ONE PIECE
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次の日にはサクラの体はすっかり回復していた。
しかしふとした瞬間に体を引っ張られる様な感触がある。
おそらくもう戻る時間が迫っているのだろう。
早く若様のところに帰らなければ。しかし彼らも放っておけない。
あの映像がこれから起こり得ることならば、ぐずぐずしてはいられない。
サクラが奥様と顔が似ていることや元々若様やコラさんがファミリーであるせいなのだろう、まるで最初から家族であったかのようにすんなりと馴染んでいった。
ただ、この家族は驚くほど生活力がなかった。
家事や雑用をこなしながら、時間が空くと人間を知るためのレッスンを行う。
天竜人であることは口にしない。
人間としての立ち居振る舞い。
言葉遣い。
一般常識。
日常生活を送るために必要な知識。
それらの実践。
奥方は体が弱いのでそのための薬を取り寄せる手配も早々に行った。
最初こそはすべてサクラのお世話が必要だったが、順応性が高く、見る見る吸収し、上達していった。
彼らは善良な、かつ毅然とした人間の立ち居振る舞いを身に着けていったのだ。
ドフラミンゴは知識はともかく、実践を大層嫌がってはいたがサクラがなだめすかして本質はともかく、そのように演技することは覚えてくれた。
また、レッスンが進むに従って、彼らは旦那様、奥様、坊ちゃまと呼ばれ方を次第にくすぐったがり、変えてもらえないかと言い始めた。
意外なことに真っ先に名前を呼べと、さらには愛称を呼べと言ったのはドフラミンゴその人であった。
さすがに旦那様と奥様を愛称はもとより名前であっても呼ぶのは憚られる、と言ったら父さん、母さんでどうかと言われたのでそれはあまりにもおこがましいと懇願し、何とか坊ちゃま方だけにしてもらうようにした。
兄のドフラミンゴはドフィ、弟のロシナンテはロシーと呼ばせてもらうことになった。
しかしずっと一緒にいよう、という約束には緩く首を振った。
「私は若様のところに帰らなくてはなりません。」
母が亡くなった後、若様に救われたこと、その後もずっと助けられ、まだ恩が返せていないことを伝えた。いかに自分にとって若様が大事な人か言葉を尽くした。
別れ際に苦しそうだった若様を思い出す。
ぐっと何かに耐えるような表情のサクラを見て、旦那様も奥様もロシーも、残念がりながらも引き下がってくれた。本人にも帰り方はわかっていなかったが現れたときも突然だったのだ、きっと消えるときも同じだろうと思ってくれたのだろう。
しかし肝心の、なんというかドフラミンゴその人が納得してくれなかった。
さすがに実はあなたです、というわけにはいかない。
それに仮に言ったとしても無駄だろう。
ドフィにとって、若様は自分ではない。
「オレよりも大事なのか、オレの方がもっとお前を必要としている!」
ドフィが叫んで部屋に閉じこもり、旦那様がため息を付いて、気にしなくていいと言ってサクラの頭をそっと撫でる。
奥様が任せて、と言い置いてなだめるためにドフィの部屋へ入っていった。
ロシーがサクラにぎゅっと抱きつく。
「兄上はやきもちを焼いているんだ。」
「ドフィが?有り得ませんよ。」
ロシーは抱きついたままサクラの見えないところで呆れ顔である。
サクラがそのまま考え込んでいるのでロシーも抱きついたまま考える。
サクラはこういうところが鈍感だ。
せいぜい子どものわがままか、友達が言うことを聞かないことに対する苛立ちだとしか思っていないのだろう。
兄上は素直ではない。
サクラはおれたちを嫌っているのではない、むしろ好いてくれているってなんでわかんないのかなあ。
おれだってサクラとずっと一緒にいたい。
でも「今は」ダメなだけなんだ。
素直にしていればこんなに柔らかくていい匂いがしても、こうやって抱きつくことも許されるのに兄上は……
そこにしぶしぶとドフィが戻ってきて、ロシーがサクラに抱きついているのを見て口をあんぐりとあけて固まってしまった。
旦那様と奥様は微笑ましそうに見ている。
わなわなと震えだし、つかつかと二人に近づく。そしてサクラを見ず、
「ロシー、ずるいえ!」
と叫んだ。
サクラはふう、とため息をついた。
「もう、何がですか。」
サクラはロシーの腕の中からすり抜ける。ロシーがあ、と声を出すのを後ろに怒りでプルプル震えているドフィに腕を回す。
「これで満足?」
そしておまけと言わんばかりに頬に触れるか触れないかのキスを落とし、そっと離れる。
サクラが拗ねているとき、いつも若様がする手である。
本人が使うのだからきっと有効なのだろう。
傍らで一部始終をくすくす笑いながら見ていた奥様と旦那様に、私は今日は少し離れていたほうがいいですね、と言って部屋を辞す。
残されたドフィが顔を羞恥で赤くしているのも、ロシーが悔しそうに「兄上の方がズルイよ……」と呟いているのも気付かないまま。
大人たちはニコニコと子どもたちの成長振りを眺めていた。
次の日にはぎこちないもののドフィの機嫌が直っていたのでサクラは安堵した。
さて、屋敷の食料庫は充実していたがいつかは街に出て自分たちで買い物に出なくてはならない。
取り寄せも出来るが限界がある。
まだ数日なので十分に余裕があったが旦那様と自分とドフィで出かけた初めての買い物に行き、成功した。
町の人は田舎暮らしがしたくなったどこかの金持ちと思ったようだった。
映像で見た、父親やドフィが自分たちが天竜人であると言ってしまうのは避けられた。
しかし、どうもいやな視線を感じる。
普通の人間の好奇心ではない、観察されているような、様子を窺っているような視線。
それ以上もそれ以下でもない。
サクラはもしものときの脱出経路と荷物を確保することにした。
一通りの準備が終わったある日のことだ。
自分の体がゆっくりと解けていくのを感じる。
お別れのときが来たのだ。
さよなら、また会いましょうね。
声が届いたかは分からない。
近いうちとは思っていたがあまりにも唐突だった。
ドフィとロシーが手を伸ばすが、
消え始めていたサクラの体に触れることは出来ず、その手は宙を掻く。
旦那様と奥方様は手を伸ばそうとはしたがぐっとこらえてお互いに手を握り合った。
次第に白くかすみお互いの視界からその姿は完全に消え去った。
ドフィはサクラの消えた宙をぐっとにらみ、こう宣言した。
「ロシー、オレは必ずサクラを探し出す。そして今度会ったら必ずオレの、オレたちの家族にしてやる。……絶対に離さない。逃がさない。」
ロシーは言葉では答えず、ただ力強く頷いた。
しかしふとした瞬間に体を引っ張られる様な感触がある。
おそらくもう戻る時間が迫っているのだろう。
早く若様のところに帰らなければ。しかし彼らも放っておけない。
あの映像がこれから起こり得ることならば、ぐずぐずしてはいられない。
サクラが奥様と顔が似ていることや元々若様やコラさんがファミリーであるせいなのだろう、まるで最初から家族であったかのようにすんなりと馴染んでいった。
ただ、この家族は驚くほど生活力がなかった。
家事や雑用をこなしながら、時間が空くと人間を知るためのレッスンを行う。
天竜人であることは口にしない。
人間としての立ち居振る舞い。
言葉遣い。
一般常識。
日常生活を送るために必要な知識。
それらの実践。
奥方は体が弱いのでそのための薬を取り寄せる手配も早々に行った。
最初こそはすべてサクラのお世話が必要だったが、順応性が高く、見る見る吸収し、上達していった。
彼らは善良な、かつ毅然とした人間の立ち居振る舞いを身に着けていったのだ。
ドフラミンゴは知識はともかく、実践を大層嫌がってはいたがサクラがなだめすかして本質はともかく、そのように演技することは覚えてくれた。
また、レッスンが進むに従って、彼らは旦那様、奥様、坊ちゃまと呼ばれ方を次第にくすぐったがり、変えてもらえないかと言い始めた。
意外なことに真っ先に名前を呼べと、さらには愛称を呼べと言ったのはドフラミンゴその人であった。
さすがに旦那様と奥様を愛称はもとより名前であっても呼ぶのは憚られる、と言ったら父さん、母さんでどうかと言われたのでそれはあまりにもおこがましいと懇願し、何とか坊ちゃま方だけにしてもらうようにした。
兄のドフラミンゴはドフィ、弟のロシナンテはロシーと呼ばせてもらうことになった。
しかしずっと一緒にいよう、という約束には緩く首を振った。
「私は若様のところに帰らなくてはなりません。」
母が亡くなった後、若様に救われたこと、その後もずっと助けられ、まだ恩が返せていないことを伝えた。いかに自分にとって若様が大事な人か言葉を尽くした。
別れ際に苦しそうだった若様を思い出す。
ぐっと何かに耐えるような表情のサクラを見て、旦那様も奥様もロシーも、残念がりながらも引き下がってくれた。本人にも帰り方はわかっていなかったが現れたときも突然だったのだ、きっと消えるときも同じだろうと思ってくれたのだろう。
しかし肝心の、なんというかドフラミンゴその人が納得してくれなかった。
さすがに実はあなたです、というわけにはいかない。
それに仮に言ったとしても無駄だろう。
ドフィにとって、若様は自分ではない。
「オレよりも大事なのか、オレの方がもっとお前を必要としている!」
ドフィが叫んで部屋に閉じこもり、旦那様がため息を付いて、気にしなくていいと言ってサクラの頭をそっと撫でる。
奥様が任せて、と言い置いてなだめるためにドフィの部屋へ入っていった。
ロシーがサクラにぎゅっと抱きつく。
「兄上はやきもちを焼いているんだ。」
「ドフィが?有り得ませんよ。」
ロシーは抱きついたままサクラの見えないところで呆れ顔である。
サクラがそのまま考え込んでいるのでロシーも抱きついたまま考える。
サクラはこういうところが鈍感だ。
せいぜい子どものわがままか、友達が言うことを聞かないことに対する苛立ちだとしか思っていないのだろう。
兄上は素直ではない。
サクラはおれたちを嫌っているのではない、むしろ好いてくれているってなんでわかんないのかなあ。
おれだってサクラとずっと一緒にいたい。
でも「今は」ダメなだけなんだ。
素直にしていればこんなに柔らかくていい匂いがしても、こうやって抱きつくことも許されるのに兄上は……
そこにしぶしぶとドフィが戻ってきて、ロシーがサクラに抱きついているのを見て口をあんぐりとあけて固まってしまった。
旦那様と奥様は微笑ましそうに見ている。
わなわなと震えだし、つかつかと二人に近づく。そしてサクラを見ず、
「ロシー、ずるいえ!」
と叫んだ。
サクラはふう、とため息をついた。
「もう、何がですか。」
サクラはロシーの腕の中からすり抜ける。ロシーがあ、と声を出すのを後ろに怒りでプルプル震えているドフィに腕を回す。
「これで満足?」
そしておまけと言わんばかりに頬に触れるか触れないかのキスを落とし、そっと離れる。
サクラが拗ねているとき、いつも若様がする手である。
本人が使うのだからきっと有効なのだろう。
傍らで一部始終をくすくす笑いながら見ていた奥様と旦那様に、私は今日は少し離れていたほうがいいですね、と言って部屋を辞す。
残されたドフィが顔を羞恥で赤くしているのも、ロシーが悔しそうに「兄上の方がズルイよ……」と呟いているのも気付かないまま。
大人たちはニコニコと子どもたちの成長振りを眺めていた。
次の日にはぎこちないもののドフィの機嫌が直っていたのでサクラは安堵した。
さて、屋敷の食料庫は充実していたがいつかは街に出て自分たちで買い物に出なくてはならない。
取り寄せも出来るが限界がある。
まだ数日なので十分に余裕があったが旦那様と自分とドフィで出かけた初めての買い物に行き、成功した。
町の人は田舎暮らしがしたくなったどこかの金持ちと思ったようだった。
映像で見た、父親やドフィが自分たちが天竜人であると言ってしまうのは避けられた。
しかし、どうもいやな視線を感じる。
普通の人間の好奇心ではない、観察されているような、様子を窺っているような視線。
それ以上もそれ以下でもない。
サクラはもしものときの脱出経路と荷物を確保することにした。
一通りの準備が終わったある日のことだ。
自分の体がゆっくりと解けていくのを感じる。
お別れのときが来たのだ。
さよなら、また会いましょうね。
声が届いたかは分からない。
近いうちとは思っていたがあまりにも唐突だった。
ドフィとロシーが手を伸ばすが、
消え始めていたサクラの体に触れることは出来ず、その手は宙を掻く。
旦那様と奥方様は手を伸ばそうとはしたがぐっとこらえてお互いに手を握り合った。
次第に白くかすみお互いの視界からその姿は完全に消え去った。
ドフィはサクラの消えた宙をぐっとにらみ、こう宣言した。
「ロシー、オレは必ずサクラを探し出す。そして今度会ったら必ずオレの、オレたちの家族にしてやる。……絶対に離さない。逃がさない。」
ロシーは言葉では答えず、ただ力強く頷いた。