私と彼女と彼の初七日
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
閻魔大王は彼女と鬼灯のことをゆっくりと思い出していた。
いつもは自分が幾らねだっても話してくれないくせに、その日は「彼」を見送って気が抜けたせいなのか、それともその時にした「約定」に気が行っているせいなのか、ポツリポツリと話してくれたのだ。
彼女に初めて会ったのは鬼灯がまだ丁と呼ばれる人間だった頃のことだ。
彼女は「白い神から遣わされた」預言者であり、雨乞いのミコでもあった。
ミコが呼べば雨が降り、ミコが望めば穀物が良く実り、村は豊かになっていった。
表向きは綺麗な社の一部屋で、綺麗な服と美味しい食事を与えられ、丁重に扱われ敬われ、しかし決して外に出ないよう見張られていた。
ミコの社にある空気取りの格子戸の1つと、丁が寝床としていた場所が隣り合っていたのは偶然だった。
大人に囲まれて暮らしていたから丁のことが珍しかったのだろう。
彼女は丁を呼び止めては外の話をねだり、丁が話し終えれば彼女も止め処ない話をして、最後に決まって供物であろう果物を差し出した。
彼女の深く淡い瞳に見つめられ、白くふっくらとした、マメの一つもない手に触れるたび、丁はなんとも言い知れない高揚感に胸を躍らせた。
外に焦がれる彼女に、いつか彼女を外に連れ出し、たくさんのものを見せてやろうと思うのは自然な感情だったと言えよう。
「本当?嬉しい!約束ね。」
そっと自分の手を握る彼女の手は柔らかく温かく、丁はその感触を胸に幸せな眠りに着いた。
ただその約束が果たされることは無かった。
複数の召使いたちと一緒にいつもより山奥に柴集めに行かされたその日、彼女は消えた。
閂が掛けられ、屈強な男たちが見張っていたはずの彼女の社は、男たちもその中に納められた供物も彼女自身もその中に無く、もぬけの空となっていた。
村の大人たちが気が狂ったように周辺の森や山、崖を探し回ったが見つからなかった。
夜も更け、月のない夜のことだった。
甲高い獣の咆哮が響き渡り、山の天辺に一つの白い光の柱が立ってすぐに消えた。
光の柱が立ったと思しき場所にはただ死にかけた見張りの男の一人がいた。
村人が問い詰めると俺じゃねえ、俺が殺したんじゃねえ、といって事切れた。
丁は彼女にもう会えないのだと悟った。
その後雨が全く降らず、穀物が育たなくなり、孤児だった丁が生贄になって哀れに思った鬼火がそれを助けて彼が鬼に、そして閻魔に出会って鬼灯となったのはご存知の通りである。
復讐のために村人を探し出しつつ、彼女恋しさに彼女の生まれ変わりを見つけたのは平安の頃だった。
今回は男童だったが、すぐに分かった。
姿形は鬼灯の記憶のまま、あの瞳も白い手もほぼ変わりがなかったからだ。
皇族の母を持つ貴族である彼の屋敷には大きな八重桜が咲いていた。
桜にしては珍しく、春先から初夏まで長く咲く不思議な桜だった。
彼の部屋の前にあるそれに潜み、彼の様子を窺っていた。
「そこにいるんだろう、子鬼。降りておいで。水菓子をやろう。」
もしかしたら覚えているのでは、思い出してくれるのではと思って、最初に姿を現した時に出会った時と同じ歳くらいの子供の鬼になったせいか、彼は鬼灯を子鬼と呼んだ。
童だと言うのにひどく大人びた話し方をする子供だった。
彼は「丁」を覚えてはいなかった。鬼灯はひどく落胆した。
しかし完璧に気配を消していたはずなのに自分を見つけたのはどう言う訳方かと訝しがる鬼灯に彼は笑って答えた。
ああ、うちの家系はね、少々感じる力が鋭いらしいんだ。
大丈夫。君が何もしなければこちらも何かすることは無いよ、だから安心して遊びにおいで。
前と変わらぬ優しい声に、鬼灯はふらふらと姿を現してしまったのだ。
言葉を交わし、同じものを食べ、何度も会いに行った。
自分の地獄の瘴気が良からぬものを呼び込む可能性を知りながら、
それでも鬼灯は彼に会うのを止められなかった。
子鬼の姿を取ったとはいえ、人ならざるその姿を見せても彼は怖がりもしなかった。
「名前は聞かないほうがいいんだろう?私にとらわれてはいけないからね。」
そう言って名乗らせもしなかった。
とっくにとらわれているのだと知ったら彼はどうするんだろう。
そう思いつつもそうそう自分の素性を明かすわけにはいかない。
それを知ってか知らずか、彼は無口な鬼灯をさして気にすることなく、自身は前と同じく止め処ない話をして、最後に決まって果物を差し出した。
小鬼の姿の私が変わらないままでいることも指して気に留めた様子は無かった。
童だった彼が元服をしたと同時に妻問い、子を成しても私に対するそれは変わらなかった。
彼に触れたものがいると言うのは心底腹に据えかねたが、彼は自分の思いなど知らない。知る筈もなかった。
それでも我慢が出来たのは、彼の話に出てくるのが妻でも子でもなく、体の弱い甥っ子の話だったからなのだろう。
年が離れた甥がいてね、身体が弱くて屋敷から出られないんだ。
意地っ張りで矜恃も高いものだから家のものが寄り付かない。
それが不憫でよくそちらに通っているんだよ。
彼は嫌がって帰れと言うんだが寂しがりなんだ。
私が帰ろうとすると怒り出す。
彼は心底おかしそうにふふ、と花が綻ぶように笑った。
私を置いて行くのか。私の名を呼べと可愛らしいことを言う。
気が漏れてしまうから薬の効きが悪くてね、今度新しくて強い薬を試してみようと言われているらしいんだ。
青い花から作ると聞いてから、なぜかな、私は少し、怖いんだよ。
もうその子に会えないような、そんな気がするんだ。
その子供の話をする彼に鬼灯は少々悋気を覚えたが、彼の笑顔が見たくて黙って聞いていた。
彼が怖いと言ったのでその子供の寿命を調べてみようかと地獄に戻った矢先のことだ。
死んだのは彼の方だった。
親友だった男に裏切られ、その時の傷が元で熱病にかかり、薬石甲斐なく死んだ。
しかし困ったことに鬼灯と話している姿を目にしたものがいたのだろう。
彼の家では鬼に魅入られたのだと言うのが専らの噂だった。
直接の原因ではないが、あながち間違いという訳でもない。
きっと私が、私が望んでしまったのだ。
彼の死を、きっと。
それにあのときはまだ、鬼が現世に行くときの影響を爾とはわかっていなかった。
「ねえ、鬼灯くん、その彼の甥っ子って結局どうなったの?」
的外れな閻魔大王の問いに鬼灯は胡乱な視線を投げつつ答えた。
「彼が気にしていたその子供を、私は見に行ってはいませんよ。
何故かって?
地獄の鬼は、現世の妖の所業には関与しないのが鉄則ですからね。
ましてや成り立ての新参ものなど、かまっている暇はありません。」
閻魔大王は首を傾げた。
ちょっとよく分からない。
彼が死んでしまったばかりだからそれどころじゃない、ならわかるけど。
鬼灯は意に介さず話を進める。
私は慌てて彼を探し、三途の川で追いつきました。
どこを見ているでもなく、方向だけは川を眺めている彼に、声をかけあぐねていると、彼は私に向かってこう呼び掛けました。
「なあ、子鬼。」
追いついた時、慌てていたせいか私は今の姿を取っていたのに彼は私があの子鬼だと気付いていました。
気付いて、いたんです。
「私はこの川を、あいつの背に乗って渡らなくてはいけないのかな?」
彼は自分の尊厳を踏みにじり、自分の死因になった元親友を憎んではいませんでしたが嫌悪はしていたのでしょう。
震えながら私に問うたのです。
三途の川は初めての男に背負われて渡る、初めての女を背負って渡るなど、どこのお幸せな極楽とんぼが言い出したんだか。
私は唇をぎり、と噛み、ようやく言葉を絞り出しました。
「それは人間たちが勝手に言っていただけで、
あなたはあの男の背になど乗らなくていいし、
あの女を背負って渡らなくてもいいんですよ。」
「そうか、そうなんだ……」
良かった、と小さく呟く彼の声に私はあの男に対する怒りが抑え切れませんでした。
だのに同時に、彼のそばにいて彼の信頼を受けていながら彼を裏切り、彼を暴き、彼に深く触れ、彼の一部を手に入れたその男が心底……嫉しかった。
「どうしてもと言うのなら、私が、私があなたを背負います。」
どうにか絞り出した私に、彼は力なく、ふ、と笑い声を漏らしました。
白玉か 何ぞと人の 問ひし時 露とこたえて 消えなましものを
彼は自分を誰に准えたのでしょうか。
姫か男か、それとも……鬼か。
浅ましいと笑ってくれても構いません。
私が、私こそがそんな昏い欲望を抱いていた。
あの人が男でも女でも構わない。
ずっとずっと、あなたとそうなりたい、と
彼が知ればおぞましいと言うような、そんな邪な思いを、子供の振りをしてずっとずっと思っていたのです。
あの人があの女を抱くのを、子を成すのを許せても、あの男だけはずっと許せなかった。
閻魔大王は鬼灯の告解を静かに聞いていた。
まあ、あの男はきっとあの子供だったなりたての成り損ないがなんとかしたでしょうから、あの男がこちらに来たらあの人と顔を合わす前に早急に始末することにいたしましょう。
閻魔大王は鬼灯が言っていることがやはり良く分からなかったが、楽しそうに呵責道具を用意する彼を見て、少しでも気が紛れればいいなとは思った。
しかし閻魔大王はその子供だった甥っ子が地獄に来る千年の間、うんざりするほどたくさんの亡者が来ることを、とてつもなくたくさんの裁判に追われることを、そして呵責のためにたくさんの人員が割かれることを、このときはまだ知らなかった。
いつもは自分が幾らねだっても話してくれないくせに、その日は「彼」を見送って気が抜けたせいなのか、それともその時にした「約定」に気が行っているせいなのか、ポツリポツリと話してくれたのだ。
彼女に初めて会ったのは鬼灯がまだ丁と呼ばれる人間だった頃のことだ。
彼女は「白い神から遣わされた」預言者であり、雨乞いのミコでもあった。
ミコが呼べば雨が降り、ミコが望めば穀物が良く実り、村は豊かになっていった。
表向きは綺麗な社の一部屋で、綺麗な服と美味しい食事を与えられ、丁重に扱われ敬われ、しかし決して外に出ないよう見張られていた。
ミコの社にある空気取りの格子戸の1つと、丁が寝床としていた場所が隣り合っていたのは偶然だった。
大人に囲まれて暮らしていたから丁のことが珍しかったのだろう。
彼女は丁を呼び止めては外の話をねだり、丁が話し終えれば彼女も止め処ない話をして、最後に決まって供物であろう果物を差し出した。
彼女の深く淡い瞳に見つめられ、白くふっくらとした、マメの一つもない手に触れるたび、丁はなんとも言い知れない高揚感に胸を躍らせた。
外に焦がれる彼女に、いつか彼女を外に連れ出し、たくさんのものを見せてやろうと思うのは自然な感情だったと言えよう。
「本当?嬉しい!約束ね。」
そっと自分の手を握る彼女の手は柔らかく温かく、丁はその感触を胸に幸せな眠りに着いた。
ただその約束が果たされることは無かった。
複数の召使いたちと一緒にいつもより山奥に柴集めに行かされたその日、彼女は消えた。
閂が掛けられ、屈強な男たちが見張っていたはずの彼女の社は、男たちもその中に納められた供物も彼女自身もその中に無く、もぬけの空となっていた。
村の大人たちが気が狂ったように周辺の森や山、崖を探し回ったが見つからなかった。
夜も更け、月のない夜のことだった。
甲高い獣の咆哮が響き渡り、山の天辺に一つの白い光の柱が立ってすぐに消えた。
光の柱が立ったと思しき場所にはただ死にかけた見張りの男の一人がいた。
村人が問い詰めると俺じゃねえ、俺が殺したんじゃねえ、といって事切れた。
丁は彼女にもう会えないのだと悟った。
その後雨が全く降らず、穀物が育たなくなり、孤児だった丁が生贄になって哀れに思った鬼火がそれを助けて彼が鬼に、そして閻魔に出会って鬼灯となったのはご存知の通りである。
復讐のために村人を探し出しつつ、彼女恋しさに彼女の生まれ変わりを見つけたのは平安の頃だった。
今回は男童だったが、すぐに分かった。
姿形は鬼灯の記憶のまま、あの瞳も白い手もほぼ変わりがなかったからだ。
皇族の母を持つ貴族である彼の屋敷には大きな八重桜が咲いていた。
桜にしては珍しく、春先から初夏まで長く咲く不思議な桜だった。
彼の部屋の前にあるそれに潜み、彼の様子を窺っていた。
「そこにいるんだろう、子鬼。降りておいで。水菓子をやろう。」
もしかしたら覚えているのでは、思い出してくれるのではと思って、最初に姿を現した時に出会った時と同じ歳くらいの子供の鬼になったせいか、彼は鬼灯を子鬼と呼んだ。
童だと言うのにひどく大人びた話し方をする子供だった。
彼は「丁」を覚えてはいなかった。鬼灯はひどく落胆した。
しかし完璧に気配を消していたはずなのに自分を見つけたのはどう言う訳方かと訝しがる鬼灯に彼は笑って答えた。
ああ、うちの家系はね、少々感じる力が鋭いらしいんだ。
大丈夫。君が何もしなければこちらも何かすることは無いよ、だから安心して遊びにおいで。
前と変わらぬ優しい声に、鬼灯はふらふらと姿を現してしまったのだ。
言葉を交わし、同じものを食べ、何度も会いに行った。
自分の地獄の瘴気が良からぬものを呼び込む可能性を知りながら、
それでも鬼灯は彼に会うのを止められなかった。
子鬼の姿を取ったとはいえ、人ならざるその姿を見せても彼は怖がりもしなかった。
「名前は聞かないほうがいいんだろう?私にとらわれてはいけないからね。」
そう言って名乗らせもしなかった。
とっくにとらわれているのだと知ったら彼はどうするんだろう。
そう思いつつもそうそう自分の素性を明かすわけにはいかない。
それを知ってか知らずか、彼は無口な鬼灯をさして気にすることなく、自身は前と同じく止め処ない話をして、最後に決まって果物を差し出した。
小鬼の姿の私が変わらないままでいることも指して気に留めた様子は無かった。
童だった彼が元服をしたと同時に妻問い、子を成しても私に対するそれは変わらなかった。
彼に触れたものがいると言うのは心底腹に据えかねたが、彼は自分の思いなど知らない。知る筈もなかった。
それでも我慢が出来たのは、彼の話に出てくるのが妻でも子でもなく、体の弱い甥っ子の話だったからなのだろう。
年が離れた甥がいてね、身体が弱くて屋敷から出られないんだ。
意地っ張りで矜恃も高いものだから家のものが寄り付かない。
それが不憫でよくそちらに通っているんだよ。
彼は嫌がって帰れと言うんだが寂しがりなんだ。
私が帰ろうとすると怒り出す。
彼は心底おかしそうにふふ、と花が綻ぶように笑った。
私を置いて行くのか。私の名を呼べと可愛らしいことを言う。
気が漏れてしまうから薬の効きが悪くてね、今度新しくて強い薬を試してみようと言われているらしいんだ。
青い花から作ると聞いてから、なぜかな、私は少し、怖いんだよ。
もうその子に会えないような、そんな気がするんだ。
その子供の話をする彼に鬼灯は少々悋気を覚えたが、彼の笑顔が見たくて黙って聞いていた。
彼が怖いと言ったのでその子供の寿命を調べてみようかと地獄に戻った矢先のことだ。
死んだのは彼の方だった。
親友だった男に裏切られ、その時の傷が元で熱病にかかり、薬石甲斐なく死んだ。
しかし困ったことに鬼灯と話している姿を目にしたものがいたのだろう。
彼の家では鬼に魅入られたのだと言うのが専らの噂だった。
直接の原因ではないが、あながち間違いという訳でもない。
きっと私が、私が望んでしまったのだ。
彼の死を、きっと。
それにあのときはまだ、鬼が現世に行くときの影響を爾とはわかっていなかった。
「ねえ、鬼灯くん、その彼の甥っ子って結局どうなったの?」
的外れな閻魔大王の問いに鬼灯は胡乱な視線を投げつつ答えた。
「彼が気にしていたその子供を、私は見に行ってはいませんよ。
何故かって?
地獄の鬼は、現世の妖の所業には関与しないのが鉄則ですからね。
ましてや成り立ての新参ものなど、かまっている暇はありません。」
閻魔大王は首を傾げた。
ちょっとよく分からない。
彼が死んでしまったばかりだからそれどころじゃない、ならわかるけど。
鬼灯は意に介さず話を進める。
私は慌てて彼を探し、三途の川で追いつきました。
どこを見ているでもなく、方向だけは川を眺めている彼に、声をかけあぐねていると、彼は私に向かってこう呼び掛けました。
「なあ、子鬼。」
追いついた時、慌てていたせいか私は今の姿を取っていたのに彼は私があの子鬼だと気付いていました。
気付いて、いたんです。
「私はこの川を、あいつの背に乗って渡らなくてはいけないのかな?」
彼は自分の尊厳を踏みにじり、自分の死因になった元親友を憎んではいませんでしたが嫌悪はしていたのでしょう。
震えながら私に問うたのです。
三途の川は初めての男に背負われて渡る、初めての女を背負って渡るなど、どこのお幸せな極楽とんぼが言い出したんだか。
私は唇をぎり、と噛み、ようやく言葉を絞り出しました。
「それは人間たちが勝手に言っていただけで、
あなたはあの男の背になど乗らなくていいし、
あの女を背負って渡らなくてもいいんですよ。」
「そうか、そうなんだ……」
良かった、と小さく呟く彼の声に私はあの男に対する怒りが抑え切れませんでした。
だのに同時に、彼のそばにいて彼の信頼を受けていながら彼を裏切り、彼を暴き、彼に深く触れ、彼の一部を手に入れたその男が心底……嫉しかった。
「どうしてもと言うのなら、私が、私があなたを背負います。」
どうにか絞り出した私に、彼は力なく、ふ、と笑い声を漏らしました。
白玉か 何ぞと人の 問ひし時 露とこたえて 消えなましものを
彼は自分を誰に准えたのでしょうか。
姫か男か、それとも……鬼か。
浅ましいと笑ってくれても構いません。
私が、私こそがそんな昏い欲望を抱いていた。
あの人が男でも女でも構わない。
ずっとずっと、あなたとそうなりたい、と
彼が知ればおぞましいと言うような、そんな邪な思いを、子供の振りをしてずっとずっと思っていたのです。
あの人があの女を抱くのを、子を成すのを許せても、あの男だけはずっと許せなかった。
閻魔大王は鬼灯の告解を静かに聞いていた。
まあ、あの男はきっとあの子供だったなりたての成り損ないがなんとかしたでしょうから、あの男がこちらに来たらあの人と顔を合わす前に早急に始末することにいたしましょう。
閻魔大王は鬼灯が言っていることがやはり良く分からなかったが、楽しそうに呵責道具を用意する彼を見て、少しでも気が紛れればいいなとは思った。
しかし閻魔大王はその子供だった甥っ子が地獄に来る千年の間、うんざりするほどたくさんの亡者が来ることを、とてつもなくたくさんの裁判に追われることを、そして呵責のためにたくさんの人員が割かれることを、このときはまだ知らなかった。
6/6ページ