷がゴソゴソと隣に潜り込もうとしているところだった。
「……おかえり……」
「……ああ、起こしたか。ただいま」
彼は眉尻を下げて笑い、枕に埋まってぐしゃぐしゃになっている名前の頭をそっと撫でた。
──わざと起こしたくせに。わざと起こしたって、私が気付いてることも分かってるくせに「起こしたか」なんて白々しい。彼は私のことを素直じゃないと言うが、そちらだって大概だと思う。感情を圧し殺すのも職業病みたいなものなのだろうか。普段は仕方がないにしろ、二人の時くらいは……と思わなくもない。あまり人のことは言えないのだけど。
「いまなんじ」
「三時半」
「わあ……」
降谷は名前が想像していたよりもずっと頻繁に会いに来てくれていた。たとえこんな時間になろうとも、それはもう、名前が申し訳なくなるほどに。自分の家に帰るよりここへ来てくれているんじゃないだろうか。ただ、スーツのままソファーや玄関でひっくり返っていたり、名前が寝た後にやって来て名前が起きるよりも先に出て行く──名前が起床すると書置きが残してあったりして、それがまた名前の心を擽 るのだ──こともあるので、会いに来ているというよりかは寝に来ていると言った方が正しいかもしれない。そしてそういう時、基本的に降谷が名前を起こすことはなかった。ごく普通の人間が目を覚まさない程度に気配を消すことなんて、彼には容易いのだろう。だからこそこうしてわざわざ起こされるような日は、嫌なことがあったのかなとか、甘えたい気分なのかなとか、色々勘繰 ってしまうのだが。何か、今日の彼は、たまにあるそれとも違う気がする。
「当てよう。スマホ落として画面が割れた」
「……違う」
「昼ご飯のお店選びに失敗した」
「ハズレ」
「冷蔵庫のプリンの賞味期限が切れてた?」
「はは、当てる気ないだろ」
熱のこもった布団の中に入り込むひんやりとした空気が心地良い。無言で促され、彼に向き合う形でその右腕に頭を乗せると、空いているもう片方の手でぎゅっと抱き寄せられた。
「今日、上に報告した。名前のこと」
「……え?」
思わずそのまま半身を起こせば、抱きしめられていた方の腕で右手をグイ、と引っ張られ、彼に覆い被さる形になる。暗がりの中満足気に笑う零と視線がかち合って、目が離せない。
「なかなか時間がとれなくて、随分遅くなってしまったけど」
「……それは、えっと……」
「え? ああ、名前のところにはこちらから報告が行くようになってるから」
「そ、そう……」
さも当然、至って普通のことと言わんばかりに彼は言う。……まあ、それはそうか。相手が相手なのだ。何をどこまで、誰のところまで報告すればいいのか私では判断がつかない。だからそれはそれでいいのだけど──そもそも報告されると思っていなかった名前は、面食らっていた。確かに警察官は交際相手を上司に報告するものだが、それが降谷にも当てはまるのかまでは考えていなかった。しかも、随分遅くなったと彼は言うが、それほど遅くもない。……わざわざ時間を作ってそうしてくれたのだと思うと、義務付けられているようなものだとはいえ、やっぱり嬉しい。恐らくその本音が顔に出ていたのだろう、零は私の顔をじっと見つめたまま、からかうように続けた。
「残念だな。泣いて喜ぶかと思ったんだが」
「……そりゃ残念でした。寝起きの私はちょっとやそっとじゃ動じないよ」
「はは、確かに。じゃあこれならどうかな」
降谷は悪戯に笑って起き上がり明かりを点けると、いつの間に仕込んだのか、枕の下からふたつの箱を取り出す。そして、眠気と眩しさとで瞼が碌 に開いていない名前に、その内の小さな方を開けて見せた。
「……え」
「ほら、起きる」
降谷は名前の両脇に手を差し込み、まるで子どもにするように名前を起き上がらせる。状況が飲み込めない名前は目を擦りながらされるがまま、まだ起動しない脳をどうにか動かそうと必死だった。
──なに。何が? なんで?
そのまま彼が私の背中側に回り込んだかと思うと、首にヒヤリと冷たい感覚が走った。先程小箱から顔を覗かせた指輪が、もうひとつの箱に入っていたらしいクリッカー付きのチェーンに取り付けられていて、私の首元にぶら下がっている。
「……どしたの、これ」
「どしたのって、買った」
「そ、そりゃあそうでしょうけども」
「予約」
「よ、予約?」
首回りを彼の指にそっとなぞられ、擽 ったくて身を捩 れば、彼が背後でフ、と笑う気配がした。
「今はまだ言えないが、……僕がそういう気だって、名前には知っていてもらいたくて」
「そ、そういうって……」
「予約なんて言葉では綺麗過ぎるかな。首輪か、あるいは呪いだ。名前が僕から離れていかないように」
──勝手な男。初めて会った時はもっと優しくて、器の大きい人だと思ってた。でも意外とそんなことなくて、勿論優しいところもあるけれど、適当に身勝手で我儘なところもあって。……だけどそんなところも、知れば知るほどどんどん、全部好きになってた。
「……どっちかっていうと、私の方が零に首輪つけたいくらいなんだけどな。もう勝手にいなくならないように」
振り返り、向き合って言う。眉を下げて笑う零が愛しくて愛しくてたまらなくて、その唇にキスをして、そのままゆっくりと押し倒した。
「随分情熱的な返答だな」
「嬉しいくせに」
「……敵わないよ、名前には」
後頭部に手を添えられ、グ、と引き寄せられる。食われるように唇を貪 られながら、世界がぐるりと反転するのを感じた。ベッドの上に縫い止められ、吐息も思考回路も何もかも奪われるような口づけを受け入れる。息苦しくてだけどそれすらも心地良くて嬉しくて、漸く唇が離れた時にはすっかり涙が滲んでいた。
「……零、好き」
「……名前、」
「かけてよ。首輪でも呪いでも何でも、それで、一生解かないで」
「……言われなくとも。もう泣いたって何したって、離してやらないからな」
覚悟しておいて、と、口角を吊り上げて、零は私の服の裾からその手を侵入させる。その手が心なしが震えているような気がして、こんなにも欲されていること、愛されていることがじわじわと伝わってきて、なんだか泣きそうになった。声にならない声で好き、と幾度となく紡げば、愛しむような表情で「僕は愛してる」と返されて。私は彼の熱を全身で受け止めながら、彼と、悦楽と、泣きたいほどの幸福に身を委ねた。
「……おかえり……」
「……ああ、起こしたか。ただいま」
彼は眉尻を下げて笑い、枕に埋まってぐしゃぐしゃになっている名前の頭をそっと撫でた。
──わざと起こしたくせに。わざと起こしたって、私が気付いてることも分かってるくせに「起こしたか」なんて白々しい。彼は私のことを素直じゃないと言うが、そちらだって大概だと思う。感情を圧し殺すのも職業病みたいなものなのだろうか。普段は仕方がないにしろ、二人の時くらいは……と思わなくもない。あまり人のことは言えないのだけど。
「いまなんじ」
「三時半」
「わあ……」
降谷は名前が想像していたよりもずっと頻繁に会いに来てくれていた。たとえこんな時間になろうとも、それはもう、名前が申し訳なくなるほどに。自分の家に帰るよりここへ来てくれているんじゃないだろうか。ただ、スーツのままソファーや玄関でひっくり返っていたり、名前が寝た後にやって来て名前が起きるよりも先に出て行く──名前が起床すると書置きが残してあったりして、それがまた名前の心を
「当てよう。スマホ落として画面が割れた」
「……違う」
「昼ご飯のお店選びに失敗した」
「ハズレ」
「冷蔵庫のプリンの賞味期限が切れてた?」
「はは、当てる気ないだろ」
熱のこもった布団の中に入り込むひんやりとした空気が心地良い。無言で促され、彼に向き合う形でその右腕に頭を乗せると、空いているもう片方の手でぎゅっと抱き寄せられた。
「今日、上に報告した。名前のこと」
「……え?」
思わずそのまま半身を起こせば、抱きしめられていた方の腕で右手をグイ、と引っ張られ、彼に覆い被さる形になる。暗がりの中満足気に笑う零と視線がかち合って、目が離せない。
「なかなか時間がとれなくて、随分遅くなってしまったけど」
「……それは、えっと……」
「え? ああ、名前のところにはこちらから報告が行くようになってるから」
「そ、そう……」
さも当然、至って普通のことと言わんばかりに彼は言う。……まあ、それはそうか。相手が相手なのだ。何をどこまで、誰のところまで報告すればいいのか私では判断がつかない。だからそれはそれでいいのだけど──そもそも報告されると思っていなかった名前は、面食らっていた。確かに警察官は交際相手を上司に報告するものだが、それが降谷にも当てはまるのかまでは考えていなかった。しかも、随分遅くなったと彼は言うが、それほど遅くもない。……わざわざ時間を作ってそうしてくれたのだと思うと、義務付けられているようなものだとはいえ、やっぱり嬉しい。恐らくその本音が顔に出ていたのだろう、零は私の顔をじっと見つめたまま、からかうように続けた。
「残念だな。泣いて喜ぶかと思ったんだが」
「……そりゃ残念でした。寝起きの私はちょっとやそっとじゃ動じないよ」
「はは、確かに。じゃあこれならどうかな」
降谷は悪戯に笑って起き上がり明かりを点けると、いつの間に仕込んだのか、枕の下からふたつの箱を取り出す。そして、眠気と眩しさとで瞼が
「……え」
「ほら、起きる」
降谷は名前の両脇に手を差し込み、まるで子どもにするように名前を起き上がらせる。状況が飲み込めない名前は目を擦りながらされるがまま、まだ起動しない脳をどうにか動かそうと必死だった。
──なに。何が? なんで?
そのまま彼が私の背中側に回り込んだかと思うと、首にヒヤリと冷たい感覚が走った。先程小箱から顔を覗かせた指輪が、もうひとつの箱に入っていたらしいクリッカー付きのチェーンに取り付けられていて、私の首元にぶら下がっている。
「……どしたの、これ」
「どしたのって、買った」
「そ、そりゃあそうでしょうけども」
「予約」
「よ、予約?」
首回りを彼の指にそっとなぞられ、
「今はまだ言えないが、……僕がそういう気だって、名前には知っていてもらいたくて」
「そ、そういうって……」
「予約なんて言葉では綺麗過ぎるかな。首輪か、あるいは呪いだ。名前が僕から離れていかないように」
──勝手な男。初めて会った時はもっと優しくて、器の大きい人だと思ってた。でも意外とそんなことなくて、勿論優しいところもあるけれど、適当に身勝手で我儘なところもあって。……だけどそんなところも、知れば知るほどどんどん、全部好きになってた。
「……どっちかっていうと、私の方が零に首輪つけたいくらいなんだけどな。もう勝手にいなくならないように」
振り返り、向き合って言う。眉を下げて笑う零が愛しくて愛しくてたまらなくて、その唇にキスをして、そのままゆっくりと押し倒した。
「随分情熱的な返答だな」
「嬉しいくせに」
「……敵わないよ、名前には」
後頭部に手を添えられ、グ、と引き寄せられる。食われるように唇を
「……零、好き」
「……名前、」
「かけてよ。首輪でも呪いでも何でも、それで、一生解かないで」
「……言われなくとも。もう泣いたって何したって、離してやらないからな」
覚悟しておいて、と、口角を吊り上げて、零は私の服の裾からその手を侵入させる。その手が心なしが震えているような気がして、こんなにも欲されていること、愛されていることがじわじわと伝わってきて、なんだか泣きそうになった。声にならない声で好き、と幾度となく紡げば、愛しむような表情で「僕は愛してる」と返されて。私は彼の熱を全身で受け止めながら、彼と、悦楽と、泣きたいほどの幸福に身を委ねた。
