キメツ学園
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春になり、学年が変わると共にクラスメイトも3分の1ほど入れ替わった。
この学園の生徒は皆気の良い者ばかりなので、嫌な思いをすることはないし、そもそも中高一貫であるがゆえにさして変わり映えもしないのが唯一残念と言えば残念ではある。
明確に変わったことといえば担任が音楽の響凱先生から世界史の煉獄先生になり、万事控えめな響凱先生に比べればかなり派手さと暑苦しさが増したなあと思ったくらいだろう。
けして嫌っているわけではない。
少々脱線するきらいはあるが、教育熱心であり、授業は大変面白く、興味深く、元々あまり得意ではなかった世界史の成績が目に見えて伸びたのは先生のおかげだった。
ただ教科を担当していた時と比べ身近になった分、より圧を感じるようになったがそれは先生のせいではない。
多分に私の感じ方の問題なのだ。
春が終わり梅雨が近づいた頃、傘をかぶった朧月をぼんやりと眺めながら、ただなんとなく伸ばしていた髪を、ただなんとなく蒸すような気がするというそれだけで切ることを決めた。
髪を切ってくると言って行きつけの美容室に行き、腰まであった髪をショートカットにしてくれと雑誌で見た快活な少女を指差しながらリクエストすると、馴染みの美容師は当初こそ戸惑っていたがやがて興が乗ったのか意気揚々とハサミを入れてくれ、思い通りに仕上げてくれた。
ただ帰宅した私を見た父は木綿を引き裂くような悲鳴を上げ、私の髪が無くなったとおろおろし、人の話を聞かずに美容院に抗議しようとしたのを私に力づくで止められ、何事かと顔を出した母に宥められながらもムースやドライヤーやコテまで持ち出して何やら元に戻そうと奮闘していたが当然どうにもならなかった。
母はまるで宝塚の男役のようだとよく分からない褒め方をしてくれたが私自身は非常に満足していた。
次の日学校の門をくぐるとまずは風紀委員の善逸くんにこれまた今まで聞いたことのない高音の悲鳴を上げられた。
自分が思ったより似合わないのかと善逸くんに尋ねれば、エグエグと涙と鼻水を垂らしながらもいつも通り賛美の言葉を並べ連ねてくれたのでどうやらおかしくはないようだと安堵した。
彼の言葉を皮切りにあれよあれよと友人たちに囲まれ、予想以上に質問責めにあったが、すでに父の動揺ぶりを経験していた私にとってはどうということもなかった。
ただやはり、出会った友人のほとんどに同じ質問を繰り返されたのでHRを始めるために煉獄先生が教室に来たときにはもうぐったりとしていた。
いつも通り眼力の強すぎる先生の目がさらに見開かれ、あまつさえ口までぽかんと開かれるのを私はスローモーションで眺めていた。
「平坂、放課後社会科準備室に来なさい。」
HRが終わった後に先生がそういうのをはあ、とため息のような返事で返した。
はて世界史においては学期始めのテストも中間も、さらには小テストに至るまで手抜かりはないはずだがと放課後になるのを待って社会科準備室に歩を進めた。
世界地図や年表、それらに混じってなぜか世界史で騎馬戦が始まる際に用いられている旗印の奥に灰色の事務机があり、そこに先生は静かに座っていた。
先生は私に気付くとあまり目を合わさずにすぐ横の椅子に座るよう促した。
授業のことや最近のクラスの様子など当たり障りのない世間話が続いたが、先生は一向にこちらを見ない。
いつもの先生らしからぬ様子に首を傾げつつ、適当に返答する。
やがてふと会話が途切れた。
夕陽が赤く準備室を照らしている。
そろそろ帰っても良いかと尋ねようと口を開こうとしたその時だった。
「髪をどうして切ってしまったんだ?」
先生はまるで独り言のように言葉を紡いだ。
「ああ、これは。」
軽くなった毛先を自身でするりと撫でる。
ただ、暑かったんです。
私の口はそう答えるつもりだった。
今日会った友人たちに何度も答えたように、短くなった髪に気付いた他の先生に尋ねられた時と同じように。
いつもはどこを見ているか分からないほど見開かれた先生の目が、
こちらをまっすぐに見つめている。
へ?と間抜けな声が出そうになるのをようやく堪えた。
「失恋、したのか。」
いつになく真剣な先生の眼差しに、夕陽と見紛うほどに朱が差した先生の頬に私はなんと答えたら良いか分からなくなって、
かと言ってそんな理由ではないんですと笑い飛ばすのも悪い気がして、
とりあえず曖昧に微笑んでしまった。
はっと息を呑んだ先生の手がゆっくりとこちらに伸びてくるのを、私はどう解釈すれば良いのだろうか。
この学園の生徒は皆気の良い者ばかりなので、嫌な思いをすることはないし、そもそも中高一貫であるがゆえにさして変わり映えもしないのが唯一残念と言えば残念ではある。
明確に変わったことといえば担任が音楽の響凱先生から世界史の煉獄先生になり、万事控えめな響凱先生に比べればかなり派手さと暑苦しさが増したなあと思ったくらいだろう。
けして嫌っているわけではない。
少々脱線するきらいはあるが、教育熱心であり、授業は大変面白く、興味深く、元々あまり得意ではなかった世界史の成績が目に見えて伸びたのは先生のおかげだった。
ただ教科を担当していた時と比べ身近になった分、より圧を感じるようになったがそれは先生のせいではない。
多分に私の感じ方の問題なのだ。
春が終わり梅雨が近づいた頃、傘をかぶった朧月をぼんやりと眺めながら、ただなんとなく伸ばしていた髪を、ただなんとなく蒸すような気がするというそれだけで切ることを決めた。
髪を切ってくると言って行きつけの美容室に行き、腰まであった髪をショートカットにしてくれと雑誌で見た快活な少女を指差しながらリクエストすると、馴染みの美容師は当初こそ戸惑っていたがやがて興が乗ったのか意気揚々とハサミを入れてくれ、思い通りに仕上げてくれた。
ただ帰宅した私を見た父は木綿を引き裂くような悲鳴を上げ、私の髪が無くなったとおろおろし、人の話を聞かずに美容院に抗議しようとしたのを私に力づくで止められ、何事かと顔を出した母に宥められながらもムースやドライヤーやコテまで持ち出して何やら元に戻そうと奮闘していたが当然どうにもならなかった。
母はまるで宝塚の男役のようだとよく分からない褒め方をしてくれたが私自身は非常に満足していた。
次の日学校の門をくぐるとまずは風紀委員の善逸くんにこれまた今まで聞いたことのない高音の悲鳴を上げられた。
自分が思ったより似合わないのかと善逸くんに尋ねれば、エグエグと涙と鼻水を垂らしながらもいつも通り賛美の言葉を並べ連ねてくれたのでどうやらおかしくはないようだと安堵した。
彼の言葉を皮切りにあれよあれよと友人たちに囲まれ、予想以上に質問責めにあったが、すでに父の動揺ぶりを経験していた私にとってはどうということもなかった。
ただやはり、出会った友人のほとんどに同じ質問を繰り返されたのでHRを始めるために煉獄先生が教室に来たときにはもうぐったりとしていた。
いつも通り眼力の強すぎる先生の目がさらに見開かれ、あまつさえ口までぽかんと開かれるのを私はスローモーションで眺めていた。
「平坂、放課後社会科準備室に来なさい。」
HRが終わった後に先生がそういうのをはあ、とため息のような返事で返した。
はて世界史においては学期始めのテストも中間も、さらには小テストに至るまで手抜かりはないはずだがと放課後になるのを待って社会科準備室に歩を進めた。
世界地図や年表、それらに混じってなぜか世界史で騎馬戦が始まる際に用いられている旗印の奥に灰色の事務机があり、そこに先生は静かに座っていた。
先生は私に気付くとあまり目を合わさずにすぐ横の椅子に座るよう促した。
授業のことや最近のクラスの様子など当たり障りのない世間話が続いたが、先生は一向にこちらを見ない。
いつもの先生らしからぬ様子に首を傾げつつ、適当に返答する。
やがてふと会話が途切れた。
夕陽が赤く準備室を照らしている。
そろそろ帰っても良いかと尋ねようと口を開こうとしたその時だった。
「髪をどうして切ってしまったんだ?」
先生はまるで独り言のように言葉を紡いだ。
「ああ、これは。」
軽くなった毛先を自身でするりと撫でる。
ただ、暑かったんです。
私の口はそう答えるつもりだった。
今日会った友人たちに何度も答えたように、短くなった髪に気付いた他の先生に尋ねられた時と同じように。
いつもはどこを見ているか分からないほど見開かれた先生の目が、
こちらをまっすぐに見つめている。
へ?と間抜けな声が出そうになるのをようやく堪えた。
「失恋、したのか。」
いつになく真剣な先生の眼差しに、夕陽と見紛うほどに朱が差した先生の頬に私はなんと答えたら良いか分からなくなって、
かと言ってそんな理由ではないんですと笑い飛ばすのも悪い気がして、
とりあえず曖昧に微笑んでしまった。
はっと息を呑んだ先生の手がゆっくりとこちらに伸びてくるのを、私はどう解釈すれば良いのだろうか。