鬼滅の刃
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藤の紋の家にたどり着いたところで、牡丹は目を覚ました。
知らない場所のせいか腕の中でおとなしくしていたものの、唇を引き結び、目には怒りとも取れる強い光が宿っている。
先に知らせを受けていた家人が腕に収まっている牡丹をひと目見て瞬きし、二人の顔を交互に見比べたがどちらも無言のままだったので諦めたのか、何事もなかったかの様に不死川をねぎらい、申し付けてあった一番奥の東側の部屋を案内した。
柱以外はこの部屋に通さないことを言いつけ、部屋の真ん中に向かい合わせに腰を下ろす。
さあ話せ、と言わんばかりに無言のままこちらを睨め付ける牡丹から目を逸らしつつ、不死川は鬼のこと、鬼殺隊のことをかいつまんで話してやった。
「それで、私は何をすればいいのですか。」
牡丹は不死川を睨めつけたまま、そう独り言のように呟いた。
当然の疑問である。
「それはこれから来る奴ら次第だな。」
すでに日は落ちた。これからが鬼の活動時間であり、我ら鬼殺隊のそして柱の時間である。
もしかしたら今夜は誰も来ず、2人きりかも知れなかった。
どくり
不死川の心臓が大きく動いた。
「入るぜ。」
それまで一切の気配を感じさせないまま、派手な大男がふすまの向こう側に姿を見せた。
煌く額当て、左目には梅のような模様を施し、両方の二の腕には大きな金の輪がはめられている。
しかし、牡丹にとってはそれらより何より目を惹くものがあった。
「宇髄、早かったな。」
正直胡蝶が先に来ると思っていた。
不死川がそう答え終わるのと重なるように牡丹が口を開く。
ああ、貴方は
牡丹と宇髄の視線が交じり合った。
刀を二つ、お持ちなんですね。
牡丹の声が、甘く喜びに満ちた音が耳に響く。
「なんだそれ、俺とはずいぶん態度が違うじゃねえかァ。」
不死川は自分が彼女にしたことを棚に放り上げ、不満を口にした、はずだった。
不死川の、その言葉が耳に届く前に宇髄は動いていた。
目の前の光景がゆっくりとしかし明瞭に不死川の目に飛び込む。
座ったまま顔を上向きにあげた牡丹
手は膝の上でしっかりと組まれている。
目の前に片膝をついて刀を牡丹の顔の真横に構えた宇髄がいた。
次の瞬間にはその姿勢のまま見つめ合っていた。
しかし、その刀も腕もすでに交差している。
振り切った後、だった。
「お、おい。宇髄。」
珍しく慌てて声をかける不死川に目もくれず、宇髄が問う。
「なあ、不死川、俺は何をしているんだろうな。」
「な、んだと、お前。」
見ての通りだ、宇髄はこの部屋に来た途端、彼女を。
「俺は、切った。そりゃもう派手派手にな。」
宇髄は牡丹から視線を外さないままである。
牡丹は残念そうに、そして些か困ったように眉を寄せている。
刀からはその言葉を裏付ける赤い血煙が立ち上っている。
ただ、牡丹の首には何もない。
「鬼ではないと一目でわかった。それは良いんだ。」
自分が刀を2つ持っていることに気づいて、待ちわびていたと歓喜の声を上げた女
刀を抜いた瞬間、待ち望んだかのように顎を上げ、首を差し出した女
「イイ女が両手を広げて待っているのに飛び込まない男はいねえだろ?」
ニヤリ、と宇髄はその整った顔を緩めた。
「「いや、両手は広げていなかったと思う。」」
不死川と牡丹は同時に同じことを指摘した。
宇髄は意に介さない調子で続けた。
ただ、
「切ってやりてえと思った。」
「切って欲しいと思いました。」
宇髄と牡丹は互いを見つめたまま言葉を紡ぎ、うなづき合う。
ピリ、と不死川の額に血管が走った。
手応えはあった。しかし。
「まあこの通りだ。」
いうが早いか宇髄は、鎖で繋いだ大刀を握ったまま、牡丹をその腕の内側にすっぽりと収めた。
牡丹は何が起こっているのかわからない表情ではあったが、そのたくましい胸に頬をつけ、身を委ねている。
「宇髄、てめえ何してやがる。」
不死川は声にも不機嫌さを滲ませた。
しかし2人は動かない。
「お前も何黙って抱かれてやがる。」
苛立ちのままに不死川は2人を引き剥がそうと手を伸ばした。
「二本ならば、と思ったのですが。」
ポツリと牡丹が言葉を発したので不死川は手を止めた。
「実は私、お預かりした刀で切ってみたことがあるのです。」
何を。
不死川は声を出したつもりだったが音になる前に消えた。
口の中がひどく渇く。
「頸を。自分で。」
牡丹は世間話をするかのように言葉を紡ぐ。
刃を入れた途端、ピリ、とした痛みの様な痒みの様なものは感じなくはないのですが、
一気に行くのが怖いのでゆっくりと刃を入れていくと、
切ったそばからつながるのです。
流石にど真ん中で止めておくと苦しかったのでそこはさっっさと通り過ぎてみたのですが。
まるで他人事のように首を切ってみた、という牡丹に不死川は腹立たしさを覚えた。
それにあったばかりの宇髄に、安心し切ったように身を預けているのも気にくわない。
「なんで切ってみようなんて思いやがったんだ。」
牡丹はふっ、と笑ってこちらを見た。
不死川の顔に我知らず朱が滲む。
「頸に刃物を当てる理由なんて1つでしょう。」
牡丹は嗤った。この世の全てに対して、それは勿論自分自身を含めたそれらに対して。
「私を人ではなくした男が、ひとくびに気をつけろと言っていたので、とりあえず私がヒトでも人でなくてもいけるかと。」
「でも気持ち悪いだけだったので二刀で両側から一気に行けばいけるかと思ったんですけどねえ。」
ねーと二人が同時に顔を見合わせ、小首を傾げる。
軽い
しかもお前ら初対面だろなんでいつの間にか意気投合しているんだ良いから離れろ
そんな不死川の視線を意に介さず、牡丹は言葉を続けた。
「それに、この方の太刀筋は綺麗でした。」
牡丹はうっとりと目を細めた。
前に来た方々はどうにも、と首を振る様子に不死川は苛立ち過ぎたせいか何やら芝居じみて見えてきた。
「ああ、そういえば変な奴らを寄越して済まなかったな。」
宇髄がこともなげに答える。
そういうことなのか、そういうことなのか?
それでな、とようやく宇髄は不死川に顔を向けた。
「胡蝶は今、治療薬を作っているがいまいち進みが良くない。
元凶の元となったお嬢ちゃんを連れてくる方が早いってことでまずはお前を行かせた。
しかしその後でこのお嬢ちゃんに骨抜きにされた奴らが何人か回復して、そこでようやくある共通点が見つかってな?」
些か野卑な口調で宇髄が嗤う。
「それからすると柱の中では俺か、意外ということでもないが伊黒か、あとはまあ試してみねえとわからんが……逆を張って悲鳴嶼さんが適任だろうと言われたんだ。」
勿体ぶった口調に不死川は苛々し通しだったが宇髄は意味なく長話を続ける奴ではない。と思い直し、視線で言葉の続きを促した。
心得たとばかりに宇髄は話を続ける。
「実は俺はな、今回胡蝶に言って少しでも耐性が付くようにと薬を飲めと言われていたんだが。」
何しろ宇髄は元忍びなだけに薬も毒も効きにくい身体である。
「先に行った不死川は飲んでねえから急げ、と言われて急いできたんだが何せ。」
宇髄は刀を鞘に納め、牡丹の耳元で何事か囁いた。
牡丹は素直にコクリとうなづいて自分の両手で耳を塞ぐ。
しかしやはり宇髄に身を預けたままそこから動かない。
気に入らねェ
不機嫌さを隠さない不死川の顔を面白そうに眺めた宇髄がちょいちょいと指を動かし、不死川を呼ぶ。
渋々近づいた不死川に宇髄はその顔に似合わぬ下卑た笑いを浮かべた。
「……お嬢ちゃんに骨抜きにされた中でも、回復していない連中は清童か生娘だ。回復した連中は決まった相手がいるか、片恋中だった。」
仮定ではあるが、と前置きして宇髄はやけに胸を張って続けた。
「だから俺は、嫁3人を抱き潰してから来たから遅くなった!」
でけえ、声がでけえ。
「それでもこいつを目にしたら、望むことをなんでもしてやりたくなった。切られたいという願いじゃなかったら何をしていたかわからねえ。
お前は清童じゃねえだろうが……今、正気でいられねえだろ?」
鬼じゃねえってことは、俺が派手に認めてやるよ。
どこか遠くで聞いているように宇髄の声が響く。
もう良いだろ、と宇髄が牡丹の手を取り、耳から外してやるのをぼんやり眺めた。
それからそのまま牡丹を腕の中に包み込むのを目にして脳に血が通う。
「だから今は彼女にとってここが一番安全ってことだ。」
な?とこちらを窺う宇髄のいうことは一理あるが納得は出来ない。
「俺がこいつを連れて行く。わかるな?」
とまるで子どもに言い含めるようになだめすかす宇髄がどこか信用出来ない。
「だめだ、俺が、俺がこいつを。」
不死川が見上げた先の宇髄の目は、つい先ほどまでとは色が違っていた。
「わかんねえかなあ?」
だめだ、こいつも。
一触即発、ピリピリとした空気が支配したその刹那、聞き覚えがある凛とした大きな声が部屋中に響き渡った。
「失礼する!こちらに風柱不死川実弥と音柱宇髄天元はおられるか!」
「やべえ、煉獄だ。
さっき鎹烏から間に合わないから急いでここを離れろって言われてたの忘れてた。」
不死川と宇髄は顔を見合わせた。
「先ほどの条件から言えば、煉獄は、」
宇髄と不死川が声を潜めているとやがて業を煮やしたのか更に声がかかる。
「あのー?お二方、いらっしゃいませんかー?」
先ほどよりはだいぶ小さく、大人しく、遠慮がちではあるが、こちらもやはり聞き覚えがある声である。
「甘露寺だ。」
不死川は宇髄を見た。
宇髄は冷や汗をかきながら牡丹を見た。
牡丹は黙ってこちらを見遣っている。
甘露寺もやばい、気が、する。
ゴクリ、と生唾を飲む音が聞こえた直後のことだった。
「失礼する!」
スパーンと勢いよく襖が開かれた。
知らない場所のせいか腕の中でおとなしくしていたものの、唇を引き結び、目には怒りとも取れる強い光が宿っている。
先に知らせを受けていた家人が腕に収まっている牡丹をひと目見て瞬きし、二人の顔を交互に見比べたがどちらも無言のままだったので諦めたのか、何事もなかったかの様に不死川をねぎらい、申し付けてあった一番奥の東側の部屋を案内した。
柱以外はこの部屋に通さないことを言いつけ、部屋の真ん中に向かい合わせに腰を下ろす。
さあ話せ、と言わんばかりに無言のままこちらを睨め付ける牡丹から目を逸らしつつ、不死川は鬼のこと、鬼殺隊のことをかいつまんで話してやった。
「それで、私は何をすればいいのですか。」
牡丹は不死川を睨めつけたまま、そう独り言のように呟いた。
当然の疑問である。
「それはこれから来る奴ら次第だな。」
すでに日は落ちた。これからが鬼の活動時間であり、我ら鬼殺隊のそして柱の時間である。
もしかしたら今夜は誰も来ず、2人きりかも知れなかった。
どくり
不死川の心臓が大きく動いた。
「入るぜ。」
それまで一切の気配を感じさせないまま、派手な大男がふすまの向こう側に姿を見せた。
煌く額当て、左目には梅のような模様を施し、両方の二の腕には大きな金の輪がはめられている。
しかし、牡丹にとってはそれらより何より目を惹くものがあった。
「宇髄、早かったな。」
正直胡蝶が先に来ると思っていた。
不死川がそう答え終わるのと重なるように牡丹が口を開く。
ああ、貴方は
牡丹と宇髄の視線が交じり合った。
刀を二つ、お持ちなんですね。
牡丹の声が、甘く喜びに満ちた音が耳に響く。
「なんだそれ、俺とはずいぶん態度が違うじゃねえかァ。」
不死川は自分が彼女にしたことを棚に放り上げ、不満を口にした、はずだった。
不死川の、その言葉が耳に届く前に宇髄は動いていた。
目の前の光景がゆっくりとしかし明瞭に不死川の目に飛び込む。
座ったまま顔を上向きにあげた牡丹
手は膝の上でしっかりと組まれている。
目の前に片膝をついて刀を牡丹の顔の真横に構えた宇髄がいた。
次の瞬間にはその姿勢のまま見つめ合っていた。
しかし、その刀も腕もすでに交差している。
振り切った後、だった。
「お、おい。宇髄。」
珍しく慌てて声をかける不死川に目もくれず、宇髄が問う。
「なあ、不死川、俺は何をしているんだろうな。」
「な、んだと、お前。」
見ての通りだ、宇髄はこの部屋に来た途端、彼女を。
「俺は、切った。そりゃもう派手派手にな。」
宇髄は牡丹から視線を外さないままである。
牡丹は残念そうに、そして些か困ったように眉を寄せている。
刀からはその言葉を裏付ける赤い血煙が立ち上っている。
ただ、牡丹の首には何もない。
「鬼ではないと一目でわかった。それは良いんだ。」
自分が刀を2つ持っていることに気づいて、待ちわびていたと歓喜の声を上げた女
刀を抜いた瞬間、待ち望んだかのように顎を上げ、首を差し出した女
「イイ女が両手を広げて待っているのに飛び込まない男はいねえだろ?」
ニヤリ、と宇髄はその整った顔を緩めた。
「「いや、両手は広げていなかったと思う。」」
不死川と牡丹は同時に同じことを指摘した。
宇髄は意に介さない調子で続けた。
ただ、
「切ってやりてえと思った。」
「切って欲しいと思いました。」
宇髄と牡丹は互いを見つめたまま言葉を紡ぎ、うなづき合う。
ピリ、と不死川の額に血管が走った。
手応えはあった。しかし。
「まあこの通りだ。」
いうが早いか宇髄は、鎖で繋いだ大刀を握ったまま、牡丹をその腕の内側にすっぽりと収めた。
牡丹は何が起こっているのかわからない表情ではあったが、そのたくましい胸に頬をつけ、身を委ねている。
「宇髄、てめえ何してやがる。」
不死川は声にも不機嫌さを滲ませた。
しかし2人は動かない。
「お前も何黙って抱かれてやがる。」
苛立ちのままに不死川は2人を引き剥がそうと手を伸ばした。
「二本ならば、と思ったのですが。」
ポツリと牡丹が言葉を発したので不死川は手を止めた。
「実は私、お預かりした刀で切ってみたことがあるのです。」
何を。
不死川は声を出したつもりだったが音になる前に消えた。
口の中がひどく渇く。
「頸を。自分で。」
牡丹は世間話をするかのように言葉を紡ぐ。
刃を入れた途端、ピリ、とした痛みの様な痒みの様なものは感じなくはないのですが、
一気に行くのが怖いのでゆっくりと刃を入れていくと、
切ったそばからつながるのです。
流石にど真ん中で止めておくと苦しかったのでそこはさっっさと通り過ぎてみたのですが。
まるで他人事のように首を切ってみた、という牡丹に不死川は腹立たしさを覚えた。
それにあったばかりの宇髄に、安心し切ったように身を預けているのも気にくわない。
「なんで切ってみようなんて思いやがったんだ。」
牡丹はふっ、と笑ってこちらを見た。
不死川の顔に我知らず朱が滲む。
「頸に刃物を当てる理由なんて1つでしょう。」
牡丹は嗤った。この世の全てに対して、それは勿論自分自身を含めたそれらに対して。
「私を人ではなくした男が、ひとくびに気をつけろと言っていたので、とりあえず私がヒトでも人でなくてもいけるかと。」
「でも気持ち悪いだけだったので二刀で両側から一気に行けばいけるかと思ったんですけどねえ。」
ねーと二人が同時に顔を見合わせ、小首を傾げる。
軽い
しかもお前ら初対面だろなんでいつの間にか意気投合しているんだ良いから離れろ
そんな不死川の視線を意に介さず、牡丹は言葉を続けた。
「それに、この方の太刀筋は綺麗でした。」
牡丹はうっとりと目を細めた。
前に来た方々はどうにも、と首を振る様子に不死川は苛立ち過ぎたせいか何やら芝居じみて見えてきた。
「ああ、そういえば変な奴らを寄越して済まなかったな。」
宇髄がこともなげに答える。
そういうことなのか、そういうことなのか?
それでな、とようやく宇髄は不死川に顔を向けた。
「胡蝶は今、治療薬を作っているがいまいち進みが良くない。
元凶の元となったお嬢ちゃんを連れてくる方が早いってことでまずはお前を行かせた。
しかしその後でこのお嬢ちゃんに骨抜きにされた奴らが何人か回復して、そこでようやくある共通点が見つかってな?」
些か野卑な口調で宇髄が嗤う。
「それからすると柱の中では俺か、意外ということでもないが伊黒か、あとはまあ試してみねえとわからんが……逆を張って悲鳴嶼さんが適任だろうと言われたんだ。」
勿体ぶった口調に不死川は苛々し通しだったが宇髄は意味なく長話を続ける奴ではない。と思い直し、視線で言葉の続きを促した。
心得たとばかりに宇髄は話を続ける。
「実は俺はな、今回胡蝶に言って少しでも耐性が付くようにと薬を飲めと言われていたんだが。」
何しろ宇髄は元忍びなだけに薬も毒も効きにくい身体である。
「先に行った不死川は飲んでねえから急げ、と言われて急いできたんだが何せ。」
宇髄は刀を鞘に納め、牡丹の耳元で何事か囁いた。
牡丹は素直にコクリとうなづいて自分の両手で耳を塞ぐ。
しかしやはり宇髄に身を預けたままそこから動かない。
気に入らねェ
不機嫌さを隠さない不死川の顔を面白そうに眺めた宇髄がちょいちょいと指を動かし、不死川を呼ぶ。
渋々近づいた不死川に宇髄はその顔に似合わぬ下卑た笑いを浮かべた。
「……お嬢ちゃんに骨抜きにされた中でも、回復していない連中は清童か生娘だ。回復した連中は決まった相手がいるか、片恋中だった。」
仮定ではあるが、と前置きして宇髄はやけに胸を張って続けた。
「だから俺は、嫁3人を抱き潰してから来たから遅くなった!」
でけえ、声がでけえ。
「それでもこいつを目にしたら、望むことをなんでもしてやりたくなった。切られたいという願いじゃなかったら何をしていたかわからねえ。
お前は清童じゃねえだろうが……今、正気でいられねえだろ?」
鬼じゃねえってことは、俺が派手に認めてやるよ。
どこか遠くで聞いているように宇髄の声が響く。
もう良いだろ、と宇髄が牡丹の手を取り、耳から外してやるのをぼんやり眺めた。
それからそのまま牡丹を腕の中に包み込むのを目にして脳に血が通う。
「だから今は彼女にとってここが一番安全ってことだ。」
な?とこちらを窺う宇髄のいうことは一理あるが納得は出来ない。
「俺がこいつを連れて行く。わかるな?」
とまるで子どもに言い含めるようになだめすかす宇髄がどこか信用出来ない。
「だめだ、俺が、俺がこいつを。」
不死川が見上げた先の宇髄の目は、つい先ほどまでとは色が違っていた。
「わかんねえかなあ?」
だめだ、こいつも。
一触即発、ピリピリとした空気が支配したその刹那、聞き覚えがある凛とした大きな声が部屋中に響き渡った。
「失礼する!こちらに風柱不死川実弥と音柱宇髄天元はおられるか!」
「やべえ、煉獄だ。
さっき鎹烏から間に合わないから急いでここを離れろって言われてたの忘れてた。」
不死川と宇髄は顔を見合わせた。
「先ほどの条件から言えば、煉獄は、」
宇髄と不死川が声を潜めているとやがて業を煮やしたのか更に声がかかる。
「あのー?お二方、いらっしゃいませんかー?」
先ほどよりはだいぶ小さく、大人しく、遠慮がちではあるが、こちらもやはり聞き覚えがある声である。
「甘露寺だ。」
不死川は宇髄を見た。
宇髄は冷や汗をかきながら牡丹を見た。
牡丹は黙ってこちらを見遣っている。
甘露寺もやばい、気が、する。
ゴクリ、と生唾を飲む音が聞こえた直後のことだった。
「失礼する!」
スパーンと勢いよく襖が開かれた。