夢で会えたら17
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「やっぱ生はうまぁい!ひっくっ!!」
床に転がるのは空のビールの缶。
すでに10缶は飲んでいるだろうと思われる愛音。
翌日が休みの前は確かによく飲むことを飛影は知っていた。
確かに明日は休みだ、だが、だからといって少々飲み過ぎではないだろうか。
「おい、飲み過ぎだぞ。」
真っ赤な顔に視点の定まらない彼女の手から缶を取ろうとするも、避けられる。
…酔ってるくせにすばやいな、こいつ。
「まだまだぁ!飛影ペース下がってるよ~!」
「…お前、人間界の酒の方が酔いやすいな。魔界の酒の方が体にあってるのか?」
体質か?
珍しいこともあるもんだな、と呆れた様に瞳を細める飛影。
ベロベロになるのも吐くのも人間界に戻ってからだ。
「明日は何するの~?ひ~ちゃん!」
「……。」
「ねぇねぇ~。」
「…もう、寝ろ愛音。」
「明日暇ならー…」
愛音の声色が少し低くなる。
「私に、剣を…教えて。ひっく。」
ぴくりと飛影の眉が動く。
「お願い、しまふ。」
「…お前が強くなる必要はない、と俺は前言ったはずだが?」
「でも…このままじゃまた何かあった時にー…」
さらに険しく眉の寄る飛影。
「飛影に、また…心配かけるの嫌だもの。」
「……お前は強くなれない。」
飛影の低い声色が室内に響く。
「へ?」
きょとんとする彼女にさらに飛影は畳み掛ける。
「人間が多少鍛えて何になる。低級妖怪にさえ勝てない。修行なんか無駄だ、やめろ。」
「…そ、そんな言い方ー…」
「事実を言ったまでだ。御手洗の事でまたぶり返すな。」
「……。」
「…ッチ」
どこか苛つきを含んだ飛影の舌打ち。
「……いいよ、なら。」
そして、その険悪になりつつある空気に、彼女の声のトーンも下がり、そしてー…
「蔵馬君に頼んでみるよ。彼なら優しそうだし。」
と唇を尖らしながら言う。
我ながら良い提案だと思う彼女だったがー…
「…なんだと?」
瞬時に発される不機嫌な声色。
「飛影が無理なら、蔵馬君しかいないでしょ?幽助くんは螢子ちゃんに誤解されても困るし、桑原君は教えるの上手には思えないし、やぱ適任は蔵馬君でしょ?」
「……俺は戦う必要がないといってるんだ。」
「それでも、私は自分の身位は、自分でー…」
いい加減頑なな彼に腹が立つ。
彼を見て意思を伝えようとした時だった。
カラン
空き缶が転がる音がする
視界が回る
背中と後頭部に感じるのは、痛みはないが床の感触。
あれ?酔い過ぎかな、私。
一瞬そう思うも、目の前にある赤い瞳に目を見開いた。
「な、飛影!床どん披露しなくていいわよ!!」
やばい、酒がなぜか一気に冷めた。
というか、先程から素面になりつつある。
「ほう、嫌なら早く起きろ。」
赤い瞳が細まり、口元は意地悪そうに弧を描く。
起き上がろうと身体に力を入れるも肩は押さえつけられ、なんとか両手で彼の肩を押し返そうともビクともしない。
「ちょっと!!からかわないでよ!馬鹿!!」
この前で、またこの下り。
あの時と今の彼の雰囲気は明らかに違う。
あの時は色気だだ漏れの彼だったが、今は不機嫌な雰囲気はあるものの、それでもどこか獲物を弄り楽しんでいるような、そんな感じだ。
「見ろ、びくともしない。お前は無力だ。」
「!!!」
カッとなり足を上げ蹴り上げる。
男の急所を狙うのは申し訳ないと思いながらも、ここまで言われたら黙ってなどいられない。
だが、それは簡単に手で止められる。
だからといって上半身が自由になったわけではない。
全く力を入れていない彼の様子。
空いた手で胸元を殴るも涼しい顔をしている。
「…女の力で、しかも人間が、どう力を得る。俺は力など入れていない。」
「…っ。」
「強くなることを望むな。」
「なん、で…」
そして、気付く。
微かに揺れる赤い瞳に。
「…心配、してくれてるの?飛影。」
「……、違う。」
苦しげに顔を歪める彼の頬に彼女は手を添える。
「俺はー…っ。」
何か言おうとするも苦しそうに眉を寄せ口を閉ざす彼。
ー…そんなに俺は今情けない顔をしているのだろうか。
飛影は見下ろした先に揺れる黒い瞳を見つめ思う。
心配、には違いない。
間違っていない…
だがー…
「頼むから、やめろ。」
強さを望む事は決して悪い事ではない。だがー…
「お前には関わりのないことだ。人間界にいて強さを得る必要はない。」
「…自分の身位、自分で守りたい。足手まといになりたくないの。」
「…俺たちの戦いに首を突っ込むからだ。本来なら必要ない。」
わかっている。
俺がこいつと縁を切り、二度と合わなければ済むことだと。
「お前は何度も危険な目にあった。分かっていて首を突っ込むその馬鹿を変に鍛えたりなんぞしたら敵の力量さえ計れずさらに早死するといっている。」
「…助けられてばかりは嫌よ。…首はもう絶対突っ込まない。約束する。だから私に剣を教えてほしいの。…毎回助けてもらってばかりの自分の無力さが情けないの。…ねぇ、飛影私ねー…」
そっと頬に添えられた手が飛影の輪郭を優しく撫でれば、その感触が彼の体の芯を痺れさせた。
「貴方といたいの。貴方の側にいる資格が欲しいの。」
「…資格などいらん。そのままで十分だ。」
そう十分だ。
十分過ぎて困る。
今でもこの女の発言に、真っ直ぐにこちらを見る黒い瞳に
ー…その濡れた唇に、胸がざわつく。
「でもね、私!!」
「もう黙れ。」
思考が別の方へ傾き始めた飛影は視線を逸らすもー…ちゃんと見ろとばかりに愛音に耳を引っ張られる。
ー…あぁ、本当に参った。
思考がだんだんと濃くなっていく。
「だからね、私はー…!!」
ー…俺は忠告したぞ。馬鹿女。
次の瞬間、飛影は彼女に触れた。
「これ以上言うなら襲う。諦めろ。」
彼は今だ息の掛かる柔らかなソレに再び食らいつきそうになるも、なんとか自身を抑えそう囁くのだった。
目を見開き放心する彼女を見下ろしながら。
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