鬼滅の刃
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私は死にかけていた。
何というほどのことではない、よくある話だ。
私は代々軍人の家に生まれた一人娘だった。
後継になる兄弟はおらず、婿を取ろうにも私自身が幼少から体が弱かったために年頃になっても良縁に恵まれなかった。
いよいよ不憫に思った父が家の財産を投げ打って夫を迎えたものの、程なくして両親は亡くなった。
夫は私が邪魔になったのか、夜な夜な私の寝台に来ては押しかかる。私が苦しげに一息吸えば舌打ちをし、ぶつぶつと言いながら部屋を出て行った。
それがいく日もいく日もほぼ間を開ける事なく続いたのである。
私の身体はさらに弱っていき、寝たり起きたりを繰り返すようになっていた。
気付けば昔からの使用人は夫に追い出され、一人もいなくなっていた。
このままでは良くない、しかし身体は動かない。
悔し涙を流しても、もう私にできる事はそう残されていなかった。
まだ体がいくらか動くうちに自ら死のう、しかしこんな男に見られるのは癪である。
身の回りの気に入りのものだけをまとめて暇乞いをした。
1週間して誰も荷物を引き取りに来なければ好きに処分してくれるよう言い置いて、日が暮れてから黙って家を出た。
夫はこちらをジッと見ていたが止めもしなかった。
桜の季節であったから、せめて子供の頃に両親と来た思い出の山桜を見てから死のうという気になった。
折しも桜は満開で、更には抜けるように白い。
一際満開で白い桜の木の下で野垂れ死しようと決め、その根元にもたれかかる。
静かに目を閉じれば風の音、そして微かな桜の香り。
どこかで狼らしき獣の鳴き声がした。
少しずつ寒さが染みてきて身体が強張っていく。
ああ、あと一息で死ねるだろう。
木にもたれかかっていた身体がずるり、と落ちかけた頃声を掛けられた。
すう、と一息だけ呼吸をし直す。
もはや意識は朦朧としていたが、ただその声が品よく心地良く、安らかな響きであったのに内容は酷いものであった。
土のような顔色だ
と嗤っている。
私の顔色が悪いのはもともと身体が弱いせいだ、今から死ぬのだから放っておいて
と言えばその人はそれには返事をせず、
唇だけは赤いな
と呟いた。
会話が成り立たない相手には黙り込むに限る。
目を開かないままそっぽを向けば、相手はクツクツと嗤った。
ふむ面白い、今日は気分が良い、たまにはこういうのも悪くない
その人がそう言ったのを最後に口に何やら生臭いものを押し込まれ、私は意識を失った。
遠ざかる意識の中で、その人は
ひとくびにきをつけろ
とだけ言ったように思う。意味が分からない。
次に目を開けたときにはその人はもうおらず、冴え冴えとした月が昇るばかりであった。
月明かりだけだというのに視界は明瞭であった。
先ほどまで鉛のようだった身体がとても軽い。
さては死んだかと思ったがどうやら足はある。
試しに地を蹴ればたちまち桜の色は眼下にあった。
これは何事かと思うが花を愛でる間もなく地に落ちる。
しかしどこも痛みはなく、傷もない。
うーんと唸って考えを巡らせても大したことは何も思い付かず、何やらお腹が空いているのに気が付いた。
先ほどあの人が私の口に押し込んだあれはとうの昔に無くなっている。
口の中に気配が残るそれが私を生かしたらしい。
そしてさらなる飢えが、渇きが私の全身を巡った。
アレが食べたい。しかしナニカはわからない。
ふとそれに似た匂いがどこからか漂い、私はそれに一目散に駆け寄った。
まるで飛んでいるようで私はひどく心地良かった。
匂いを辿って行き着いたのは山の獣であった。
似ている、が違う。
しかし餓えていた私はそれらを何の疑問もなく屠り、その肉に喰らい付いた。
腹が満たされてから途方に暮れた。
今まで生の肉など、ましてや獣の肉など口にしたことはない。
だのに何とも云われぬ芳香と充実感が多幸感とともに私を包む。
戸惑いながらも私はそれらを受け入れた。
何が何やらわからぬが、私は何か違うモノになった、ということだけは理解出来た。
夜が明けると強烈な眠りに襲われるので人がいない山小屋を見つけてはそこで眠った。
夜な夜な腹が減るので、獣を襲い、肉を喰らい血を啜った。
しかし食欲は満たされてもそれだけでは生活に不自由する。
獲った獣の皮を麓の里で売り払い、生活に必要なものを買い求めることができたのは僥倖だった。
自給自足の生活など初めてだったかなかなか静かで充実した毎日だった。
しかしやはり長くは続かなかった。
刀を持った人がやたらと訪ねてくるのだ。
こんな山の中だというのにいきなり家の中に入り込み、すわ押し入りか破落戸かと思いきやきちんとした身なりの若者である。
しかし勝手に悲鳴をあげ、何やら訳のわからないことを叫び出し、戸惑っているうちに相手は刀を抜く。
今まで見たことのないような淡い光を帯びた、美しい刀だった。
ほう、と声が漏れ、感嘆したがそれは相手の叫び声で断たれてしまう。
彼らは私を人食い鬼だと呼ぶのだ。
私は人を食ったことはない、食いたいとも思わない。
うまそうでもないし。
そう言えばますます狂ったように刀を振り回す。
しかしながら太刀筋はめちゃくちゃだし、痛そうだ。
いくら死にたいとは思っていたとは言え、これで死ぬのはごめんこうむる。
わあわあと声を上げた良い大人が刀を振り回しているがさほどよけずとも当たる事はない。
しばらく眺めているうちにそれらが一定の決まった動きをした社交ダンスのように見えて来て怖いより何だか滑稽に思えて来た。
しかしあの刀はいただけない、美しいがやはり痛そうだ。
刀を折るのを簡単だがこんな綺麗で手間がかかってそうなものを壊すのは忍びない。
彼らのダンスの合間を縫って、そっと腰に手を回す。
ほとんど夜会に出た事は無かったが存外何とかなるものだ。
ハッと相手が息を飲む音がして、ほんの少しだけ相手と見つめ合う。
相手が惚けているうちにとヒョイと刀を摘み上げた。
指先で持ち上げて、にっこりと微笑む。
ああ、よかった、これで痛くない。
今度は相手はプルプルと震え出し、わあわあ言いながら逃げていく。
「もし、刀は」
そう問いかけてもすでに相手の姿はない。
先ほどまでとは段違いの早さだった。
呆れて追いかけもしなかったが残された刀が気にかかる。
父が手入れをしていた様子を思い出し、道具を買い求め、手入れをした上で預かることにした。
しかし彼らは何度もやってきては何度も刀を置いて行く。
鞘がないので刀掛けを拵えて飾っていたがそろそろ10にもなろうかとしたので鞘を拵えた。
知らなかったが自分は存外器用な方であるらしかった。
白鞘と塗鞘くらいは拵えられるようになった頃には彼らが置いて行った刀は20を越えていた。
気が紛れたせいか以前ほど腹は減らなくなっていた。
何というほどのことではない、よくある話だ。
私は代々軍人の家に生まれた一人娘だった。
後継になる兄弟はおらず、婿を取ろうにも私自身が幼少から体が弱かったために年頃になっても良縁に恵まれなかった。
いよいよ不憫に思った父が家の財産を投げ打って夫を迎えたものの、程なくして両親は亡くなった。
夫は私が邪魔になったのか、夜な夜な私の寝台に来ては押しかかる。私が苦しげに一息吸えば舌打ちをし、ぶつぶつと言いながら部屋を出て行った。
それがいく日もいく日もほぼ間を開ける事なく続いたのである。
私の身体はさらに弱っていき、寝たり起きたりを繰り返すようになっていた。
気付けば昔からの使用人は夫に追い出され、一人もいなくなっていた。
このままでは良くない、しかし身体は動かない。
悔し涙を流しても、もう私にできる事はそう残されていなかった。
まだ体がいくらか動くうちに自ら死のう、しかしこんな男に見られるのは癪である。
身の回りの気に入りのものだけをまとめて暇乞いをした。
1週間して誰も荷物を引き取りに来なければ好きに処分してくれるよう言い置いて、日が暮れてから黙って家を出た。
夫はこちらをジッと見ていたが止めもしなかった。
桜の季節であったから、せめて子供の頃に両親と来た思い出の山桜を見てから死のうという気になった。
折しも桜は満開で、更には抜けるように白い。
一際満開で白い桜の木の下で野垂れ死しようと決め、その根元にもたれかかる。
静かに目を閉じれば風の音、そして微かな桜の香り。
どこかで狼らしき獣の鳴き声がした。
少しずつ寒さが染みてきて身体が強張っていく。
ああ、あと一息で死ねるだろう。
木にもたれかかっていた身体がずるり、と落ちかけた頃声を掛けられた。
すう、と一息だけ呼吸をし直す。
もはや意識は朦朧としていたが、ただその声が品よく心地良く、安らかな響きであったのに内容は酷いものであった。
土のような顔色だ
と嗤っている。
私の顔色が悪いのはもともと身体が弱いせいだ、今から死ぬのだから放っておいて
と言えばその人はそれには返事をせず、
唇だけは赤いな
と呟いた。
会話が成り立たない相手には黙り込むに限る。
目を開かないままそっぽを向けば、相手はクツクツと嗤った。
ふむ面白い、今日は気分が良い、たまにはこういうのも悪くない
その人がそう言ったのを最後に口に何やら生臭いものを押し込まれ、私は意識を失った。
遠ざかる意識の中で、その人は
ひとくびにきをつけろ
とだけ言ったように思う。意味が分からない。
次に目を開けたときにはその人はもうおらず、冴え冴えとした月が昇るばかりであった。
月明かりだけだというのに視界は明瞭であった。
先ほどまで鉛のようだった身体がとても軽い。
さては死んだかと思ったがどうやら足はある。
試しに地を蹴ればたちまち桜の色は眼下にあった。
これは何事かと思うが花を愛でる間もなく地に落ちる。
しかしどこも痛みはなく、傷もない。
うーんと唸って考えを巡らせても大したことは何も思い付かず、何やらお腹が空いているのに気が付いた。
先ほどあの人が私の口に押し込んだあれはとうの昔に無くなっている。
口の中に気配が残るそれが私を生かしたらしい。
そしてさらなる飢えが、渇きが私の全身を巡った。
アレが食べたい。しかしナニカはわからない。
ふとそれに似た匂いがどこからか漂い、私はそれに一目散に駆け寄った。
まるで飛んでいるようで私はひどく心地良かった。
匂いを辿って行き着いたのは山の獣であった。
似ている、が違う。
しかし餓えていた私はそれらを何の疑問もなく屠り、その肉に喰らい付いた。
腹が満たされてから途方に暮れた。
今まで生の肉など、ましてや獣の肉など口にしたことはない。
だのに何とも云われぬ芳香と充実感が多幸感とともに私を包む。
戸惑いながらも私はそれらを受け入れた。
何が何やらわからぬが、私は何か違うモノになった、ということだけは理解出来た。
夜が明けると強烈な眠りに襲われるので人がいない山小屋を見つけてはそこで眠った。
夜な夜な腹が減るので、獣を襲い、肉を喰らい血を啜った。
しかし食欲は満たされてもそれだけでは生活に不自由する。
獲った獣の皮を麓の里で売り払い、生活に必要なものを買い求めることができたのは僥倖だった。
自給自足の生活など初めてだったかなかなか静かで充実した毎日だった。
しかしやはり長くは続かなかった。
刀を持った人がやたらと訪ねてくるのだ。
こんな山の中だというのにいきなり家の中に入り込み、すわ押し入りか破落戸かと思いきやきちんとした身なりの若者である。
しかし勝手に悲鳴をあげ、何やら訳のわからないことを叫び出し、戸惑っているうちに相手は刀を抜く。
今まで見たことのないような淡い光を帯びた、美しい刀だった。
ほう、と声が漏れ、感嘆したがそれは相手の叫び声で断たれてしまう。
彼らは私を人食い鬼だと呼ぶのだ。
私は人を食ったことはない、食いたいとも思わない。
うまそうでもないし。
そう言えばますます狂ったように刀を振り回す。
しかしながら太刀筋はめちゃくちゃだし、痛そうだ。
いくら死にたいとは思っていたとは言え、これで死ぬのはごめんこうむる。
わあわあと声を上げた良い大人が刀を振り回しているがさほどよけずとも当たる事はない。
しばらく眺めているうちにそれらが一定の決まった動きをした社交ダンスのように見えて来て怖いより何だか滑稽に思えて来た。
しかしあの刀はいただけない、美しいがやはり痛そうだ。
刀を折るのを簡単だがこんな綺麗で手間がかかってそうなものを壊すのは忍びない。
彼らのダンスの合間を縫って、そっと腰に手を回す。
ほとんど夜会に出た事は無かったが存外何とかなるものだ。
ハッと相手が息を飲む音がして、ほんの少しだけ相手と見つめ合う。
相手が惚けているうちにとヒョイと刀を摘み上げた。
指先で持ち上げて、にっこりと微笑む。
ああ、よかった、これで痛くない。
今度は相手はプルプルと震え出し、わあわあ言いながら逃げていく。
「もし、刀は」
そう問いかけてもすでに相手の姿はない。
先ほどまでとは段違いの早さだった。
呆れて追いかけもしなかったが残された刀が気にかかる。
父が手入れをしていた様子を思い出し、道具を買い求め、手入れをした上で預かることにした。
しかし彼らは何度もやってきては何度も刀を置いて行く。
鞘がないので刀掛けを拵えて飾っていたがそろそろ10にもなろうかとしたので鞘を拵えた。
知らなかったが自分は存外器用な方であるらしかった。
白鞘と塗鞘くらいは拵えられるようになった頃には彼らが置いて行った刀は20を越えていた。
気が紛れたせいか以前ほど腹は減らなくなっていた。
1/12ページ