夢で会えたら7.5
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ただ触れたいと思った
ただ腕に抱いてみたいと思った
目の前で寝ている女を抱き寄せたのはそんな少しの気持ちから
ーーー
ーーーー……
旅をして歩く俺と人間の女
俺の世話を焼くのが趣味だと思われるそいつは突然俺の前に現れた
出会いは血生臭い出会いだった
そして、確かに出会った当初、こいつは怯えていた
それでも今こうして鼻歌を歌いながら隣を歩く様を見ていればあれは夢ではなかったのだろうかと思わずにはいられない
今では俺が真横で敵をなぎ倒そうとー…っくそ!本当にきやがった!!
バキッ
ザシュ!!
ほら、顔色一つ変えない。
いや、こっちを見ていないだけか。
「やめてよ!いきなりっっ…お、おぇ~!!」
こちらを見た瞬間、切り捨てた残骸をみれば林に駆け込み吐く女。
ー…あぁ。
こっちの方は相変わらずか。
なら、慣れたのは俺に、だけということか。
結論、女は血生臭い状況には耐性はついてもまだまだ不慣れらしい。
「今夜はこの森を抜けた街の宿に止まるぞ……、歩けるか?愛音。」
そして、こんな言葉を吐く様になった己自身にも驚く。
「うん…うぅ、間近で見ちゃったからまだ気持ち悪い…」
青白い顔をしながら立ち上がる女。よろけるそいつに咄嗟に出る手。
布越しでも分かる柔らかな感触の細い腕。
こんなひ弱な人間の女と俺が旅をしているなど笑える。
女を担げば一瞬悲鳴が小さく上がるも、女ももう慣れているのだろう。大人しく抱かれている。
「ごめんね、飛影…お、おぇ…」
「やめろ、吐くな。落とすぞ。」
「っっ!!」
うぷっ!と声を漏らし両手を口元に当てたそいつに焦る。
必死に宿屋に走ったとは言うまでもない。
そしてー…
「あぁ~すっきりしたぁ!すっきりしたらお腹減って来ちゃった、ねぇ?飛影。」
部屋に着くなりトイレに駆け込んで、出てきたらと思ったらこれだ。
現金な奴だ。
「…ルームサービスがあるー…」
「ダメだよ、節約だよ!私お弁当作って来たから、大丈夫ー…って、あれれ?」
自分の身体を見回す愛音。
そして顔が見る見る内に悲しみに歪む。
「……。」
「ひえぃ…」
「戻らんぞ、もう暗い。」
泣きそうにこちらを見るそいつにぴしゃりと言う。
どうやら異世界から持ってきた弁当を落としたらしい。
「……せっかく節約と栄養管理の為作ってきたのに。」
「……。」
この魔界では無力の愛音。
俺に金銭的に迷惑をかけるのを良しと思っていないこいつはよく弁当を持って来る。時にこちらの世界で調理することも多々だ。
その理由には俺の食生活の改善もあるみたいだが。
「構わん。今夜はルームサービスを頼んだらいい。」
「でも…」
「俺がいいと言ってる。」
「……。」
そして、俺達はルームサービスを頼むことにした。
「魔界のお酒って…濃い!!でも、うまい!!」
満足気な愛音。
空いた自分のグラスにとぷとぷと次から次えと足されて行く酒。
ー…女でこんなに強い奴は初めてだ。
顔色一つ変えないのは血ではなく、酒か。
それでも多少酔っているのか、瞳はトロリとし、頬も微かに赤くなっている。
「…酒は元から強いのか?」
こくりとアルコールを喉に通しながら、女に問いかける。
「う~ん、弱くはなかったのかな?でも、魔界に来て強いって分かったかも。だって、これかなり度数高いよね?」
「そうだな。」
人間の癖に、本当に強いなこいつ。
俺の方が回ってきそうだ。
「あれれ?飛影君、酔って来たのかな?顔が赤いよ~?」
むふっと口を抑えて笑う女に、何故か無性に腹が立った。
それはー…
「そもそも子供が酒を飲むこと自体可笑しいもんね。しかもこんな強いの、飛影、オレンジジュースに変えたら?」
子供扱いが、うざいのだ。
「ふんっ、あんな甘ったるいの飲めるか。」
「酒臭い子供って嫌だなぁ~」
「酒臭い女もどうかと思うぜ?」
「「……。」」
静かな火花が視線の間に飛ぶものの、まぁいいや、と切り替える女。
「前よりは偏食治ってきたしね、良しとするわ。酒が唯一の楽しみだものね、飛影は。それに妖怪だし身体の作りも人間とは違うんだろうし…にしても、このお酒、まじうま!!」
かぁ!!と息を吐くこいつに女の欠片さえ感じない。
「あとアテでもあったら最高なんだけどなぁ~…」
「あるだろ。」
「これはアテって言わないわ。ポテトも唐揚げも嫌いじゃないけど、胃が凭れるのよ。浅漬けとかスルメがほしい。」
ー…こいつ、まじだな。
まだまだ若い癖に酒肴はしっかり親父だ。
「あ、ねぇ、そういえばさー…」
いきなり何か思い出した女はずいっと身を乗り出し顔を近づける。
なんだ?一体。
それに少なからず怯む。
間近で顔を直視されるのなど慣れてはいない。
「この前人間界に降りた時、出会ったんだよね?蔵馬と、どうだった?」
瞳をキラキラさせて言うそいつに、目を見開く。
ー…そう言えばそんな事話したな。
その時の愛音はこちらに来たばかりで寝ぼけていた事を思い出す。
「あぁ、あれは敵にしたら厄介な狐だなー…」
「やっぱり格好良かった?男前になる要素踏まえていた!?」
さらにギラギラし、興奮し出す女に思わず眉が据わる。
「……まぁ、そうだな。」
蔵馬はこいつの世界の書物に載っているんだろう。
だから興味を持つのは分かるが。
「あぁ~会いたいなぁ~、いつ会えるのかなぁ~。」
酒を床に置き、両手を合わせて遠くを見ながら瞳を輝かせる愛音。
何故か酷くうざい。
「……。」
「ねぇ、しばらく会う予定ないの?私着いて行きたい。」
「…ないな。」
正直、また会う予感はする。
「ふぅん…まぁ時期が来るまでってことだね。ふふ。」
嬉しそうに笑う女。
ー…何が嬉しいんだ、こいつ。
「…蔵馬が好きか?」
「え、うん!!私の世界の書物ではね、彼ってばすっごく私好みの良い男の子なんだもん!会ってみたいよ、会えるなら。」
「……。」
本当にイライラするな。
なんだこれは…
「でも、私飛影の方が愛してるからね。」
そして、ニンマリしながら爆弾発言をする愛音に息が止まる。
「さぁ、そろそろ寝ようか。飛影。」
うーんっと伸びをする愛音に事の真意を聞きたい気もするも、冷静に考えれば答えは自ずと出る
「寒いし今日な一緒に寝よう。飛影。」
「……。」
そう、こいつにとっては俺はただの「子供」なのだ。
愛してる、も決して特別な感情の元で言っているわけではないのだと、すぐに分かる。
「そう、だな。」
それでいいのだ。
それで良いはずなのに…
「さぁ、歯を磨いてきなよ。明日も、また早いよね~起きれるかな、私。」
ごそごそと後片付けをしだす女をただ、じっと見据える。
異世界から来た女。
とんだパラレルワールドだが、それでも温もりに偽りも嘘もない。
布団に互いに入れば、案の定、愛音が身を寄せて来る。
慣れて来た温もり
それでも時には突き放してみたくもなる
突き放しても笑ってまた寄り添ってくる女
突き放すのが面倒になってきたのは事実
そして、温もりが心地よくなってきたのもまた事実
だがー…
「おやすみ、飛影。」
日々浮かび上がる燻る感情。
それは決して慣れることはない。
背中に感じる温もりに、熱が出そうになるのはどうしてか
触れたくなるのは何の変化か
まだ俺には分からない
だけどー…
ゆっくり振り向けばり眠る女の髪に指を絡ませる
柔らかなそれに身体の奥から駆け上がる熱
そして、髪に口づけた自分に我に返るのだー…
自嘲気味に笑みが漏れる。
そして、起きない事を祈りながら飛影は彼女を抱き寄せるのだったー…
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