キメツ学園
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※狛恋前提
お昼休み。
私は急いで教室を抜け出した。
「あれ牡丹、お昼どうすんの?」
「ごめーんちょっと約束があるー。」
クラスメイトの声を後ろに私は駆け出した。
ひとまずは音楽室の向こう、誰も来ない場所へ。
恋雪とはキメツ学園の中等部の入学式で初めて会って仲良くなった。
小さくて可愛らしくて大人しいのに、恋雪は勇気を出して私に声をかけてくれた。
大事な友達だし、それは今でも変わらない。
だけど
私は、なぜか恋雪の恋人の(高等部に入ってすぐ学生結婚したので今は恋雪の夫となった)狛治くんがとても苦手だった。
彼の名誉のために言わせて貰えば、彼に何か落ち度があるわけではない。
いくらか粗暴な節はあるが、他の人間に対しても、もちろん私に対しても親切で、嫌なことをされたわけではない。
2人はとても仲良しで、狛治くんは恋雪をいつも大事にしているし、狛治くんといるときの恋雪は安心し切っていて、見ているこちらもとても和む。お似合いの夫婦だと思っているがどうしても、どうしても私は狛治くんが苦手で、一緒にいるといたたまれない気持ちになるのだ。
忘れようとしても思い出せない、そんなモヤモヤにとらわれて、私は逃げ出したくなってしまう。
その気持ちは高等部に入ってからなぜか一層強くなっていた。
理由を聞かれても答えられないから、今、二人に会うわけには行かない。
もう少しだけ、もうちょっとだけ落ち着いてから恋雪と話そう。
そう言いながら私はこうやって逃げ回っていた。
「おい。」
ふと私の腕を誰かが掴む。
ぎくりと身体が固まる。
狛治くんだった。
「なんで」
狛治くんは一瞬何かためらうように言葉を切ったがそのまま言葉を続けた。
「なんで逃げるんだよ。」
わからない、わからないんだよ、狛治くん。
そう言えれば良かったんだろうか。
きっと怒っているのだと、恋雪ちゃんを悲しませる私を怒っているんだとそう思ったのに。
そこにいた彼はとても苦しそうだった。
せっかく新婚なんだから一緒にいなよ、とか当たり障りのないことを言ってみようと思っていたのに、私は何を言ったら良いかわからなくなった。
どのくらいそうしていただろう。
狛治くんは少し手を緩めて、思いもよらないことを呟いた。
「何か、思い出したのか……?」
何か?何を?私が何を思い出すと言うの?
呆気にとられていると今度は上から声が降ってきた。
「おーおーこんなところでいちゃついてんのはどいつだ?」
二人でバッと音がする程の勢いで首を上げる。
宇髄先生だ。
そういえばここは美術室が近い。
でもいつもなら先生は、昼休みなら食堂に行って、他の生徒に囲まれている頃なのに。
宇髄先生はじろりと狛治くんを睨めつけた。
「なんだ、3年の素山狛治じゃねえか。……新婚早々浮気は感心しねえなあ?」
「違う!」
狛治くんはすぐさま叫んだ。
そして私の腕を掴んだままだったことにようやく気付いたのか気まずそうに外してくれた。
「もう、ひどいですよ、宇髄先生。狛治くんが恋雪一筋なのは、よく知っているくせに。」
宇髄先生はふん、と鼻で笑った。
「素山、もう行け。……嫁は一人にしとけよ。」
「もう、先生!」
私が抗議すると狛治くんは黙って行こうとして、物言いたげにチラリと私を見た。
「ごめん、狛治くん……今度、今度絶対にちゃんと恋雪と話すから。」
狛治くんはコクリと頷くとその場を去って行った。
そして私も早速一人になれる場所に行こうとしたが、今度は宇髄先生がその大きな体躯で行手を阻んだ。
「おおっと、平坂はまだだ。さ、じっくり話を聞かせてもらおうじゃねえか。」
そう言うとガッと私の手を握り、ぐんぐんと階段を登って行く。
美術準備室に入ると座るように促された。
さあ座れ話せと言わんばかりに顎をクイッとしゃくられたが、かと言って話せるほど私の中では何も纏まっていない。
それに気づいた先生は徐にコーヒーを煎れ始め、その場にふわりとしたコーヒーのアロマが広がる。
「砂糖、入れるか?」
フルフルと首を振った私に、そうだなと独りごちて私にコーヒーを渡す。
「なんでも良い、思っていること全部言ってみろ。」
先生のその言葉を皮切りに、思ったことをそのまんま、ポツリポツリと話してみた。
話しながら自問自答したり、それは違うと自分で撤回したりと本当に取り止めもなく面白くも無い子どもの話を、いつものように茶化すこともなく、地味だなと一喝することもなく、時折頷きつつ静かに聴いてくれた。
一通り話終わっていくらかスッキリした私が冷めたコーヒーを流し込むと先生はポツリと呟いた。
「それ、あいつらにそのまま行ってやりゃあ良いんだよ。苦手って言えねえんならどう接したら良いかわからないんだ、ってよ。」
そしてポンポンと私の頭を撫でる先生の手は、やはり大きい。
それに暖かくて喉の奥がツンとした。
するりと髪の後ろを撫でて離れて行く手がなんだか名残惜しい。
「そう言えば平坂、昼飯はどうした。」
「あー、いやまだ何も食べていない、です。」
このままでは食いっぱぐれてしまうがもう食堂も売店も売り切れだろうし、仕方ない。
しかしお腹は空いた。
空腹に気付いて肩を落とすと宇髄先生はこれ以上ないドヤ顔でニヤリと笑った。
「そーかそーかちょうど良かった。そこにあるから好きなの食えよ。」
準備室の机の上にはいつの間にか食堂大人気のA定食が2つと、大量のパンが乗っていた。
「俺と食おうぜ?」
勢いよく首肯して、遠慮なくA定食に手を伸ばすと、宇髄先生は声を上げて笑った。
もぐもぐと食べながら、私は食堂と売店の美人3人を思い出す。
宇髄先生とは親戚と言う話を聞いたことがあるが本当はどうなんだろう。
宇髄先生は私を見ながら機嫌良さそうに笑っている。
でもね先生、やはり嫁は1人にしておいた方がいいようですよ。
言葉にしたはずはないのに、先生が片眉を上げる。
「俺はモテるが嫁はいねえよ?」
先生?
「だってお前、嫁は一人の方がいいんだろう?」
うん?距離がどんどん近い。近いです。先生。
それとも牡丹、……本当に思い出したのか。
宇髄先生の熱い吐息が耳にかかる。なのに、
ヒュウっと冷たい風が吹いた気がした。
お昼休み。
私は急いで教室を抜け出した。
「あれ牡丹、お昼どうすんの?」
「ごめーんちょっと約束があるー。」
クラスメイトの声を後ろに私は駆け出した。
ひとまずは音楽室の向こう、誰も来ない場所へ。
恋雪とはキメツ学園の中等部の入学式で初めて会って仲良くなった。
小さくて可愛らしくて大人しいのに、恋雪は勇気を出して私に声をかけてくれた。
大事な友達だし、それは今でも変わらない。
だけど
私は、なぜか恋雪の恋人の(高等部に入ってすぐ学生結婚したので今は恋雪の夫となった)狛治くんがとても苦手だった。
彼の名誉のために言わせて貰えば、彼に何か落ち度があるわけではない。
いくらか粗暴な節はあるが、他の人間に対しても、もちろん私に対しても親切で、嫌なことをされたわけではない。
2人はとても仲良しで、狛治くんは恋雪をいつも大事にしているし、狛治くんといるときの恋雪は安心し切っていて、見ているこちらもとても和む。お似合いの夫婦だと思っているがどうしても、どうしても私は狛治くんが苦手で、一緒にいるといたたまれない気持ちになるのだ。
忘れようとしても思い出せない、そんなモヤモヤにとらわれて、私は逃げ出したくなってしまう。
その気持ちは高等部に入ってからなぜか一層強くなっていた。
理由を聞かれても答えられないから、今、二人に会うわけには行かない。
もう少しだけ、もうちょっとだけ落ち着いてから恋雪と話そう。
そう言いながら私はこうやって逃げ回っていた。
「おい。」
ふと私の腕を誰かが掴む。
ぎくりと身体が固まる。
狛治くんだった。
「なんで」
狛治くんは一瞬何かためらうように言葉を切ったがそのまま言葉を続けた。
「なんで逃げるんだよ。」
わからない、わからないんだよ、狛治くん。
そう言えれば良かったんだろうか。
きっと怒っているのだと、恋雪ちゃんを悲しませる私を怒っているんだとそう思ったのに。
そこにいた彼はとても苦しそうだった。
せっかく新婚なんだから一緒にいなよ、とか当たり障りのないことを言ってみようと思っていたのに、私は何を言ったら良いかわからなくなった。
どのくらいそうしていただろう。
狛治くんは少し手を緩めて、思いもよらないことを呟いた。
「何か、思い出したのか……?」
何か?何を?私が何を思い出すと言うの?
呆気にとられていると今度は上から声が降ってきた。
「おーおーこんなところでいちゃついてんのはどいつだ?」
二人でバッと音がする程の勢いで首を上げる。
宇髄先生だ。
そういえばここは美術室が近い。
でもいつもなら先生は、昼休みなら食堂に行って、他の生徒に囲まれている頃なのに。
宇髄先生はじろりと狛治くんを睨めつけた。
「なんだ、3年の素山狛治じゃねえか。……新婚早々浮気は感心しねえなあ?」
「違う!」
狛治くんはすぐさま叫んだ。
そして私の腕を掴んだままだったことにようやく気付いたのか気まずそうに外してくれた。
「もう、ひどいですよ、宇髄先生。狛治くんが恋雪一筋なのは、よく知っているくせに。」
宇髄先生はふん、と鼻で笑った。
「素山、もう行け。……嫁は一人にしとけよ。」
「もう、先生!」
私が抗議すると狛治くんは黙って行こうとして、物言いたげにチラリと私を見た。
「ごめん、狛治くん……今度、今度絶対にちゃんと恋雪と話すから。」
狛治くんはコクリと頷くとその場を去って行った。
そして私も早速一人になれる場所に行こうとしたが、今度は宇髄先生がその大きな体躯で行手を阻んだ。
「おおっと、平坂はまだだ。さ、じっくり話を聞かせてもらおうじゃねえか。」
そう言うとガッと私の手を握り、ぐんぐんと階段を登って行く。
美術準備室に入ると座るように促された。
さあ座れ話せと言わんばかりに顎をクイッとしゃくられたが、かと言って話せるほど私の中では何も纏まっていない。
それに気づいた先生は徐にコーヒーを煎れ始め、その場にふわりとしたコーヒーのアロマが広がる。
「砂糖、入れるか?」
フルフルと首を振った私に、そうだなと独りごちて私にコーヒーを渡す。
「なんでも良い、思っていること全部言ってみろ。」
先生のその言葉を皮切りに、思ったことをそのまんま、ポツリポツリと話してみた。
話しながら自問自答したり、それは違うと自分で撤回したりと本当に取り止めもなく面白くも無い子どもの話を、いつものように茶化すこともなく、地味だなと一喝することもなく、時折頷きつつ静かに聴いてくれた。
一通り話終わっていくらかスッキリした私が冷めたコーヒーを流し込むと先生はポツリと呟いた。
「それ、あいつらにそのまま行ってやりゃあ良いんだよ。苦手って言えねえんならどう接したら良いかわからないんだ、ってよ。」
そしてポンポンと私の頭を撫でる先生の手は、やはり大きい。
それに暖かくて喉の奥がツンとした。
するりと髪の後ろを撫でて離れて行く手がなんだか名残惜しい。
「そう言えば平坂、昼飯はどうした。」
「あー、いやまだ何も食べていない、です。」
このままでは食いっぱぐれてしまうがもう食堂も売店も売り切れだろうし、仕方ない。
しかしお腹は空いた。
空腹に気付いて肩を落とすと宇髄先生はこれ以上ないドヤ顔でニヤリと笑った。
「そーかそーかちょうど良かった。そこにあるから好きなの食えよ。」
準備室の机の上にはいつの間にか食堂大人気のA定食が2つと、大量のパンが乗っていた。
「俺と食おうぜ?」
勢いよく首肯して、遠慮なくA定食に手を伸ばすと、宇髄先生は声を上げて笑った。
もぐもぐと食べながら、私は食堂と売店の美人3人を思い出す。
宇髄先生とは親戚と言う話を聞いたことがあるが本当はどうなんだろう。
宇髄先生は私を見ながら機嫌良さそうに笑っている。
でもね先生、やはり嫁は1人にしておいた方がいいようですよ。
言葉にしたはずはないのに、先生が片眉を上げる。
「俺はモテるが嫁はいねえよ?」
先生?
「だってお前、嫁は一人の方がいいんだろう?」
うん?距離がどんどん近い。近いです。先生。
それとも牡丹、……本当に思い出したのか。
宇髄先生の熱い吐息が耳にかかる。なのに、
ヒュウっと冷たい風が吹いた気がした。