夢で会えたら3
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
もう何度この世界に来ただろうか-…
始めの内は数えていたものの、いつの間にか数えるのも億劫な位この世界にお邪魔していた。
そしてやはり時間の進み方が違うのか、少年の成長の仕方は驚くほど早い…
出逢った頃は5歳かそこらの少年は今では12歳ほどだ。
何歳だと聞くも本人は興味がないのか「知らん。」の一言だから明確ではないが…。
「うわ、今日も宿に泊まってるんだね、ラッキー!!」
そして本日、トリップした先はどこぞの部屋。
綺麗に整えられた室内の備品。
清潔感が漂う部屋のその様子からここは宿屋なのだと理解する。
腰にくくりつけた縄の先のモノを取りに行けば「お弁当とか必要なかったかな…」と重箱に入れてきた質量の多いそれを手に持ち呟く。
シャーと言う水の音。
どうやら今シャワーを浴びているらしい。
当初、「お風呂」はどうしているのかとずっと気になっていた。
水浴びやら温泉やら行くとは聞いていたものの、野宿では見たことがなかった為信用ならなかったのだ。
それでも最近では宿を使っていることが多く、愛音自身安心していたのだ。
(まぁ、あの子の場合人の前でそうそう無防備にはならないわよね。)
何度も会っていてもそこまで信用はしてもらえていない。
そう愛音自身も分かっているのだ。
「ご飯…食べたよね、宿だもんね。」
ソファに腰掛ければ手に持つそれを膝に乗せる。
…自分が食べようかと考えるものの、結構な量だ。
(明日食べてくれるかな…)
どしりとした重箱を見下ろしながら、徐々にとろりとしだす彼女の目元。
言ってみれば彼女は寝ている時にこちらに来るのだ。眠くてもおかしくはないだろう。
(あの子が上がってきたら起きればいいか…)
極度の眠気が彼女を襲う。
彼女は再び眠りに落ちるのだった-…
ぽたぽたと黒髪から落ちる雫
肩からタオルを掛け下だけを履いた少年はソファで寝ている女の側へ寄る
「……本当に、最近多いぞおまえ。」
呆れた赤い瞳が気持ち良さそうに眠る女を見下ろす。
はぁ…と息をつきながら、肩に掛かるタオルで再び雑に頭をがしがしと拭けば、側のベットにごろりと仰向けに寝転ぶ。
なんとなしに横になれば再び目に入る女。
そして目に入る彼女の持つ重箱。
むくりと起き上がれば、彼女の側に行きそれを取りぱかりと開ける。
「…………。」
綺麗に並べられたおかず。
そしてご飯。
偏食だと言う自分にいつからかこの女はこちらに来る時は弁当を多々作ってくるようになっていた。
いつ来るかなど分からない。
以前は数ヶ月に一度来るか来ないかその程度だったのだ。
それが最近では一ヶ月に一度はここに来ている。
そして明らかに彼女の滞在時間が延びていっているのだ…
最近では二、三日こちらに居ることが普通だ。
だから、彼女の側には彼女の私物が入った鞄もちょこんとある。
最近宿屋にしている理由も目の前の女が寝る場所がどうだ、お風呂に入りたいだ等とうるさいからだが。
順応能力が高い女だ、と飛影は思う。
出逢った頃からそうだった。
当初は怖がられていたものの、二度目はすでに自分に笑みを見せ握手までされた。
そしてそれからはずっとこんな感じだ。
警戒するでもなく己を信用しきっている女。
殺されるとこれっぽっちも思わないその様子に逆にこちらがそんな気さえ失せた位だ。
そして、故郷を探す手伝いをすると、妹を探すなら自分も手伝うと…その代りに守ってほしいと言った女。
条件を飲んだつもりはなくとも、こうして殺さず一緒にいるのならそうなのだろう。
「ん…飛影…」
ふいに女の目が虚ろに開く。
「寝るならベットで寝ろ。焚き火もなにもないんだ、風邪を引くぞ。」
「…うん…。」
よろっと立ち上がりすぐ側のベットに上がればそのまま布団の中にもぞもぞと入る女。
「色々話したかったんだけど…明日にしよう、飛影。今日は眠いわ…。」
目元を擦りうとうとしながら話すそいつ。
遠慮こそすでにしなくなった…
だが-…
「飛影も入って。」
寝るペースを開け、布団を開ける女に心底呆れる。
-…そこはもう少し考えろ。
「…俺はソファで寝る。」
「だめ、風邪引く。前も一緒に寝たでしょ、早く来て、腕がだるい。せっかくの、宿なのに…布団で寝なきゃ……もったいないでしょ。」
「……。」
「子供が遠慮しないの。」
「子供、ね。」
なるほど…と鼻で笑いながら、大人しく愛音の横に入る飛影。
「…お風呂上りだね、飛影。良い香りだね。」
小さな背中が愛音の視界に入る。
一緒に寝てくれても彼がこちらを向いてくれないのはもう慣れっこだ。
それでも愛音は嬉しかった。
宿であればこうして彼と共に寝る機会は多い。
そうは言ってもこうして寝てくれたのはまだ数回なのだが。
トリップする度、愛音の中で少しずつ芽生えて行く感情があった。
母親の居ない彼に少しでも何か与えられないか…それは彼と過ごして行く内に自然と芽生えた気持ちだった。
警戒心むき出しの
それでも優しい少年
人の温かさに触れたことも
親が子を思う無償の愛さえきっと知らない
自分がそれを与えるなどと滑稽で愚かだ
偽善だと、思い上がりだと分かっていた
それでも-…
昔読んだ彼の生い立ちはとても酷いのもだったから-…
「飛影、おやすみ。明日は一杯しゃべろうね。」
そっと細い腰に手を回す。
その瞬間、ぴくりと肩を揺らし、視界に入る耳が赤くなる。
少しでも体温を感じてくれるように…
愛音は少しだけ身を寄せ、その小さな背中に頬を寄せる。
振りほどかない彼に甘えて。
.