鬼滅の刃
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風柱、不死川実弥がこの狂咲の桜咲く山を訪れたのは偶然といえば偶然だった。
自身の見廻り地区の里で男が一人、鬼に喰い殺されたという情報が入ったのは1ヶ月ほど前の話である。
最近妻、牡丹を追い出したその男は何故か妻に似た若い遊女を取っ替え引っ替えして屋敷に引き込み、ある日人一人分の血溜まりを残して忽然と消えたのである。
不気味なことに引き込んだはずの遊女たちは1人たりとも見当たらず仕舞い。
しかしその後は鬼の被害報告も無かったことから、その男が鬼だったのではないか、どこか餌場を求めて移動したのでは無いかと予想された。もちろん、行方が知れない以上、追い出されたという妻が鬼と化した可能性は否定できないままである。
鬼の行方を追うべく、その周辺の地域を階級の低い隊員が調査に散っている最中のことであった。
そこからいくらか離れた山奥で鬼殺隊員が刀を次々に奪われた、と言うのだ。
体には何も異常がないのにすべからく魂が抜かれたように惚けて戻って来て、言動が覚束ないのでなかなか調査が進まない。
蝶屋敷にてかろうじて口が聞けるまでに回復した隊員からようやく得たのがこの桜、山、女、という3つの言葉だけ。
麓の里の者たちの話では確かに一人、女が住んでいるとのことだった。
時々里に降りては自分で獲ったという獣の皮を売りに来ては生活用品を買い求め、戻って行く。
その嫋やかな立ち姿と細腕に皆首を傾げながらもその透き通るような白い肌と赤い唇が目を惹く容貌は、先の、追い出されたという妻、牡丹の特徴と一致する。
しかももう夏も近づく八十八夜も過ぎたというのにその山には桜が咲いているというのだ。
隊員が刀を取られ、杳として解決しないことに業を煮やした刀鍛冶の里から真相を探るよう要請があり、風柱たる不死川実弥が鎹烏から指示を受けたのはその鬼かもしれない男の行方を追っていたからであり、単にその手がかりを求めてのことであった。
女が人を食ったと言う報告は上がっていない。
現に隊員は男女を問わず呆けているとはいえ無傷なのだ。
そもそも本来この山は、炎柱、煉獄杏寿郎の巡回地区である。
ただ彼とその継子の甘露寺蜜璃が別の任務にかかっているので今は手が離せない、とのことだった。
しかし、何人もの……現時点で30名の隊員が使い物にならない状態であると言うのは大いに痛手である。
少しばかり階級を上げて隊員を派遣したところで悪戯に使えぬものを増やすだけだ、と言うことで柱の派遣と相成ったのである。
全く関わりがないわけではない、しかし鬼を滅すると言う意味では緊急性の薄い任務だがそれを見越したのかお館様たっての、とつけられてしまってはやる気を出さざるを得ない。
九段の山にはすぐに着いた。
すでに空気は夏の暑さを孕んでいるというのに、確かに山では1本だけ、白い桜が咲き続けていた。
そこから獣道よりは歩きやすい一本道をひたすら進んでいけば程なく女が住んでいると言う小屋が見えてきた。
いくらか手直ししているようではあるが、こんなボロ家で女が住んでいるとは到底考えにくかった。
しかも数ヶ月前までは床上げも出来ず、寝台を誂えていたと言う女が、だ。
戸に手をかけようとして、不死川はあることに気づいた。
小屋に近づけば近づくほど桜からは離れていくのに、桜のような杏のような甘い香りが増しているのだ。
一瞬毒の類かと警戒するが身体に異変は感じられない。
「邪魔するぜェ。」
中の相手の返事を待たず、不死川はガラリと戸を開けた。
女がいる。
深い藍色と黒が混じった濡れたような瞳がこちらを見遣っている。
女が腰を上げると艶やかな黒髪は無造作に一纏めにされており、その透き通るような白い肌に一房、はらりとかかった。
「あの?」
不思議そうに小首を傾げる女の唇は確かに朱い。
幼い子供のような朱色だった。
ああ、隊員の質が落ちていると思っちゃあいたが、
鬼か、そうでないかの区別もつかないとは。
これは鬼ではない、だが。
吸い込まれるように視線をその唇に合わせ、不死川は言葉を紡いだ。
「最近うちの者の刀奪っているって鬼は、あんたかい?」
そう言いながらも不死川は彼女の背後にたくさんの日輪刀をみとめていた。
それは一瞥しただけでもどれも丁寧に鞘に収められ、刀掛けに掛けられ、決して雑に扱われていないことが分かった。
それだけに、何故こんなに奪われてしまったのか不思議である。
オニ、と言う言葉に彼女は柳眉を潜めた。
不死川は心臓が鷲掴みされたような痛みと同時に戸惑いを覚えた。
様子を見るためにあえて不躾な言葉を使ったと言うのに彼女が少々眉を潜めただけで感情が後悔に揺さぶられたのだ。
一体自分は何を思った?いや、自分は、どうなっている?
「最近刀を置いていく方々はあなたの部下ですか。」
深く呆れたように溢れた吐息と共に彼女が言葉を発する。
「珍しく会話が成り立つ人が来たと思ったら、」
悲しそうな顔をするくせに彼女は、は、と鼻で嗤った。
「彼らは勝手に来て勝手に刀を振り回して勝手に置いて行ったんです。危ないでしょう、こんな、綺麗だけどこんなもの振り回しちゃ。」
嫌味の一つも言ってやろうとした様子だったのに、それはなく、ただ彼女の口から出た綺麗、と言う言葉が不死川の耳に残る。
「そりゃ、悪かった。奴らは十分に仕置をしておくから勘弁してほしい。」
不死川は素直に頭を下げる。ただし、彼女の気配を探る事は忘れない。
「では可及的速やかにお持ち帰りください、そしてお帰りください。鞘は差し上げます。」
一息にそう言うとくるりとこちらに背を向ける。
「ああ、……風呂敷、あったかしら。」
不死川はその背を視界に入れた途端、知らず体が動き、後ろから彼女を抱きしめた。
ひ、と声が漏れ、彼女は身を固くする。
それでもその身は柔らかく、あの桜の香りがより濃密に鼻をくすぐる。
ただそれに混じった血臭が、不死川を我に返す。
不死川は声を絞り出し、彼女の耳元で囁いた。
「でもあんた、人間じゃねえだろォ?」
女は拘束から逃れようと身を捩ったがガッチリと抱きこまれて動けない。
白いうなじが不死川の目に飛び込んでくる。
ああ、ここに顔を埋めたい、思い切り匂いを嗅ぎ、舌を這わせたい。
そんな衝動を感じ、不死川は自分が実は先ほどからずっとそれを我慢していたことに気付いた。
今自分は普通じゃない、おかしい、それは分かっている。
しかしそうであればなお、この腕の拘束を解くわけには行かなかった。
「多分、そうです。私はヒトではなくなった。」
すう、と彼女から力が抜ける。
「……人間は食ってねえよなァ?」
それは不死川にも確信があった、血臭はしたがそれは人のものではなかった。しかし彼女の口からそれが聞きたかった。
実際の判断は、これから、だ。
こくり、と彼女が首肯し、未だ解かれない拘束にさらにうなじに朱を走らせて身を捩る。
「じゃ、俺たちのところに来てもらうとするか、話はそれからだァ。」
不死川は立ち上がると同時に彼女の膝下に手を差し入れ、横抱きにした。
「いやです!何でですか、せっかく唐芋の植えつけ始めたのに!」
芋?唐芋?
不死川の頭に疑問符が浮かぶ。
己の身より芋の心配か。
「……荷物と芋は別のものに運ばせるから心配するなァ。」
少しだけおとなしくなった彼女の様子におかしみを覚え、不死川はふと笑い声をこぼした。
彼女が目を見開いてこちらを見た。
まだ色々と聞きたいことがありそうだが時間がない。
日が暮れる前に目的地にたどり着かなければ。
隠にはすでに指示は出している、手が空いていれば他の柱直ぐに
指示した場所に着くだろう。
まずは一つずつ、鬼ではない、という証を得なければ。
それもおそらく柱全員から。
「俺の首に腕を回せェ。舌、噛むぞ。」
言い終わるが早いが不死川はボロ家をそして山自体を一瞬で後にした。
ドウ、という音に不死川が振り向き、自身の後ろに広がる光景に目を見開く。
桜が、桜の花が全て散り、その塊がまるで腕のように波のように自分達を、
追って、来ている。
不死川は一瞬身構えた。
しかし彼の足が一歩、山から出ただけで、その塊は力を失ったように下に落ち、……消えた。
跡形もなく、消え失せた。
ふと見れば彼女は腕の中で気を失っている。
滑らかな肌からは血の気が引き、柔らかそうな唇は先ほどの朱色より青が入ったような紅色が強く感じられた。
傾いているとは言え日の光は彼女の顔をよく照らしている。
彼女の体にも、もちろん顔にも変化は見られない。
不死川はいくらか自身の体の力を抜いた。
自分が提示する証はこれでいい。
不死川はまた走り出した。
ここから一番近い、藤の紋の館へ。
自身の見廻り地区の里で男が一人、鬼に喰い殺されたという情報が入ったのは1ヶ月ほど前の話である。
最近妻、牡丹を追い出したその男は何故か妻に似た若い遊女を取っ替え引っ替えして屋敷に引き込み、ある日人一人分の血溜まりを残して忽然と消えたのである。
不気味なことに引き込んだはずの遊女たちは1人たりとも見当たらず仕舞い。
しかしその後は鬼の被害報告も無かったことから、その男が鬼だったのではないか、どこか餌場を求めて移動したのでは無いかと予想された。もちろん、行方が知れない以上、追い出されたという妻が鬼と化した可能性は否定できないままである。
鬼の行方を追うべく、その周辺の地域を階級の低い隊員が調査に散っている最中のことであった。
そこからいくらか離れた山奥で鬼殺隊員が刀を次々に奪われた、と言うのだ。
体には何も異常がないのにすべからく魂が抜かれたように惚けて戻って来て、言動が覚束ないのでなかなか調査が進まない。
蝶屋敷にてかろうじて口が聞けるまでに回復した隊員からようやく得たのがこの桜、山、女、という3つの言葉だけ。
麓の里の者たちの話では確かに一人、女が住んでいるとのことだった。
時々里に降りては自分で獲ったという獣の皮を売りに来ては生活用品を買い求め、戻って行く。
その嫋やかな立ち姿と細腕に皆首を傾げながらもその透き通るような白い肌と赤い唇が目を惹く容貌は、先の、追い出されたという妻、牡丹の特徴と一致する。
しかももう夏も近づく八十八夜も過ぎたというのにその山には桜が咲いているというのだ。
隊員が刀を取られ、杳として解決しないことに業を煮やした刀鍛冶の里から真相を探るよう要請があり、風柱たる不死川実弥が鎹烏から指示を受けたのはその鬼かもしれない男の行方を追っていたからであり、単にその手がかりを求めてのことであった。
女が人を食ったと言う報告は上がっていない。
現に隊員は男女を問わず呆けているとはいえ無傷なのだ。
そもそも本来この山は、炎柱、煉獄杏寿郎の巡回地区である。
ただ彼とその継子の甘露寺蜜璃が別の任務にかかっているので今は手が離せない、とのことだった。
しかし、何人もの……現時点で30名の隊員が使い物にならない状態であると言うのは大いに痛手である。
少しばかり階級を上げて隊員を派遣したところで悪戯に使えぬものを増やすだけだ、と言うことで柱の派遣と相成ったのである。
全く関わりがないわけではない、しかし鬼を滅すると言う意味では緊急性の薄い任務だがそれを見越したのかお館様たっての、とつけられてしまってはやる気を出さざるを得ない。
九段の山にはすぐに着いた。
すでに空気は夏の暑さを孕んでいるというのに、確かに山では1本だけ、白い桜が咲き続けていた。
そこから獣道よりは歩きやすい一本道をひたすら進んでいけば程なく女が住んでいると言う小屋が見えてきた。
いくらか手直ししているようではあるが、こんなボロ家で女が住んでいるとは到底考えにくかった。
しかも数ヶ月前までは床上げも出来ず、寝台を誂えていたと言う女が、だ。
戸に手をかけようとして、不死川はあることに気づいた。
小屋に近づけば近づくほど桜からは離れていくのに、桜のような杏のような甘い香りが増しているのだ。
一瞬毒の類かと警戒するが身体に異変は感じられない。
「邪魔するぜェ。」
中の相手の返事を待たず、不死川はガラリと戸を開けた。
女がいる。
深い藍色と黒が混じった濡れたような瞳がこちらを見遣っている。
女が腰を上げると艶やかな黒髪は無造作に一纏めにされており、その透き通るような白い肌に一房、はらりとかかった。
「あの?」
不思議そうに小首を傾げる女の唇は確かに朱い。
幼い子供のような朱色だった。
ああ、隊員の質が落ちていると思っちゃあいたが、
鬼か、そうでないかの区別もつかないとは。
これは鬼ではない、だが。
吸い込まれるように視線をその唇に合わせ、不死川は言葉を紡いだ。
「最近うちの者の刀奪っているって鬼は、あんたかい?」
そう言いながらも不死川は彼女の背後にたくさんの日輪刀をみとめていた。
それは一瞥しただけでもどれも丁寧に鞘に収められ、刀掛けに掛けられ、決して雑に扱われていないことが分かった。
それだけに、何故こんなに奪われてしまったのか不思議である。
オニ、と言う言葉に彼女は柳眉を潜めた。
不死川は心臓が鷲掴みされたような痛みと同時に戸惑いを覚えた。
様子を見るためにあえて不躾な言葉を使ったと言うのに彼女が少々眉を潜めただけで感情が後悔に揺さぶられたのだ。
一体自分は何を思った?いや、自分は、どうなっている?
「最近刀を置いていく方々はあなたの部下ですか。」
深く呆れたように溢れた吐息と共に彼女が言葉を発する。
「珍しく会話が成り立つ人が来たと思ったら、」
悲しそうな顔をするくせに彼女は、は、と鼻で嗤った。
「彼らは勝手に来て勝手に刀を振り回して勝手に置いて行ったんです。危ないでしょう、こんな、綺麗だけどこんなもの振り回しちゃ。」
嫌味の一つも言ってやろうとした様子だったのに、それはなく、ただ彼女の口から出た綺麗、と言う言葉が不死川の耳に残る。
「そりゃ、悪かった。奴らは十分に仕置をしておくから勘弁してほしい。」
不死川は素直に頭を下げる。ただし、彼女の気配を探る事は忘れない。
「では可及的速やかにお持ち帰りください、そしてお帰りください。鞘は差し上げます。」
一息にそう言うとくるりとこちらに背を向ける。
「ああ、……風呂敷、あったかしら。」
不死川はその背を視界に入れた途端、知らず体が動き、後ろから彼女を抱きしめた。
ひ、と声が漏れ、彼女は身を固くする。
それでもその身は柔らかく、あの桜の香りがより濃密に鼻をくすぐる。
ただそれに混じった血臭が、不死川を我に返す。
不死川は声を絞り出し、彼女の耳元で囁いた。
「でもあんた、人間じゃねえだろォ?」
女は拘束から逃れようと身を捩ったがガッチリと抱きこまれて動けない。
白いうなじが不死川の目に飛び込んでくる。
ああ、ここに顔を埋めたい、思い切り匂いを嗅ぎ、舌を這わせたい。
そんな衝動を感じ、不死川は自分が実は先ほどからずっとそれを我慢していたことに気付いた。
今自分は普通じゃない、おかしい、それは分かっている。
しかしそうであればなお、この腕の拘束を解くわけには行かなかった。
「多分、そうです。私はヒトではなくなった。」
すう、と彼女から力が抜ける。
「……人間は食ってねえよなァ?」
それは不死川にも確信があった、血臭はしたがそれは人のものではなかった。しかし彼女の口からそれが聞きたかった。
実際の判断は、これから、だ。
こくり、と彼女が首肯し、未だ解かれない拘束にさらにうなじに朱を走らせて身を捩る。
「じゃ、俺たちのところに来てもらうとするか、話はそれからだァ。」
不死川は立ち上がると同時に彼女の膝下に手を差し入れ、横抱きにした。
「いやです!何でですか、せっかく唐芋の植えつけ始めたのに!」
芋?唐芋?
不死川の頭に疑問符が浮かぶ。
己の身より芋の心配か。
「……荷物と芋は別のものに運ばせるから心配するなァ。」
少しだけおとなしくなった彼女の様子におかしみを覚え、不死川はふと笑い声をこぼした。
彼女が目を見開いてこちらを見た。
まだ色々と聞きたいことがありそうだが時間がない。
日が暮れる前に目的地にたどり着かなければ。
隠にはすでに指示は出している、手が空いていれば他の柱直ぐに
指示した場所に着くだろう。
まずは一つずつ、鬼ではない、という証を得なければ。
それもおそらく柱全員から。
「俺の首に腕を回せェ。舌、噛むぞ。」
言い終わるが早いが不死川はボロ家をそして山自体を一瞬で後にした。
ドウ、という音に不死川が振り向き、自身の後ろに広がる光景に目を見開く。
桜が、桜の花が全て散り、その塊がまるで腕のように波のように自分達を、
追って、来ている。
不死川は一瞬身構えた。
しかし彼の足が一歩、山から出ただけで、その塊は力を失ったように下に落ち、……消えた。
跡形もなく、消え失せた。
ふと見れば彼女は腕の中で気を失っている。
滑らかな肌からは血の気が引き、柔らかそうな唇は先ほどの朱色より青が入ったような紅色が強く感じられた。
傾いているとは言え日の光は彼女の顔をよく照らしている。
彼女の体にも、もちろん顔にも変化は見られない。
不死川はいくらか自身の体の力を抜いた。
自分が提示する証はこれでいい。
不死川はまた走り出した。
ここから一番近い、藤の紋の館へ。