キメツ学園
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音楽室がある棟は他の教室から少し離れていて、ひとりになりたい時は持ってこいの場所である。
音楽室そのものは放課後に吹奏楽部が利用するが、その奥の音楽準備室を更にすり抜けた向こうに踊り場のような空間が広がっている。
奇妙な夢や恋雪ちゃんと狛治くんのこと、髪を切った時のみんなの過剰な反応、実弥兄ちゃ……不死川先生のことなど、悩まなくてもいいはずなのにぐるぐると考えがまとまらないときにはそこに行った。
そこで夕方にかけて広がる空が、ドーム型のグラデーションになっていくのを眺めていると、いろんな悩みがどうでもいいことのように思える。
本当に誰も来ないのでもしかしたらここは立ち入り禁止なのかもしれないが、中学の時担任だった響凱先生とここで一度だけ会った時にやたらと頷きつつ後退りながら扉を閉めてくれたので黙認ということで甘えさせていただいている。
万事控えめで無闇に踏み込んで来ない、良い先生だ。
今日も吹奏楽部の人たちに鉢合わせないように急いでその場所に向かった。
HRが思ったより早く終わったので、煉獄先生と目を合わせる前に、声が私を名指しする前に教室を飛び出した。
(授業の時より低い声が後ろから追いかけてくるような気がしたのは気のせいです。)
どん、と何か硬いものにぶつかる。
人だ、と気づいた時には視界がバサバサと白いもので覆われた。
声に追い立てられたせいなのか、前がよく見えていたかったようだ。
「す、すみません!」
まずは謝罪してその人が取り落としたものを拾い集める。
何十枚もの原稿用紙だ、しかも少し古びている昔の様式のように思えた。
そして目に飛び込んできた内容に目を奪われる。
「いや、こちらこそ。……ああ、大丈夫ですよ、これは小生が、」
一方的にぶつかって来た私を咎める事もせず、遠慮する響凱先生の言葉を遮ってしまった。
「先生!先生は小説をお書きになるのですか!」
思ったより大きな声が出て、響凱先生は慌てて私の口を手で塞いだ。
誰かに聞かれなかったかとキョロキョロと辺りを見回す先生に声をあげてしまった罪悪感を感じなくは無かったが、それよりも先ほど目に入った内容が気になって仕方がなかった。
私は本を読むのが好きだ。
いや、なんというか、字を読むのが好きだ。
今見た限りでは、怪奇もの?恋愛もの?のようであるがかなりのボリュームである。
原稿用紙の枠に収まり、几帳面に並ぶ文字とは裏腹に文章には情熱が溢れている。
散らばった原稿の束を片付けながらもチラチラとこちらを窺う私に
響凱先生はとうとう根負けしたらしかった。
「良かったら、小生の原稿、読んでみますか。」
声を殺しつつ、ガッツポーズを取った私に先生は苦笑いを浮かべた。
更には読ませていただくための場所として音楽準備室を提供いただいた。
ありがたい。拝んじゃう。
椅子に座るのももどかしいままに夢中になって読み進めた。
目論見通り、伝奇物だった。
本当は人ではない教師が主人公である。
そしてほんのりとしたもどかしい恋愛ものでもあった。
壁ドンとか急にキスするとか抱きしめるとかは一切ない。
それに彼が密かに思いを寄せる女生徒の描写が素晴らしい。
少し前の時代設定らしく、思い通りにことが進まないのがもどかしくも悩ましい。
優しくて、穏やかで成績優秀で彼女が近くにいるだけで目をが奪われ、惹かれてしまう。
人物描写としては出来過ぎだなあと思わなくはないが、恋というものはそういうものだろう。
恋愛ものとしても主人公のときめきに感化されてこちらまでキュンキュンしてしまう。
長い艶やかな黒髪、潤みがちな大きな瞳の描写、
教師と生徒という禁断の愛、人外と人との禁忌の愛。
主人公は彼女に触れたくて、でも触れられない。
思いを告げることも出来ない。
彼女は人気者で、いつも周りに人がいて、なかなか声をかけることが出来ない。
主人公は遠くから彼女の姿をそっと目で追うのが精一杯。
主人公は教師としては要領が悪く、普通で、これといって秀でているわけではない。
彼女はそんな教師を見かねてか授業の準備などをよく手伝ってくれる。
教師はそれは彼女の単なる優しさ、皆に向けるものと同じものだとわかっているが諦めきれない……
ああ。なんだかとても身近に感じられる。
そういえばこの女生徒、なんだか妙に見覚えがあるような。
はっもしやこれ実在の人物なのでは。
目を惹かれるひと……。
ああ、そういえばカナエ先生もこの学園の生徒だったと聞いている。
うおおおお。まさか。
そしてこの主人公って、もしや。
え、これ私読んで大丈夫なの?
こんな秘めたる思いを一生徒に読まれちゃって大丈夫?
気付かれないようにそっと先生の様子を窺う。
先生はこちらを見ずに落ち着かないようにソワソワとその辺りを歩き回っていた。
私は随分と夢中になっていたのだろう。
その時になってすでに日が沈みつつあることにようやく気付いた。
しかし後少しでクライマックスである。
ここまで読んでしまったのだ。私は最後まで読み進めることにした。
教師が勧めた作家の小説を女生徒がいたく気に入り、貸し借りをしているうちに親密になっていく。
2人で言葉を直接交わすことは無いが、密かに短い感想を添えた手紙をやり取りするのがささやかな喜びだった。
ある日、教師がなんたる幸運か、その女生徒と二人きりになった。
夢中になって本を読む女生徒、その横顔を見つめる教師。
教師が彼女の長い黒髪を思わず手に取り、そして、
ふと手元に影が差す。
顔を上げるとものすごく近くに先生が。
「響凱先生……?」
「あなたは、」
先生が不自然に言葉を切る。
「あなたはなぜ髪を切ってしまわれたんですか……?」
先生はもどかしそうな表情で緩く握った手で口元を隠している。
小説の中では教師が熱を孕んだ目で彼女を見つめつつ、その髪を掬い取り……
緩く握った手でそれに口付けていた。
音楽室そのものは放課後に吹奏楽部が利用するが、その奥の音楽準備室を更にすり抜けた向こうに踊り場のような空間が広がっている。
奇妙な夢や恋雪ちゃんと狛治くんのこと、髪を切った時のみんなの過剰な反応、実弥兄ちゃ……不死川先生のことなど、悩まなくてもいいはずなのにぐるぐると考えがまとまらないときにはそこに行った。
そこで夕方にかけて広がる空が、ドーム型のグラデーションになっていくのを眺めていると、いろんな悩みがどうでもいいことのように思える。
本当に誰も来ないのでもしかしたらここは立ち入り禁止なのかもしれないが、中学の時担任だった響凱先生とここで一度だけ会った時にやたらと頷きつつ後退りながら扉を閉めてくれたので黙認ということで甘えさせていただいている。
万事控えめで無闇に踏み込んで来ない、良い先生だ。
今日も吹奏楽部の人たちに鉢合わせないように急いでその場所に向かった。
HRが思ったより早く終わったので、煉獄先生と目を合わせる前に、声が私を名指しする前に教室を飛び出した。
(授業の時より低い声が後ろから追いかけてくるような気がしたのは気のせいです。)
どん、と何か硬いものにぶつかる。
人だ、と気づいた時には視界がバサバサと白いもので覆われた。
声に追い立てられたせいなのか、前がよく見えていたかったようだ。
「す、すみません!」
まずは謝罪してその人が取り落としたものを拾い集める。
何十枚もの原稿用紙だ、しかも少し古びている昔の様式のように思えた。
そして目に飛び込んできた内容に目を奪われる。
「いや、こちらこそ。……ああ、大丈夫ですよ、これは小生が、」
一方的にぶつかって来た私を咎める事もせず、遠慮する響凱先生の言葉を遮ってしまった。
「先生!先生は小説をお書きになるのですか!」
思ったより大きな声が出て、響凱先生は慌てて私の口を手で塞いだ。
誰かに聞かれなかったかとキョロキョロと辺りを見回す先生に声をあげてしまった罪悪感を感じなくは無かったが、それよりも先ほど目に入った内容が気になって仕方がなかった。
私は本を読むのが好きだ。
いや、なんというか、字を読むのが好きだ。
今見た限りでは、怪奇もの?恋愛もの?のようであるがかなりのボリュームである。
原稿用紙の枠に収まり、几帳面に並ぶ文字とは裏腹に文章には情熱が溢れている。
散らばった原稿の束を片付けながらもチラチラとこちらを窺う私に
響凱先生はとうとう根負けしたらしかった。
「良かったら、小生の原稿、読んでみますか。」
声を殺しつつ、ガッツポーズを取った私に先生は苦笑いを浮かべた。
更には読ませていただくための場所として音楽準備室を提供いただいた。
ありがたい。拝んじゃう。
椅子に座るのももどかしいままに夢中になって読み進めた。
目論見通り、伝奇物だった。
本当は人ではない教師が主人公である。
そしてほんのりとしたもどかしい恋愛ものでもあった。
壁ドンとか急にキスするとか抱きしめるとかは一切ない。
それに彼が密かに思いを寄せる女生徒の描写が素晴らしい。
少し前の時代設定らしく、思い通りにことが進まないのがもどかしくも悩ましい。
優しくて、穏やかで成績優秀で彼女が近くにいるだけで目をが奪われ、惹かれてしまう。
人物描写としては出来過ぎだなあと思わなくはないが、恋というものはそういうものだろう。
恋愛ものとしても主人公のときめきに感化されてこちらまでキュンキュンしてしまう。
長い艶やかな黒髪、潤みがちな大きな瞳の描写、
教師と生徒という禁断の愛、人外と人との禁忌の愛。
主人公は彼女に触れたくて、でも触れられない。
思いを告げることも出来ない。
彼女は人気者で、いつも周りに人がいて、なかなか声をかけることが出来ない。
主人公は遠くから彼女の姿をそっと目で追うのが精一杯。
主人公は教師としては要領が悪く、普通で、これといって秀でているわけではない。
彼女はそんな教師を見かねてか授業の準備などをよく手伝ってくれる。
教師はそれは彼女の単なる優しさ、皆に向けるものと同じものだとわかっているが諦めきれない……
ああ。なんだかとても身近に感じられる。
そういえばこの女生徒、なんだか妙に見覚えがあるような。
はっもしやこれ実在の人物なのでは。
目を惹かれるひと……。
ああ、そういえばカナエ先生もこの学園の生徒だったと聞いている。
うおおおお。まさか。
そしてこの主人公って、もしや。
え、これ私読んで大丈夫なの?
こんな秘めたる思いを一生徒に読まれちゃって大丈夫?
気付かれないようにそっと先生の様子を窺う。
先生はこちらを見ずに落ち着かないようにソワソワとその辺りを歩き回っていた。
私は随分と夢中になっていたのだろう。
その時になってすでに日が沈みつつあることにようやく気付いた。
しかし後少しでクライマックスである。
ここまで読んでしまったのだ。私は最後まで読み進めることにした。
教師が勧めた作家の小説を女生徒がいたく気に入り、貸し借りをしているうちに親密になっていく。
2人で言葉を直接交わすことは無いが、密かに短い感想を添えた手紙をやり取りするのがささやかな喜びだった。
ある日、教師がなんたる幸運か、その女生徒と二人きりになった。
夢中になって本を読む女生徒、その横顔を見つめる教師。
教師が彼女の長い黒髪を思わず手に取り、そして、
ふと手元に影が差す。
顔を上げるとものすごく近くに先生が。
「響凱先生……?」
「あなたは、」
先生が不自然に言葉を切る。
「あなたはなぜ髪を切ってしまわれたんですか……?」
先生はもどかしそうな表情で緩く握った手で口元を隠している。
小説の中では教師が熱を孕んだ目で彼女を見つめつつ、その髪を掬い取り……
緩く握った手でそれに口付けていた。