恋の予感は狂気 伊藤夢
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「ねえ、伊藤くん。今日席替えらしいよ……」
授業中、隣の席の伊藤くんへコソッと話し掛ける。
「え、そーなの?こんな時期に、珍しいね」
「ヤダなァ……ここの席、居心地良くて気に入ってるのに。奇跡的にまた伊藤くんの隣の席になれたらいいけど、流石にそれはないだろーし……」
ハァーと項垂れるようにして机に突っ伏した。
恋の予感は狂気
ところが今回も奇跡的に隣……とまではいかなかったが、私の席の斜め前が伊藤くんの席となった。
しかしそうやって喜んでいられたのも束の間、私の前……つまり伊藤くんの隣の席は男子から可愛いと評判の小悪魔系女子、小山さんではないか。
嫌な予感がする。そしてそれは授業中に起きた。
伊藤くんが机から落とした消しゴムを拾うべく手を伸ばせば、恰もそれを待ってました!と言わんばかりに素早く伸びて来た細い手は、伏兵ばりだ。
無論、触れ合ってしまうのは言うまでもない。
「「あ、…」」
お互いの視線がぶつかり、一瞬手が止まるけど
「ご、ごめんよ」
消しゴムを拾った伊藤くんがパッと手を戻す一方で、小山さんはジーッとただ彼を見詰めていた。
「……えっと、僕の顔に何か付いてる?」
私の監視するような視線が痛かったのだろう。
とても気不味そうに伊藤くんが彼女へ問い掛ける。
「恋の予感……」
両手で頬杖を付きながら、そんなことを言った。
「へ……?は、恋……」
「うん、恋が始まる予感……」
彼女が余りにも真面目な表情して言うもんだから
「ヤダな、恋だなんて……そんな、大袈裟な。アハハ……マァ、確かに恋愛マンガぽいけどさ…ハハ」
上手く笑い飛ばしきれないまま恐る恐る尻目にこっちを見れば、眉間に皺を寄せる私と目が合う。
ハ、ハァ……?!何言ってんの、伊藤くん!
恋愛マンガみたいって……何を話盛り上げようとしてんのよ!
ヘラヘラしちゃって、ムカツクッ!
私たちの関係を公にしてないからって、アタックされ放題じゃんか……!
まだ付き合いって間もない事もあって、誰にも明かしてない恋人関係の私達に訪れた最初の試練だった。
休憩時間になった瞬間、誰も人が来ないであろう故障中のトイレの前へと伊藤くんを呼び出すと
「ちょっと何なの、さっきの」
壁ドンならぬ逆壁ドンで詰め寄っていた。
「……え”、さっきのって?」
「はぁ?惚けないでよ、小山さんの!」
「……チョッ、ヤダなァ。さっきのは、ほんのチョット手が触れただけで、小山さんとは別に何も無かったじゃんか。美和子だって見てたデショ」
「そ、そうじゃなくて真面に対応しなくていいって言ってるの!なのに鼻の下伸ばしちゃってさ!何が恋愛漫画よ……!ったくバッカじゃないの?」
「ィヤ、チョット待ってよ。誰が鼻の下伸ばしてるって?そもそもさ、あんなの別に大した事ないじゃん。……そんなに恐い顔して怒んなくてもさァ」
普段ならもっと優しい言葉を掛けてくれるのに。
宥めてくれるだろうと期待通りにいかなかった憤りが全身を駆け巡り、プルプルと震えてしまう。
「……へぇ、そーなんだ。伊藤くんにとっては大した事じゃないんだ、フーン。あ、そう。いいよ、わかった……よーくわかった!わかりました!」
これでもかというくらい身体を捻って踵を返す。
勢いをつけ過ぎた所為で腰を痛めそうになった。
「え、美和子……チョット、ねぇ……!」
「〜う、煩い!!ついて来ないでよ!」
ーー……ムカつくムカつく、なんかムカつく。
こんな事でムカついてる自分にもイライラする。
だけどあんな事でヘラヘラするなんて、やっぱり許せない……ていうか男って皆んなそうなの?
昼休憩の時間、普段よりも荒い足取りでトイレから出て来た私が廊下の角を曲がった瞬間だった。
「わぁっー!」
バフッ!と、誰かとぶつかってしまった。顔を抑えて視線を上にやれば、そこには三橋くんがいて
「いってーなァッ!……って美和子かよ。ったくテメーはどこ見て歩いてんだ、このバカチンが」
そう言いながら顔を近付けてくるから思わず
「こ……恋の予感」
他の人ならどういう反応をするのか試してみる。
「あー?恋だぁ?」
「ね、ねえ……今のドキッてした?」
「ハァ?何じゃ、ソリャ。んなモン、するわきゃねーだろ。気色ワリーな、熱でもあんじゃね」
表情を引き攣らせながら私の顔を目掛け手を伸ばせば、額に当てがった掌で熱を計る素振りをする。
「ちょ……ひ、酷ーい!」
瞬く間にバシッと振り払った。
うーん、三橋くんという人選が不味かった。
あの人は結局のところ赤坂さん以外の女子は眼中に無いだろうし、異常なくらい自分大好きだし、普通の人とはちょっと感覚が違うから当てにならない。
色んな人で試してみないとわかんないや、よし。
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