頼れる隣人さん 中野夢
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以後このような事が無いようにして参ります。
それにしても余計なことを言ったかもしれない。
ああ言ってしまっては顔を見る度にちゃんと挨拶しなければならない……そんな気がするからだ。
挨拶なんて普通の事。だけどそれが苦手だった。
でも約束したようなものだから(極端)なるべく出来るように努力しよう…。じゃないと紅高の人達にイジメられるかもしれない。それだけは絶対に嫌だ。
寝坊した朝、急いで準備をし終えて慌てて家を出ると同じタイミングで隣から中野くんも出てきた。
「ぁ……お、はよう」
一瞬、こっちを横目で見てきたものの、何の返答もなくただ私の横を平然と通り過ぎて行った。
む、無視された……なんか地味にショック。
だから挨拶は苦手だ。見返りを求めてしまうから。メンタルの調子がいい時に会釈だけでもしよう。
こうして私の一方的な挨拶の日々が始まった。
「あ、どうも……」
勿論、あれ以降も返事が返ってくる事はない。
ただ素っ気ない態度は相変わらずだけど、そんな中でも必ず一度はちゃんと視線を合わせてくれる。
だから苦手な挨拶でも不思議と続けられた。
「……おはよう、中野くん。あれ?今日、雨降る予報だよ。……か、傘が無いなら良ければ貸そうか?」
最近では挨拶だけでなく喋り掛けられるまでになった。
あの時、思い切って引っ越しの挨拶をして良かったと思い始めている自分すらいる。
そんなある日の事だ。奇跡的な出来事が起きた。
帰宅時にアパートで中野くんと顔を合わせたので、いつも通りに私が「どーも」と短い挨拶をしてから部屋に入ろうとした時だ。それは起こった。
「オイ」
初めて彼から返事のようなものが返ってきた。
「ぅえ!?ぁ、ハイッ……!」
不意打ち過ぎて思わず声が上擦った。
や、やった……向こうから、中野くんから喋り掛けてくれた。
ついに努力の成果が報われたれんだ。そうやって喜びを噛み締めながら、次の質問をウキウキして待つ自分がいる事に気が付いた。
ーー……イヤ、ちょっと待って。冗談でしょう?
苦手な不良に対して私自身がまさか、そんな感情を抱く日が来るなんて……思いもしなかった。
こんなにも嬉しいのは中野くんだから……?
私が自問自答に夢中になっている最中、次に投げ掛けられた質問は思いもよらないものだった。
「そういやお前、1人で住んでんのかよ」
「えッ、うん?……1人暮らしだけど、どうして」
「別に」
フィと外方向いてアパートの階段を降りて行く。
え、なに……今の。どういう意味……?
どうしてそんな事わざわざ聞いてきたの。
もしかしてこれって、安易に答えちゃダメな内容だったんじゃ……
だってそんな事、中野くんが知る必要ある?
この日は正直、色んな考えが頭の中を巡り悪い方向にしか行きつかず、なかなか寝付けなかった。
「あ、ねぇ美和子!アンタ1人暮らしよね?」
下校時間、教室で帰る準備をしている時だった。
廊下で三橋くん達と雑談していた恵が、突然後ろのドアから顔を出すと遠くから話しかけてきた。
「え、うん、そうだけど……?」
あれ?こないだ中野くんにも同じ事聞かれたな。
「だったら気をつけなよ、なんでも最近1人暮らしの女性を狙った不審者が彷徨いてるらしいよ」
「え、そーなの?」
「そーよ、あれだったら三橋くんと伊藤くんに家まで送ってって貰ったら?ね、2人とも!」
パンッと両手を合わせたかと思えば、三橋くんと伊藤くんに余計なことを言い出したではないか。
「あ?何だって俺が送ってやらねばならんのだ」
そうハッキリとイヤだと示す三橋くんの一方で
「今日はその、京ちゃんとデートでして…」
フフと伊藤くんの浮かれた声が聞こえてきた。
そりゃそうよ。友達でも彼女でもない子の付き添いなんて、彼等がわざわざするワケがない。
そんなの、こっちだってお断り。
幾らみんなから人気のある2人だからって、不良は不良だから。
最近、交流のある中野くんならいざ知らず。
私にとっては噂レベルの犯罪者なんかよりも、今目の前にいる彼らの方がよっぽど恐かった。
「ヘーキよ、気をつけて帰るから!有難う」
それじゃあね。そう言って私は教室を出た。
