幻水3(ゼクセン騎士団)
「策は成った」
副団長の肩書を持つ男は戦場を見下ろし、満足げに微笑する。
戦況は彼の打ち立てた策どおりに進んでいた。
兵は命令どおりに動き、敵は次々と斃れていく。
私は彼の知恵に感銘を受けると同時に、本能的な嫌悪を覚えていた。
いくら戦であろうと、人の死にゆく様を眺めて微笑を浮かべるなど――。
彼はきっと、良い死に方はしない。
師として尊んではいるが、彼をよく知っているからこそ思う。
自分は決して、この男と同じにはならない。
なってなるものか。
思いながら、彼の隣で激化する戦場を見届けた。
――数年後。
彼は戦場に散った。
帰ってきた遺体は、なんとも醜い有様だった。
私は「やはりこうなるのか」と、ひとりごちた。
数多の死を微笑った男の行く末には、涙ひとつ流せなかった。
彼の死によって生じた変化と言えば、時折どうしようもない空虚感に苛まれるようになったことくらいだ。
――更に数年後。
私は新たな団の長とともに戦場を見下ろしていた。
戦況はこちらが優位。今のところは予定どおりの流れだ。
自分が思い描いたとおりの戦が繰り広げられている。
私は無意識に口にしていた。
「策は成った」
言葉を吐き出した瞬間、血の気が引くのを覚えた。
自分の口端は吊り上がり、醜く歪んだ笑みを象っていた。
それは皮肉にも、あのとき、あの男が浮かべたものとまったく同じ微笑だった。
――ああ。
私もきっと、良い死に方はしないだろう。
自分が彼と同じ終わりに行きつく姿を想像し、天を仰ぐ。
それから浮かべた微笑は、恐らく。
そんな惨い死を喜んで捧げられると思える主君と巡り合えた幸福によるものだろう。
もしかすると、彼もまた、当時の長へ同じ思いを抱いていたのかもしれない。
今なら、彼を理解することができる気がした。
――と、こんな戦の真っ最中に感傷に浸る私は、やはり良い死に方はしないだろう。
それだけは、確実だ。
思い、今度は自嘲めいた笑みを微かに浮かべた。
副団長の肩書を持つ男は戦場を見下ろし、満足げに微笑する。
戦況は彼の打ち立てた策どおりに進んでいた。
兵は命令どおりに動き、敵は次々と斃れていく。
私は彼の知恵に感銘を受けると同時に、本能的な嫌悪を覚えていた。
いくら戦であろうと、人の死にゆく様を眺めて微笑を浮かべるなど――。
彼はきっと、良い死に方はしない。
師として尊んではいるが、彼をよく知っているからこそ思う。
自分は決して、この男と同じにはならない。
なってなるものか。
思いながら、彼の隣で激化する戦場を見届けた。
――数年後。
彼は戦場に散った。
帰ってきた遺体は、なんとも醜い有様だった。
私は「やはりこうなるのか」と、ひとりごちた。
数多の死を微笑った男の行く末には、涙ひとつ流せなかった。
彼の死によって生じた変化と言えば、時折どうしようもない空虚感に苛まれるようになったことくらいだ。
――更に数年後。
私は新たな団の長とともに戦場を見下ろしていた。
戦況はこちらが優位。今のところは予定どおりの流れだ。
自分が思い描いたとおりの戦が繰り広げられている。
私は無意識に口にしていた。
「策は成った」
言葉を吐き出した瞬間、血の気が引くのを覚えた。
自分の口端は吊り上がり、醜く歪んだ笑みを象っていた。
それは皮肉にも、あのとき、あの男が浮かべたものとまったく同じ微笑だった。
――ああ。
私もきっと、良い死に方はしないだろう。
自分が彼と同じ終わりに行きつく姿を想像し、天を仰ぐ。
それから浮かべた微笑は、恐らく。
そんな惨い死を喜んで捧げられると思える主君と巡り合えた幸福によるものだろう。
もしかすると、彼もまた、当時の長へ同じ思いを抱いていたのかもしれない。
今なら、彼を理解することができる気がした。
――と、こんな戦の真っ最中に感傷に浸る私は、やはり良い死に方はしないだろう。
それだけは、確実だ。
思い、今度は自嘲めいた笑みを微かに浮かべた。