鬼滅の刃
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蝶屋敷には桜の木がある。
必勝、という何とも勇ましい名前が付いていて、若々しく、勢いのある風情であった。
今は青々とした葉がぎっしりと隙間なく茂っており、あの山に生えていた桜とはだいぶ趣が異なる。
あの桜は先日まで満開だったが流石に今は夏も近い。きっと散ってしまっているだろう。しんみりとその幹を撫でていたその時だった。
おう、とだけ掛けられた声に牡丹は振り向いた。
お久しぶりです、と応えようとして牡丹は口をぽかんと開いたまま固まった。
目の前の男はぶっきらぼうに元気だったか、とこちらを覗き込む。
いや、それどころではない。
「私は元気ですがその前に、あなたのその怪我はどうしたんですか。」
目の前の男は目に眩しいほどに白い包帯をこれでもかと言わんばかりにぐるぐると巻かれていた。
顔に新たな傷は見受けられないので巻かれていなかったがそうでなかったら包帯が歩いていると思っただろう。
元々傷だらけなのにさらに傷が増えたのだろうし、治療後だというのに血の匂いがまだこびりついている。
不死川はそれには特に返事をしなかった。
牡丹ははたと気付いてしまった。
胡蝶様やアオイちゃんから今隊員が少なく、とても忙しいのだとは聞いている。
何より先日自分がある意味動ける隊員を減らしたのは十分承知している。
みるみる青ざめた牡丹を見て不死川は彼女が思うことを察したようだった。
「うちの隊員の質が悪いせいだ、鬼でもない相手に惑わされて襲いかかって無力化されて呆けていやがる輩がどうかしている。
お前が気に病むことはない。」
そう言ってゆっくりと牡丹に手を伸ばし、一瞬ためらってから彼女の頭をそっと撫ぜた。
滑らかな髪の感触に不死川は我を忘れそうになった。
それを取り戻したのは彼女の必死な声が耳に届いたためである。
「しかしそのせいで柱や上位の隊員に負担がかかり、こんな怪我を負ってきたのではないですか。」
不死川は先日のお館様との話を思い出していた。
数名の柱が招集され、牡丹を鬼殺隊にいれたいが皆はどう思うかと問われたのである。
不死川は我先にと口火を切った。
「俺は反対です。
いくら人ならざる力を持ち、何の隊員では相手にならない強さがあったとて、鬼が切れる訳ではない。
剣術や体術の心得がある訳でもない普通に生きてきた娘です。」
元は武士の、そして軍医の家柄とは言え、娘にそのような稽古をつけてはいまい。
ましてや人であった頃には病弱で満足に走ることもできなかった娘である。
何より彼女を危ない目には遭わせたくなかった。
「しかしその娘、獣を狩り、少なからず呼吸を修めた隊員から刀を取り上げ、役立たずにするほどの技量を持っているだろう?
せっかくの人材を見過ごせるほど、鬼殺隊は余裕がある訳ではない。
娘のいた家には鬼が出たとも言うし、
迎え入れた方が我々にとっても都合が良いのではないか?」
普段は気が合うはずの蛇柱、伊黒小芭内の言葉がやけに耳に響く。
確かにその通り、その通りなのだが今、不死川にとっては余計なことにしか聞こえなかった。
「もちろん無理にとは言わないよ。だけどね、もしその娘さえ昰と言ってくれれば隊員として迎え入れたいと思っているんだ。」
お館様の心地よい声音が不死川の耳をくすぐる。
「心得がなければ皆で稽古をつければ良い。もし才がなくとも膂力があるのだから隠も出来よう。」
岩柱悲鳴嶼行冥の低く重い声が響き、その場はとりあえず収められた。
しかし同じ場にいた炎柱、煉獄杏寿郎は、不死川がその場にいたことを忘れるほど存在感を感じさせないまま、不気味なほど押し黙っていた。
ふと思い出した不死川が振り向いたが彼は俯いたままであり、表情は窺い知れない。
その様子に不安に駆られつつ任務に赴き、早急に終わらせてすぐに彼女に会いに来てしまったがいらぬ心配だったようだ。
この様子では胡蝶も彼女の鬼殺隊入隊には反対するだろう。
胡蝶が煉獄が彼女に面会に来ても会わせるような愚行を犯すとは思えない。
尚もこちらの怪我を心配する彼女を宥め、また来てきちんと治療を受けると約束するとようやく安堵した彼女に気を良くし、今度来る時は何か菓子でも持ってこようとあれこれ思案する不死川であった。
その日の夜中のことである。
牡丹は夢の中を揺蕩っていた。
窓から溢れる月明かりの中に何やら一際明るいものが見えてうっすらと目を開けると手の届く範囲に鮮やかな黄色が飛び込んできた。
少し朱が入ったその黄色はどこかで見た覚えがあった。
夢現にぼんやりと眺めているとその黄色が喋り出す。
すまない、君を巻き込むつもりはなかった。
三度会えた嬉しさに我を忘れた。君を怖がらせる気はなかった。
だがどうしても抑えられなかった。
何やら謝られているようだがよく分からない。
確かにその声音には覚えがあったがその人はこんなに弱々しい声で話す人ではない。
鼓膜が裂けるかと思うほど大声でハキハキと喋る人のはずだ。
となるとなるほどこれは夢なのだろう。
きっとこの目の前の黄色はひよこに違いない。
ひよこさわりたいふわふわひよこ
寝ぼけた頭で辻褄の合わないことを思いつつ、牡丹はその黄色に手を伸ばす。
びくりと反応する黄色に気に留めることなく、その黄色をやわやわと撫で回した。
ひよこにしては硬い感触だが触り心地は悪くない。
人以外のものに触るのは久しぶりだ。ましてやひよこに触るのは初めてだ。
ぷるぷると震えるひよこに強くしすぎたかと思い直してさらに優しく、かつ微笑みを浮かべて撫で回す。
大丈夫、怖くないよ。
ひよこが怖がらないように、震えないように牡丹はやわやわと手を動かし続ける。
ひよこはますます硬くなり、ぷるぷるとさらに震え続ける。
人が怖いのだろうか、そうかあ。
やがて牡丹に再び睡魔が襲いかかり、いつまでも硬く震えるひよこにいささか憐憫を覚えつつ、手を離し、眠りに落ちた。
ガラリ、と部屋の戸が開いた直後、ドゴッという鈍い音がしてその人型の影の鳩尾に一発入った。
「煉獄さん、このような夜更けに婦女子の部屋に入るとは感心できませんね。」
彼女の部屋から出て来た人物にしのぶは怒りを隠さず、言い放った。
「うむ、しまった、入る時には注意をしていたのだが。」
悪びれもせず、しかし眠る彼女を慮ってか、かなり(彼にしては)声量を落として煉獄は答えた。
鳩尾に入った一発は効いた様子がない。
しのぶは自身のこめかみを抑えながら怒りを耐えた。
張り巡らされた罠、外からの侵入者があれば本来はしのぶの部屋に続く鈴が鳴るはずだった。
無論それは中から出る時も同様である。
彼女であればこちらの言いつけをよく守り、夜に部屋の外に出る場合には控えめに鈴を鳴らす。
つまりはこんなにチリンチリンと鈴が鳴る、ということは侵入者がいたということには他ならない。
「よもやこのような重畳に恵まれるとは露ともしれず、うっかり。」
ちょっと何を言っているか分からない。
しのぶは煉獄の顔を見た。
煉獄の顔は真っ赤である。
「まさか不埒な真似は働いておいでではないですよね。」
胡乱な目を向けながらしのぶは硬く握り拳を作る。
「うむ、しかしなんとも眼福であった。」
噛み合っているような噛み合っていないような会話に今度こそしのぶは全力を込めてもう一発入れ直し、煉獄はそれを甘んじて受けた。
昏倒させるまではいかなかったが煉獄のその体躯がくの字に折れ曲がるまでには効いたようなのでしのぶは満足である。
必勝、という何とも勇ましい名前が付いていて、若々しく、勢いのある風情であった。
今は青々とした葉がぎっしりと隙間なく茂っており、あの山に生えていた桜とはだいぶ趣が異なる。
あの桜は先日まで満開だったが流石に今は夏も近い。きっと散ってしまっているだろう。しんみりとその幹を撫でていたその時だった。
おう、とだけ掛けられた声に牡丹は振り向いた。
お久しぶりです、と応えようとして牡丹は口をぽかんと開いたまま固まった。
目の前の男はぶっきらぼうに元気だったか、とこちらを覗き込む。
いや、それどころではない。
「私は元気ですがその前に、あなたのその怪我はどうしたんですか。」
目の前の男は目に眩しいほどに白い包帯をこれでもかと言わんばかりにぐるぐると巻かれていた。
顔に新たな傷は見受けられないので巻かれていなかったがそうでなかったら包帯が歩いていると思っただろう。
元々傷だらけなのにさらに傷が増えたのだろうし、治療後だというのに血の匂いがまだこびりついている。
不死川はそれには特に返事をしなかった。
牡丹ははたと気付いてしまった。
胡蝶様やアオイちゃんから今隊員が少なく、とても忙しいのだとは聞いている。
何より先日自分がある意味動ける隊員を減らしたのは十分承知している。
みるみる青ざめた牡丹を見て不死川は彼女が思うことを察したようだった。
「うちの隊員の質が悪いせいだ、鬼でもない相手に惑わされて襲いかかって無力化されて呆けていやがる輩がどうかしている。
お前が気に病むことはない。」
そう言ってゆっくりと牡丹に手を伸ばし、一瞬ためらってから彼女の頭をそっと撫ぜた。
滑らかな髪の感触に不死川は我を忘れそうになった。
それを取り戻したのは彼女の必死な声が耳に届いたためである。
「しかしそのせいで柱や上位の隊員に負担がかかり、こんな怪我を負ってきたのではないですか。」
不死川は先日のお館様との話を思い出していた。
数名の柱が招集され、牡丹を鬼殺隊にいれたいが皆はどう思うかと問われたのである。
不死川は我先にと口火を切った。
「俺は反対です。
いくら人ならざる力を持ち、何の隊員では相手にならない強さがあったとて、鬼が切れる訳ではない。
剣術や体術の心得がある訳でもない普通に生きてきた娘です。」
元は武士の、そして軍医の家柄とは言え、娘にそのような稽古をつけてはいまい。
ましてや人であった頃には病弱で満足に走ることもできなかった娘である。
何より彼女を危ない目には遭わせたくなかった。
「しかしその娘、獣を狩り、少なからず呼吸を修めた隊員から刀を取り上げ、役立たずにするほどの技量を持っているだろう?
せっかくの人材を見過ごせるほど、鬼殺隊は余裕がある訳ではない。
娘のいた家には鬼が出たとも言うし、
迎え入れた方が我々にとっても都合が良いのではないか?」
普段は気が合うはずの蛇柱、伊黒小芭内の言葉がやけに耳に響く。
確かにその通り、その通りなのだが今、不死川にとっては余計なことにしか聞こえなかった。
「もちろん無理にとは言わないよ。だけどね、もしその娘さえ昰と言ってくれれば隊員として迎え入れたいと思っているんだ。」
お館様の心地よい声音が不死川の耳をくすぐる。
「心得がなければ皆で稽古をつければ良い。もし才がなくとも膂力があるのだから隠も出来よう。」
岩柱悲鳴嶼行冥の低く重い声が響き、その場はとりあえず収められた。
しかし同じ場にいた炎柱、煉獄杏寿郎は、不死川がその場にいたことを忘れるほど存在感を感じさせないまま、不気味なほど押し黙っていた。
ふと思い出した不死川が振り向いたが彼は俯いたままであり、表情は窺い知れない。
その様子に不安に駆られつつ任務に赴き、早急に終わらせてすぐに彼女に会いに来てしまったがいらぬ心配だったようだ。
この様子では胡蝶も彼女の鬼殺隊入隊には反対するだろう。
胡蝶が煉獄が彼女に面会に来ても会わせるような愚行を犯すとは思えない。
尚もこちらの怪我を心配する彼女を宥め、また来てきちんと治療を受けると約束するとようやく安堵した彼女に気を良くし、今度来る時は何か菓子でも持ってこようとあれこれ思案する不死川であった。
その日の夜中のことである。
牡丹は夢の中を揺蕩っていた。
窓から溢れる月明かりの中に何やら一際明るいものが見えてうっすらと目を開けると手の届く範囲に鮮やかな黄色が飛び込んできた。
少し朱が入ったその黄色はどこかで見た覚えがあった。
夢現にぼんやりと眺めているとその黄色が喋り出す。
すまない、君を巻き込むつもりはなかった。
三度会えた嬉しさに我を忘れた。君を怖がらせる気はなかった。
だがどうしても抑えられなかった。
何やら謝られているようだがよく分からない。
確かにその声音には覚えがあったがその人はこんなに弱々しい声で話す人ではない。
鼓膜が裂けるかと思うほど大声でハキハキと喋る人のはずだ。
となるとなるほどこれは夢なのだろう。
きっとこの目の前の黄色はひよこに違いない。
ひよこさわりたいふわふわひよこ
寝ぼけた頭で辻褄の合わないことを思いつつ、牡丹はその黄色に手を伸ばす。
びくりと反応する黄色に気に留めることなく、その黄色をやわやわと撫で回した。
ひよこにしては硬い感触だが触り心地は悪くない。
人以外のものに触るのは久しぶりだ。ましてやひよこに触るのは初めてだ。
ぷるぷると震えるひよこに強くしすぎたかと思い直してさらに優しく、かつ微笑みを浮かべて撫で回す。
大丈夫、怖くないよ。
ひよこが怖がらないように、震えないように牡丹はやわやわと手を動かし続ける。
ひよこはますます硬くなり、ぷるぷるとさらに震え続ける。
人が怖いのだろうか、そうかあ。
やがて牡丹に再び睡魔が襲いかかり、いつまでも硬く震えるひよこにいささか憐憫を覚えつつ、手を離し、眠りに落ちた。
ガラリ、と部屋の戸が開いた直後、ドゴッという鈍い音がしてその人型の影の鳩尾に一発入った。
「煉獄さん、このような夜更けに婦女子の部屋に入るとは感心できませんね。」
彼女の部屋から出て来た人物にしのぶは怒りを隠さず、言い放った。
「うむ、しまった、入る時には注意をしていたのだが。」
悪びれもせず、しかし眠る彼女を慮ってか、かなり(彼にしては)声量を落として煉獄は答えた。
鳩尾に入った一発は効いた様子がない。
しのぶは自身のこめかみを抑えながら怒りを耐えた。
張り巡らされた罠、外からの侵入者があれば本来はしのぶの部屋に続く鈴が鳴るはずだった。
無論それは中から出る時も同様である。
彼女であればこちらの言いつけをよく守り、夜に部屋の外に出る場合には控えめに鈴を鳴らす。
つまりはこんなにチリンチリンと鈴が鳴る、ということは侵入者がいたということには他ならない。
「よもやこのような重畳に恵まれるとは露ともしれず、うっかり。」
ちょっと何を言っているか分からない。
しのぶは煉獄の顔を見た。
煉獄の顔は真っ赤である。
「まさか不埒な真似は働いておいでではないですよね。」
胡乱な目を向けながらしのぶは硬く握り拳を作る。
「うむ、しかしなんとも眼福であった。」
噛み合っているような噛み合っていないような会話に今度こそしのぶは全力を込めてもう一発入れ直し、煉獄はそれを甘んじて受けた。
昏倒させるまではいかなかったが煉獄のその体躯がくの字に折れ曲がるまでには効いたようなのでしのぶは満足である。