鬼滅の刃
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
胡蝶しのぶはたいへん渋い表情を浮かべていた。
先ほどの隠の報告が思いの外意に沿わぬものだったためである。
隠は膨大な報告書とお館様の意向を記した書類を置いて説明をしていく。
しのぶは深く、息を吐いた。
目の前には11枚の写真が並べられている。
それは全て遊女や花魁と言われる女性たちで、非常に華やかで美しかった。
いわゆるブロマイドと呼ばれるもので人気の役者、芸者、花魁などはこうやって写真を撮り、庶民に売っているのだそうだ。
しかし彼女らは全員すでにこの世にはいない。
彼女らが現在わかっている範囲での鬼の犠牲者である。
「いかがですか。」
何を、としのぶは問わなかった。
話に聞くだけであればそういうこともあり得るか、としか思わなかったはずだった。
視覚情報というのは何よりも雄弁に物語る。
写真はどれも、彼女に似ていた。
隠はしのぶの言葉を待っている。
「鬼は彼女を求めている、ということですか。」
「おそらく。」
隠はしのぶの言葉に前のめりになって応えた。
正気を無くして彼女を求めているのか。
そして鬼殺隊は彼女を囮に、しようというのですか。
以前も報告があったようにその男はその後消息を断っている。
死んだのかそれとも鬼になったのか、元から鬼、だったのか。
しかしそれを探ろうにも屋敷に一人残っていた老婆は気を違えて先日息を引き取った。
彼女を探している?
わからない。自分で追い出しておいて、そのようなことをする理由があるのか。
あるいは鬼になったので記憶が混濁し、唯一残った何かが彼女なのか。
しのぶは頭を振った。
鬼のことなどわからない。分かりたくもない。
だけど、
しのぶは姉のことを思い出す。
鬼は人間だった時のことを完全に忘れているわけではない。
「彼女を、元の生活へは返してあげられない、のですね。」
しのぶはお館様の意向……実質的には命令書を見ながらあえて尋ねた。
隠は肯定も否定もしなかった。
水柱冨岡義勇は変わり者揃いの柱の中でも一風変わった男である。
実力十分、風貌涼やかでありながら口を開くことは滅多になく、開いたかと思えば周りの反感を買う言動しか出来ない。
付き合いも長くなり、彼の意を汲み取れば本来は違う意味なのだろうが相当に誤解を受けやすいのには違いなかった。
かと言ってしのぶはわざわざその誤解を解いてやろうとは思わなかった。
冨岡が今、蝶屋敷で手合わせを行なっている。
その相手は誰あろう、牡丹である。
牡丹がそれを断らなかったのは意外だった。
手合わせなど、武道など縁のない生活を送ってきたはずだからだ。
しかし彼女は最初こそ木刀を持て余していたがやがて正しくしっかりと握り直した。
素振りをする様を見る限り、全くの初めてではないように見受けられた。
「筋は悪くない。習ったことが?」
冨岡が珍しく口を開く。
「はい、まだ子供の時分に祖父の稽古を眺めておりました。
あとは近所の変わり者の爺様が刀を握らせてくれたのです。」
かなり重かったと牡丹は笑った。
軽い打ち合いに入ると牡丹はそれを打ち込まれるギリギリまで太刀筋をみて、奇妙な動きでぬるりと避けた。
それなりに打ち合いが形になった後、冨岡は日輪刀を抜き、水の型を見せることになった。
ただこれが、胡蝶にとっても富岡にとっても、そして恐らく牡丹にとっても予想外の出来事とあいなった。
そしてこれが運命の分かれ道だったのだ。
冨岡が型を見せた時、牡丹はその間合いに入り、あろう事かその剣筋の先に首を晒したのだ。
「どういうことだ胡蝶!」
冨岡が叫ぶのも当然であろう。
しかししのぶは普通通りに答えた。
「あらあらどうしました。」
牡丹は確かに途中までは大人しく型を見ていたのだ。
しかし途中からそれは見惚れるように恍惚とした眼差しとなり、しのぶが気づいた時には身を乗り出し、止める間も無く剣筋を見極めてちょうどいい塩梅のところにその細く白い首を晒したのだ。
冨岡はそれを皮一枚で止めた。その上で手首を返して牡丹の後頭部に一撃を入れ、力が抜けたところをもう片方の手でがしりと支えている。
牡丹は気絶までは至っておらず、富岡の腕の中ですまなそうに項垂れている。
「申し訳ございませんでした。綺麗な太刀筋だったのでつい。」
「あらそれはいけませんね。」
2人ののんびりした様子に冨岡が激昂する。
「ついで切られてどうする。
お前が鬼ではない以上、切る方にも迷惑だ。」
それは当然の主張だった。そこまでは。
その後がいけなかった。
「死ぬくらいなら鬼と戦って死ね。」
「ちょっと冨岡さん、それは言い過ぎじゃないですか、彼女は。」
しのぶが思わず口を挟む。
「そうですよね、私忘れていました。」
彼女は困ったように笑った。
ここで人と同じように扱われて、まるで自分も人であるかのように、大事な命であるかのように思ってしまっていました。
そうですね、私とうに人ではなくなったのに。
しのぶは珍しく不機嫌さを露わにした。
だから冨岡さんは嫌われるんです。
そしてこの後も彼女の誤解を解く気も、言葉を尽くす気もないんでしょう。
「戦いたいなら、戦えるのであれば戦え。」
「首を差し出す癖が治ったら、また稽古をつけてくださいますか。」
冨岡は無言でうなづき、踵を返した。
「ちょっと、冨岡さん!もう。」
しのぶがパタパタと追いかけたが冨岡は満足そうに微笑んでいるだけだった。
この時しっかりと引き留めなかったことをしのぶは後日歯噛みすることになる。
何せ翌日には正式な鬼殺隊入隊の書類が届いたのだから。
牡丹は当然驚いた。
しのぶは笑顔のまま額に青筋を浮かべている。
「え?なんか試験とかあるのでは。」
「あなたの場合、下位とはいえ隊員を返り討ちにしていますし、最終選別を受けるにしても藤襲山の鬼を全滅させかねないので補充が大変です。」
しのぶはなんてことないように言ってのけ、茶を啜った。
しかし話に聞く限り、当時の柱がようよう捕まえたかなり強い鬼もいるはずだが。
「それは買い被りすぎでは。」
「それにすでに冨岡さんが試験済みなので。」
被せるように苛立ちを露わにしたしのぶが応える。
もちろん苛立ちの矛先は冨岡である。
「え?あれ、稽古じゃなかったんですか。」
「私も稽古だと思っていたのですが違うようです。」
しのぶはガックリと肩を落とす。
「私怒られましたけど。」
「首差し出さなければ良いんじゃないですか。」
しのぶは開き直ることにした。
(差し出しましたが?)
牡丹は当然疑問に思ったがしのぶがいいというのだからいいのだろうと受け入れることにした。
かくして牡丹は鬼殺隊に入隊することとあいなったのである。
先ほどの隠の報告が思いの外意に沿わぬものだったためである。
隠は膨大な報告書とお館様の意向を記した書類を置いて説明をしていく。
しのぶは深く、息を吐いた。
目の前には11枚の写真が並べられている。
それは全て遊女や花魁と言われる女性たちで、非常に華やかで美しかった。
いわゆるブロマイドと呼ばれるもので人気の役者、芸者、花魁などはこうやって写真を撮り、庶民に売っているのだそうだ。
しかし彼女らは全員すでにこの世にはいない。
彼女らが現在わかっている範囲での鬼の犠牲者である。
「いかがですか。」
何を、としのぶは問わなかった。
話に聞くだけであればそういうこともあり得るか、としか思わなかったはずだった。
視覚情報というのは何よりも雄弁に物語る。
写真はどれも、彼女に似ていた。
隠はしのぶの言葉を待っている。
「鬼は彼女を求めている、ということですか。」
「おそらく。」
隠はしのぶの言葉に前のめりになって応えた。
正気を無くして彼女を求めているのか。
そして鬼殺隊は彼女を囮に、しようというのですか。
以前も報告があったようにその男はその後消息を断っている。
死んだのかそれとも鬼になったのか、元から鬼、だったのか。
しかしそれを探ろうにも屋敷に一人残っていた老婆は気を違えて先日息を引き取った。
彼女を探している?
わからない。自分で追い出しておいて、そのようなことをする理由があるのか。
あるいは鬼になったので記憶が混濁し、唯一残った何かが彼女なのか。
しのぶは頭を振った。
鬼のことなどわからない。分かりたくもない。
だけど、
しのぶは姉のことを思い出す。
鬼は人間だった時のことを完全に忘れているわけではない。
「彼女を、元の生活へは返してあげられない、のですね。」
しのぶはお館様の意向……実質的には命令書を見ながらあえて尋ねた。
隠は肯定も否定もしなかった。
水柱冨岡義勇は変わり者揃いの柱の中でも一風変わった男である。
実力十分、風貌涼やかでありながら口を開くことは滅多になく、開いたかと思えば周りの反感を買う言動しか出来ない。
付き合いも長くなり、彼の意を汲み取れば本来は違う意味なのだろうが相当に誤解を受けやすいのには違いなかった。
かと言ってしのぶはわざわざその誤解を解いてやろうとは思わなかった。
冨岡が今、蝶屋敷で手合わせを行なっている。
その相手は誰あろう、牡丹である。
牡丹がそれを断らなかったのは意外だった。
手合わせなど、武道など縁のない生活を送ってきたはずだからだ。
しかし彼女は最初こそ木刀を持て余していたがやがて正しくしっかりと握り直した。
素振りをする様を見る限り、全くの初めてではないように見受けられた。
「筋は悪くない。習ったことが?」
冨岡が珍しく口を開く。
「はい、まだ子供の時分に祖父の稽古を眺めておりました。
あとは近所の変わり者の爺様が刀を握らせてくれたのです。」
かなり重かったと牡丹は笑った。
軽い打ち合いに入ると牡丹はそれを打ち込まれるギリギリまで太刀筋をみて、奇妙な動きでぬるりと避けた。
それなりに打ち合いが形になった後、冨岡は日輪刀を抜き、水の型を見せることになった。
ただこれが、胡蝶にとっても富岡にとっても、そして恐らく牡丹にとっても予想外の出来事とあいなった。
そしてこれが運命の分かれ道だったのだ。
冨岡が型を見せた時、牡丹はその間合いに入り、あろう事かその剣筋の先に首を晒したのだ。
「どういうことだ胡蝶!」
冨岡が叫ぶのも当然であろう。
しかししのぶは普通通りに答えた。
「あらあらどうしました。」
牡丹は確かに途中までは大人しく型を見ていたのだ。
しかし途中からそれは見惚れるように恍惚とした眼差しとなり、しのぶが気づいた時には身を乗り出し、止める間も無く剣筋を見極めてちょうどいい塩梅のところにその細く白い首を晒したのだ。
冨岡はそれを皮一枚で止めた。その上で手首を返して牡丹の後頭部に一撃を入れ、力が抜けたところをもう片方の手でがしりと支えている。
牡丹は気絶までは至っておらず、富岡の腕の中ですまなそうに項垂れている。
「申し訳ございませんでした。綺麗な太刀筋だったのでつい。」
「あらそれはいけませんね。」
2人ののんびりした様子に冨岡が激昂する。
「ついで切られてどうする。
お前が鬼ではない以上、切る方にも迷惑だ。」
それは当然の主張だった。そこまでは。
その後がいけなかった。
「死ぬくらいなら鬼と戦って死ね。」
「ちょっと冨岡さん、それは言い過ぎじゃないですか、彼女は。」
しのぶが思わず口を挟む。
「そうですよね、私忘れていました。」
彼女は困ったように笑った。
ここで人と同じように扱われて、まるで自分も人であるかのように、大事な命であるかのように思ってしまっていました。
そうですね、私とうに人ではなくなったのに。
しのぶは珍しく不機嫌さを露わにした。
だから冨岡さんは嫌われるんです。
そしてこの後も彼女の誤解を解く気も、言葉を尽くす気もないんでしょう。
「戦いたいなら、戦えるのであれば戦え。」
「首を差し出す癖が治ったら、また稽古をつけてくださいますか。」
冨岡は無言でうなづき、踵を返した。
「ちょっと、冨岡さん!もう。」
しのぶがパタパタと追いかけたが冨岡は満足そうに微笑んでいるだけだった。
この時しっかりと引き留めなかったことをしのぶは後日歯噛みすることになる。
何せ翌日には正式な鬼殺隊入隊の書類が届いたのだから。
牡丹は当然驚いた。
しのぶは笑顔のまま額に青筋を浮かべている。
「え?なんか試験とかあるのでは。」
「あなたの場合、下位とはいえ隊員を返り討ちにしていますし、最終選別を受けるにしても藤襲山の鬼を全滅させかねないので補充が大変です。」
しのぶはなんてことないように言ってのけ、茶を啜った。
しかし話に聞く限り、当時の柱がようよう捕まえたかなり強い鬼もいるはずだが。
「それは買い被りすぎでは。」
「それにすでに冨岡さんが試験済みなので。」
被せるように苛立ちを露わにしたしのぶが応える。
もちろん苛立ちの矛先は冨岡である。
「え?あれ、稽古じゃなかったんですか。」
「私も稽古だと思っていたのですが違うようです。」
しのぶはガックリと肩を落とす。
「私怒られましたけど。」
「首差し出さなければ良いんじゃないですか。」
しのぶは開き直ることにした。
(差し出しましたが?)
牡丹は当然疑問に思ったがしのぶがいいというのだからいいのだろうと受け入れることにした。
かくして牡丹は鬼殺隊に入隊することとあいなったのである。