引っ越すその前に 中野夢
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「可笑しな奴らだったよ」
私の頭に軽く顎を乗せながら誠が呟いた。
「奴らって……千葉の?」
きっと千葉にいるケンカ友達とやらは、誠が今までに出会った人達では有り得なかった影響力を持っている。
そうでないと……こんなにも素直に、愉しそうに、思い出を話すなんてことしないだろうから。
人に無関心で一匹狼。そんな誠を夢中にさせた人達……。会いにいく切っ掛けになったのは、こっちの事情なんだけど、なんだかちょっぴり妬ける。
「奴らと遊んでくるよ」
「……また帰ってきてくれるの?」
「どーだか。
「……そっか」
わかってる。誠は優しいから、私や村ちゃんを巻き込みたくないんだ。
それならいっそ私が千葉まで会いにいきたいけど、誠はそういうの干渉的だって煙たがりそうだし。
……だけど帰ってくるのかどうかも分からない人をずっとここで待つなんて……好きだからこそ、きっと寂しさに耐えられなくなってしまうだろう。
頭では理解できてても感情の整理が追いつかなかった。
「ナンダよ、シケた面してよ」
声のトーンといい普段は作らない間といい、私が浮かない顔をしている事くらいお見通しなようだ。
「だって……″遊んでくる″って。てっきり千葉である程度楽しんだらこっちに帰って来る、って事だと思ったんだもん」
「……別にその気になりゃ、美和子とはドコだろーと会えんだろ」
ーー……え、それって詰まり私とはもともと定期的に会うつもりだったってこと?
決定事項だったからこその言い回し……?
誠にとって私はちゃんと特別枠ってことなの?
「……それじゃあ聞くけど、誠が千葉に引っ越しても又こうして家まで泊まりに行ってもいいの?」
誠の真意を確かめるべく恐る恐る顔を上げれば一瞬だけ目が合う。
ーー……その直後だった。瞬く間に後頭部を引き寄せられると、再び彼の懐へ納められてしまった。
心なしか照れ隠しをしているようにも見えた。
「……イーケド」
途端に嬉しくなった私が誠の胸板に頬を擦り寄せる。
「んふふ」
幸せの余り甘えられずにはいられなかった。
「随分、調子乗ってんじゃんか」
「何よ今更、いーじゃんか!」
「ククク……冗談だよ」
「えー!ひどーい!!」
狭い布団の中でパシパシッと無抵抗な誠の腕枕なるものを何発か叩いてやった。
だけど暫くの間はこうした戯れ合いは出来無くなるのか。
まあ我慢してあげるしかないか。
「……今日はこのままで居させてね。イイでしょ?」
誠の腰に手を回すとギュウッと力を込めた。
「……ソリャいいや」
その態度に応えるかのごとく、瞬く間に私を抱擁する力が再び強くなる。
誠が引っ越してしまう前にちゃんと話が出来て良かった。
じゃないときっとどこかで後悔していたに違いない。
ちゃんとは言えなかったけど何となく伝わったかな……私の好意。
少しくすんでいた気持が晴れた。
今夜は特別、安心して眠れそうだ。
