キメツ学園
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「「あ」」
声を出すのは同時だった。
邂逅とは突然であり思いがけないものであり、運命なのだ。
我が家は動物が好きだが飼っていない。
別れが辛いから、というのだがどうにも納得がいかなかった。
もふもふしたい。
もふもふに癒されたい。
犬を撫で回したい。
猫吸いたい。
あまり人が来ない学園の裏庭を逃げ場所として徘徊していた時にハチワレと出会えたのはまさに運命まさに奇跡だった。
おそらく飼い猫なのだろう。人懐こくもこちらの意を汲むような分別を持った珍しい猫だった。
今日も放課後になるのを待って誰にも見つからぬよう裏道を抜け、ちゅーると猫じゃらしを手に裏庭に赴いた。
ハチワレちゃんは今日もそこに待っていてくれた。
一通り可愛がった頃、そこにふと大きく影が差す。
夕方とはいえ晴れ間が広がるそこにふと疑問を覚え、見上げれば
悲鳴嶼先生がそこに立っていた。
それが冒頭の邂逅とあいなった訳である。
悲鳴嶼先生は社会科、公民の教師である。
中学の際にはお世話になり、面識もあったが高校になって日本史と世界史を選択教科としたためになかなか授業でお会いする機会は減っていた。
勝手に学園の裏側で猫と戯れていたのを怒られるかと思ったが先生の手の中にあるものを見て同好の士と悟った。
本格的猫じゃらし(リアルムキムキネズミ、おそらく宇髄先生作)と猫まっしぐらな上等猫缶をお持ちであったからだ。
比較すれば恥ずかしい私のそれらをそっと隠した私に黙って首を振り、大きくうなづくとそれらを私に差し出してきた。
訳が分からず見上げる私に悲鳴嶼先生は愛する者のために用意した物であれば恥じ入ることはないと諭してくださった。
要は猫愛好の徒として認めてくれたと言うことのようだ。
さすが大人、さすが教師、さすが悲鳴嶼先生。
悲鳴嶼先生は自宅でも猫を飼っているが、ここにいつもこのハチワレがいるのを見て気になり、時々来ているそうである。
最初は飼おうと思ったもののその容姿からいかにも飼い猫なので我慢しているそうだ。
毎放課後に日向ぼっこをし、猫を構いがてらお手製の人間用おやつをお互いに無言で頬張る。
そんな穏やかな日を過ごしていたある日のことだった。
私は見てしまった。
いつも通り裏庭に行こうとして、校舎の階段を降りている途中悲鳴嶼先生を見つけた。
その視線の先には階段の途中にある鏡。
生徒同士が階段でぶつからぬよう踊り場に設置されている鏡である。
鏡の中にあったのはいつもであればなんてことはない光景。
視線の先にあったのは、日常の光景。
にこやかに微笑み合うカナエ先生と、不死川先生。
鏡越しの分少し離れていたせいか、二人はまだこちらに気付いていなかった。
カナエ先生はいつも通り、美しく輝くような笑顔を浮かべている。
不死川先生は、私がいつも見ている表情とは違っていた。
いつもはキリッとして、生徒のためを思って厳しくしているのでちょっと誤解を受けそうな怖い顔をしている。
本当は黒目がちの童顔で、お母さんの志津さん似なのに。
可愛い顔しているのにな、もっと気を抜くとかすればいいのにと思ってはいた。
でも今目の前で、カナエ先生と笑っている不死川先生は、完全に警戒を解いていて寛いでいて、まるで穏やかな春の日のようだった。
知らない。こんな実弥にいちゃん、知らない。
私はそれをみて急に息苦しさを感じてしまった。
本当はよかった、とでも言うような安堵を覚えるべきなのだ。
実弥にいちゃんに安らぎを与えられる人がいて良かったと思った。
それなのに何か胸が苦しい、息ができない、体の中心がぎゅうぎゅうと軋むのも感じるのだ。
私はどうしようもなくて同じく無言で立ち尽くしていた悲鳴嶼先生を見上げた。
互いに互いの顔を見合わせ、
ああ
と私達は同時に声を漏らした。
私たちは恐らく同じ表情を浮かべている。
そして同じ感情を抱いているのだと確信した。
まるで鏡のように、表面上はなんだか困ったように悲しみ讃えるように眉は下がっているのに、頬は緩み、安堵を覚えた口元には笑みを浮かべている。
なのに私たちはどちらも片手で心の臓のあたりをぎゅうと握りしめていた。
大事な人に安らぎを与えられる人がいて、良かった。
そう思っているのになぜか胸が苦しい。
喜ぶべきだ、喜ばしいことなのだ。なのに何故。
こんなに昏く苦しいものがここにあるのだろう?
私は悲鳴嶼先生の袖を引いた。
悲鳴嶼先生と私はその場から、その苦しみから逃れようと、裏庭へと急いだ。
平静ではない心を平常であるかのように取り繕って。
だから私達は気付かなかった。
鏡というものは、こちらが見えていれば、向こうからも見えているのだということを。
その時の私達は、全くもって失念していたのだ。
裏庭についても私達は無言だった。
互いに膝を突き合わせ、無言のままただただ動揺を押し殺そうとハチワレちゃんを撫で続けていた。
ハチワレちゃんは呆れたようにこちらを見ている。
「悲鳴嶼先生、私はね、私は不死川先生には、実弥にいちゃんには幸せになって欲しいんです。」
いつも頑張って、兄弟のために家族のためにいろんなことを
私といる時だっていつも気合入れて、我慢している。
それは、と悲鳴嶼は言いかけて口を噤んだ。
不死川が我慢しているのはおそらくそういうことではないと悲鳴嶼は知っていた。
「不死川先生はカナエ先生といると頑張らなくていい。安らげるんです、でも。
カナエ先生は別の人が好き、なんですよね?」
平坂の見透かす様な黒い瞳がこちらを覗き込んでいる。
悲鳴嶼はウグゥと声を飲み込んだ。
この子はカナエが焦がれ、思う相手を知っている。
つまりは悲鳴嶼がどうにかこうにか回避しようとしている事実を知っているということだ。
自分ではない誰かに彼女を幸せにしてほしい。
自分では自信がない。
あなたでなければダメなのだという彼女の思いを悲鳴嶼は何度となしに逃げてきたのだ。
この子達は過去の私たちであり、この子にとって私達は未来の自分たちと言えよう。
しかし、決定的に違うところがある。
年上の男の覚悟が、思いが私には足りない。
あの情深い男と私は違う。
だからこそ私はあの男に託せたら、と思うのに、あの男の愛情は今目の前で彼の幸せを願っている少女のものだ。
昔からずっと。
「お前自身はどうなのだ、この人でなければダメだという相手はいないのか。」
「痛いところをつきますねえ。」
ふふ、密やかにと笑う平坂はやはり愛らしい。
カナエやしのぶとも仲が良く、よく話をしているのを見かける。
全くタイプが違う謝花ともよく話しているようだ。
彼女らは確かに美しい。
その横にいれば確かに彼女の美しさは控えめかもしれない。
ただ一度動けば、その華は咲き誇り、目が離せない。
彼女の美しさは生きて動いてこそなのだ。
悲鳴嶼は遠い記憶を思い起こしていた。
彼女の良さに気づいていない輩はそこで初めて気づき、まるで宝物を発見したかのような高揚に襲われるのだ。
それは最初からそこにあったのに、気づかなかったくせに。
今はまだ子供だから、このくらいで済んでいるが、大人になればさぞやヤキモキするハメになるだろう。
悲鳴嶼は先程の男を思い出した。
本来はこのように裏庭で二人きりで話をしていることなどあの男の目を掻い潜っていることは奇跡なのだ。
「そうだな、お前はお前の考えでゆっくり選んでいけばいい。」
選ぶ立場なのだから、周りに急かされることも強制されることもない。
今回は特に、急ぐ様な状況ではないのだし。
悲鳴嶼はその大きな手を平坂の頭に乗せた。
平坂は気持ちよさそうに撫でられている。
ああ、そろそろタイムオーバーか。
現にその植え込みからはかなりの殺気がこちらに向いている。
同僚に向けるそれではないが更に悋気と思しきもう1つの気を察して悲鳴嶼は頬を染めた。
彼女から悋気を受ける事に喜びを感じてしまうのだから、自分も覚悟を決めた方が良さそうだ。
「ちょっと、不死川くん、なんかいい雰囲気じゃない。どういうこと。」
「あァ、知らねえよ、お前がきっちり悲鳴嶼さん捕まえてねえからだろ。」
「あら、私は前々からちゃんと口説いているわ。あなたこそお兄さんポジのままでちゃんと意識してもらえてないんじゃなくて。」
聞こえているぞ、不死川、カナエ。
好き勝手言う二人になんだか面白くなってしまい、一計を思いついた悲鳴嶼がそちらに背を向ける。続いて同じように平坂が背を向けた。
目の前にいるのはハチワレだが彼らからは見えない位置だ。
わざと少し大きな声を出す。
「ああ、本当にお前は可愛いなあ。」
悲鳴嶼の手は平坂の頭を撫ぜたままだ。
平坂は少し不思議そうだが悲鳴嶼がハチワレに向かって言ったのはわかっているのだろう。
「そうですねえ、さすが悲鳴嶼先生はわかっていますね。」
ふふ、と機嫌良さそうに平坂は答えるが声は大きくない。
後ろから見る二人にはさぞや「いい雰囲気」とやらに見えるだろう。
なんのことはない、少しばかり先程の意趣返しである。
「ずっとうちにいてくれたらいいのにな。」
「そうですねえ。」
我慢できなくなった二人が飛び込んでくるまで、あと少し。
声を出すのは同時だった。
邂逅とは突然であり思いがけないものであり、運命なのだ。
我が家は動物が好きだが飼っていない。
別れが辛いから、というのだがどうにも納得がいかなかった。
もふもふしたい。
もふもふに癒されたい。
犬を撫で回したい。
猫吸いたい。
あまり人が来ない学園の裏庭を逃げ場所として徘徊していた時にハチワレと出会えたのはまさに運命まさに奇跡だった。
おそらく飼い猫なのだろう。人懐こくもこちらの意を汲むような分別を持った珍しい猫だった。
今日も放課後になるのを待って誰にも見つからぬよう裏道を抜け、ちゅーると猫じゃらしを手に裏庭に赴いた。
ハチワレちゃんは今日もそこに待っていてくれた。
一通り可愛がった頃、そこにふと大きく影が差す。
夕方とはいえ晴れ間が広がるそこにふと疑問を覚え、見上げれば
悲鳴嶼先生がそこに立っていた。
それが冒頭の邂逅とあいなった訳である。
悲鳴嶼先生は社会科、公民の教師である。
中学の際にはお世話になり、面識もあったが高校になって日本史と世界史を選択教科としたためになかなか授業でお会いする機会は減っていた。
勝手に学園の裏側で猫と戯れていたのを怒られるかと思ったが先生の手の中にあるものを見て同好の士と悟った。
本格的猫じゃらし(リアルムキムキネズミ、おそらく宇髄先生作)と猫まっしぐらな上等猫缶をお持ちであったからだ。
比較すれば恥ずかしい私のそれらをそっと隠した私に黙って首を振り、大きくうなづくとそれらを私に差し出してきた。
訳が分からず見上げる私に悲鳴嶼先生は愛する者のために用意した物であれば恥じ入ることはないと諭してくださった。
要は猫愛好の徒として認めてくれたと言うことのようだ。
さすが大人、さすが教師、さすが悲鳴嶼先生。
悲鳴嶼先生は自宅でも猫を飼っているが、ここにいつもこのハチワレがいるのを見て気になり、時々来ているそうである。
最初は飼おうと思ったもののその容姿からいかにも飼い猫なので我慢しているそうだ。
毎放課後に日向ぼっこをし、猫を構いがてらお手製の人間用おやつをお互いに無言で頬張る。
そんな穏やかな日を過ごしていたある日のことだった。
私は見てしまった。
いつも通り裏庭に行こうとして、校舎の階段を降りている途中悲鳴嶼先生を見つけた。
その視線の先には階段の途中にある鏡。
生徒同士が階段でぶつからぬよう踊り場に設置されている鏡である。
鏡の中にあったのはいつもであればなんてことはない光景。
視線の先にあったのは、日常の光景。
にこやかに微笑み合うカナエ先生と、不死川先生。
鏡越しの分少し離れていたせいか、二人はまだこちらに気付いていなかった。
カナエ先生はいつも通り、美しく輝くような笑顔を浮かべている。
不死川先生は、私がいつも見ている表情とは違っていた。
いつもはキリッとして、生徒のためを思って厳しくしているのでちょっと誤解を受けそうな怖い顔をしている。
本当は黒目がちの童顔で、お母さんの志津さん似なのに。
可愛い顔しているのにな、もっと気を抜くとかすればいいのにと思ってはいた。
でも今目の前で、カナエ先生と笑っている不死川先生は、完全に警戒を解いていて寛いでいて、まるで穏やかな春の日のようだった。
知らない。こんな実弥にいちゃん、知らない。
私はそれをみて急に息苦しさを感じてしまった。
本当はよかった、とでも言うような安堵を覚えるべきなのだ。
実弥にいちゃんに安らぎを与えられる人がいて良かったと思った。
それなのに何か胸が苦しい、息ができない、体の中心がぎゅうぎゅうと軋むのも感じるのだ。
私はどうしようもなくて同じく無言で立ち尽くしていた悲鳴嶼先生を見上げた。
互いに互いの顔を見合わせ、
ああ
と私達は同時に声を漏らした。
私たちは恐らく同じ表情を浮かべている。
そして同じ感情を抱いているのだと確信した。
まるで鏡のように、表面上はなんだか困ったように悲しみ讃えるように眉は下がっているのに、頬は緩み、安堵を覚えた口元には笑みを浮かべている。
なのに私たちはどちらも片手で心の臓のあたりをぎゅうと握りしめていた。
大事な人に安らぎを与えられる人がいて、良かった。
そう思っているのになぜか胸が苦しい。
喜ぶべきだ、喜ばしいことなのだ。なのに何故。
こんなに昏く苦しいものがここにあるのだろう?
私は悲鳴嶼先生の袖を引いた。
悲鳴嶼先生と私はその場から、その苦しみから逃れようと、裏庭へと急いだ。
平静ではない心を平常であるかのように取り繕って。
だから私達は気付かなかった。
鏡というものは、こちらが見えていれば、向こうからも見えているのだということを。
その時の私達は、全くもって失念していたのだ。
裏庭についても私達は無言だった。
互いに膝を突き合わせ、無言のままただただ動揺を押し殺そうとハチワレちゃんを撫で続けていた。
ハチワレちゃんは呆れたようにこちらを見ている。
「悲鳴嶼先生、私はね、私は不死川先生には、実弥にいちゃんには幸せになって欲しいんです。」
いつも頑張って、兄弟のために家族のためにいろんなことを
私といる時だっていつも気合入れて、我慢している。
それは、と悲鳴嶼は言いかけて口を噤んだ。
不死川が我慢しているのはおそらくそういうことではないと悲鳴嶼は知っていた。
「不死川先生はカナエ先生といると頑張らなくていい。安らげるんです、でも。
カナエ先生は別の人が好き、なんですよね?」
平坂の見透かす様な黒い瞳がこちらを覗き込んでいる。
悲鳴嶼はウグゥと声を飲み込んだ。
この子はカナエが焦がれ、思う相手を知っている。
つまりは悲鳴嶼がどうにかこうにか回避しようとしている事実を知っているということだ。
自分ではない誰かに彼女を幸せにしてほしい。
自分では自信がない。
あなたでなければダメなのだという彼女の思いを悲鳴嶼は何度となしに逃げてきたのだ。
この子達は過去の私たちであり、この子にとって私達は未来の自分たちと言えよう。
しかし、決定的に違うところがある。
年上の男の覚悟が、思いが私には足りない。
あの情深い男と私は違う。
だからこそ私はあの男に託せたら、と思うのに、あの男の愛情は今目の前で彼の幸せを願っている少女のものだ。
昔からずっと。
「お前自身はどうなのだ、この人でなければダメだという相手はいないのか。」
「痛いところをつきますねえ。」
ふふ、密やかにと笑う平坂はやはり愛らしい。
カナエやしのぶとも仲が良く、よく話をしているのを見かける。
全くタイプが違う謝花ともよく話しているようだ。
彼女らは確かに美しい。
その横にいれば確かに彼女の美しさは控えめかもしれない。
ただ一度動けば、その華は咲き誇り、目が離せない。
彼女の美しさは生きて動いてこそなのだ。
悲鳴嶼は遠い記憶を思い起こしていた。
彼女の良さに気づいていない輩はそこで初めて気づき、まるで宝物を発見したかのような高揚に襲われるのだ。
それは最初からそこにあったのに、気づかなかったくせに。
今はまだ子供だから、このくらいで済んでいるが、大人になればさぞやヤキモキするハメになるだろう。
悲鳴嶼は先程の男を思い出した。
本来はこのように裏庭で二人きりで話をしていることなどあの男の目を掻い潜っていることは奇跡なのだ。
「そうだな、お前はお前の考えでゆっくり選んでいけばいい。」
選ぶ立場なのだから、周りに急かされることも強制されることもない。
今回は特に、急ぐ様な状況ではないのだし。
悲鳴嶼はその大きな手を平坂の頭に乗せた。
平坂は気持ちよさそうに撫でられている。
ああ、そろそろタイムオーバーか。
現にその植え込みからはかなりの殺気がこちらに向いている。
同僚に向けるそれではないが更に悋気と思しきもう1つの気を察して悲鳴嶼は頬を染めた。
彼女から悋気を受ける事に喜びを感じてしまうのだから、自分も覚悟を決めた方が良さそうだ。
「ちょっと、不死川くん、なんかいい雰囲気じゃない。どういうこと。」
「あァ、知らねえよ、お前がきっちり悲鳴嶼さん捕まえてねえからだろ。」
「あら、私は前々からちゃんと口説いているわ。あなたこそお兄さんポジのままでちゃんと意識してもらえてないんじゃなくて。」
聞こえているぞ、不死川、カナエ。
好き勝手言う二人になんだか面白くなってしまい、一計を思いついた悲鳴嶼がそちらに背を向ける。続いて同じように平坂が背を向けた。
目の前にいるのはハチワレだが彼らからは見えない位置だ。
わざと少し大きな声を出す。
「ああ、本当にお前は可愛いなあ。」
悲鳴嶼の手は平坂の頭を撫ぜたままだ。
平坂は少し不思議そうだが悲鳴嶼がハチワレに向かって言ったのはわかっているのだろう。
「そうですねえ、さすが悲鳴嶼先生はわかっていますね。」
ふふ、と機嫌良さそうに平坂は答えるが声は大きくない。
後ろから見る二人にはさぞや「いい雰囲気」とやらに見えるだろう。
なんのことはない、少しばかり先程の意趣返しである。
「ずっとうちにいてくれたらいいのにな。」
「そうですねえ。」
我慢できなくなった二人が飛び込んでくるまで、あと少し。