日常編
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次に和音が目を覚ましたのは本がたくさんある部屋だった。
なんとなく書斎のような雰囲気がする部屋に和音がぽつんと立っていた。コーヒーの香りがする。
「どこ、ここ……。えっ!? いや本当にどこ!?」
困惑した声の次に焦ったような声を出し、和音はコロコロとその表情を変える。妙に落ち着くその場所だったが、『見覚えのない場所にいる』という事実が和音を現実に引き戻し、そして不安な気持ちを駆り立てていた。
こつ、こつと足音がこちらへ向かってくる。扉が開きそこにいたのは清潔そうな男。シワ一つないシンプルな白いシャツに、黒いズボンを穿いていた。
現れた男の表情はどこか困っているように見えた。困っているのはこっちだと思いながらも和音は一歩後ずさる。それもそのはずだろう。目の前の男が和音を攫った犯人かもしれないのだから。
「そんなに警戒しないでほしい……というのは無理なお願いか。すまない。君をここに呼んだのは私だ」
「やっぱり――え? 呼んだ?」
攫った、ではなく? 和音は眉を顰め、男の次の言葉を待った。男は短く息を吐いてから真っ直ぐ和音のを目を見た。
「勝手な申し出とは重々承知している。それでも私の話を聞いてほしい」
突然和音の目の前に現れた"異常な非日常"。
和音は目線と首を僅かに動かして男に続きを話すよう促した。
「ありがとう。まずは私の説明から。私は君たちが神というものの一人だ。そしてこの空間は君のイメージを具現化した空間だ」
「……あー……え? かみ、さま?」
早速意味不明な説明が来たことに和音はぽかんとする。
すると男はすまないと一言謝ってから事細かに説明し始める。
先ほど男が言ったように、男は俗にいう「神」という存在らしい。
何か証拠はあるのかという和音の問いに対して男はパチンと指を鳴らす。すると和音の横にあったローテーブルの上に二人分のコーヒーと恐らく茶請けであろうクッキーが突然出現する。手品なんてちゃちなものではないことを瞬時に和音は理解した。
「これから私が君に話す内容は数分では話しきれない。座って話そう」
「……神様というより魔法使いですね」
一人掛けのソファに座りながら和音が言う。
「はは。とにかく私が今まで君の周りにいたような存在ではないことは理解してもらえただろうか」
「まあ、流石にコーヒーとクッキーを指パッチン一つで出されたら信じざるを得ないというか……」
困ったように笑う男、あらため神の方を見て和音はへらりと笑う。
そして神が次に発したセリフは謝罪だった。こちら側のトラブルに一般人だった和音を巻き込んで申し訳ない、とのことだった。
「巻き込む……?」
「あぁ。今から君には元いた世界とは違う世界に行ってもらう」
「違う世界?」
「いわゆる漫画の世界、というやつだ。君の世界では物語として存在していたものに君を介入させる」
その言葉に和音が一瞬表情を明るくさせ、目を輝かせたが、依然困ったような、申し訳ないような顔をしている神を見て小さく咳ばらいをしてから詳細を聞くことにした。
「君が行く世界は『家庭教師ヒットマンREBORN!』だ」
「……………辞退したいのですが」
「それは無理だ。本当に申し訳ないのだが」
断れる雰囲気ではないということはわかっていたのだが、つい本音が口から出た。
神が出したその漫画は少年漫画で、バトル漫画だ。そんなところにただの一般人が行って生き残れるものなのだろうか。
「主人公と関わらなければ生きていられそうだけど……そうはいかない……ですよね……?」
「そうだな」
和音は天を仰ぐ。誰だって痛い思いをしたくないし、死ぬなんてもってのほかだ。あそこには厄介な者しかいない。誰もが特異体質を持つような能力漫画ならまだしも……和音はそう思った。
「見ているだけならいいかもしれないけど……神様には申し訳ないけど結構憂鬱というか、荷が重いというか……」
「すまない……。だがせめて君が死なないように私がサポートするつもりだ。特異体質や特殊能力、漫画の世界を著しく破壊しない程度のものなら出来る限り授けようと思っている」
「そこまでして私をリボーンの世界に行かせたい理由は何なんですか?」
「あぁ……それを話していなかったか。それは君がリボーンの世界の"調整役"に選ばれたからだ」
「"調整役"?」
神はコクリと頷く。
「まず前提として神は私一人ではない。日本でも八百万の神々だとか言われてるだろう? 人間にも色々いるように、神にも色々いるんだ。ワーカホリックな者、まだまだ未熟な者、無責任な者……その無責任な者が「面白そう」という理由だけで様々な漫画の世界に大量に人間を転生させたんだ。1回や2回、早く死んでしまった者への慈悲などではなく、だ」
「なるほど……」
「その漫画の世界にちらほら変異はあったのだが、私を含めた他の神々が物語を矯正することによって事なきを得たんだ。記憶を消したり、原作のレールに無理矢理転生者を乗せたりしてね」
「じゃあ何故リボーンの世界には私が行く必要があるんですか?」
「我々でも修正しきれないほどの変異が生まれてしまったんだ。あの世界にはマフィアがあり、ボンゴレリング、マーレリング、アルコバレーノのおしゃぶり、という代物があるのは君も知っているだろう? それがそれぞれ一つずつ増えてしまったんだ」
「えっ」
「そしてその増えたものは誰も使いこなせず、やむを得ず私たちは使いこなせる者を探したんだ。かなり時間はかかったけどね、見つけられたよ」
「その使いこなせる者というのが私というわけですか……でも、私特に何かできるってわけじゃないですよ?」
「こればっかりは身体能力だとかそういうのは関係ないんだ。普通に生きていた君が適合者だった。ただそれだけなんだ。何の因果かは私たちにもわからない。そもそも増えたこと自体がイレギュラーなんだからな」
「……あれ、待ってください? アルコバレーノのおしゃぶりも私が引き受けるということになりませんか? 私赤ん坊になるんですか!?」
「いや、ならないよ。アルコバレーノの呪いはもう受けたことになっているから」
「もう受けたことになってる?」
「私たちの都合で無理やり連れてこられた、というのが呪いだ。このくらいの救済は合ってもきっと罰は当たらないだろう。この呪いについては他の神々とも相談している。皆、君に謝りたいと言っていたよ」
「もういいですよ。ここで私が拒んだらきっともっと困った顔をするんでしょう? それに私以外にいないらしいですし……選ばれたのなら頑張ってみます。キャラクターに会えるのは正直結構嬉しいし」
眉を下げながら笑う。神はそれ以上謝罪の言葉を口に出すことはなかった。
あまり謝り続けるときっと和音はその小さな体に負の感情を溜め込んで決壊してしまうだろうから。
「先ほども言ったが私は出来る範囲で君のサポートをする。まずは基本の衣食住だな。あまりこちらから干渉しすぎるのも良くないが、学生の君が一人で金を稼いで生きていけ、というのは酷だろう。家は君が住んで家を複製し、これから住む地域、並盛だな。並盛の適当な空き地に移すつもりだ」
「本当、何でもありなんですね」
「頼りなく見えるかもしれないが私は神だからな。金銭面の心配もしなくていい。食事に関しては君自身に用意してもらうことになる……けど、それは心配しなくてもいいか」
「まあ一応家事は出来ますからね」
それからも神はまず和音の日常へのサポートについて懇切丁寧に説明をする。
和音は時折質問を混ぜながらも神の話を全て飲み込んだ。
「それじゃあ次、特異体質や特殊能力。つまり君の生存を少しでも引き延ばすための措置についてだな」
「うん。あ、その前に、増えた属性? でいいんですよね。それについて先に教えてほしいんですけど」
「そういえば言っていなかったな。増えたのは「風」だ。そして君は風を操ることが出来る。死ぬ気の炎の色はアイスグリーンで、性質は加速」
「おお……! 風を操る! すごい!」
シンプルな感想を述べ、はしゃぐ和音を見て神が表情を柔らかくさせた。
「じゃあサポート内容について説明していく。このサポート、特殊能力なんかは5つ与えることが出来る。一つ目は勝手ながらこちら側が決めさせてもらう」
「はい」
「1つ目は身体能力の向上だ」
「素早さとか?」
「そうだな。わかりやすく言うなら、雲雀恭弥よりも上だな」
「うぇ!? そ、それは上げすぎなのでは!?」
「私たちは少々臆病でね」
「い、いや、死にたくないからぶっちゃけありがたいんですけど……な、慣れるかなぁ……」
「君は容量がいいからきっと大丈夫だ」
「でも、攻撃力的なのはもうちょっと下げてほしいというか……握力とか、そういうの……。貰う立場なのに図々しい願いだとは百も承知なんですけど、女なのに桁違いに強すぎるっていうのは変にコンプレックスになりそうで……」
「わかった。攻撃力に繋がるものは一般女性より少し上、程度にしておくよ」
「ありがとうございます」
神が最初にコーヒーとクッキーを出した時のように指を鳴らす。
恐らくこの指を鳴らすという行為が神が何かしらの力、能力を発現するための条件なのかもしれない。
神が指を鳴らした後、和音は自分の体をぺたぺたと触るが特にこれと言った変異は見られない。
違和感がないようで何よりだと神はどこか安心しているようだった。
「他に何か欲しいものは?」
「んー……パッとは思いつかな――あっ、幻覚! 幻覚を瞬時に見破るというか、封じる? 能力がほしいです」
「だろうね」
どうやら神も幻覚、幻術は厄介だと思っていたようだった。また神が指を鳴らす。これで和音は幻覚かそうでないかをはっきりと見破ることが出来るようになった。
「次は?」
「アルコバレーノのだとバレないようにしたいです」
「わかった。力を少し抑えることになるが大丈夫か?」
「バレないのなら!」
「わかった。他には?」
「武器! が欲しいけど、あんまり殺傷能力があるというか、斬ったり撃ったりとかはしたくない……かな……」
「そんな気はしていたよ。両手を出して」
和音が言われた通り両手を出すと、神が指を鳴らす。
すると和音の手の上に警官が持っているような警棒が現れる。
「警棒! 確かに斬ったり撃ったりは出来ないですね!」
「凡そ普通の警棒だと思ってくれていいよ。でもそこのスイッチを押すとスタンガンの用に電流を流すことが出来る。その電流を逆に使われては元も子もないからね。君が押した時にだけ電流が流れるようになっているよ」
「護身用武器のトップみたいですね……ありがとうございます! あと2つか……」
「今すぐ決めなくていいんだよ。後からでもいい。私と連絡はいつでもできるからね」
「そうなんですね。ありがたいです」
警棒を持ったまま和音はほっと息を吐く。
自分の境遇を知り、無条件に頼ることのできる存在がいるかいないかでは気の持ちようがかなり違ってくるのだろう。
息を吐いてから和音ははっとした表情を見せてから神の方を向いた。
「神様、私って原作の調整役として選ばれたんだよね。じゃあ私が原作を大幅に変えるようなことはしちゃいけないわけだよね。例えるなら死んでしまう人の救済とか、そういうの」
「そうだね。優しい君に誰かを見殺しにしろというのは心苦しいのだが……」
「ううん、大丈夫。リボーンの世界では派手に主要人物が死ぬっていうのはなかったはずだから」
「改めて言うが、調整役として選ばれた君にしてほしいことは主に二つ。例の神が送り込んだ転生者が行うかもしれない原作改変の阻止。風のおしゃぶり、ここにはないが、来たる時に君に授けられるであろうボンゴレリング、マーレリングの保守だ」
和音が力強く頷く。
「君がリボーンの世界に行くタイミングは中学校入学前日だ。急で申し訳ない」
「大丈夫。……ん? ってことは私もう一回中学生やるってこと?」
「そうなってしまうな」
「そっかぁ。中学の時の勉強とか覚えてないなぁ」
「なら君の頭も良くしておくよ。頭の回転が早かったり、勉強が出来ると変に気が紛れず楽だろう?」
「本当? テストの度に唸りながら勉強しなくてもいいっていうのは楽かも」
「話すことはこれで終わりだ。他に何かあれば、あちらに行ってから私に言ってくれ。話したいと念じてくれるだけで私は応じることが出来る」
「うん」
「……最後に言ってもいいだろうか?」
「大丈夫、いいよ」
「死なないでほしい。君1人で、君の介入1回だけで終わらせたいんだ」
「うん、頑張るよ。ここまで色々貰って、サポートもしてもらえるって言われてるのに今更無理とか言えないしね」
毅然とした態度で言う和音を、神はどこか苦しそうな表情をしていた。
本当は嫌なのだ。明らかに危険な場所に今まで平和に過ごしてきた少女を送り出すことが。
「私が行けないことが名残惜しい」
「大丈夫だよ。一人でも頑張れるよ」
日常面でのサポートについての時、神は和音の戸籍を用意してくれた。
だが親などの血の繋がった存在を作ることは出来なかったのだ。
それを知った和音は特に悲しそうな顔をするわけでもなく、一人暮らしを喜んでいるようだった。
気を使う必要がなくなったなんてラッキー。
和音はそう言っていた。神も深く聞くようなことはしなかった。神とは言え、全知全能ではない。わざわざ目の前の少女が悲しむような詮索をする真似はしなかったのだ。
「和音」
「あ、初めて呼んでくれた」
「……君を名前で呼ぶことを許してくれるか?」
「当たり前だよ。神様は私のサポートをしてくれる人なんだもん。それに私にこんなに親切に、優しくしてくれた人なんて神様が初めて。私頑張るから、これからよろしくね。神様」
「あぁ、よろしく和音」
話が終わったところで和音はソファから立ち上がる。
神は指を鳴らし、和音の姿が消える。
コーヒーの香りが広がる書斎のような部屋で神は静かに目を瞑る。
「本当に、申し訳ないことをしたと思っている。どうか、どうか不幸せにならないでほしい」
――君がこれから歩む道に、和やかな風が吹きますように。
なんとなく書斎のような雰囲気がする部屋に和音がぽつんと立っていた。コーヒーの香りがする。
「どこ、ここ……。えっ!? いや本当にどこ!?」
困惑した声の次に焦ったような声を出し、和音はコロコロとその表情を変える。妙に落ち着くその場所だったが、『見覚えのない場所にいる』という事実が和音を現実に引き戻し、そして不安な気持ちを駆り立てていた。
こつ、こつと足音がこちらへ向かってくる。扉が開きそこにいたのは清潔そうな男。シワ一つないシンプルな白いシャツに、黒いズボンを穿いていた。
現れた男の表情はどこか困っているように見えた。困っているのはこっちだと思いながらも和音は一歩後ずさる。それもそのはずだろう。目の前の男が和音を攫った犯人かもしれないのだから。
「そんなに警戒しないでほしい……というのは無理なお願いか。すまない。君をここに呼んだのは私だ」
「やっぱり――え? 呼んだ?」
攫った、ではなく? 和音は眉を顰め、男の次の言葉を待った。男は短く息を吐いてから真っ直ぐ和音のを目を見た。
「勝手な申し出とは重々承知している。それでも私の話を聞いてほしい」
突然和音の目の前に現れた"異常な非日常"。
和音は目線と首を僅かに動かして男に続きを話すよう促した。
「ありがとう。まずは私の説明から。私は君たちが神というものの一人だ。そしてこの空間は君のイメージを具現化した空間だ」
「……あー……え? かみ、さま?」
早速意味不明な説明が来たことに和音はぽかんとする。
すると男はすまないと一言謝ってから事細かに説明し始める。
先ほど男が言ったように、男は俗にいう「神」という存在らしい。
何か証拠はあるのかという和音の問いに対して男はパチンと指を鳴らす。すると和音の横にあったローテーブルの上に二人分のコーヒーと恐らく茶請けであろうクッキーが突然出現する。手品なんてちゃちなものではないことを瞬時に和音は理解した。
「これから私が君に話す内容は数分では話しきれない。座って話そう」
「……神様というより魔法使いですね」
一人掛けのソファに座りながら和音が言う。
「はは。とにかく私が今まで君の周りにいたような存在ではないことは理解してもらえただろうか」
「まあ、流石にコーヒーとクッキーを指パッチン一つで出されたら信じざるを得ないというか……」
困ったように笑う男、あらため神の方を見て和音はへらりと笑う。
そして神が次に発したセリフは謝罪だった。こちら側のトラブルに一般人だった和音を巻き込んで申し訳ない、とのことだった。
「巻き込む……?」
「あぁ。今から君には元いた世界とは違う世界に行ってもらう」
「違う世界?」
「いわゆる漫画の世界、というやつだ。君の世界では物語として存在していたものに君を介入させる」
その言葉に和音が一瞬表情を明るくさせ、目を輝かせたが、依然困ったような、申し訳ないような顔をしている神を見て小さく咳ばらいをしてから詳細を聞くことにした。
「君が行く世界は『家庭教師ヒットマンREBORN!』だ」
「……………辞退したいのですが」
「それは無理だ。本当に申し訳ないのだが」
断れる雰囲気ではないということはわかっていたのだが、つい本音が口から出た。
神が出したその漫画は少年漫画で、バトル漫画だ。そんなところにただの一般人が行って生き残れるものなのだろうか。
「主人公と関わらなければ生きていられそうだけど……そうはいかない……ですよね……?」
「そうだな」
和音は天を仰ぐ。誰だって痛い思いをしたくないし、死ぬなんてもってのほかだ。あそこには厄介な者しかいない。誰もが特異体質を持つような能力漫画ならまだしも……和音はそう思った。
「見ているだけならいいかもしれないけど……神様には申し訳ないけど結構憂鬱というか、荷が重いというか……」
「すまない……。だがせめて君が死なないように私がサポートするつもりだ。特異体質や特殊能力、漫画の世界を著しく破壊しない程度のものなら出来る限り授けようと思っている」
「そこまでして私をリボーンの世界に行かせたい理由は何なんですか?」
「あぁ……それを話していなかったか。それは君がリボーンの世界の"調整役"に選ばれたからだ」
「"調整役"?」
神はコクリと頷く。
「まず前提として神は私一人ではない。日本でも八百万の神々だとか言われてるだろう? 人間にも色々いるように、神にも色々いるんだ。ワーカホリックな者、まだまだ未熟な者、無責任な者……その無責任な者が「面白そう」という理由だけで様々な漫画の世界に大量に人間を転生させたんだ。1回や2回、早く死んでしまった者への慈悲などではなく、だ」
「なるほど……」
「その漫画の世界にちらほら変異はあったのだが、私を含めた他の神々が物語を矯正することによって事なきを得たんだ。記憶を消したり、原作のレールに無理矢理転生者を乗せたりしてね」
「じゃあ何故リボーンの世界には私が行く必要があるんですか?」
「我々でも修正しきれないほどの変異が生まれてしまったんだ。あの世界にはマフィアがあり、ボンゴレリング、マーレリング、アルコバレーノのおしゃぶり、という代物があるのは君も知っているだろう? それがそれぞれ一つずつ増えてしまったんだ」
「えっ」
「そしてその増えたものは誰も使いこなせず、やむを得ず私たちは使いこなせる者を探したんだ。かなり時間はかかったけどね、見つけられたよ」
「その使いこなせる者というのが私というわけですか……でも、私特に何かできるってわけじゃないですよ?」
「こればっかりは身体能力だとかそういうのは関係ないんだ。普通に生きていた君が適合者だった。ただそれだけなんだ。何の因果かは私たちにもわからない。そもそも増えたこと自体がイレギュラーなんだからな」
「……あれ、待ってください? アルコバレーノのおしゃぶりも私が引き受けるということになりませんか? 私赤ん坊になるんですか!?」
「いや、ならないよ。アルコバレーノの呪いはもう受けたことになっているから」
「もう受けたことになってる?」
「私たちの都合で無理やり連れてこられた、というのが呪いだ。このくらいの救済は合ってもきっと罰は当たらないだろう。この呪いについては他の神々とも相談している。皆、君に謝りたいと言っていたよ」
「もういいですよ。ここで私が拒んだらきっともっと困った顔をするんでしょう? それに私以外にいないらしいですし……選ばれたのなら頑張ってみます。キャラクターに会えるのは正直結構嬉しいし」
眉を下げながら笑う。神はそれ以上謝罪の言葉を口に出すことはなかった。
あまり謝り続けるときっと和音はその小さな体に負の感情を溜め込んで決壊してしまうだろうから。
「先ほども言ったが私は出来る範囲で君のサポートをする。まずは基本の衣食住だな。あまりこちらから干渉しすぎるのも良くないが、学生の君が一人で金を稼いで生きていけ、というのは酷だろう。家は君が住んで家を複製し、これから住む地域、並盛だな。並盛の適当な空き地に移すつもりだ」
「本当、何でもありなんですね」
「頼りなく見えるかもしれないが私は神だからな。金銭面の心配もしなくていい。食事に関しては君自身に用意してもらうことになる……けど、それは心配しなくてもいいか」
「まあ一応家事は出来ますからね」
それからも神はまず和音の日常へのサポートについて懇切丁寧に説明をする。
和音は時折質問を混ぜながらも神の話を全て飲み込んだ。
「それじゃあ次、特異体質や特殊能力。つまり君の生存を少しでも引き延ばすための措置についてだな」
「うん。あ、その前に、増えた属性? でいいんですよね。それについて先に教えてほしいんですけど」
「そういえば言っていなかったな。増えたのは「風」だ。そして君は風を操ることが出来る。死ぬ気の炎の色はアイスグリーンで、性質は加速」
「おお……! 風を操る! すごい!」
シンプルな感想を述べ、はしゃぐ和音を見て神が表情を柔らかくさせた。
「じゃあサポート内容について説明していく。このサポート、特殊能力なんかは5つ与えることが出来る。一つ目は勝手ながらこちら側が決めさせてもらう」
「はい」
「1つ目は身体能力の向上だ」
「素早さとか?」
「そうだな。わかりやすく言うなら、雲雀恭弥よりも上だな」
「うぇ!? そ、それは上げすぎなのでは!?」
「私たちは少々臆病でね」
「い、いや、死にたくないからぶっちゃけありがたいんですけど……な、慣れるかなぁ……」
「君は容量がいいからきっと大丈夫だ」
「でも、攻撃力的なのはもうちょっと下げてほしいというか……握力とか、そういうの……。貰う立場なのに図々しい願いだとは百も承知なんですけど、女なのに桁違いに強すぎるっていうのは変にコンプレックスになりそうで……」
「わかった。攻撃力に繋がるものは一般女性より少し上、程度にしておくよ」
「ありがとうございます」
神が最初にコーヒーとクッキーを出した時のように指を鳴らす。
恐らくこの指を鳴らすという行為が神が何かしらの力、能力を発現するための条件なのかもしれない。
神が指を鳴らした後、和音は自分の体をぺたぺたと触るが特にこれと言った変異は見られない。
違和感がないようで何よりだと神はどこか安心しているようだった。
「他に何か欲しいものは?」
「んー……パッとは思いつかな――あっ、幻覚! 幻覚を瞬時に見破るというか、封じる? 能力がほしいです」
「だろうね」
どうやら神も幻覚、幻術は厄介だと思っていたようだった。また神が指を鳴らす。これで和音は幻覚かそうでないかをはっきりと見破ることが出来るようになった。
「次は?」
「アルコバレーノのだとバレないようにしたいです」
「わかった。力を少し抑えることになるが大丈夫か?」
「バレないのなら!」
「わかった。他には?」
「武器! が欲しいけど、あんまり殺傷能力があるというか、斬ったり撃ったりとかはしたくない……かな……」
「そんな気はしていたよ。両手を出して」
和音が言われた通り両手を出すと、神が指を鳴らす。
すると和音の手の上に警官が持っているような警棒が現れる。
「警棒! 確かに斬ったり撃ったりは出来ないですね!」
「凡そ普通の警棒だと思ってくれていいよ。でもそこのスイッチを押すとスタンガンの用に電流を流すことが出来る。その電流を逆に使われては元も子もないからね。君が押した時にだけ電流が流れるようになっているよ」
「護身用武器のトップみたいですね……ありがとうございます! あと2つか……」
「今すぐ決めなくていいんだよ。後からでもいい。私と連絡はいつでもできるからね」
「そうなんですね。ありがたいです」
警棒を持ったまま和音はほっと息を吐く。
自分の境遇を知り、無条件に頼ることのできる存在がいるかいないかでは気の持ちようがかなり違ってくるのだろう。
息を吐いてから和音ははっとした表情を見せてから神の方を向いた。
「神様、私って原作の調整役として選ばれたんだよね。じゃあ私が原作を大幅に変えるようなことはしちゃいけないわけだよね。例えるなら死んでしまう人の救済とか、そういうの」
「そうだね。優しい君に誰かを見殺しにしろというのは心苦しいのだが……」
「ううん、大丈夫。リボーンの世界では派手に主要人物が死ぬっていうのはなかったはずだから」
「改めて言うが、調整役として選ばれた君にしてほしいことは主に二つ。例の神が送り込んだ転生者が行うかもしれない原作改変の阻止。風のおしゃぶり、ここにはないが、来たる時に君に授けられるであろうボンゴレリング、マーレリングの保守だ」
和音が力強く頷く。
「君がリボーンの世界に行くタイミングは中学校入学前日だ。急で申し訳ない」
「大丈夫。……ん? ってことは私もう一回中学生やるってこと?」
「そうなってしまうな」
「そっかぁ。中学の時の勉強とか覚えてないなぁ」
「なら君の頭も良くしておくよ。頭の回転が早かったり、勉強が出来ると変に気が紛れず楽だろう?」
「本当? テストの度に唸りながら勉強しなくてもいいっていうのは楽かも」
「話すことはこれで終わりだ。他に何かあれば、あちらに行ってから私に言ってくれ。話したいと念じてくれるだけで私は応じることが出来る」
「うん」
「……最後に言ってもいいだろうか?」
「大丈夫、いいよ」
「死なないでほしい。君1人で、君の介入1回だけで終わらせたいんだ」
「うん、頑張るよ。ここまで色々貰って、サポートもしてもらえるって言われてるのに今更無理とか言えないしね」
毅然とした態度で言う和音を、神はどこか苦しそうな表情をしていた。
本当は嫌なのだ。明らかに危険な場所に今まで平和に過ごしてきた少女を送り出すことが。
「私が行けないことが名残惜しい」
「大丈夫だよ。一人でも頑張れるよ」
日常面でのサポートについての時、神は和音の戸籍を用意してくれた。
だが親などの血の繋がった存在を作ることは出来なかったのだ。
それを知った和音は特に悲しそうな顔をするわけでもなく、一人暮らしを喜んでいるようだった。
気を使う必要がなくなったなんてラッキー。
和音はそう言っていた。神も深く聞くようなことはしなかった。神とは言え、全知全能ではない。わざわざ目の前の少女が悲しむような詮索をする真似はしなかったのだ。
「和音」
「あ、初めて呼んでくれた」
「……君を名前で呼ぶことを許してくれるか?」
「当たり前だよ。神様は私のサポートをしてくれる人なんだもん。それに私にこんなに親切に、優しくしてくれた人なんて神様が初めて。私頑張るから、これからよろしくね。神様」
「あぁ、よろしく和音」
話が終わったところで和音はソファから立ち上がる。
神は指を鳴らし、和音の姿が消える。
コーヒーの香りが広がる書斎のような部屋で神は静かに目を瞑る。
「本当に、申し訳ないことをしたと思っている。どうか、どうか不幸せにならないでほしい」
――君がこれから歩む道に、和やかな風が吹きますように。
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