引っ越すその前に 中野夢
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外はすっかり薄暗くなっていた。開いたままのドアと窓の隙間から冷たい風が悪戯にも入ってくる。
睨みつけられた私は寒さに身震いを起こす余地もなく、金縛りにあったかのように動けずにいた。
「とっとと帰れ」
大きな溜め息を吐きながらそう言うと、私の腕を掴み強引に玄関の方へ引っ張り出そうとする。
甚だしい力が腕に容赦なく掛かった。
「痛ッちょっ、待ってよ……!」
それでも帰りたく無かった。だって引っ越すの明日でしょう?
部屋にはもう封が施された沢山の段ボール箱と布団くらいしか残って無い。
誠が自分の側から居なくなってしまう、そんな現実を突き付けられているようで胸が苦しくなった。
本当にもう、会えなくなるじゃん。
「……何なんだよ、さっきからよ。言いてー事があんなら、さっさと言いやがれ」
面倒くさそうな表情でもちゃんと視線をくれる。
まだ帰りたくない……。
それどころか今日はずっと一緒にいたい。
だって明日には、この町からいなくなるんでしょう?
今日くらいは一晩一緒にいたい。
それって許されない事なのかな。
「……今日、泊まって良い?」
「……へ、泊まッ」
突拍子もないことを聞いたから、私の腕を引いていた誠の手から一瞬にして力が無くなった。
やっとこさ玄関のドアを締め切ったおかげで風の通り道がなくなった。
未だ少し寒さの名残りは消えておらず暖かさはない。
殺風景な部屋の真ん中でお茶を啜る笑顔の私と、まだこの状況を受け入れきれていない誠の姿があった。
その心の現れだろうか。向かい合って座っているはずの彼の身体は半分以上も外方を向いている。
「ねぇ、誠……どうしてそんなに不機嫌なの?……やっぱり、その……泊まること怒ってる?」
「だから誰が泊まって良いっつったよ」
確かに誠は泊まって良いとは言ってない。
だけど駄目とも聞いてない。
だから自分でもう決めちゃったんだもん。
まるで自分の部屋のように寛ぎ始めた私の態度で居座るつもりだと悟ったのだろう。
先ほどから誠の口からは溜め息しか出てきてない。
諦めきっているのか、それとも何だかんだで最後の私の願いを叶えてくれてるのか……。
定かではないけど、やっぱり誠は優しかった。
「なんか幼稚園以来だね、一緒に寝るの!」
「ハァ!?」
凄まじい奇声が荒げられた。
眉間に皺を寄せると、それはまるで極上のフザケンナを浴びせるかの如く睨みだけで圧倒させてくる。
え、なに……凄く怖いんですけど、その表情。
なんでそんな嫌そうな顔しちゃうかな。
確かに付き合ってる訳じゃないけど幼馴染みなんだよ?
「何言っちゃってんの、アンタ。一緒にダァ?寝やしねーよ、ボケが」
「えー!!それじゃあ、泊まる意味ないじゃん!」
「いや、帰れよ」
「ちょっと、それは嫌!」
そんな言い合いをしている内に時刻は深夜にはいっていった。
誠がトイレに入った隙を狙って勝手にお風呂に入っちゃえば流石に最中に止められる事はない。
そして予め持参してきたパジャマを難なく着こなした私がジャーンと誠の目の前に登場してみせれば
「…… 美和子、テメー。
完全に諦めたのだろう。ブツブツと文句を言いながらも、渋々ではあるが布団を敷いてくれた。
そんな誠が本当に大好きなの。
もっと一緒にいたいのに引っ越しちゃうんだね。
