キメツ学園
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※怪我の描写があるので苦手な方は注意。
球技というものはどうにも苦手だ。
私は運動神経は悪い方ではないと思っていたが、それは子供の頃から習っていた剣道や合気道、柔道などに限られていて、走るのも飛ぶのも後ろから数える方が早い。
ただ、普通の徒競走は遅いが障害物競走ではダントツで早く、また部活対抗の徒競走で怪我をした生徒の代わりにハンデがあれば恥にはならないからと防具を付けて走らされたときにもやはりダントツ一位だったので私の普段の鈍臭さを知っている冨岡先生からは普段は手を抜いているのかとそれはもうネチネチと伊黒先生ばりに怒られたのは記憶に新しい。
私としても理由がわからず、何かの呪いにかかっているとしか思えない。
周りの友人は私がふざけているわけでもないことは承知しているのでそれはもういたたまれずとも生暖かい目で見守ってくれている。
今日の授業は珍しく冨岡先生が球技であればどれでも自由にして良いと言い出した。近く行われる球技会の選考のためなのだろう。
友人から卓球であれば玉も小さいし怖くはないだろうと言われて体育館の隅に追いやられていた古い卓球台を引っ張り出し、ラケットを探し出してゆるくラリーを続けていた。
思ったよりもラリーが続くので夢中になっていたのだろうか。
気づいた時には卓球台から出た、なぜか真新しい釘の頭で太腿の一部をガリ、と引っ掛けてしまった。
この学園の女子体操服はなぜか今時ブルマだ。
思いもよらぬ痛みに蹲ると足の付け根から程近いところに、小さいが深い傷が出来ており、血がじんわりと滲み出していく。
誰かが差し出したティッシュで傷を押さえていると(あまり表情が変わらないのでまったく持って分かりにくいが)冨岡先生が駆け寄ってきた。
傷が小さいと見てとると、すぐに保健室に行くように促される。
大丈夫かとも痛くないかとも言葉をかけてはもらえないことに何となく不思議な感覚を覚えつつ、ある意味言葉も表情も足りない冨岡先生にそれを求めるのは酷かと友人の付き添いも断って珠世先生がいる保健室に急いだ。
傷の存在を知覚すると気持ち悪いだけで痛みは存外感じない。
しかし私はどうにも昔から怪我をするとすぐに気分が悪くなってしまう。
それで倒れてしまうことも少なくはなかった。
それを知っているのは珠世先生と、いつも保健室にいる兪史郎くんだけだった。
だからこそ保健室に下げられていた札を見て、私は愕然とした。
急用につき外出中
一縷の望みをかけてドアをノックするが梨の礫。
鍵もかかっていて、救急道具も借りられない。
ということはいつもなら無駄に保健室に常駐している兪史郎くんさえいないということだ。
仕方なく体育館に戻れば皆次の英語の授業に向かうところで、心配して駆け寄った友人が言うにはおそらく体育準備室にも救急箱があるはずだと教えてくれた。
「トミセンならああ見えて大丈夫だから」
と友人の謎に信頼をにじませた言葉を背に、次の授業は遅れると先生への伝言をお願いしつつ、恐る恐る体育準備室に向かう。
ドアをノックした私の顔色がよほど悪かったのだろう。
冨岡先生は珍しく焦った表情を見せ、慌てて中に招き入れてくれた。
珠世先生が留守だったことを告げている間に救急箱を持った先生が足元に座っており、ピンセットと消毒液が無言で目の前に差し出されていた。
横には膿盆が置かれていて、意外ときちんとしたものが準備されているなと思って先生を見上げるが、先生は目を逸らしたままである。
これは自分のことは自分でしろと言うことなのだろう。
私も黙ってそれらを受け取った。
先生は少し離れた事務机に戻り、何かの書類を読みはじめた。
私は覚悟を決めて足の付け根ギリギリの傷口を晒す。
消毒液に浸した脱脂綿を何度も当てるがそれはすぐに真っ赤に染まり、何度か繰り返すうちに出血は緩やかになったがその分傷口が明確に見えてしまった。
小さく裂けた肌の断面の白い脂肪とその奥にある筋らしき何か。
そこまで見てしまった私はもう気分が悪くて仕方なくて、それ以上手が動かなくなってしまった。吐き気がする。
「先生。」
冨岡先生がこちらを向き、そして今度こそ焦った様子で近寄ってきた。
「平坂、」
気遣わしげにこちらを見るが決して傷口には視線をよこさない。
「先生、私これ、気持ち悪い。先生が、して……ください。」
私はきちんと言葉を紡げていただろうか。最後はとてもか細い声になっていたように思う。
震えて動かない私の手から冨岡先生はピンセットを抜き取り、やがてヒヤリとした感触が傷口に当てられた。
痛くもないのに小さく息が漏れる。
こんな小さな傷で、先生の手を煩わせるのは我ながら情けない。
しかしもう私は気分が悪くて吐き気がして、どうすることも出来なかった。硬く目を瞑ってその吐き気に耐えていた。
できるだけ傷に障らぬよう、丁寧に治療を施してくれているのだと思った。
やがて消毒が終わったのか、キズパッドを貼るためにピリ、十袋を破く音がする。
傷口がピタリと合わさるように熱い指が少し太腿をつまむ感触がした時、ふるり、と体が震えた。
「あ、」
思わず声が漏れる。
「痛い、か?」
そして先生と初めて目が合った。
先生の目が潤んでいる。
綺麗な顔に似合わず、先生の大きく分厚い手は細かく震えていた。
私の肌に直接触れてしまわぬよう細心の注意を払ってくれていた。
それに気付いて顔が羞恥に染まる。
私、私、先生になってことを頼んでしまったのだろう。
「すまない、俺に触れられるのは嫌だろうが気をつけるから、もう少し、我慢してくれ。」
それでもこちらを気遣ってくれる先生に、なんと言って謝ったら良いかわからなかった。
なんとか大丈夫だと伝えたくて首を振る。
ごめんなさい、先生。ごめんなさい。
先生は顔色が悪い私に戸惑いながらも大丈夫だと何度も言ってくれた。
やがて青い顔色のままの私を抱き上げるとソファに寝かせてくれた。
自身の上着を掛けると珠世先生に連絡を取ることと次の英語の授業は休むと伝えてくるから安心して休めと言い残して部屋を出て行った。
私はなんだかとても申し訳なくって、なのになんだかとてもホワホワした気持ちになって、上着から香る汗と埃とオーデコロンの香りを感じながらそのまま眠りに落ちた。
目を開けた時、先生が近くに立っていて、なぜかそのすぐ後ろにいた珠世先生が笑顔のままで怒っていたが果たして何が起こったのか私にはわからない。
※2021/4/22 一部加筆修正
球技というものはどうにも苦手だ。
私は運動神経は悪い方ではないと思っていたが、それは子供の頃から習っていた剣道や合気道、柔道などに限られていて、走るのも飛ぶのも後ろから数える方が早い。
ただ、普通の徒競走は遅いが障害物競走ではダントツで早く、また部活対抗の徒競走で怪我をした生徒の代わりにハンデがあれば恥にはならないからと防具を付けて走らされたときにもやはりダントツ一位だったので私の普段の鈍臭さを知っている冨岡先生からは普段は手を抜いているのかとそれはもうネチネチと伊黒先生ばりに怒られたのは記憶に新しい。
私としても理由がわからず、何かの呪いにかかっているとしか思えない。
周りの友人は私がふざけているわけでもないことは承知しているのでそれはもういたたまれずとも生暖かい目で見守ってくれている。
今日の授業は珍しく冨岡先生が球技であればどれでも自由にして良いと言い出した。近く行われる球技会の選考のためなのだろう。
友人から卓球であれば玉も小さいし怖くはないだろうと言われて体育館の隅に追いやられていた古い卓球台を引っ張り出し、ラケットを探し出してゆるくラリーを続けていた。
思ったよりもラリーが続くので夢中になっていたのだろうか。
気づいた時には卓球台から出た、なぜか真新しい釘の頭で太腿の一部をガリ、と引っ掛けてしまった。
この学園の女子体操服はなぜか今時ブルマだ。
思いもよらぬ痛みに蹲ると足の付け根から程近いところに、小さいが深い傷が出来ており、血がじんわりと滲み出していく。
誰かが差し出したティッシュで傷を押さえていると(あまり表情が変わらないのでまったく持って分かりにくいが)冨岡先生が駆け寄ってきた。
傷が小さいと見てとると、すぐに保健室に行くように促される。
大丈夫かとも痛くないかとも言葉をかけてはもらえないことに何となく不思議な感覚を覚えつつ、ある意味言葉も表情も足りない冨岡先生にそれを求めるのは酷かと友人の付き添いも断って珠世先生がいる保健室に急いだ。
傷の存在を知覚すると気持ち悪いだけで痛みは存外感じない。
しかし私はどうにも昔から怪我をするとすぐに気分が悪くなってしまう。
それで倒れてしまうことも少なくはなかった。
それを知っているのは珠世先生と、いつも保健室にいる兪史郎くんだけだった。
だからこそ保健室に下げられていた札を見て、私は愕然とした。
急用につき外出中
一縷の望みをかけてドアをノックするが梨の礫。
鍵もかかっていて、救急道具も借りられない。
ということはいつもなら無駄に保健室に常駐している兪史郎くんさえいないということだ。
仕方なく体育館に戻れば皆次の英語の授業に向かうところで、心配して駆け寄った友人が言うにはおそらく体育準備室にも救急箱があるはずだと教えてくれた。
「トミセンならああ見えて大丈夫だから」
と友人の謎に信頼をにじませた言葉を背に、次の授業は遅れると先生への伝言をお願いしつつ、恐る恐る体育準備室に向かう。
ドアをノックした私の顔色がよほど悪かったのだろう。
冨岡先生は珍しく焦った表情を見せ、慌てて中に招き入れてくれた。
珠世先生が留守だったことを告げている間に救急箱を持った先生が足元に座っており、ピンセットと消毒液が無言で目の前に差し出されていた。
横には膿盆が置かれていて、意外ときちんとしたものが準備されているなと思って先生を見上げるが、先生は目を逸らしたままである。
これは自分のことは自分でしろと言うことなのだろう。
私も黙ってそれらを受け取った。
先生は少し離れた事務机に戻り、何かの書類を読みはじめた。
私は覚悟を決めて足の付け根ギリギリの傷口を晒す。
消毒液に浸した脱脂綿を何度も当てるがそれはすぐに真っ赤に染まり、何度か繰り返すうちに出血は緩やかになったがその分傷口が明確に見えてしまった。
小さく裂けた肌の断面の白い脂肪とその奥にある筋らしき何か。
そこまで見てしまった私はもう気分が悪くて仕方なくて、それ以上手が動かなくなってしまった。吐き気がする。
「先生。」
冨岡先生がこちらを向き、そして今度こそ焦った様子で近寄ってきた。
「平坂、」
気遣わしげにこちらを見るが決して傷口には視線をよこさない。
「先生、私これ、気持ち悪い。先生が、して……ください。」
私はきちんと言葉を紡げていただろうか。最後はとてもか細い声になっていたように思う。
震えて動かない私の手から冨岡先生はピンセットを抜き取り、やがてヒヤリとした感触が傷口に当てられた。
痛くもないのに小さく息が漏れる。
こんな小さな傷で、先生の手を煩わせるのは我ながら情けない。
しかしもう私は気分が悪くて吐き気がして、どうすることも出来なかった。硬く目を瞑ってその吐き気に耐えていた。
できるだけ傷に障らぬよう、丁寧に治療を施してくれているのだと思った。
やがて消毒が終わったのか、キズパッドを貼るためにピリ、十袋を破く音がする。
傷口がピタリと合わさるように熱い指が少し太腿をつまむ感触がした時、ふるり、と体が震えた。
「あ、」
思わず声が漏れる。
「痛い、か?」
そして先生と初めて目が合った。
先生の目が潤んでいる。
綺麗な顔に似合わず、先生の大きく分厚い手は細かく震えていた。
私の肌に直接触れてしまわぬよう細心の注意を払ってくれていた。
それに気付いて顔が羞恥に染まる。
私、私、先生になってことを頼んでしまったのだろう。
「すまない、俺に触れられるのは嫌だろうが気をつけるから、もう少し、我慢してくれ。」
それでもこちらを気遣ってくれる先生に、なんと言って謝ったら良いかわからなかった。
なんとか大丈夫だと伝えたくて首を振る。
ごめんなさい、先生。ごめんなさい。
先生は顔色が悪い私に戸惑いながらも大丈夫だと何度も言ってくれた。
やがて青い顔色のままの私を抱き上げるとソファに寝かせてくれた。
自身の上着を掛けると珠世先生に連絡を取ることと次の英語の授業は休むと伝えてくるから安心して休めと言い残して部屋を出て行った。
私はなんだかとても申し訳なくって、なのになんだかとてもホワホワした気持ちになって、上着から香る汗と埃とオーデコロンの香りを感じながらそのまま眠りに落ちた。
目を開けた時、先生が近くに立っていて、なぜかそのすぐ後ろにいた珠世先生が笑顔のままで怒っていたが果たして何が起こったのか私にはわからない。
※2021/4/22 一部加筆修正