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「裏切りのステージ」編後
具体的・詳細な描写はありませんが、軽度の性描写を含みます。
「それで?」
いつものように左肘をドアにかけ、ベルモットが問う。
「それで、とは?」
「あなたが睨みつけていたあの男のことも気になるけれど……それよりも、あの子ね。貴方が最近お気に入りの子猫ちゃん」
「おや、バレました?」
白々しく聞こえているだろうか。まあ別に、それでも構わない。
「そりゃあね……私のことが気になって仕方なかったみたいだし、貴方もそれで面白がっていたじゃない? ホント、酷い男」
「はは、辛辣だなあ」
「それに比べてあの子は随分初々しくて……それでいて、あんな傷を付けるほど情熱的なんてね。貴方にはもったいないくらいだわ」
「ええ、全く」
名前と再会してすぐの頃。ベルモットに、名前が残した爪痕に気付かれたことがある。
『あら、珍しいわね。その首』
『ああ……最近飼い始めた猫に引っ掻かれまして』
『猫、ねえ。随分お気に入りみたいじゃない』
『おや、分かります?』
『だって貴方、浮かれてるもの』
事実、僕は柄にもなく浮かれていた。世界で一番愛らしい僕の“猫”を、自慢して周りたいくらいだったんだから。
「ですから、あまりいじめないでくださいね。ヤキモチ妬きなので」
努めて明るく、牽制する。ベルモットが僕に「あの二人に危害を加えないこと」を願うなら、僕が出す交換条件もそれなりには機能するだろう。信用してもいないが下手に隠すよりマシだ。彼女が警察官なのだから、尚更。
「あら、心外ね。貴方が私との約束を守ってくれる限り、私だって自分から手を出したりはしないわよ。一応ね」
「はは、それは失礼しました」
◇
降谷との再会後、名前が仕事で出向いた先に、探偵として『安室透』が居合わせるのは初めてではなかった。名前は勤務中であるし、大抵共に居合わせるコナンらが事件の情報を尋ねに来ることはあるが、それ以上の会話をすることもない。だから特にどうということはないのだ。だが今回は、いつもと少しだけ違っていた。
梓さんと呼ばれていたあの女性は確か、ポアロの店員だった筈。碌な会話もしていないし顔も朧げだが、どうも以前見かけた時と随分雰囲気が異なっていたように思う。それに何だか、別に気にしているわけではないが──彼との距離が、近かった。……気がする。別に、気にしているわけではない、けど。
探偵『安室透』と、それによるポアロでのバイトは、警察官として働く降谷が“何か”を欺く為のカモフラージュだ。だがその“何か”について、名前が知ることはない。考えたところで分かるわけもないし、何か考えついたところで、その真偽を確かめる術も名前にはない。そんなことはわかっている。私だって、何もかもを知りたいと、知っていたいと思っているわけじゃない。そのくらいの分別はあるつもりだった。
降谷は名前が把握しているだけでも三つか、あるいはそれ以上の顔を持っている。降谷零、安室透、それから名前の知らない顔が、少なくとも一つ。今日の現場で会った彼は恐らく、私の知らない彼だった。そして件の彼女がこの三つ目、はたまたそれ以上のどこかでの関係者であるなら──ポアロで見た時は、全然そんな感じしなかったけど。ただあの時は彼に気を取られていたし、本当にそうなら、私なんかがその場ですぐ見抜けるとも思えない。ともかくそれなら、まだ諦めもつくというか。どうしようもないことだと何とか折り合いをつけられそうな気もしないこともないというか、それだって面白くはないけれど。でも今日の二人が本当にただの『安室透』とポアロの店員さんだったならちょっとジェラシーというか、ちょっと距離が近いんじゃないのというか。……安室透の時もそれ以外の時も、僕の恋人だって顔してればいいとか言ってたくせに、って。うん。そう、ヤキモチ。わかってる。認める。
だがこれに関しても結局の所、名前には確かめる術がない。降谷に聞いたところで、事実がどうであれ、今自分が知っている以上の情報が得られることはないのだから。当たり前である。それは別にそれでいい。仕方のないことだと理解している──ただ、どうしてももやもやするのを止められない。まるで自分で自分の首を締めているような気分だ。ある程度覚悟は出来ていたし、傍にいられるならこのくらい何でもない。だから物凄く辛くてどうしようもないとか、そういうわけでもないけれど、いざそうなってみると、やっぱりそれなりに寂しいものなんだな。
◇
「ただいま」
「……ここ、私の家」
呆れたような表情から垣間見える嬉しさが、何と可愛らしいことか。本当は嬉しいのに、素直に喜べない。……今日は特に、かな。
「ご飯は?」
「ああ、済ませてきた」
「……そ」
おお、疑ってる疑ってる。
薄々勘付いているのだろう。今日の僕が安室透でなければ、梓さんが梓さんでもなかったことに。けれど聞くに聞けないのでヤキモキしている、そんなところか。
「おいで」
降谷はソファーへ腰掛け、名前を手招く。名前はこちらを見て、一拍躊躇 ったようだったが、すぐに降谷の腕の中に収まった。向かい合うよう膝の上に座らせれば、ふわり、と香る名前の匂いが酷く落ち着く。
「……答えなくていいけど」
「ん?」
「今日、『安室さん』じゃなかったでしょ。『梓さん』も」
「なるほど。その心は?」
「ん~、勘」
なんてね、とおちゃらけて見せる名前はやはり賢くて鋭くて、物分かりが良い。そんなところも好きで、だけどもっと、我儘も言って欲しくなる。
「妬いたのか?」
「……めんどくさいって思った?」
「は、そんな訳ないだろ。こんなに可愛らしいのに」
「……っあ、」
片手でグッと腰を掴み、もう片方の手で彼女の内腿を撫であげた。それだけでびくん、と反応する体も、顔を真っ赤にして慌てて手で口を覆って、目をパチクリさせるその顔も愛おしい。キスがしたくて、「手を退けて」と耳元で囁けば、おずおずとその手が降ろされ、そのまま降谷の服の裾をきゅっと握った。自身の唇で彼女のそれを塞ぎながら、背骨に沿って腰から指でなぞりあげ、ゾクゾクと震える名前の下着のホックを外す。
「ほら、可愛い」
「っや、も、……っい、いじわる……っ」
「……嫌?」
「……っ、嫌じゃ、ない……っ」
そう、だって名前があまりにも可愛くて愛おしいから。だからこそついいじめたくなって、そして思いっきり甘やかしてやりたくなる。
「んっ……ぁっ、ちょ、待……って、ぁ……っ!」
「待って、じゃないだろ」
「っひぅ……! っれ、い……っぁ、んっ、ひぁ……!」
「そう、名前、もっと呼んで」
もっと。もっともっともっと、僕の名前を呼んで、僕を求めて、僕無しでは息も出来ないほどに溺れて見せて。知っている僕も、そうでない僕のことも、僕を、僕の全てを余す所無く愛してくれ。
「……ばか、……っ、そっ、ぁ、そんなの、っぁあう! いまさ、ら、……、んっ、言われなくても……っ」
ずっと、全部好きだよ。
ああ、本当に、名前の方こそ僕を甘やかすのが上手い。繰り返し呼ばれる名前と愛の言葉は酷く甘ったるく、悦び震えるその身体は、苦しい程に僕の情欲を掻き立てる。守ると誓ったこの手で、僕は今日も、守ると誓った彼女を汚すのだ。何度も何度も口づけながら一つに溶け合って、僕はあまりにも刺激的で幸福な二律背反と、この世で一番愛おしい恋人に酔い痴れた。
具体的・詳細な描写はありませんが、軽度の性描写を含みます。
「それで?」
いつものように左肘をドアにかけ、ベルモットが問う。
「それで、とは?」
「あなたが睨みつけていたあの男のことも気になるけれど……それよりも、あの子ね。貴方が最近お気に入りの子猫ちゃん」
「おや、バレました?」
白々しく聞こえているだろうか。まあ別に、それでも構わない。
「そりゃあね……私のことが気になって仕方なかったみたいだし、貴方もそれで面白がっていたじゃない? ホント、酷い男」
「はは、辛辣だなあ」
「それに比べてあの子は随分初々しくて……それでいて、あんな傷を付けるほど情熱的なんてね。貴方にはもったいないくらいだわ」
「ええ、全く」
名前と再会してすぐの頃。ベルモットに、名前が残した爪痕に気付かれたことがある。
『あら、珍しいわね。その首』
『ああ……最近飼い始めた猫に引っ掻かれまして』
『猫、ねえ。随分お気に入りみたいじゃない』
『おや、分かります?』
『だって貴方、浮かれてるもの』
事実、僕は柄にもなく浮かれていた。世界で一番愛らしい僕の“猫”を、自慢して周りたいくらいだったんだから。
「ですから、あまりいじめないでくださいね。ヤキモチ妬きなので」
努めて明るく、牽制する。ベルモットが僕に「あの二人に危害を加えないこと」を願うなら、僕が出す交換条件もそれなりには機能するだろう。信用してもいないが下手に隠すよりマシだ。彼女が警察官なのだから、尚更。
「あら、心外ね。貴方が私との約束を守ってくれる限り、私だって自分から手を出したりはしないわよ。一応ね」
「はは、それは失礼しました」
◇
降谷との再会後、名前が仕事で出向いた先に、探偵として『安室透』が居合わせるのは初めてではなかった。名前は勤務中であるし、大抵共に居合わせるコナンらが事件の情報を尋ねに来ることはあるが、それ以上の会話をすることもない。だから特にどうということはないのだ。だが今回は、いつもと少しだけ違っていた。
梓さんと呼ばれていたあの女性は確か、ポアロの店員だった筈。碌な会話もしていないし顔も朧げだが、どうも以前見かけた時と随分雰囲気が異なっていたように思う。それに何だか、別に気にしているわけではないが──彼との距離が、近かった。……気がする。別に、気にしているわけではない、けど。
探偵『安室透』と、それによるポアロでのバイトは、警察官として働く降谷が“何か”を欺く為のカモフラージュだ。だがその“何か”について、名前が知ることはない。考えたところで分かるわけもないし、何か考えついたところで、その真偽を確かめる術も名前にはない。そんなことはわかっている。私だって、何もかもを知りたいと、知っていたいと思っているわけじゃない。そのくらいの分別はあるつもりだった。
降谷は名前が把握しているだけでも三つか、あるいはそれ以上の顔を持っている。降谷零、安室透、それから名前の知らない顔が、少なくとも一つ。今日の現場で会った彼は恐らく、私の知らない彼だった。そして件の彼女がこの三つ目、はたまたそれ以上のどこかでの関係者であるなら──ポアロで見た時は、全然そんな感じしなかったけど。ただあの時は彼に気を取られていたし、本当にそうなら、私なんかがその場ですぐ見抜けるとも思えない。ともかくそれなら、まだ諦めもつくというか。どうしようもないことだと何とか折り合いをつけられそうな気もしないこともないというか、それだって面白くはないけれど。でも今日の二人が本当にただの『安室透』とポアロの店員さんだったならちょっとジェラシーというか、ちょっと距離が近いんじゃないのというか。……安室透の時もそれ以外の時も、僕の恋人だって顔してればいいとか言ってたくせに、って。うん。そう、ヤキモチ。わかってる。認める。
だがこれに関しても結局の所、名前には確かめる術がない。降谷に聞いたところで、事実がどうであれ、今自分が知っている以上の情報が得られることはないのだから。当たり前である。それは別にそれでいい。仕方のないことだと理解している──ただ、どうしてももやもやするのを止められない。まるで自分で自分の首を締めているような気分だ。ある程度覚悟は出来ていたし、傍にいられるならこのくらい何でもない。だから物凄く辛くてどうしようもないとか、そういうわけでもないけれど、いざそうなってみると、やっぱりそれなりに寂しいものなんだな。
◇
「ただいま」
「……ここ、私の家」
呆れたような表情から垣間見える嬉しさが、何と可愛らしいことか。本当は嬉しいのに、素直に喜べない。……今日は特に、かな。
「ご飯は?」
「ああ、済ませてきた」
「……そ」
おお、疑ってる疑ってる。
薄々勘付いているのだろう。今日の僕が安室透でなければ、梓さんが梓さんでもなかったことに。けれど聞くに聞けないのでヤキモキしている、そんなところか。
「おいで」
降谷はソファーへ腰掛け、名前を手招く。名前はこちらを見て、一拍
「……答えなくていいけど」
「ん?」
「今日、『安室さん』じゃなかったでしょ。『梓さん』も」
「なるほど。その心は?」
「ん~、勘」
なんてね、とおちゃらけて見せる名前はやはり賢くて鋭くて、物分かりが良い。そんなところも好きで、だけどもっと、我儘も言って欲しくなる。
「妬いたのか?」
「……めんどくさいって思った?」
「は、そんな訳ないだろ。こんなに可愛らしいのに」
「……っあ、」
片手でグッと腰を掴み、もう片方の手で彼女の内腿を撫であげた。それだけでびくん、と反応する体も、顔を真っ赤にして慌てて手で口を覆って、目をパチクリさせるその顔も愛おしい。キスがしたくて、「手を退けて」と耳元で囁けば、おずおずとその手が降ろされ、そのまま降谷の服の裾をきゅっと握った。自身の唇で彼女のそれを塞ぎながら、背骨に沿って腰から指でなぞりあげ、ゾクゾクと震える名前の下着のホックを外す。
「ほら、可愛い」
「っや、も、……っい、いじわる……っ」
「……嫌?」
「……っ、嫌じゃ、ない……っ」
そう、だって名前があまりにも可愛くて愛おしいから。だからこそついいじめたくなって、そして思いっきり甘やかしてやりたくなる。
「んっ……ぁっ、ちょ、待……って、ぁ……っ!」
「待って、じゃないだろ」
「っひぅ……! っれ、い……っぁ、んっ、ひぁ……!」
「そう、名前、もっと呼んで」
もっと。もっともっともっと、僕の名前を呼んで、僕を求めて、僕無しでは息も出来ないほどに溺れて見せて。知っている僕も、そうでない僕のことも、僕を、僕の全てを余す所無く愛してくれ。
「……ばか、……っ、そっ、ぁ、そんなの、っぁあう! いまさ、ら、……、んっ、言われなくても……っ」
ずっと、全部好きだよ。
ああ、本当に、名前の方こそ僕を甘やかすのが上手い。繰り返し呼ばれる名前と愛の言葉は酷く甘ったるく、悦び震えるその身体は、苦しい程に僕の情欲を掻き立てる。守ると誓ったこの手で、僕は今日も、守ると誓った彼女を汚すのだ。何度も何度も口づけながら一つに溶け合って、僕はあまりにも刺激的で幸福な二律背反と、この世で一番愛おしい恋人に酔い痴れた。
