掌の温もりよりも 中野夢
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「ーそれでね……あ。雨、止んだね…」
雨粒を確かめるように傘から少しだけ顔を出す女がそう言うと、背中にあった温もりが消える。
そうやって離れていく手を俺は目で追っていた。
掌の温もりよりも
ー…は?俺は今、名残惜しそうに何見てたんだ。
まさか、未だこのオンナに慰めて貰いてーのか?
だとすりゃ相当な腑抜け野郎だぜ…ククク、どうやら俺は頭部をやられて血迷っていたようだ。
「大丈夫?少しは落ち着いたかな…えーっと」
女が傘を閉じると突然こっちへ視線を向けてくるもんだから、思わず逃げるように外方向いた。
このオンナ、檜山美和子は20代後半の社会人らしく今は仕事の関係で
誰も聞いちゃねーのにそれは丁寧な自己紹介だった。
挙げ句その代わりと言わんばかりに名前を始めたこっちの情報を先程から知りたそうにしている。
恐らくそれに特別な意味なんてのはないだろう。
所謂これも何かの縁だと吐かす一期一会のような。
仲良し小好し好きで常々脳内がお花畑のような…そんな女の他愛もない話とやらに過ぎない。
然しタダでさえ人と連むのを面倒に感じる俺だ。
その場限りの相手となれば尚更どうでもいい。
「…寒くない?風邪引かない内に宿泊施設に戻った方がいいんじゃない?怪我だってしてるし…1人で戻れそう?良ければ一緒に行こうか?」
「………」
口も利かなければ視線を合わせる事すらしない。
そんな俺の顔を覗き込むと、血の滲んだ額でも目に入ったのだろう。
痛々しそうな表情で手を伸ばしてくるが、顔に触れられる寸前のところでパシッと受け止めた。
「…ヘーキだよ」
触るなと言うように下から睨め付ける眼差しを向ければ「ッ…」と息を詰まらせながら咄嗟に手を戻す美和子は緊張した面持ちのまま微笑む。
「…そっか、そーよね。ちょっと構い過ぎちゃったかもね、ごめんね…。……それじゃあ、ね」
そう言って立ち上がった美和子は一歩踏み出した…筈だったのに何故か「ーわッ…!」と間抜けな声を漏らすと同時にピタリッと動きを止めた。
瞬間、目に飛び込んできた光景に息を呑んだ。
何故なら視界には美和子のコートの裾を握り締め、強く引っ張る自分の手元があったからだ。
ー…は?ナンダコリャ。
それは余りにも無意識で衝動的な行動だった。
誰がどう見ても明らかに引き止める素振りだ。
振り替えざるを得なくなった美和子の見開いた目と視線が合えば、ハッとした表情で手を放す。
マジかよ、どーなってやがる。
どうやら身体が勝手に動いてた、ようだ。
これじゃまるで、本気でこの女に縋ってるみてーじゃんか。だとすりゃシャレになんねぇーよ。
さっきから俺は一体何やってんだ、ホント。
幸いにも陽が落ちた雨上がりの河原に人気は無く、バツが悪いこの
然し、だからこそより一層互いの反応が顕著だ。
周りに雑音の無い中で発せられる言葉や見せられる表情というのは、どうにも誤魔化しにくい。
そして、それが平常心でなければ尚更だ。
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