ドラゴンクエスト10オフライン
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冥王ネルゲルは倒され、アストルティアには平穏が訪れた。
しかし未だレンダーシアは魔瘴の霧に侵され、彼の地へ渡る手段である船を出港するに至っていなかった。
アンジェラは来たるべき時に備え、レベルを上げ、装備を整え、職業を極めた。
さりとて故郷に帰れぬままであることに忸怩だる思いを抱えなかった訳ではないがアンジェラは生来おっとりとした性質であった。
今はただ待つしかないと承知して釣りなどをしつつ各地の問題を解決し、のんびりと過ごしていた。
ただそんな彼女を放っておくほど世界は無関心では無かった。
悪意ではないにせよ出来うる限り自国に引き込もうという思惑が飛び交い、そんな深謀遠慮の目論見とは良い意味でも悪い意味でも程遠い彼女はひどく疲弊していた。
無論彼女の仲間たちはそれらを重々承知している。
自国の王たちがそのつもりはなかったにせよ、彼女を疲弊させているのは事実である。
仲間の一人であるラグアスの国、メギストリスに匿い、ラグアスに代わって叔父のナブレットがのらりくらりと各国の追跡を躱していたがそれらにも限界があった。
そんな仲間達を慮り、アンジェラはレンダーシアへ赴くその時まで、ひとまず仲間を故郷へと帰し、自身は各地を転々とすることにしたのである。
仲間の一人、ダストンの娘チリは故郷のガタラへと赴いていた。
表向きは里帰りだが国からの意向でアンジェラの様子を探るように言われていた。
チリは目の前であからさまにため息をついて見せたのだ。
彼女とは一時的とは言え共闘したこともある。
自由気ままで迷惑をかけてばかりの養父に対し、いつも穏やかに微笑んで許容してくれる彼女には恩も感じている。
年も近く、各地を回って経験豊富な彼女との会話は楽しい。
今はガタラにいることを知り、彼女に単純に会いに来た、だけだった。
さてガラクタ城に着くと、なんとも奇妙な光景を目にした。
ポツコンが入り口から中を窺っては所在なくウロウロしている。
顔色を青くしたかと思えば頬を赤く染めては顔を覆い、いやいやと頭を振っている。
いつも行動がおかしいポツコンとはいえ、通常ではないことは明らかだった。
疑問には思うもののとりあえず中に入るためにドアノブに手をかける。
「は!いけません、チリさん。」
こそこそと小声で静止するポツコンを無視して声を掛けた。
「お父さん、いるんでしょう?」
「何ですか、騒々しい。」
父が言う。
部屋の奥には初めて見る大きなソファが鎮座していた。
ドワーフであれば4〜5人は座れそうな大きなソファである。
そこには人間の女性が安らかに眠っていた。
なだらかな曲線を描いたその身体は規則正しい呼吸を繰り返している。
そして父はその人の頭を膝に置き、その豊かな髪を梳くように撫で続けている。
手は止まらない。
チリは目を見開いた。
やがてその女性が彼女だと気付いてますますその目を見開いた。
彼女が実は人間だと聞いたことはある。
神様の計らいとやらで最初に出会った時と同じ姿に見えるようにしてくれているらしい。
今一瞬だけ見えたのが、本当の彼女の姿、なのだろうか。
もう1度視線を戻した時には彼女はオーガの姿だった。
チリは目を擦る。
もう、元のオーガのままだった。
「何ですか、チリ、帰ってきたのですか。」
父の様子は変わらない。
「なんだ、せっかく会いにきたのに、寝ちゃってるんだ。」
思ったよりも声が上擦る。
ポツコンの奇妙な行動の理由がようやく腑に落ちた。
何だかもどかしい、気がする。
「そうですよ、このお人は何にも出来ないのに、何でもしようとするから。」
彼女を見る視線には熱が孕み、穏やかにそう言葉を紡ぐ父は、まるでいつもと違う人のようだった。
彼女は何にも出来ない人じゃない、むしろ何でもできる人だ。
父だってポツコン2号と称していたのを撤回し、助手ではありませんと言っていたではないか。
それでも彼女について行くと言った時は驚いたし、その後も彼女を下僕にしようとした女性に対抗して何やら執着を見せていたようだったけれど。
「もう、この人は用もないのにずっとここで飲み食いしてこうやって寝ていればイイんです。」
復讐も、消えた家族も、やるべきことも全部忘れて、自分のそばで。
そう聞こえた気がしてチリはいよいよ頬を赤くした。
ポツコンが変だ、なんて言っていられない。
自分もきっと同じ表情をしている。
何だか胸がドキドキする。頬が熱い。
父に今までそんな浮いた話があった事はない。
ガラクタに対する情熱はあっても、恋愛とか、人間に対する情熱をついぞ見せた事は無かった。
母親が欲しいと思わなかった訳ではないがこの父だからと諦めていた節はある。
「それにしても知らなかったわ。いつの間にかそんなに仲良くなっちゃって。」
いくら仲間とはいえ、彼女がこんなに安らかに頭を預けているなんて珍しい。
全然気付かなかったがそう言う事なのだろう。
身内の恋愛話は恥ずかしさが先に立つ。
少々茶化し気味になるのは許してもらおう。
そう考えての発言だった。
「ん?何のことですか。」
ダストンは心底不思議そうな顔をしている。
「え?だって。」
仲間とはいえ、こんなに信頼しきって人前で寝ることなんかないでしょ。
いわゆる膝枕をしていることを指摘する。
「違いますよ、彼女が寝てしまったので勝手に乗せているだけです。」
「セクハラーーーーーーー!!!」
チリは叫んだ。
そのあと流石に目を覚ました彼女に謝罪するやら父と言い争うのを宥められるやらでひと騒動だった。
「わしはこのお人にしかそう言う事はしませんよッ!」
「だから勝手にそう言うことしちゃダメよ、お父さん!」
「私別に気にしないから大丈夫だよ、チリちゃん。とても落ち着くし。」
チリとダストンがバッとアンジェラを振り向くと気まずそうに彼女は言葉を続けた。
「ほら、戦闘中とかポンコツなででみんなお世話になっているし、ね?」
にっこりと微笑む彼女に脱力しつつ、父を見れば苦虫を噛み潰したような顔をしている。
ああ、これは。
チリは少しだけ、父に同情した。
この大きくて柔らかく寝心地の良い(役に立つ)ソファはきっと彼女のために用意したもの。
そして彼女は撫でていた時の父の顔を見ていない。
「だからあんただけだって言っているでしょうがー!」
父は耐えきれず奇声を上げながらガラクタ城を飛び出した。
「え?ええっ?」
混乱と困惑の表情を浮かべる彼女を見て、チリはこれからの発展の見込みについて考えて頭が痛くなった。
前途多難である。
それでも彼女がほんの少し、頬を染めていたのが救いではあった。
しかし未だレンダーシアは魔瘴の霧に侵され、彼の地へ渡る手段である船を出港するに至っていなかった。
アンジェラは来たるべき時に備え、レベルを上げ、装備を整え、職業を極めた。
さりとて故郷に帰れぬままであることに忸怩だる思いを抱えなかった訳ではないがアンジェラは生来おっとりとした性質であった。
今はただ待つしかないと承知して釣りなどをしつつ各地の問題を解決し、のんびりと過ごしていた。
ただそんな彼女を放っておくほど世界は無関心では無かった。
悪意ではないにせよ出来うる限り自国に引き込もうという思惑が飛び交い、そんな深謀遠慮の目論見とは良い意味でも悪い意味でも程遠い彼女はひどく疲弊していた。
無論彼女の仲間たちはそれらを重々承知している。
自国の王たちがそのつもりはなかったにせよ、彼女を疲弊させているのは事実である。
仲間の一人であるラグアスの国、メギストリスに匿い、ラグアスに代わって叔父のナブレットがのらりくらりと各国の追跡を躱していたがそれらにも限界があった。
そんな仲間達を慮り、アンジェラはレンダーシアへ赴くその時まで、ひとまず仲間を故郷へと帰し、自身は各地を転々とすることにしたのである。
仲間の一人、ダストンの娘チリは故郷のガタラへと赴いていた。
表向きは里帰りだが国からの意向でアンジェラの様子を探るように言われていた。
チリは目の前であからさまにため息をついて見せたのだ。
彼女とは一時的とは言え共闘したこともある。
自由気ままで迷惑をかけてばかりの養父に対し、いつも穏やかに微笑んで許容してくれる彼女には恩も感じている。
年も近く、各地を回って経験豊富な彼女との会話は楽しい。
今はガタラにいることを知り、彼女に単純に会いに来た、だけだった。
さてガラクタ城に着くと、なんとも奇妙な光景を目にした。
ポツコンが入り口から中を窺っては所在なくウロウロしている。
顔色を青くしたかと思えば頬を赤く染めては顔を覆い、いやいやと頭を振っている。
いつも行動がおかしいポツコンとはいえ、通常ではないことは明らかだった。
疑問には思うもののとりあえず中に入るためにドアノブに手をかける。
「は!いけません、チリさん。」
こそこそと小声で静止するポツコンを無視して声を掛けた。
「お父さん、いるんでしょう?」
「何ですか、騒々しい。」
父が言う。
部屋の奥には初めて見る大きなソファが鎮座していた。
ドワーフであれば4〜5人は座れそうな大きなソファである。
そこには人間の女性が安らかに眠っていた。
なだらかな曲線を描いたその身体は規則正しい呼吸を繰り返している。
そして父はその人の頭を膝に置き、その豊かな髪を梳くように撫で続けている。
手は止まらない。
チリは目を見開いた。
やがてその女性が彼女だと気付いてますますその目を見開いた。
彼女が実は人間だと聞いたことはある。
神様の計らいとやらで最初に出会った時と同じ姿に見えるようにしてくれているらしい。
今一瞬だけ見えたのが、本当の彼女の姿、なのだろうか。
もう1度視線を戻した時には彼女はオーガの姿だった。
チリは目を擦る。
もう、元のオーガのままだった。
「何ですか、チリ、帰ってきたのですか。」
父の様子は変わらない。
「なんだ、せっかく会いにきたのに、寝ちゃってるんだ。」
思ったよりも声が上擦る。
ポツコンの奇妙な行動の理由がようやく腑に落ちた。
何だかもどかしい、気がする。
「そうですよ、このお人は何にも出来ないのに、何でもしようとするから。」
彼女を見る視線には熱が孕み、穏やかにそう言葉を紡ぐ父は、まるでいつもと違う人のようだった。
彼女は何にも出来ない人じゃない、むしろ何でもできる人だ。
父だってポツコン2号と称していたのを撤回し、助手ではありませんと言っていたではないか。
それでも彼女について行くと言った時は驚いたし、その後も彼女を下僕にしようとした女性に対抗して何やら執着を見せていたようだったけれど。
「もう、この人は用もないのにずっとここで飲み食いしてこうやって寝ていればイイんです。」
復讐も、消えた家族も、やるべきことも全部忘れて、自分のそばで。
そう聞こえた気がしてチリはいよいよ頬を赤くした。
ポツコンが変だ、なんて言っていられない。
自分もきっと同じ表情をしている。
何だか胸がドキドキする。頬が熱い。
父に今までそんな浮いた話があった事はない。
ガラクタに対する情熱はあっても、恋愛とか、人間に対する情熱をついぞ見せた事は無かった。
母親が欲しいと思わなかった訳ではないがこの父だからと諦めていた節はある。
「それにしても知らなかったわ。いつの間にかそんなに仲良くなっちゃって。」
いくら仲間とはいえ、彼女がこんなに安らかに頭を預けているなんて珍しい。
全然気付かなかったがそう言う事なのだろう。
身内の恋愛話は恥ずかしさが先に立つ。
少々茶化し気味になるのは許してもらおう。
そう考えての発言だった。
「ん?何のことですか。」
ダストンは心底不思議そうな顔をしている。
「え?だって。」
仲間とはいえ、こんなに信頼しきって人前で寝ることなんかないでしょ。
いわゆる膝枕をしていることを指摘する。
「違いますよ、彼女が寝てしまったので勝手に乗せているだけです。」
「セクハラーーーーーーー!!!」
チリは叫んだ。
そのあと流石に目を覚ました彼女に謝罪するやら父と言い争うのを宥められるやらでひと騒動だった。
「わしはこのお人にしかそう言う事はしませんよッ!」
「だから勝手にそう言うことしちゃダメよ、お父さん!」
「私別に気にしないから大丈夫だよ、チリちゃん。とても落ち着くし。」
チリとダストンがバッとアンジェラを振り向くと気まずそうに彼女は言葉を続けた。
「ほら、戦闘中とかポンコツなででみんなお世話になっているし、ね?」
にっこりと微笑む彼女に脱力しつつ、父を見れば苦虫を噛み潰したような顔をしている。
ああ、これは。
チリは少しだけ、父に同情した。
この大きくて柔らかく寝心地の良い(役に立つ)ソファはきっと彼女のために用意したもの。
そして彼女は撫でていた時の父の顔を見ていない。
「だからあんただけだって言っているでしょうがー!」
父は耐えきれず奇声を上げながらガラクタ城を飛び出した。
「え?ええっ?」
混乱と困惑の表情を浮かべる彼女を見て、チリはこれからの発展の見込みについて考えて頭が痛くなった。
前途多難である。
それでも彼女がほんの少し、頬を染めていたのが救いではあった。