夢で会えたら12
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『四次元屋敷』の扉にタブーの紙が目に入った時点で頭の中は真っ白だった。
通い続けていた為、今日貼られた事は間違いない。
ならば決行は本日。
中の状況がどうとか、考える前に勝手に足が進んだ。
そしてー…
飛影がまだ動いていたことに安堵したものの、海籐が飛影を挑発する直前の現場に遭遇したものだから、思わず言ってしまったんだ。
まさか、自分が魂を抜かれる様なヘマをするとは思わなかったけれど。
ーーー
ーーー……
「本当に…ごめんね。飛影。」
「……あぁ。」
彼の髪が頬に擦れて擽ったい。
歩く振動が背中越しに伝わって行く。
愛音は飛影の背に顔を埋めたまま力なく呟く。
「…久々に会えたのに。」
ぐすりと鼻を啜りながらそれでも背中から伝わる体温に縋る。
「……。」
「会って早々石化するし、石化が解けたら解けたで二日酔いだし。……吐くし…。」
「……気にするな。」
「気にするよ~…初対面なのに皆の前でゲロっぴとか、まじきつい。」
そうなのだ。
あの後、蔵馬の勝利によって海藤のテリトリーから解放された彼女は、石化が解ければ飛影と熱い抱擁、もしくは初対面の面々に挨拶が待っていたであろうその状況を瞬時に襲って来た吐き気により全て無駄にする事となった。
そしてトイレまで間に合わなかったのだから、その後の状況は目に見えてわかるだろう。
会いたかった幽白の面々が掃除をしてくれた。
その後、謝罪と共に皆に初めましての挨拶。
そして、その時から彼女の状態は今に至る。
現在、飛影に背負われている愛音。
「恥ずかしい、一番年上なのに情けない…」
今だに立ち直れない愛音。
飛影の首に回した腕にさらに力を入れ縋り付く。
「飛影~……私を殺して~。」
(しかも、しかもだ!!)
その時の出来事が脳裏に鮮明に蘇れば、ぐりぐりと頭を背中に擦り付ける。
「それに蔵馬に掃除されたんだよ~羞恥で死んでしまうよ~!」
「……。」
「あんな綺麗な手を私の汚物で汚してしまったこの溢れ止まらない罪悪感……あぁ、もう会えないよ~」
そうなのだ。
嘔吐だけでは飽き足らずそれを蔵馬に掃除させたのだから。
しかも「気にしないでください。よくある事なんですから。」と優しく気遣ってさえくれたのだ。
美少年の悩殺的な微笑に一瞬鼻血を吹きそうになるものの、出るものは別のもの。
はじめて死にたいと思った位だ。
そんな中、ピタリと止まる飛影に、背中に頬を擦り付けていた愛音は顔を上げる。
振り返った赤い瞳とかち合う。
「…ん?…どうしたの?」
すんすんと鼻を啜り、涙目の愛音。
今にも触れそうな距離にあるにも関わらず、目の前にある赤い瞳への違和感の方が勝っていた愛音はなんら気にすることはない。
それに彼は一瞬怪訝そうに眉を潜めるものの、すぐにふいっと赤い瞳を逸らす。
「…酒は飲むなとはいわん、次からはほどほどにしろ。」
お前が痛い目を見る。と再び前を向き歩き出す。
「…っ!!ふ、ふぇ、飛影~!!」
そして彼の優しさに感極まって再び強く抱きつく愛音。
それに息を着くのが彼の背中越しから伝わる。
「…なぁ愛音。」
「はい…」
「お前は今日の事、知っていたんだな。」
「え…、うん。知ってたよ。知ってたのに魂抜かれて、石化してすみません。…黙ってられなくて、つい。」
怒られるのかと、すぐさま謝る。
そもそもあの場所に自分が現れた時点で彼にはバレバレなのだろう。
「……前のー…」
不意に彼の声が低くなる。
「ん?」
「前の事は知っていたのか?」
「前?」
そう返せば気まずそうに口を紡ぐ彼に、あの襲われた時の事かと思い出す。
「あれは知らない。知ってる事と、知らないことがあるのよ。」
「……。」
「知りたいの?先の事。」
「……いや、そういうわけじゃない。」
「??」
不思議に思い、飛影の顔を伺おうとするも避けられる。
(なんだ?…浅はかな行動するなと怒られるわけでも、先が知りたいわけでもないのかしら?)
「……。」
「……。」
(それにしても…)
じっと彼の横顔を見る愛音。
(また成長したなぁ。私なんて簡単に抱えれる位体も逞しくなっちゃって…)
無事に仲間と会い、すくすく育ってくれている彼。(背は…伸びた、のか?)
今の彼には自分だけではない。
それが少し寂しいものの、だからこそよかったと心から思えるのも事実。
「…ねぇ、飛影。」
「なんだ?」
「ねぇねぇ、飛影。」
「だから、なんだと聞いている!」
イラつきながら振り返る彼の顔。
それを見て、彼女はにこりと笑みを浮かべた。
「また会えたね。私、すっごく貴方に会いたかったんだ。」
ぎゅっと彼女は抱きしめる腕を込めた。
(飛影…大きくなっても貴方は貴方。…この温かさも、優しい声も何も変わらない。)
「今夜は家に泊まってってね!一杯お話しましょう?」
彼女を見て見開く飛影の瞳、しかしどこか切なく揺れる。
「…馬鹿、が。」
顔を戻せば掠れた飛影の声だけが響く。
どこか苦しげに歪んだ表情は彼女には見えないでいた。
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