Another world 6
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ー 秀一side ー
母さんが俺を庇って怪我をした
皿が割れた床に落ちそうになった俺を受け止めたせいで、彼女は怪我をした。
某然としている俺に彼女は、大丈夫?気をつけなきゃだめよ?と痛々しくも笑いながらそう言った。
血だらけの震える両腕を抱える彼女に血の気が引いた。
簡単に怪我をするその弱さと脆さに恐怖を感じる。
そして、ー…罪悪感。
秀一の体を奪った俺が、初めて彼女に感じた罪悪感だ。
それなりに成長するまで彼女を利用すればいいと思っていたのは紛れもない事実。なのに、なぜかこの時酷く申し訳なく感じた。
彼女は妖狐•蔵馬を助けた。南野秀一だと、自分の愛する息子だと思い込んで。
皿の割れた音は隣の家のリビングまで聞こえたらしい。
相変わらず目敏いと言うべきか、南野家に即とんできた来た彼女は救急箱を抱えていたが、母の怪我を見るなり真っ青になり「思ってたのと違う!」と慌てて救急車を呼んでくれた。
その間、情けない話だが、俺はただ自分の内に巣食う様々な感情に圧倒され呆然としていたのだ。
「思ったよりリアルは目に痛いのね、う~。」
病院の待合室で長椅子に座りながら、先ほどの母の怪我を思い出してか両腕を摩りながら眉を寄せ呻く空。
「……知ってたんだな、空。」
「時期とかハッキリ分かってなかったけど、怪我するのは知ってたの。ごめん。」
「……いや。」
彼女を責める事など出来ない。
たとえ母がいつか自分を庇い怪我をすると聞いていた所で、結果は同じだった。事実反応できなかったのだから。
「……泣きそうな顔してる。秀一君。」
「嫌なら見るな。」
「ううん。嫌じゃない。」
ニッコリと嬉しそうに笑いこちらを見る彼女に自身の眉が寄るのを感じる。
何が嬉しいんだ?
俺は今こんなにもやもやしているのに。
「大事なものを君は自覚したんだね。」
いつもとどこか違う優しい声が少女から発せられた。
その言葉に微かに胸の奥がどくりと脈打つ。
「大事なものは知っておいた方がいいよ。なくなってから気付いたって遅いから、精一杯守らなきゃね。」
「……なる、ほど。」
自嘲気味な笑みが漏れた。
妖狐•蔵馬が知らなかったものがあったとは。
俺はいつの間にか
あの人を
母として慕っていたのだと。
すとんと胸に落ちた感情に意外と悪くないものだと思った。
「帰ったら一杯甘えなさいな。自分の子供に甘えられて嫌な母親はいないよ。特に君みたいな大人びた子供を持つ母親はきっと甘えてもらえなくて寂しかったと思うよ?」
「それ君が言うんだ。」
君もじゃないか。とクスリと笑えば、彼女は少し困った様に笑みを浮かべた。
「そうだね。私も甘えるわ、もっと。……それはそうと、秀一君甘え方知らないでしょ。」
ちょいちょいと手招きされる。
こんなに近いのになぜ手招き?
言われるがまま身を寄せれば、がばりと頭を抱え込まれた。
「よーしいい子、いい子。君は素直な良い子だね。」
強引な抱擁に思いきや、頭を撫でる彼女の手は酷く優しく、彼女の胸に顔を埋める形になるものの、なぜか今はそう嫌ではない。
弱っているのだろうか。
知らない感情に少し疲れたのだろうか。
どこか安心すらするその感覚に頭の奥が次第に微睡み鈍くなっていく。
「……?」
(あ、寝ちゃった。)
そっと赤毛の下を覗き込む空。
年相応の少年の寝顔がそこにあった。
(やっぱり気が張ってたのね。)
妖狐•蔵馬の冷酷非道とは名ばかりではない。
いくら人として生きてもそう簡単に昔の自分を切り替えて今を生きることは難しい。
それは、転生を経験した空自身にも言えることだった。
(居場所が分かってよかったね、秀一君。…蔵馬。)
母の側が彼にとって少しでも落ち着く場所に、癒しの場になるように。
例え罪悪感を感じようとも、母を慕っている事には違いないのだから。
.