私と彼女と彼の初七日
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今日も今日とて地獄は忙しい。
ここ数ヶ月で更に拍車が掛かっている上に第一補佐官殿はそれ以外の懸念事項も抱え、そちらに集中したいが為に前倒しで仕事をこなし、輪を掛けて忙しかった。
しかし閻魔大王はいつも通りである。
「ねえー鬼灯くん、そろそろ休憩しようよ。」
性懲りもなく、決して休憩を与えることなどない補佐官にそんなことを言えるだけ実はすごいのかもしれない。
もちろん第一補佐官である鬼灯はそれを一瞥の元に却下した。
「ダメです、どれだけ裁判が滞っていると思っているんですか。
ただでさえ忙しいというのに何でもかんでも私に回してくる。
もう少し最適化を図っていただかないと困ります。
優秀な人材はいくらでも確保したいですし、後進育成も兼ねて効率良くいきたいものです。」
立て板に水とはこのこと。確かに正論ではあるのだが閻魔大王は首を傾げる。
え?私上司じゃない?それに最近なんか更に仕事過密化してない?
何かに追われているみたい。
それは鬼灯の次の言葉で確信に変わった。
「それに大王、私また視察に行きますからね、ビシッと仕事してください。」
「えー、鬼灯くん最近多くない?現世の視察。
1日とかだけど、月1で行ってなあい?」
またこの人は変なところで鋭いな。
鬼灯はあからさまに顔をしかめた。
しかしそんなことで怯む大王ではない。
そんな顔をされることなどもう日常茶飯事なのだ。
しかし今回は協力を得るためにも本当のことを伝えておいた方がいいでしょう。
鬼灯はあえて顔を伏せて呟いた。
「ええ、もうそろそろ、時期なので。」
ん?と首を傾げた閻魔大王はしばらく考えていたがやがて得心が行ったと言わんばかりにポンと手を叩く。
「え、あーもしかして?」
閻魔大王はほっこりとした表情を浮かべた。
「ええ、死亡した後直ちに迎えに行かねば気が気では有りません。
はい、わかったらとっとと仕事する!」
この会話の間も裁判は着々と進んでいくのはさすがである。
判決を合間合間に言い渡しつつも閻魔大王は不満げな表情を浮かべた。
「でもさーあの子こっちに来たばかりの時は記憶曖昧じゃない、不利だよ可哀想だよ。」
ピクリ、鬼灯の額に青筋が走る。
「何を言っているんですか、約束は単に捕まえたら、ではないんですから彼女の身柄の拘束は最優先事項ですよ。むしろ野放しの方が危ない。」
彼女を知らない獄卒しかり、ましてやあの淫獣などに先を越されたらたまったものではないです。
ただでさえアレは私と違って自由に現世を行き来できるのだから。
「でもさ、今まで迎えに行けたことないじゃない。
大体、いつも、」
ぴしりと音がして空気が変わる。
その場にいた獄卒も亡者もヒッと声を上げて押し黙る。
「だから今回は特に念には念を入れているんですよ判りませんか。
今回彼女は天寿を全うしました。
私としてははらわたが煮え繰り返りそうなことも起こりましたがそれはなんとか腹に納めています。」
なんかわからないけど納まっていないよ、鬼灯くん
「だから死んだ直後を逃せば彼女が今回どこに現れるか分からないんですよ。
これがどれだけ私にとって重要なことかわからないとは言わせませんよ。」
常ならば閻魔大王もここで引き下がっただろう。
重要には相違ない、けど。
閻魔大王の脳裏にあの子の笑顔が浮かぶ。
意を決して言葉を発した。
「わかった、わかったよ鬼灯くん、君の彼女への心情は察するにあまりあるからさ、だけど少しは彼女の気持ちを」
「それはきちんと、出合ってからなんとかします。」
鬼灯は閻魔の言葉を待たず、かぶせるように畳み掛けた。
「いつもそうしています。だから今回も。」
鬼灯の言葉が詰まる。閻魔は同情的な目を向けながらもこう言った。
「だってさ、まだ3回じゃない。後、」
「5回しかないんです。5回もあるんです。
その間、私は」
鬼灯の声が詰まる。
「鬼灯くん、君……」
閻魔がその大きな手を鬼灯に差し伸べようとした時、静寂を大いに打ち破った音がした。
鬼灯様アアアアアアアアアアアア
「どうしました騒々しい!」
顔を上げた鬼灯に先程のしおらしさは無い。
飛び込んできた小鬼、茄子は肩で息をしている。
「なんか亡者が逃げ出してるみたいで!」
「なんですって!またですか。どこのどいつだ後で締めてやる。」
すっかりいつも通りの鬼灯に閻魔大王は差し出した手を持て余していた。
「それがどうも奇妙で、」
茄子も急いできたのか言葉も途切れ途切れである。
それに苛立ちを覚えたのか、鬼灯は先を促す。
「なんです。早く言いなさい。」
「捕まえられないんです。
すげー綺麗な人で、フワフワしてて、でも亡者の服着てなくて。」
ピクリ、鬼灯の体が揺れる。
あ、これは。
閻魔大王が腕を下ろし、静かに茄子の報告の続きを待つ。
「捕まえようとしても不思議そうな顔をするだけでパッとすり抜けちゃうんです。」
「……他に、特徴は!」
鬼灯柄と思われる着物を大事そうに抱えていました。
それを聞いた鬼灯の表情は見えない。
しかし震えているように見える。
「え、鬼灯くんまさか。」
あの子が。
「そのまさかです。いやしかし、まだ地獄で見つかってよかったかもしれませんが。」
彼女のことを知っている官吏は少ない。
きっと心細くて泣いているに違いない。
凛とした表情で言い切る鬼灯に閻魔大王は驚愕した。
え、今茄子くん、そんなこと言ってなかったよね。
それにワシの知っているあの子なら、
「私ちょっと現場に行ってきます!」
鬼灯は茄子の案内もそこそこに脱兎の如く閻魔殿を飛び出した。
「鬼灯くん、ワシに何か手伝えることはない?」
かろうじてそう声をかけた閻魔に鬼灯は答える。
「邪魔です。仕事していて下さい。」
ドップラー効果がかかりながら一刀両断したその言葉は何よりも閻魔に突き刺さった。
ここ数ヶ月で更に拍車が掛かっている上に第一補佐官殿はそれ以外の懸念事項も抱え、そちらに集中したいが為に前倒しで仕事をこなし、輪を掛けて忙しかった。
しかし閻魔大王はいつも通りである。
「ねえー鬼灯くん、そろそろ休憩しようよ。」
性懲りもなく、決して休憩を与えることなどない補佐官にそんなことを言えるだけ実はすごいのかもしれない。
もちろん第一補佐官である鬼灯はそれを一瞥の元に却下した。
「ダメです、どれだけ裁判が滞っていると思っているんですか。
ただでさえ忙しいというのに何でもかんでも私に回してくる。
もう少し最適化を図っていただかないと困ります。
優秀な人材はいくらでも確保したいですし、後進育成も兼ねて効率良くいきたいものです。」
立て板に水とはこのこと。確かに正論ではあるのだが閻魔大王は首を傾げる。
え?私上司じゃない?それに最近なんか更に仕事過密化してない?
何かに追われているみたい。
それは鬼灯の次の言葉で確信に変わった。
「それに大王、私また視察に行きますからね、ビシッと仕事してください。」
「えー、鬼灯くん最近多くない?現世の視察。
1日とかだけど、月1で行ってなあい?」
またこの人は変なところで鋭いな。
鬼灯はあからさまに顔をしかめた。
しかしそんなことで怯む大王ではない。
そんな顔をされることなどもう日常茶飯事なのだ。
しかし今回は協力を得るためにも本当のことを伝えておいた方がいいでしょう。
鬼灯はあえて顔を伏せて呟いた。
「ええ、もうそろそろ、時期なので。」
ん?と首を傾げた閻魔大王はしばらく考えていたがやがて得心が行ったと言わんばかりにポンと手を叩く。
「え、あーもしかして?」
閻魔大王はほっこりとした表情を浮かべた。
「ええ、死亡した後直ちに迎えに行かねば気が気では有りません。
はい、わかったらとっとと仕事する!」
この会話の間も裁判は着々と進んでいくのはさすがである。
判決を合間合間に言い渡しつつも閻魔大王は不満げな表情を浮かべた。
「でもさーあの子こっちに来たばかりの時は記憶曖昧じゃない、不利だよ可哀想だよ。」
ピクリ、鬼灯の額に青筋が走る。
「何を言っているんですか、約束は単に捕まえたら、ではないんですから彼女の身柄の拘束は最優先事項ですよ。むしろ野放しの方が危ない。」
彼女を知らない獄卒しかり、ましてやあの淫獣などに先を越されたらたまったものではないです。
ただでさえアレは私と違って自由に現世を行き来できるのだから。
「でもさ、今まで迎えに行けたことないじゃない。
大体、いつも、」
ぴしりと音がして空気が変わる。
その場にいた獄卒も亡者もヒッと声を上げて押し黙る。
「だから今回は特に念には念を入れているんですよ判りませんか。
今回彼女は天寿を全うしました。
私としてははらわたが煮え繰り返りそうなことも起こりましたがそれはなんとか腹に納めています。」
なんかわからないけど納まっていないよ、鬼灯くん
「だから死んだ直後を逃せば彼女が今回どこに現れるか分からないんですよ。
これがどれだけ私にとって重要なことかわからないとは言わせませんよ。」
常ならば閻魔大王もここで引き下がっただろう。
重要には相違ない、けど。
閻魔大王の脳裏にあの子の笑顔が浮かぶ。
意を決して言葉を発した。
「わかった、わかったよ鬼灯くん、君の彼女への心情は察するにあまりあるからさ、だけど少しは彼女の気持ちを」
「それはきちんと、出合ってからなんとかします。」
鬼灯は閻魔の言葉を待たず、かぶせるように畳み掛けた。
「いつもそうしています。だから今回も。」
鬼灯の言葉が詰まる。閻魔は同情的な目を向けながらもこう言った。
「だってさ、まだ3回じゃない。後、」
「5回しかないんです。5回もあるんです。
その間、私は」
鬼灯の声が詰まる。
「鬼灯くん、君……」
閻魔がその大きな手を鬼灯に差し伸べようとした時、静寂を大いに打ち破った音がした。
鬼灯様アアアアアアアアアアアア
「どうしました騒々しい!」
顔を上げた鬼灯に先程のしおらしさは無い。
飛び込んできた小鬼、茄子は肩で息をしている。
「なんか亡者が逃げ出してるみたいで!」
「なんですって!またですか。どこのどいつだ後で締めてやる。」
すっかりいつも通りの鬼灯に閻魔大王は差し出した手を持て余していた。
「それがどうも奇妙で、」
茄子も急いできたのか言葉も途切れ途切れである。
それに苛立ちを覚えたのか、鬼灯は先を促す。
「なんです。早く言いなさい。」
「捕まえられないんです。
すげー綺麗な人で、フワフワしてて、でも亡者の服着てなくて。」
ピクリ、鬼灯の体が揺れる。
あ、これは。
閻魔大王が腕を下ろし、静かに茄子の報告の続きを待つ。
「捕まえようとしても不思議そうな顔をするだけでパッとすり抜けちゃうんです。」
「……他に、特徴は!」
鬼灯柄と思われる着物を大事そうに抱えていました。
それを聞いた鬼灯の表情は見えない。
しかし震えているように見える。
「え、鬼灯くんまさか。」
あの子が。
「そのまさかです。いやしかし、まだ地獄で見つかってよかったかもしれませんが。」
彼女のことを知っている官吏は少ない。
きっと心細くて泣いているに違いない。
凛とした表情で言い切る鬼灯に閻魔大王は驚愕した。
え、今茄子くん、そんなこと言ってなかったよね。
それにワシの知っているあの子なら、
「私ちょっと現場に行ってきます!」
鬼灯は茄子の案内もそこそこに脱兎の如く閻魔殿を飛び出した。
「鬼灯くん、ワシに何か手伝えることはない?」
かろうじてそう声をかけた閻魔に鬼灯は答える。
「邪魔です。仕事していて下さい。」
ドップラー効果がかかりながら一刀両断したその言葉は何よりも閻魔に突き刺さった。