キメツ学園
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ああ、まただ。またこの夢だ。
見渡す限り、地面が赤く染まっている。
学ランのような同じ服をを着たたくさんの人間が倒れている。
皆顔を伏せているので誰かはわからない。
知っている人のような気がするが知らない人のような気もする。
苦しい、辛い、泣きたい。
むせ返るような血の匂いに吐き気がする。
泣きながら叫ぶとふと誰かが優しく目を塞ぐ。
もう忘れて良いんだよ
何を?
私は問いかける。
少し困ったような、悲しいような気配がするのに彼は殊更優しい明るい声でいつもこう言う。
もう、思い出さなくて良いんだ、僕が何とかしてあげるからさ
ピピピピピピピピ
スマホがアラームを鳴らす。
わずかな吐き気と勝手に流れる涙を感じて目が覚める。
高等部に入ってからというもの夢見が悪い。
忘れようにも思い出せず、ただモヤモヤとして気分が悪い。
だからと言ってしまっではなんなのだが、どうしても授業で居眠りをしてしまう。
なんとか起きようと努力する私に同情してくれているのか、それとも成績が上位に食い込んでいるおかげか、大体の先生はありがたいことに見て見ぬ振りをしてくれる。
しかし、数学だけは、不死川先生だけはきっと見逃さない。
当然だ。本来そうすべきなのだ。
私は「生徒」なのだから。
もう「実弥兄ちゃん」に甘えてはいけないのだ。
だから私は数学だけは眠らないように気を付けていたのに。
「おい、平坂。俺の授業で寝るとは良い度胸だなァ?」
ハッとなって飛び起きた。
心臓がバクバクと鳴り、冷や汗がドッと出る。
やってしまった。よりによって数学の授業で。
「そんなに俺の授業がつまんねえなら、」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
「顔でも洗って来い。」
クスクスという忍び笑いが床に這いずり回る。
途端に恥ずかしくなって、俯いたまま反射的に立ち上がった。
「わかりました。」
「いや、待て?!」
そのまま教室を出て行こうとしたが不死川先生に止められた。
さらに皆の視線が集まるのを感じ、私はさらに身を縮こませる。
「お前、本当に顔を洗いに行く気か?それとも具合でも悪いのか。」
急に気遣いを見せる先生に私は唇を噛んだ。
教室が少しざわつき、ヒソヒソと囁き声が聞こえる。
それはそうだろう。私は今までこんな反抗的とも言える態度を取ったことはない。
ましてや厳しいと言われる不死川先生にこんな態度を取る生徒はいない。
さあ、教室を追い出すなり怒鳴るなり立たせるなり何らかの罰を与えてほしい。
他の生徒と同じように。
しかし不死川先生は何も言わず、ただ気遣わしげにこちらを見ている。
いつもは厳しいくせに、そう言うことをするから、私は。
「……眠気が取れないので。」
鞄からタオルを取り出し、フルフルと振って見せる。
不死川先生は深々とため息をついて目を伏せた。
「もう良い、座れ。……放課後準備室に来い。」
それはきっと不死川先生の優しさなのだろう。
しかし、ああ、まただ。
こちらにチラチラと視線を寄越しながら、甘い、贔屓だと私にだけ聞こえるように囁かれる陰口。
彼女たちの気持ちはもっともだ。
玄弥くんの表彰状ビリビリ事件やスマッシュブラザーズ事件は記憶に新しい。
女生徒とはいえ、居眠りしていた生徒にこの程度で良いはずはない。
私はひっそりと心の中で不死川先生に八つ当たりして自己嫌悪に陥る。
放課後になった。
足が重い。
行きたくない。
しかし行かなければ叱る立場のはずの不死川先生が心配顔して教室に迎えに来るだけだ。
それはまずい。
私は重い足を引きずりながら、数学準備室に向かった。
「失礼します。」
「おう、待っていだぞ。入れぇ。」
不死川先生は机の上に積み上げた小テストの採点の手を止める。
「後少しで終わるから、ちょっと待ってろ。」
私はコクリとうなづくと少し離れた椅子に座った。
それを確認してまた不死川先生は採点を始めた。
先生は単元ごとにこまめにテストをする。
嫌がる生徒は多いがこれは皆がきちんと理解をしているか確認してくれているのだ。
もし皆の成績が悪ければ重点的に復習も兼ねて授業をしてくれる。
先生も忙しいだろうにさらに点数が悪い生徒には補習までしてくれる。
補習狙いでわざと悪い点を取る生徒もいると聞いた。
不死川先生の授業はわかりやすい。
補習はきっともっと丁寧でわかりやすいんだろう。
きっと優しく教えてくれて、問題が解けたらとびきりの笑顔で褒めてくれるんだろう。
私は不死川先生の横顔を眺めた。
すっと通った鼻筋も、硬く結ばれた唇も、こちらを向かない大きな瞳も初めて会った時からちっとも変わらない。
きっとこちらを向いた時に優しく緩む目元も変わらない。
キュッと喉の奥が詰まり、何だか泣きたくなる。
「さて、平坂。」
不死川先生がこちらに向き直る。
私は身を固くして先生の言葉を待った。
「お前ははもともと数学の成績は良かったはずだが、最近はあまりにも乱高下が過ぎる。上位を取ったかと思えば、今回みたいにとんでもない点を取ることもある。」
コクリとうなづく。さあ来い。どんな罰でも受ける覚悟はある。
「他の教科の先生からも聞いたが少々居眠りが多いようだな。……成績は落ちちゃいねえが。」
不死川先生が下から優しく覗き込む。
私は息を呑んだ。違う、そうじゃない、それじゃないよ。
「眠れてないのか?牡丹。」
ずるい、実弥兄ちゃんはずるい。
成績の悪い私なんか優しくしなくて良いのに。
そうやって優しくされたら、私嬉しくなってしまうのに。
また不死川先生は平坂を贔屓していると言われて学校に変な電話が入って困るのは先生なのに。
教室で言われているの、聞こえてないのかな。
実弥兄ちゃんはいつも私を助けてくれるヒーローだった。
でもいつまでもこのままじゃ居られない。
周りの人は私たちをおかしな目で見るから。
「不死川先生、大丈夫ですよ。」
私は微笑む。
「居眠りしてしまって申し訳ありません。以後気を付けます。」
不死川先生の表情が歪む。
「今回のテストのところはちゃんと勉強し直します。次までには」
「馬鹿かお前。」
不死川先生の腕が伸びてきて、ゆっくりと私の頭を抱きしめた。
子供の時みたいに。私を落ち着かせて、寝かしつける時みたいに。
「そんな顔して、笑うんじゃねえ。」
目の前には実弥兄ちゃんの胸板があって、いやこれは流石にこの歳では恥ずかしい。
「不死川先生、これはちょっと。流石に気にして欲しい。」
「気にするな、俺がしたくてしている。」
いや、そうじゃなくて。
「お前はもっと俺に甘えていい。本音をぶつけていい。俺には何を言ってもいい。」
ガッチリ抱きこまれた腕の力が少し緩んだので離れようとしたが私はただ顔を見上げるだけに留まった。
「それとも、俺じゃもう頼りにならねえか。」
するり、と実弥兄ちゃんが私の短くなった後ろ髪を撫でる。
もしや兄ちゃんまで失恋したのかどうかなど聞いてくるのではあるまいな。
私が少し身構えたのを何か勘違いしたのか、途端に不死川先生の眉毛が下がる。そうするといつもの気合い入った四白眼が急に黒目がちの潤んだ眼になって、まるで叱られた子犬のようだ。
「俺じゃ、ダメなのか。」
「実弥兄ちゃん、そう言うことするからまた何か言われるんだって。」
少し腹立たしくなって口を尖らせて私は答える。
「私を甘やかすから、サネミンファンの女の子たちにいろいろ言われるし、呼び出されるし、散々なんだから。」
ぷい、と顔を背ける。
「何言ってんだ、そいつらは俺が潰してやると前も言っただろお?」
当然のように呆れたように物騒なことを言う不死川先生を見上げる。
実弥兄ちゃんがこんなことを言うものだから、きっと勘違いだろうに私は何だか自分が特別みたいに思えて、嬉しくなってしまって、後ちょっとだけ甘えたくなってしまった。
こうして私は結局兄ちゃんから離れられないんだ。
見渡す限り、地面が赤く染まっている。
学ランのような同じ服をを着たたくさんの人間が倒れている。
皆顔を伏せているので誰かはわからない。
知っている人のような気がするが知らない人のような気もする。
苦しい、辛い、泣きたい。
むせ返るような血の匂いに吐き気がする。
泣きながら叫ぶとふと誰かが優しく目を塞ぐ。
もう忘れて良いんだよ
何を?
私は問いかける。
少し困ったような、悲しいような気配がするのに彼は殊更優しい明るい声でいつもこう言う。
もう、思い出さなくて良いんだ、僕が何とかしてあげるからさ
ピピピピピピピピ
スマホがアラームを鳴らす。
わずかな吐き気と勝手に流れる涙を感じて目が覚める。
高等部に入ってからというもの夢見が悪い。
忘れようにも思い出せず、ただモヤモヤとして気分が悪い。
だからと言ってしまっではなんなのだが、どうしても授業で居眠りをしてしまう。
なんとか起きようと努力する私に同情してくれているのか、それとも成績が上位に食い込んでいるおかげか、大体の先生はありがたいことに見て見ぬ振りをしてくれる。
しかし、数学だけは、不死川先生だけはきっと見逃さない。
当然だ。本来そうすべきなのだ。
私は「生徒」なのだから。
もう「実弥兄ちゃん」に甘えてはいけないのだ。
だから私は数学だけは眠らないように気を付けていたのに。
「おい、平坂。俺の授業で寝るとは良い度胸だなァ?」
ハッとなって飛び起きた。
心臓がバクバクと鳴り、冷や汗がドッと出る。
やってしまった。よりによって数学の授業で。
「そんなに俺の授業がつまんねえなら、」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい
「顔でも洗って来い。」
クスクスという忍び笑いが床に這いずり回る。
途端に恥ずかしくなって、俯いたまま反射的に立ち上がった。
「わかりました。」
「いや、待て?!」
そのまま教室を出て行こうとしたが不死川先生に止められた。
さらに皆の視線が集まるのを感じ、私はさらに身を縮こませる。
「お前、本当に顔を洗いに行く気か?それとも具合でも悪いのか。」
急に気遣いを見せる先生に私は唇を噛んだ。
教室が少しざわつき、ヒソヒソと囁き声が聞こえる。
それはそうだろう。私は今までこんな反抗的とも言える態度を取ったことはない。
ましてや厳しいと言われる不死川先生にこんな態度を取る生徒はいない。
さあ、教室を追い出すなり怒鳴るなり立たせるなり何らかの罰を与えてほしい。
他の生徒と同じように。
しかし不死川先生は何も言わず、ただ気遣わしげにこちらを見ている。
いつもは厳しいくせに、そう言うことをするから、私は。
「……眠気が取れないので。」
鞄からタオルを取り出し、フルフルと振って見せる。
不死川先生は深々とため息をついて目を伏せた。
「もう良い、座れ。……放課後準備室に来い。」
それはきっと不死川先生の優しさなのだろう。
しかし、ああ、まただ。
こちらにチラチラと視線を寄越しながら、甘い、贔屓だと私にだけ聞こえるように囁かれる陰口。
彼女たちの気持ちはもっともだ。
玄弥くんの表彰状ビリビリ事件やスマッシュブラザーズ事件は記憶に新しい。
女生徒とはいえ、居眠りしていた生徒にこの程度で良いはずはない。
私はひっそりと心の中で不死川先生に八つ当たりして自己嫌悪に陥る。
放課後になった。
足が重い。
行きたくない。
しかし行かなければ叱る立場のはずの不死川先生が心配顔して教室に迎えに来るだけだ。
それはまずい。
私は重い足を引きずりながら、数学準備室に向かった。
「失礼します。」
「おう、待っていだぞ。入れぇ。」
不死川先生は机の上に積み上げた小テストの採点の手を止める。
「後少しで終わるから、ちょっと待ってろ。」
私はコクリとうなづくと少し離れた椅子に座った。
それを確認してまた不死川先生は採点を始めた。
先生は単元ごとにこまめにテストをする。
嫌がる生徒は多いがこれは皆がきちんと理解をしているか確認してくれているのだ。
もし皆の成績が悪ければ重点的に復習も兼ねて授業をしてくれる。
先生も忙しいだろうにさらに点数が悪い生徒には補習までしてくれる。
補習狙いでわざと悪い点を取る生徒もいると聞いた。
不死川先生の授業はわかりやすい。
補習はきっともっと丁寧でわかりやすいんだろう。
きっと優しく教えてくれて、問題が解けたらとびきりの笑顔で褒めてくれるんだろう。
私は不死川先生の横顔を眺めた。
すっと通った鼻筋も、硬く結ばれた唇も、こちらを向かない大きな瞳も初めて会った時からちっとも変わらない。
きっとこちらを向いた時に優しく緩む目元も変わらない。
キュッと喉の奥が詰まり、何だか泣きたくなる。
「さて、平坂。」
不死川先生がこちらに向き直る。
私は身を固くして先生の言葉を待った。
「お前ははもともと数学の成績は良かったはずだが、最近はあまりにも乱高下が過ぎる。上位を取ったかと思えば、今回みたいにとんでもない点を取ることもある。」
コクリとうなづく。さあ来い。どんな罰でも受ける覚悟はある。
「他の教科の先生からも聞いたが少々居眠りが多いようだな。……成績は落ちちゃいねえが。」
不死川先生が下から優しく覗き込む。
私は息を呑んだ。違う、そうじゃない、それじゃないよ。
「眠れてないのか?牡丹。」
ずるい、実弥兄ちゃんはずるい。
成績の悪い私なんか優しくしなくて良いのに。
そうやって優しくされたら、私嬉しくなってしまうのに。
また不死川先生は平坂を贔屓していると言われて学校に変な電話が入って困るのは先生なのに。
教室で言われているの、聞こえてないのかな。
実弥兄ちゃんはいつも私を助けてくれるヒーローだった。
でもいつまでもこのままじゃ居られない。
周りの人は私たちをおかしな目で見るから。
「不死川先生、大丈夫ですよ。」
私は微笑む。
「居眠りしてしまって申し訳ありません。以後気を付けます。」
不死川先生の表情が歪む。
「今回のテストのところはちゃんと勉強し直します。次までには」
「馬鹿かお前。」
不死川先生の腕が伸びてきて、ゆっくりと私の頭を抱きしめた。
子供の時みたいに。私を落ち着かせて、寝かしつける時みたいに。
「そんな顔して、笑うんじゃねえ。」
目の前には実弥兄ちゃんの胸板があって、いやこれは流石にこの歳では恥ずかしい。
「不死川先生、これはちょっと。流石に気にして欲しい。」
「気にするな、俺がしたくてしている。」
いや、そうじゃなくて。
「お前はもっと俺に甘えていい。本音をぶつけていい。俺には何を言ってもいい。」
ガッチリ抱きこまれた腕の力が少し緩んだので離れようとしたが私はただ顔を見上げるだけに留まった。
「それとも、俺じゃもう頼りにならねえか。」
するり、と実弥兄ちゃんが私の短くなった後ろ髪を撫でる。
もしや兄ちゃんまで失恋したのかどうかなど聞いてくるのではあるまいな。
私が少し身構えたのを何か勘違いしたのか、途端に不死川先生の眉毛が下がる。そうするといつもの気合い入った四白眼が急に黒目がちの潤んだ眼になって、まるで叱られた子犬のようだ。
「俺じゃ、ダメなのか。」
「実弥兄ちゃん、そう言うことするからまた何か言われるんだって。」
少し腹立たしくなって口を尖らせて私は答える。
「私を甘やかすから、サネミンファンの女の子たちにいろいろ言われるし、呼び出されるし、散々なんだから。」
ぷい、と顔を背ける。
「何言ってんだ、そいつらは俺が潰してやると前も言っただろお?」
当然のように呆れたように物騒なことを言う不死川先生を見上げる。
実弥兄ちゃんがこんなことを言うものだから、きっと勘違いだろうに私は何だか自分が特別みたいに思えて、嬉しくなってしまって、後ちょっとだけ甘えたくなってしまった。
こうして私は結局兄ちゃんから離れられないんだ。