引っ越すその前に 中野夢
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「……誠はさ、寂しくないの?」
「ナンダソリャ」
それは愚問だと言うように肩を揺らして謗り笑った。
べ、別に笑わなくてもいいじゃん。
馬鹿にしてくれちゃって。私は貴方とは違うもん。
「私は寂しいよ」
瞬間、その言葉を聞いてなのか単に笑い疲れたのかは定かでは無いが、肩の揺れがピタリと止んだ。
それがあまりにも綺麗に止んだので、人の感情に左右されやすい私の心がヤケに騒ついた。
よ、余計なこと言っちゃったかな。
重かったのかも?私にしては少しシリアス過ぎたかな?
……だけどもう今しか伝えられないだろうし。
再び訪れたこの沈黙の時間、誠は一体何を考えているのだろう。
見えない感情に近づくため恐る恐る寝返りを打ってみるが、当の本人は相変わらず反対側を向いたままだ。
そう言えば村ちゃん、言ってた。
「中野の引っ越し先は千葉だってよ」
なんでも、修学旅行先の京都で一悶着あった相手である千葉の人達に会いに行くためなんだって。
あの修学旅行の件は私もよく覚えていた。
修学旅行から帰ってきた誠の全身は傷だらけで、それを目の当たりにした時はすごく動揺して顔の原型を留めないくらいベソをかいたっけなぁ。
その時は何があったかなんて、とてもじゃないけど聞けなかった。
ただ負けたんだって……それだけは理解できた。
元々ケンカに対して私は嫌悪感を抱いていて、誠とはよく口論になってた。
そんな中での大怪我だったから……本当馬鹿みたいだと思った。
その一方で強くて好戦的な誠はずっと負けなしだったから。
誠にとってはある意味、生き甲斐と言ってもいいくらい毎日ケンカに明け暮れてたのも確かだから。
だから何だか遣る瀬なさも感じてしまった。
「……あのね、誠。どうして引越し先が千葉なのか。その理由、実は村ちゃんから聞いたの」
ピクリと誠の身体が僅かに動いた。
やっと暗闇に慣れてきた目が目の前にある広い背中をしっかりと捉えれば、もう逃がしたりはしない。
「その、会いに行くんでしょう?……私は寂しいけど、誠はやっぱり……ケンカが好きだもんね」
ケンカなんてしちゃいけない、そんな理想はあっても実際この辺りで絡まれるなんて事は日常茶飯事だ。
正直、不良高の多いこの地域でケンカ沙汰は避けて通れないのが事実。
そんな時はいつだって誠は助けてくれてた。
だから私が思う理想と、厳しい現実の狭間に悩まされる日々が複雑ではあった。
でももうこれからは貴方に守ってもらえない。
そんなふうに思うと突然胸が締め付けられて、やり気れない想いが喉の奥から一気に込み上げてくる。
今まで必死に溜めて来たモノと一緒に止めどなく次から次へと溢れてしまう。
布団に落ちる無数の涙が静かな室内にポタポタと響いている気がして余計に私を感情的にさせた。
背後で嗚咽する声に気付かないわけが無かった。
痺れを切らしたように漸く誠がこっちに身体を向ける。
「泣いてんじゃねーよ。めそめそしやがって、苛つくぜ」
「う~っ、ひ……どいよっ」
余りにデリカシーの無い言葉に思わず顔を上げる。
するとそこには呆れたようにハッと口許を緩めながらも、辛苦な表情の誠がこっちを眺めていた。
誠のこんな表情は見たことがなくて、珍しい雰囲気に耐えきれず咄嗟に視線を逸らした時だった。
徐に伸びてきた誠の手がそっと私の頬に触れた。
「……ま、誠」
そのまま指で髪を梳かすように耳の横を通り頭の後ろに滑り込んでくると、優しく引き寄せられた。
私は今、されるがまま誠の懐に納まっている。
密着した誠の身体から体温を感じとると、飛び跳ねるように反応した心臓が鼓動を加速させていく。
緊張のあまり強張った身体は暫く動きそうになかった。
