鬼滅の刃 短編
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「ああ……。」
ため息とも諦めとも、或いは呆れともつかぬ吐息が、不死川の口から漏れた。
今夜もまた、ここに来てしまった。
彼の足元には女が眠っている。
牡丹は人目を惹きつける女であった。
もっと容姿が美しい女は鬼殺隊の中であっても胡蝶や甘露寺など他にいるが、それでもなぜか彼女から目が離せなかった。
鬼殺隊に入った経緯が経緯だけに、彼女には柱や柱の家族、一人の隠以外には交流がほとんど無い。
そして彼女は出来るだけ自分からは関わりを持たないように厳命され、本人も気を付けている。
だが話をしてみれば気さくで、親しみやすい女だ。
一度言葉を交わせば、普段能面のように作り物めいた顔が、それこそ大輪の花が綻ぶように笑うのだから常人であればひとたまりも無いだろう。
だから何かの拍子に関わりを持った者が、ことごとく勘違いをするのだ。
一番美しい女のそばにいるから気付き難いだけで、彼女が高嶺の花であることには変わりない。
まるで他に気づかれないまま埋もれていた宝玉を自分が見つけ出したかのように振る舞う輩が、出戻りだからと言って彼女を低く見てちょっかいを出す輩が、不死川は心底気に入らなかった。
彼女の任務は出来うる限り柱に同行するようになっている。
たまに集団任務があればそれらに紛れ込ませ、他の隊員には姿を見せず、彼らに気付かれないように任務を負わせることはある。
柱に関しては任務上仕方がないと割り切ってはいるものの、柱との任務が入ると不死川は毎回気が気ではない。
柱が赴くということは格段に危険度が上がる。
生きて再び見える保証はない。
どの任務であってもそれに変わりはないが、彼女が柱の任務に同行すると決まる度に不死川はこうして彼女の元に来てしまうのだった。
彼女の枕元には明日の任務に備えてであろう、小ぶりながらもよく纏まった荷物が置かれている。
そして任務の前日には眠りが浅くなる彼女のために胡蝶が調合した特別性の眠り薬の薬包がきちんと畳んで置かれていた。
彼女は任務に支障を来たさない為に、毎回律儀にこれを服用する。
人の気配に敏い彼女であってもこの任務前夜だけはこうやって枕元に立ったとしても目を覚ますことは無い。
それを知った時、不死川が溟い欲望が湧き上がるのを覚えたのは無理からぬことであったろう。
しかしこれまで不死川はその欲望に打ち勝って来た。
ただこうやって彼女の寝顔を見に来ることが止められない。
認められる所業では無いことは重々承知している。
だからこそ誰にも、本人にも気付かれないように静かに密やかにしめやかにまるで儀式のように顔を見に来ていたのだ。
そしてそれは部屋の外で見張りをしている隠にも気付かれていないはずだった。
「あ、不死川様。」
彼女が明日、岩柱と任務に赴くことを聞いた直後だった。
たまたま廊下で会った彼女に声を掛けられた。
本来準備の為に今日のうちに岩柱の邸に赴くはずだったが何か行き違いがあり都合が付かず、かと言って本日自宅には専属の隠がいないので自宅には戻れないらしかった。
蝶屋敷にはほぼ自室と化した客室があるが主人が留守である以上伺うわけにはいかない。
懇意にしている甘露寺は任務中。
本来他の家族と暮らしている屋敷が望ましいので音柱邸か炎柱邸にお願いしようとしたらどちらも任務中で交渉のしようが無く、蛇柱にはネチネチと断られそうなので躊躇し、水柱であれば無言のままでも押せば承諾しそうなので探しているということだった。
みるみる不死川の機嫌が悪くなる。
それでもこんな言葉が口からまろび出たのは無理からぬことだったのだろう。
「俺のところに、来るか。」
ぱあっと明るい顔をして頷いた彼女に、自分が動揺しているのを悟られないよう、非常に迷惑だというような顔をするのがその時の不死川には精一杯だった。
どうにかこうにか滞り無く夜まで過ごし、それぞれの部屋に入ったところで不死川はようやく一息付いた。
これだけ彼女と共に過ごしたのだ、自分が彼女の寝顔を見に行ってしまうことは無いだろう。
そう、思っていたはずだった。
不死川の逡巡など露知らず、牡丹は穏やかな寝顔をしている。
ぞわりと肌が泡立ち、体の芯が疼き、熱くなる。
ああ、だめだ。もう誤魔化せない、我慢も出来ない。
俺は、この女を。
不死川は掛け布団を剥ぎ取った。
もう、彼女を暴き立てることしか頭に無かった。
自分はケダモノだ、どんな輩よりも自分が一番下賤な生き物だ。
そう頭の中で叫び続けているのに、体が、手が止まらなかった。
なんの落ち度も罪もない彼女を俺が今から喰らうのだ。
そう思い至って怖気が走るのに、それ以上の快感が体を駆け巡る。
彼女が目を覚ましても罵倒したとしても止められる気は毛頭なかった。
それでも震える自身の手で彼女の唇に触れ、指で歯列をなぞる。
舌を触ってそれでも反応がないことに薄寒い快感を覚えつつ、指を引き抜いた。
彼女の唾液で濡れた自身の指がひどく淫靡に見える。
そのまま唇を自身のそれで吸おうと近づいた時だった。
かあさま
ただ一言、彼女の口から漏れるその言葉に、不死川は全身を強張らせた。
彼女が何の夢を見ているか分からない。
苦しんでいる訳でも、泣いている訳でもうなされている訳でもない。
ただ彼女の手が何かを掴もうと空中を掻いている。
不死川の中ではまだ熱流が渦巻いている。
それでもその手を、今はもうどこにも無い“かあさま”の手を求めるその手をそのままには出来なかった。
空中を彷徨う手に自身の手を重ねる。
意識がないまま彼女はその手をガッチリと握り込み、素早く自身へと引き込んだ。
体勢を崩され、とっさに彼女の顔の横にもう片方の手を付いて事無きを得る。
自分の体の下には彼女の肢体があり、先程まで自分が持ち込もうとした構図にはなったが、不死川は苦笑した。
降参だァ、コイツには敵わねえ
諦めて布団の空いた所にどうと体を倒れ込ませ、先程剥ぎ取った掛け布団を引き寄せる。
それから彼女の体をしっかりと腕の中に収めて抱き込んだ。
彼女は相変わらずスヤスヤと眠り続けている。
コイツ、こんな無防備でいいのかねえ
熱は全くもって収まっていないが、不死川は諦めて目を瞑った。
腕の中の彼女は想像以上に柔らかく温かい。
一寝入りしていくらか熱が収まった頃、未だ離されぬ指先に名残惜しさを感じつつその指に口付け、肌の甘さに眩暈を覚えつつ彼女の布団から自分の体を引き剥がした。
自室に戻ってから、何度も自身で熱を吐き出したがとうとう収まることはなかった。
次の日の朝、屈託のない笑顔に罪悪感を覚えつつ、彼女から自分の匂いがほのかに香るような気がして、再び鎌首を持ち上げた熱はいつまでも燻り続けていた。
ため息とも諦めとも、或いは呆れともつかぬ吐息が、不死川の口から漏れた。
今夜もまた、ここに来てしまった。
彼の足元には女が眠っている。
牡丹は人目を惹きつける女であった。
もっと容姿が美しい女は鬼殺隊の中であっても胡蝶や甘露寺など他にいるが、それでもなぜか彼女から目が離せなかった。
鬼殺隊に入った経緯が経緯だけに、彼女には柱や柱の家族、一人の隠以外には交流がほとんど無い。
そして彼女は出来るだけ自分からは関わりを持たないように厳命され、本人も気を付けている。
だが話をしてみれば気さくで、親しみやすい女だ。
一度言葉を交わせば、普段能面のように作り物めいた顔が、それこそ大輪の花が綻ぶように笑うのだから常人であればひとたまりも無いだろう。
だから何かの拍子に関わりを持った者が、ことごとく勘違いをするのだ。
一番美しい女のそばにいるから気付き難いだけで、彼女が高嶺の花であることには変わりない。
まるで他に気づかれないまま埋もれていた宝玉を自分が見つけ出したかのように振る舞う輩が、出戻りだからと言って彼女を低く見てちょっかいを出す輩が、不死川は心底気に入らなかった。
彼女の任務は出来うる限り柱に同行するようになっている。
たまに集団任務があればそれらに紛れ込ませ、他の隊員には姿を見せず、彼らに気付かれないように任務を負わせることはある。
柱に関しては任務上仕方がないと割り切ってはいるものの、柱との任務が入ると不死川は毎回気が気ではない。
柱が赴くということは格段に危険度が上がる。
生きて再び見える保証はない。
どの任務であってもそれに変わりはないが、彼女が柱の任務に同行すると決まる度に不死川はこうして彼女の元に来てしまうのだった。
彼女の枕元には明日の任務に備えてであろう、小ぶりながらもよく纏まった荷物が置かれている。
そして任務の前日には眠りが浅くなる彼女のために胡蝶が調合した特別性の眠り薬の薬包がきちんと畳んで置かれていた。
彼女は任務に支障を来たさない為に、毎回律儀にこれを服用する。
人の気配に敏い彼女であってもこの任務前夜だけはこうやって枕元に立ったとしても目を覚ますことは無い。
それを知った時、不死川が溟い欲望が湧き上がるのを覚えたのは無理からぬことであったろう。
しかしこれまで不死川はその欲望に打ち勝って来た。
ただこうやって彼女の寝顔を見に来ることが止められない。
認められる所業では無いことは重々承知している。
だからこそ誰にも、本人にも気付かれないように静かに密やかにしめやかにまるで儀式のように顔を見に来ていたのだ。
そしてそれは部屋の外で見張りをしている隠にも気付かれていないはずだった。
「あ、不死川様。」
彼女が明日、岩柱と任務に赴くことを聞いた直後だった。
たまたま廊下で会った彼女に声を掛けられた。
本来準備の為に今日のうちに岩柱の邸に赴くはずだったが何か行き違いがあり都合が付かず、かと言って本日自宅には専属の隠がいないので自宅には戻れないらしかった。
蝶屋敷にはほぼ自室と化した客室があるが主人が留守である以上伺うわけにはいかない。
懇意にしている甘露寺は任務中。
本来他の家族と暮らしている屋敷が望ましいので音柱邸か炎柱邸にお願いしようとしたらどちらも任務中で交渉のしようが無く、蛇柱にはネチネチと断られそうなので躊躇し、水柱であれば無言のままでも押せば承諾しそうなので探しているということだった。
みるみる不死川の機嫌が悪くなる。
それでもこんな言葉が口からまろび出たのは無理からぬことだったのだろう。
「俺のところに、来るか。」
ぱあっと明るい顔をして頷いた彼女に、自分が動揺しているのを悟られないよう、非常に迷惑だというような顔をするのがその時の不死川には精一杯だった。
どうにかこうにか滞り無く夜まで過ごし、それぞれの部屋に入ったところで不死川はようやく一息付いた。
これだけ彼女と共に過ごしたのだ、自分が彼女の寝顔を見に行ってしまうことは無いだろう。
そう、思っていたはずだった。
不死川の逡巡など露知らず、牡丹は穏やかな寝顔をしている。
ぞわりと肌が泡立ち、体の芯が疼き、熱くなる。
ああ、だめだ。もう誤魔化せない、我慢も出来ない。
俺は、この女を。
不死川は掛け布団を剥ぎ取った。
もう、彼女を暴き立てることしか頭に無かった。
自分はケダモノだ、どんな輩よりも自分が一番下賤な生き物だ。
そう頭の中で叫び続けているのに、体が、手が止まらなかった。
なんの落ち度も罪もない彼女を俺が今から喰らうのだ。
そう思い至って怖気が走るのに、それ以上の快感が体を駆け巡る。
彼女が目を覚ましても罵倒したとしても止められる気は毛頭なかった。
それでも震える自身の手で彼女の唇に触れ、指で歯列をなぞる。
舌を触ってそれでも反応がないことに薄寒い快感を覚えつつ、指を引き抜いた。
彼女の唾液で濡れた自身の指がひどく淫靡に見える。
そのまま唇を自身のそれで吸おうと近づいた時だった。
かあさま
ただ一言、彼女の口から漏れるその言葉に、不死川は全身を強張らせた。
彼女が何の夢を見ているか分からない。
苦しんでいる訳でも、泣いている訳でもうなされている訳でもない。
ただ彼女の手が何かを掴もうと空中を掻いている。
不死川の中ではまだ熱流が渦巻いている。
それでもその手を、今はもうどこにも無い“かあさま”の手を求めるその手をそのままには出来なかった。
空中を彷徨う手に自身の手を重ねる。
意識がないまま彼女はその手をガッチリと握り込み、素早く自身へと引き込んだ。
体勢を崩され、とっさに彼女の顔の横にもう片方の手を付いて事無きを得る。
自分の体の下には彼女の肢体があり、先程まで自分が持ち込もうとした構図にはなったが、不死川は苦笑した。
降参だァ、コイツには敵わねえ
諦めて布団の空いた所にどうと体を倒れ込ませ、先程剥ぎ取った掛け布団を引き寄せる。
それから彼女の体をしっかりと腕の中に収めて抱き込んだ。
彼女は相変わらずスヤスヤと眠り続けている。
コイツ、こんな無防備でいいのかねえ
熱は全くもって収まっていないが、不死川は諦めて目を瞑った。
腕の中の彼女は想像以上に柔らかく温かい。
一寝入りしていくらか熱が収まった頃、未だ離されぬ指先に名残惜しさを感じつつその指に口付け、肌の甘さに眩暈を覚えつつ彼女の布団から自分の体を引き剥がした。
自室に戻ってから、何度も自身で熱を吐き出したがとうとう収まることはなかった。
次の日の朝、屈託のない笑顔に罪悪感を覚えつつ、彼女から自分の匂いがほのかに香るような気がして、再び鎌首を持ち上げた熱はいつまでも燻り続けていた。