バレンタインデー 智司夢
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材料を加え終えた片桐さん。
未だ天かすをつまみ食う三橋さん。
そして目を見開くお兄ちゃん。
3人揃って暫くもの間、沈黙だった。
その正面にて顔を真っ赤にする私。妹の些細な変化を見逃さないヤツが1番最初に痺れを切らした。
「……な、え!そーなの?!お前、智司の事が好きだったの?!」
鉄板に溜めたたこ焼きの種に火を通す時間なのか、手持ち無沙汰な片桐さんまでタイミング悪く私に視線を向けている。
最早これは死刑でもなんでもない。何方かと言うと拷問の方では無いのか。
まるで責めたてるような顔付きの兄が怖い。
「えっと、ね……その……」
胸の内を覗かれたようで恥ずかしい気持ちだ。
だけど本当は気づいて欲しいという想いもあったから、本人を目の前にはっきりと否定出来なかった。
「や、確かにヤクザに惚れちまうってのはなぁ、イトー?」
悪戯な笑顔を見せる三橋さんは、事態を悪化させるかのようにお兄ちゃんの動揺を掻き立てた。
「……え、チョットなんなの!?マジでそーなわけ?!」
「ちょっ……お兄ちゃん、痛い!」
興奮してやまない感情を私の肩を揺さぶる事で発散しようとしているのか、あからさまに狼狽えている。
いや、兄妹間でこうなりますか。
「オイ、こら伊藤。オレみてーな奴にゃ惚れやしねえよ。美和子は単にたこ焼きが好きなだけよ」
片桐さんがそう言うと私を揺さぶる手がピタリと止まった。そしてホッと胸を撫で下ろした。
「……だ、だよねー!やーやー、ビックリしたよー!アハハ!いやっ、その……智司はいい奴だけどな。妹が好きとなるとかは又、話は別じゃんか」
頭へ手を添えると、お騒がせしたと申し訳なさそうな態度をとる。
「チッ、つまらんべ!伊藤の面白ぇー顔がもっと観れるチャンスだったのによー!」
「な……お前はな~!」
あどけない顔して、なかなか鋭い勘を持っている三橋さんは侮れない。
戯れ合う2人を眺めながら熱くなった顔の火照りをとるのに必死だった。
だけどなんか……モヤモヤする。
片桐さんが庇ってくれた事で醜態を晒されずに済んだのは良かったものの、やっぱりどこか残念な気持ちがあったからだ。
