キメツ学園
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生物のテストで何度目かの満点をとった日のことだった。
カナエ先生はとても喜んでくれた。
今回のご褒美は初めての生き物だった。
父が動物アレルギーがあるようで我が家ではペットが飼えない。
そう言っていたのを覚えていてくれたのだろう。
カナエ先生は私に水槽とミズクラゲをくれた。
それが一番悲しいご褒美と変わってしまうとは私はそのとき思ってもみなかった。
私は喜び勇んで自宅に持ち帰り、リビングに水槽を置き、餌を与え、何時間も眺めていた。
今思えばそれがある意味タイミングが悪かったと言えるだろう。
従兄の獪岳がたまたま遊びに来ていた。
今の家に引っ越してから初めてだったように思う。
彼のことは昔からよく分からない。
年上の従兄は皮肉屋で口が悪い。
私に対しても、お前は勘が悪いだの、お前は単なる偽善者だの、お前のような奴はそのうち人に騙されて泣く羽目になるんだなどと散々言われていた。
どういうところが勘が悪いのかといえばそういうところだと言われ、
偽善者とは何だと言ったら今やってることだと言う。
今のところ騙される事も泣く予定も無いと言ったら鼻でフンと嗤われた。
念のためもしや私を心配してくれているのかと聞いたら今度はハハンと笑われた。
それでも彼は嫌そうな顔をしつつもうちに遊びに来ては私と遊んで帰っていく。
迎えが来るとガキの相手は疲れると言いながら何度もこちらを振り返っては手を振るので私はいつも首を傾げながらも手を振り返した。
そのときちょっとだけ笑う彼を、私は嫌いにはなれなかった。
「何見てんだ。」
いつのものように興味があるのか無いのか分からない、ぶっきらぼうな口調で彼が尋ねた。
「ふふ、良いでしょ、生物の先生にもらったの。」
おそらく彼が望んだ答えでは無かったのだろう、彼からのそれに対する反応はない。
だが思っても見ない答えが返って来た。
「俺が来てんのにそんなものに構うのか」
私は片眉を上げた。彼は時々不思議なことを言う。
「良いじゃない。獪岳は別に私に会いに来たわけじゃないんだから。」
「そうかよ。」
そう答えれば彼はなんとも興味なさげにソファに沈み込んだ。
彼が何も言わないので何となく居心地が悪くなった私はその場を離れ、一応お茶でも出すかと台所に立つ。
宇髄先生にもらった深煎りのコーヒーを入れて、獪岳に出してやったが彼は軽く頷くだけだった。
やはり何か落ち着かず、ふとリビングの水槽に視線を向けた。
いない。
ミズクラゲが、見当たらない。
透明だからと目を凝らしたが底に沈む餌しか見えない。
どこに行ったかとそうっと揺すっても見つからない。
私の背後から水槽に影が差す。
ふわりと先ほどのコーヒーの香りが揺らいだ。
見上げればいつの間にか獪岳が後ろに立っていた。
上から言葉が降ってくる。
「悪い、俺がやった。」
「何かゴミが浮いていると思って、爪楊枝で刺したら、沈んだ。」
その言葉を私はまるで他人事のようにぼんやり聞いていた。
そうか、とだけ言ってそっと底の方を網で掬って見てもやはり何もない。
私の口が言葉を紡ぐ。
「わかった、間違えたのだもんね、しょうがない」
ゆっくりと水槽を持ち上げる。
再度揺らしてみたけれどやはりクラゲは見つからなかった。
クラゲの体はそのほとんどが水だと言う。
きっと命がなくなると同時にその体も水と同じになってしまったのだろう。
もらったばかりなのに、うちに来たばかりに死んでしまうなんて。
水になってしまったクラゲを、だからといってそのままどこかに流してしまうのは惜しくて、茫然と水槽を眺めていた。
どのくらい経った頃だろうか、獪岳が苛立たしげに言った。
「なぜ怒らねえんだ。俺が殺したんだぞ、お前の大事なペットを。」
「わざとじゃないんでしょ。怒ってもしょうがない。」
淡々と私は言った。そう、しようがない、のだ。
獪岳が言葉を吐く。
俺が殺した。
お前に可愛がられているのが、お前が俺を見ないのが許せなかった。
最初は何を言っているのかわからなかった。
彼の言葉を頭の中で反芻する。
そうしてようやく言葉の意味が理解出来て、私の体からずるうりと滑った音を立てて何かが抜けていった。
夕焼けの光に浮かぶ水槽は透明なままだ。
この中にあったはずのいのちを、獪岳が?
どうして、どうして、
私はただその言葉を繰り返す。
頭の中でも口の中でもその言葉がまろび出る。
目から流れる水分をが頬を濡らしていく。
ぬるい水が、頬を伝って温度を下げていく。
獪岳はそれ以上何も言わなかった。
どこか遠くを見ているような心地の私をただ視界に収め、
何か言いたそうな顔をして、歯を食いしばって、拳を握り締めて、それでも何も言わなかった。
ただ、ようやく絞り出したような声で、ごめん、とだけ言って彼は出て行った。
声をかけることは出来なかった。
それからはずっと、彼とは顔を合わせていない。
母から聞いた話では両親との折り合いが悪く、父の知り合いの家に預けられたらしい。
うちに来る話もあったようだが本人が頑なに拒んだそうだ。
あの時あんなことがなければ今頃彼はうちにいたんだろうか。
今も笑って横にいたんだろうか。
それとも何かの拍子に彼は私が大事にする何かに手をかけてしまうのだろうか。
わからない。これは今もずっとわからないままだ。
カナエ先生はとても喜んでくれた。
今回のご褒美は初めての生き物だった。
父が動物アレルギーがあるようで我が家ではペットが飼えない。
そう言っていたのを覚えていてくれたのだろう。
カナエ先生は私に水槽とミズクラゲをくれた。
それが一番悲しいご褒美と変わってしまうとは私はそのとき思ってもみなかった。
私は喜び勇んで自宅に持ち帰り、リビングに水槽を置き、餌を与え、何時間も眺めていた。
今思えばそれがある意味タイミングが悪かったと言えるだろう。
従兄の獪岳がたまたま遊びに来ていた。
今の家に引っ越してから初めてだったように思う。
彼のことは昔からよく分からない。
年上の従兄は皮肉屋で口が悪い。
私に対しても、お前は勘が悪いだの、お前は単なる偽善者だの、お前のような奴はそのうち人に騙されて泣く羽目になるんだなどと散々言われていた。
どういうところが勘が悪いのかといえばそういうところだと言われ、
偽善者とは何だと言ったら今やってることだと言う。
今のところ騙される事も泣く予定も無いと言ったら鼻でフンと嗤われた。
念のためもしや私を心配してくれているのかと聞いたら今度はハハンと笑われた。
それでも彼は嫌そうな顔をしつつもうちに遊びに来ては私と遊んで帰っていく。
迎えが来るとガキの相手は疲れると言いながら何度もこちらを振り返っては手を振るので私はいつも首を傾げながらも手を振り返した。
そのときちょっとだけ笑う彼を、私は嫌いにはなれなかった。
「何見てんだ。」
いつのものように興味があるのか無いのか分からない、ぶっきらぼうな口調で彼が尋ねた。
「ふふ、良いでしょ、生物の先生にもらったの。」
おそらく彼が望んだ答えでは無かったのだろう、彼からのそれに対する反応はない。
だが思っても見ない答えが返って来た。
「俺が来てんのにそんなものに構うのか」
私は片眉を上げた。彼は時々不思議なことを言う。
「良いじゃない。獪岳は別に私に会いに来たわけじゃないんだから。」
「そうかよ。」
そう答えれば彼はなんとも興味なさげにソファに沈み込んだ。
彼が何も言わないので何となく居心地が悪くなった私はその場を離れ、一応お茶でも出すかと台所に立つ。
宇髄先生にもらった深煎りのコーヒーを入れて、獪岳に出してやったが彼は軽く頷くだけだった。
やはり何か落ち着かず、ふとリビングの水槽に視線を向けた。
いない。
ミズクラゲが、見当たらない。
透明だからと目を凝らしたが底に沈む餌しか見えない。
どこに行ったかとそうっと揺すっても見つからない。
私の背後から水槽に影が差す。
ふわりと先ほどのコーヒーの香りが揺らいだ。
見上げればいつの間にか獪岳が後ろに立っていた。
上から言葉が降ってくる。
「悪い、俺がやった。」
「何かゴミが浮いていると思って、爪楊枝で刺したら、沈んだ。」
その言葉を私はまるで他人事のようにぼんやり聞いていた。
そうか、とだけ言ってそっと底の方を網で掬って見てもやはり何もない。
私の口が言葉を紡ぐ。
「わかった、間違えたのだもんね、しょうがない」
ゆっくりと水槽を持ち上げる。
再度揺らしてみたけれどやはりクラゲは見つからなかった。
クラゲの体はそのほとんどが水だと言う。
きっと命がなくなると同時にその体も水と同じになってしまったのだろう。
もらったばかりなのに、うちに来たばかりに死んでしまうなんて。
水になってしまったクラゲを、だからといってそのままどこかに流してしまうのは惜しくて、茫然と水槽を眺めていた。
どのくらい経った頃だろうか、獪岳が苛立たしげに言った。
「なぜ怒らねえんだ。俺が殺したんだぞ、お前の大事なペットを。」
「わざとじゃないんでしょ。怒ってもしょうがない。」
淡々と私は言った。そう、しようがない、のだ。
獪岳が言葉を吐く。
俺が殺した。
お前に可愛がられているのが、お前が俺を見ないのが許せなかった。
最初は何を言っているのかわからなかった。
彼の言葉を頭の中で反芻する。
そうしてようやく言葉の意味が理解出来て、私の体からずるうりと滑った音を立てて何かが抜けていった。
夕焼けの光に浮かぶ水槽は透明なままだ。
この中にあったはずのいのちを、獪岳が?
どうして、どうして、
私はただその言葉を繰り返す。
頭の中でも口の中でもその言葉がまろび出る。
目から流れる水分をが頬を濡らしていく。
ぬるい水が、頬を伝って温度を下げていく。
獪岳はそれ以上何も言わなかった。
どこか遠くを見ているような心地の私をただ視界に収め、
何か言いたそうな顔をして、歯を食いしばって、拳を握り締めて、それでも何も言わなかった。
ただ、ようやく絞り出したような声で、ごめん、とだけ言って彼は出て行った。
声をかけることは出来なかった。
それからはずっと、彼とは顔を合わせていない。
母から聞いた話では両親との折り合いが悪く、父の知り合いの家に預けられたらしい。
うちに来る話もあったようだが本人が頑なに拒んだそうだ。
あの時あんなことがなければ今頃彼はうちにいたんだろうか。
今も笑って横にいたんだろうか。
それとも何かの拍子に彼は私が大事にする何かに手をかけてしまうのだろうか。
わからない。これは今もずっとわからないままだ。