過去と現在の間隔 智司夢
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山の天気は、崩れやすい。
そんな事分かってはいたけど、これほどまで大荒れになるなんて流石に予想していなかった。
昼過ぎまでは真っ青な空に映える紅葉がとても美しく、肌寒い11月下旬とはいえ一人で紅葉狩りにやってきた事に、無論悔いはないのだが。
夕方に差し掛かる頃には、一変して嵐のような雨風が吹き荒れ出した所為で、肌に張り付く程ビショ濡れになった衣服が、そんな頼りない折り畳み傘如きで雨風を凌げるわけがないだろうと、皮肉めいた事を言っているような気がした
。
それだけにとどまる事は無く、無情にも更に追い討ちを掛けるように雷までもが加勢し始める
。
ゴロゴロゴロ…ピカ!
「ーッキャ、やだ!雷!」
雷鳴に驚いた私は思わず険しい山道を走る。
土砂降りの雨の所為で前が真面に見えず、泥濘に足が取られ見事なまでに綺麗な体勢で転ぶ。
「っー!…イタタ。ッもう…最低っ」
ふと顔を上げると目に飛び込んできたのは、下っていたはずの山道が又、登り坂となっている
。
ハッとした私が思わず辺りを見渡すが、薄暗くなった山道には人の気配は全く見当たらない。
「…あれ、これって迷った?」
待って、どうしよう。
落ち着かなくちゃ、落ち着かなくちゃ。
心の中で呪文のように唱えながら立ち上がった瞬間、今しがた挫いた右足首に痛みが走った。
「っ、痛ッ…」
折れてはいないだろうが、走れそうに無い。
濡れた衣服と未だに激しく吹き荒れる雨風が、身震いする私の体温を容赦なく奪っていく。
兎に角、雨風を凌げる場所を探さなくては。
足を引き摺りながら暫く歩いたところで、山の奥に小さく揺らめく宿らしき灯りが見えた。
過去と現在の懸隔
「ごめんねぇ、相部屋ならなんとかなるんだけど…。とは言え今は男性客ばかりだからねえ」
「あ、相部屋ですか…」
先程から宿帳と睨めっこするご年配の宿主は、どうしたものかと困った表情で唸っていた。
ビッシリと書かれた名簿にふと視線を落とす。
すると私の目に止まった、片桐智司の名前。
……片桐智司って。小学生だった頃、家の近所に住んでいた男の子の名前と一緒だわ。
…うん、漢字も一緒だから間違いないはず。
「あの、偶然なんですが…私、この人とは知り合いです。だから、この部屋にして下さい」
「あらマァ、そうかい。片桐さんはうちの常連さんだから良かった。相部屋を頼んでみるね」
胸を撫で下ろす宿主が受話器に手を掛けるが
「あ!私が直接、会うので大丈夫です」
小学生以来の再会なのだから予告なしに吃驚させようと思った私は、透かさずそれを阻止した
。
片桐智司は私よりも二つ年下で、当初は家が近所だった為、二人でよく遊んだ記憶がある。
偉そうな癖に怖がりだった私と違って、寡黙で硬派な彼は肝が据わっている子供だった。
毎年、夏休みになると地元のお祭りに行くのが恒例だった二人、そこで怖いもの見たさの私がお化け屋敷へ挑戦する度、物怖じしない智司を盾にして前を歩かせていた事もあったっけ。
兎に角、いつも私に良いように扱われていた智司だったけど、文句も言わず年上である私の相手をしてくれる弟分の彼が凄く大好きだった。
だけど私が中学校に上がってからは、思春期ということもあったからか、会う事は無くなった
。
それからは私が他県に引っ越してしまった事で、もう彼が何処でどう暮らしてるかなんて知る由もないまま、時が過ぎていったわけだ。
だけど真逆、こんな所で会えるなんて。
約10年振りってところよね、久し振りに又扱き使ってやろうかしら、なんて…楽しみ。
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