鬼滅の刃
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「ああ、ようやく薬が効いたか。」
わかっていたように宇髄がこぼす言葉にその場にいた全員が彼に注目する。
宇髄は何でもないことのように改めて彼女を、牡丹を抱え直した。
「柱であっても惑わされるようなら躊躇なく飲ませろと胡蝶に言われていたんだが。」
宇髄は徐に懐からギヤマンの小瓶を取り出す。
小瓶には透き通るような藤色の液体が半分ほど入っていた。
要はそれが彼女を眠りに落とした「薬」なのだろう。
宇髄は何か言いたげな皆の視線を何でもないことのように平然と受け止めている。
彼女の体はまたも宇髄の腕の中にすっぽりと収まっていた。
「息はある。効きはしたが鬼であれば死んでいる。
人であったら二度と目を覚ますことはない。」
不死川はぎり、と音がしそうなほど歯噛みした。
宇髄は最初から、彼女に出会う前から牡丹を「危険」と判断し、
……刀にも毒を塗り、躊躇なくその刃を振るったのだ。
なのにどうだ、その目は愛おしげに彼女を見つめ、まるで柔い赤子を抱えるかのように繊細な手つきでその身を支えている。
しかもこちらに見せつけるように、煉獄には背を向けて。
背を向けて?
不死川はそこではたと気が付いた。
宇髄は類稀なる長身である。
彼女は小柄ではないとはいえ、宇髄に抱き抱えられていれば、その存在は隠せずとも姿は見えないだろう。
今、煉獄からは。
宇髄は額に脂汗を浮かべている。
その視線はまずこちらを見て軽くうなづいてから、煉獄、甘露寺、そして庭へと続く雪見窓を順番に辿った。
不死川は先程の宇髄の話を思い出した。
それから煉獄を見、甘露寺を見た。
煉獄の目は、その気は、彼女が意識を失ってなお、その質量と圧力を増している。
甘露寺はといえば感情を抑えられないと言わんばかりに口元を両手で押さえているが、彼女の体調を気遣う様子が見える。
煉獄は清童ではないだろうが、確実に正気を失っている。
甘露寺は生娘なのだろうがその特性ゆえか、正気、と断じて差し障りあるまい。
つまりは正気を失っている炎柱を相手に、自分たち3人は彼女を連れて逃げなくてはいけないと言うことだ。
とりあえずは胡蝶のところへ。
宇髄が口を開いた。
「煉獄、お前一体何を口走ったかわかっているのか。
そもそも彼女とは初めて会ったんじゃないのか。」
「うむ!実は何度か見かけている!」
煉獄はここぞとばかりに話し始めた。
子供の頃の話だ。
父母に連れられた支援者主催の宴会に連れて行かれ、そこで洋館というものを初めて見た。
父はまだ現役で、ぶつぶつ言いながらも母と自分を伴い、その宴会、舞踏会とやらに出席した。
大人は飲んで奇妙な足取りでくるくる回ってばかりで退屈だった。
初めて着る洋装も窮屈だった。
ソワソワする自分に気付いたその屋敷の主人らしき初老の男性に屋敷の中を見ることを勧められた。
母の許しもあって、洋館に馴染みも無かった俺は興味深く廊下の調度品などを見て回っていた。
どの部屋も自由に見ていいとは言われたが重厚な木の扉はどれも開け方がわからず、入ることはなかった。
ただ、一つだけ光がこぼれ出た部屋を除いては。
薄く開いた扉からするりと体を滑らせて入った俺は、そこで眠っている天女を見た。
まだ自分と年の変わらぬ子供だったが薄絹の羽衣を身にまとっていた。
透き通るような肌、豊かに流れる黒髪、赤く色づいた唇。
今まで嗅いだことのないような甘く清廉な香り。
あの目がもし開いていれば俺は魂を抜かれてしまっていたかもしれなかった。
彼女こそまさに話に聞く天女に相違ない。
しばらく見入っていたが遠くで自分の名を呼ぶ母の声に我に返り、走り戻って母に天女を見たのだと教えた。
母は否定はしないものの不思議そうな顔をするばかりだった。
次は地域巡回の際に女学校から出てきた天女とすれ違った。
ふわりと香る覚えのある甘い匂いに記憶を呼び起こし、まさに彼女だと気付いたが、尋常ならざる雰囲気に振り向けば何かに追われるように走っており、いくらかもいかぬうちに胸を押さえてそのまま気を失ったので抱き抱えた。
目を閉じたその顔はまさしくあの時の天女だった。
柔らかく温かい感触に言葉を失ったが、後から慌てて出てきた使用人に礼を言われ、離し難かったが渋々迎えの自動車に乗せる手助けをした。
家名も聞かず、こちらも名乗りもしなかったが、後日何故か正式な礼状が届いて面食らった。
三度目は縁談の写真だった。
そこで初めて彼女が天女ではなく、生身の人間であると気付いたのだ。
煉獄家は代々炎柱の家系ゆえか高砂業の者から縁談がよく回ってくる。
無論任務のある身だ。中身も見ずに都度断っていた。
しかし、その風呂敷包みの中から写真が一葉転がり出た。
思わず手に取り、食い入るように見つめた。
間違いない。彼女だ。
あ、というその者を制し、身を乗り出して問いただした。
彼女がいい、彼女との縁談を進めてくれと口から付いて出た。
しかし先頃ようやく相手が決まったのについ癖で持ってきてしまったと断られた。
諦め切れずにさらに詰め寄ればようやく重い口を割った。
彼女は会った直後に相手から承諾を得られるが、次の日には何者かに脅された、恐ろしい夢を見たと言って断られるのだと。
しかし先頃ようやく昔からその家に出入りしている医者の息子、つまりは彼女の幼馴染が大いに乗り気で、めでたく決まった時は大層な喜びようだったという。
しかもその後も断られる様子もなし、脅迫や夢などとも言ってこない。
結納まで滞りなく進んでしまったということだった。
本人も乗り気であると聞いて俺はようやく沈黙した。
彼女がそういうのであれば仕方がない。
縁が無かったのだ。
その後も女々しくも未練がましく彼女の行く末を案じていた。
それがこうして会い見えることができたのだ。
これを縁と呼ばずして何と呼べば良いのか!
煉獄は意気揚々と話し続けている。
……ところどころ、それは出会ったと言えるのかという疑問が沸くが、宇髄はうまく話を合わせ、次々と話を促している。
煉獄の目に光が戻った。会話が成り立つ様にいささか安心しながらも不死川はそっと甘露時に視線を合わせる。今だ。
甘露寺は組んだ両手を思い切り振り下ろした。
煉獄のうなじ目掛けて。
わかっていたように宇髄がこぼす言葉にその場にいた全員が彼に注目する。
宇髄は何でもないことのように改めて彼女を、牡丹を抱え直した。
「柱であっても惑わされるようなら躊躇なく飲ませろと胡蝶に言われていたんだが。」
宇髄は徐に懐からギヤマンの小瓶を取り出す。
小瓶には透き通るような藤色の液体が半分ほど入っていた。
要はそれが彼女を眠りに落とした「薬」なのだろう。
宇髄は何か言いたげな皆の視線を何でもないことのように平然と受け止めている。
彼女の体はまたも宇髄の腕の中にすっぽりと収まっていた。
「息はある。効きはしたが鬼であれば死んでいる。
人であったら二度と目を覚ますことはない。」
不死川はぎり、と音がしそうなほど歯噛みした。
宇髄は最初から、彼女に出会う前から牡丹を「危険」と判断し、
……刀にも毒を塗り、躊躇なくその刃を振るったのだ。
なのにどうだ、その目は愛おしげに彼女を見つめ、まるで柔い赤子を抱えるかのように繊細な手つきでその身を支えている。
しかもこちらに見せつけるように、煉獄には背を向けて。
背を向けて?
不死川はそこではたと気が付いた。
宇髄は類稀なる長身である。
彼女は小柄ではないとはいえ、宇髄に抱き抱えられていれば、その存在は隠せずとも姿は見えないだろう。
今、煉獄からは。
宇髄は額に脂汗を浮かべている。
その視線はまずこちらを見て軽くうなづいてから、煉獄、甘露寺、そして庭へと続く雪見窓を順番に辿った。
不死川は先程の宇髄の話を思い出した。
それから煉獄を見、甘露寺を見た。
煉獄の目は、その気は、彼女が意識を失ってなお、その質量と圧力を増している。
甘露寺はといえば感情を抑えられないと言わんばかりに口元を両手で押さえているが、彼女の体調を気遣う様子が見える。
煉獄は清童ではないだろうが、確実に正気を失っている。
甘露寺は生娘なのだろうがその特性ゆえか、正気、と断じて差し障りあるまい。
つまりは正気を失っている炎柱を相手に、自分たち3人は彼女を連れて逃げなくてはいけないと言うことだ。
とりあえずは胡蝶のところへ。
宇髄が口を開いた。
「煉獄、お前一体何を口走ったかわかっているのか。
そもそも彼女とは初めて会ったんじゃないのか。」
「うむ!実は何度か見かけている!」
煉獄はここぞとばかりに話し始めた。
子供の頃の話だ。
父母に連れられた支援者主催の宴会に連れて行かれ、そこで洋館というものを初めて見た。
父はまだ現役で、ぶつぶつ言いながらも母と自分を伴い、その宴会、舞踏会とやらに出席した。
大人は飲んで奇妙な足取りでくるくる回ってばかりで退屈だった。
初めて着る洋装も窮屈だった。
ソワソワする自分に気付いたその屋敷の主人らしき初老の男性に屋敷の中を見ることを勧められた。
母の許しもあって、洋館に馴染みも無かった俺は興味深く廊下の調度品などを見て回っていた。
どの部屋も自由に見ていいとは言われたが重厚な木の扉はどれも開け方がわからず、入ることはなかった。
ただ、一つだけ光がこぼれ出た部屋を除いては。
薄く開いた扉からするりと体を滑らせて入った俺は、そこで眠っている天女を見た。
まだ自分と年の変わらぬ子供だったが薄絹の羽衣を身にまとっていた。
透き通るような肌、豊かに流れる黒髪、赤く色づいた唇。
今まで嗅いだことのないような甘く清廉な香り。
あの目がもし開いていれば俺は魂を抜かれてしまっていたかもしれなかった。
彼女こそまさに話に聞く天女に相違ない。
しばらく見入っていたが遠くで自分の名を呼ぶ母の声に我に返り、走り戻って母に天女を見たのだと教えた。
母は否定はしないものの不思議そうな顔をするばかりだった。
次は地域巡回の際に女学校から出てきた天女とすれ違った。
ふわりと香る覚えのある甘い匂いに記憶を呼び起こし、まさに彼女だと気付いたが、尋常ならざる雰囲気に振り向けば何かに追われるように走っており、いくらかもいかぬうちに胸を押さえてそのまま気を失ったので抱き抱えた。
目を閉じたその顔はまさしくあの時の天女だった。
柔らかく温かい感触に言葉を失ったが、後から慌てて出てきた使用人に礼を言われ、離し難かったが渋々迎えの自動車に乗せる手助けをした。
家名も聞かず、こちらも名乗りもしなかったが、後日何故か正式な礼状が届いて面食らった。
三度目は縁談の写真だった。
そこで初めて彼女が天女ではなく、生身の人間であると気付いたのだ。
煉獄家は代々炎柱の家系ゆえか高砂業の者から縁談がよく回ってくる。
無論任務のある身だ。中身も見ずに都度断っていた。
しかし、その風呂敷包みの中から写真が一葉転がり出た。
思わず手に取り、食い入るように見つめた。
間違いない。彼女だ。
あ、というその者を制し、身を乗り出して問いただした。
彼女がいい、彼女との縁談を進めてくれと口から付いて出た。
しかし先頃ようやく相手が決まったのについ癖で持ってきてしまったと断られた。
諦め切れずにさらに詰め寄ればようやく重い口を割った。
彼女は会った直後に相手から承諾を得られるが、次の日には何者かに脅された、恐ろしい夢を見たと言って断られるのだと。
しかし先頃ようやく昔からその家に出入りしている医者の息子、つまりは彼女の幼馴染が大いに乗り気で、めでたく決まった時は大層な喜びようだったという。
しかもその後も断られる様子もなし、脅迫や夢などとも言ってこない。
結納まで滞りなく進んでしまったということだった。
本人も乗り気であると聞いて俺はようやく沈黙した。
彼女がそういうのであれば仕方がない。
縁が無かったのだ。
その後も女々しくも未練がましく彼女の行く末を案じていた。
それがこうして会い見えることができたのだ。
これを縁と呼ばずして何と呼べば良いのか!
煉獄は意気揚々と話し続けている。
……ところどころ、それは出会ったと言えるのかという疑問が沸くが、宇髄はうまく話を合わせ、次々と話を促している。
煉獄の目に光が戻った。会話が成り立つ様にいささか安心しながらも不死川はそっと甘露時に視線を合わせる。今だ。
甘露寺は組んだ両手を思い切り振り下ろした。
煉獄のうなじ目掛けて。