引っ越すその前に 中野夢
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茨城県の郊外にある小さなアパート。
その1階の角部屋のドアが開いているのを良い事に、ヒョイっと勝手に室内を覗き込む。
するとそこには、床に散乱した衣類や生活用品を面倒くさそうに空の段ボール箱へ詰める誠がいた。
黙々と作業を続けているせいか私の存在にはまだ気づいてない様子だ。
やっぱり、本当だったんだ。引越しちゃうんだ。
覚悟はしていたけど、いざ確信に変わる状況を目の当たりにすれば動揺を隠せなくなってしまう。
私は思わず音を立ててしまった。
引っ越すその前に
「……なんだよ」
漸く私の姿を捉えた眼差しに輝きなんてなかった。
相変わらず冷ややかな反応……これが幼馴染みに対する態度か。
「‥…ねえ、引っ越すの?」
「………」
「それって村ちゃんが話してたヤクザの息子が原因だって?」
「……マァ、ソーダナ」
「も、ダメじゃん喧嘩は。それに……」
どうして言ってくれなかったの?幼馴染みなのに、水臭いなぁ。
少し寂しい表情を向けながら誠の前に腰を下ろす。
昔からだった。幼馴染みという立場をいい事にお節介ばかりする私も「……マタデスカ」と煙たがるように視線を逸らす誠も、これもまた日常茶飯事だった。
「チョウド良かったのよ。こっちはそろそろ飽き飽きしてた頃だったしよ。潮時ってやつだよ」
いつもの不敵な笑みを浮かべながら静かにこっちに視線を落とす。
そうやって時折見せる好戦的な誠の表情には悍ましさすら感じてしまう。
今回に至っては口出しするなという意味も含まれているのだろう。冷ややかさが
ま、負けないもん。だって誠はいつもケンカばっかり。
しかも強いからきっと恨まれる事だってあるだろうし?終いには誰かに刺されたりでもしたら‥…
なんて考えると何も言わずにはいられない。
怪我をしようがしまいが誠が人を殴ったり殴られたりするところを想像するだけで正直、胸が苦しくなった。
勿論、引っ越しを止める気なんて更々ない。
いつだって自分の事はなんでも一人で決めちゃう性格だし、それを間違っているとか思わないから。
だけど……だから、せめて引っ越す前にきちんと思っている事とか伝えないと後悔しそうだから。
暫く沈黙が続いたが、意を決した私は顔をあげ、真剣な眼差しでジッと誠を見詰める。
「あのね、鬱陶しいかもしれないけど……私、やっぱり誠に何かあったら本当に嫌だ……心配なの」
肝心の台詞のところで泳いでしまう私の目ときたら、本当に根性ないや。
不安そうな表情でそんな事言うもんだから驚いたのか、一瞬だけ誠が目を丸くしたものの
「心配だぁ?ククク、笑っちゃうね。大体にはテメーにはカンケーねーだろが」
すぐに失笑、頂きました。
「あるもん!絶対あるもーん!!」
「……ガキかよ」
その通りだった。あくまでも自分の意見を押したいと、感情的になる私は力強く立ち上がってしまっていた。
こうやって上から誠を見下す事で、自分が醸せる最大限の威圧感に頼っている。
子供騙しに過ぎないけど少しでも足掻きたいというのが本音だった。
「とにかく、ケンカはだめだよ」
「カンケーねーっつってんだろ」
「な!何よー!!なんで?!危ないじゃん!どー考えても危ない!!」
「うるせーんだ!!テメエは!!」
余りのしつこさに珍しく誠の怒号が上がった。
相手は座ったままだというのに、今にも殴り掛かって来そうな気迫に圧倒され思わず息が詰まる。
こんなにも鋭い目つきで睨み付けられる事がこれまで無かったため、自然と体が後退してしまった。
「……ッ」
ヘビに睨まれたカエルだ。声が出なかった。
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