- Everlasting scar - 永遠の傷跡
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- Everlasting scar Addition -
ざわざわ-…
がやがや…
ばしゃばしゃ-…
人に満ち溢れたその場。
小さな子供から老人までいる夏ならではの水場、プール場。
正確には遊園地とプールが隣り合わせの幽遊ランド。(ネーミングセンスなくてすみません…by管理人)
「きっもちいい!!!!」
ざぱぁっ水から顔を出し平泳ぎをしながらぐるぐるその場を回る栄子。
「…それはよかった。」
「秀ちゃんもそんな所で見てないで入ればいいのに。」
プールの端まで行けばパラソルに入って涼んでいる彼を見上げる。
「さっき入ったしね。今は休憩。」
テーブルに頬杖を付きながら微笑む秀一。
そんな彼をじっと見る栄子。
肩に羽織るタオルから惜しげもなく覗くしなやかな筋肉のある引き締まった体。
細身ではあるが男性特有のそれ。
赤い髪は高いところで束ねられ、普段見えない首筋が露になっている。
どんなに顔は美しくてもやはり男の子なのだと、改めて分からされる。
「…どうかした??栄子。」
呆ける彼女の頭上から振る艶やかな声。
それにはっと顔をあげる栄子の視界に映る妖艶な翡翠の瞳。
「そろそろ上がったら?…顔、赤いけど。」
熱中症になるよ??と手を出されればそれを慌てて掴む。
くすくすと笑いながら細まる悪戯な色を含んだ翡翠に、彼女はさらにカァ~と熱くなる。
(…か、確信犯!!!??)
今朝、いきなり秀一が家に来た栄子。
『栄子、今日から連休でしょ??出かけるよ。用意して。』
満面の笑みを、否…あまり見る事ない天使の様な笑みを浮かべる彼に、歯を磨いていた栄子は考える事無く頷いたのだ。
ニコニコ笑う天使に誘導され、車に乗る。
『あれ、秀ちゃん…免許……』
『心配しないで。もうすぐ取れるから。今、仮免なんだ。栄子あるし問題ないでしょ??』
『……。』
まぁそれもそうだ。
そして、気づけばいつの間にか彼に運転をさせたまま眠りに付き、気が付けば5時間位経っていた模様で-…
気づけば幽遊ランドに到着していたのだ。
そういえば目的地を聞いていなかったと思った栄子だったが、長時間運転をしてくれた上に文句一つ言わない彼に感謝の言葉しか出てこなかったのだが-…
彼女は肝心な事を忘れていたのだ。
そして、それに気づいたのは酷く後の話である。
「え??…今、なんて??」
プールで散々遊び、温泉もあったので温泉も堪能した後、夕食をとる途中彼が言った一言で彼女は固まる。
「ん?だから…明日は遊園地の方へ行こうか、って言ったんだけど。」
「え、いやいや…明日??」
「うん、栄子明日も会社休みだろう?」
「……。」
(…こ、これは-…!!!!)
ぽろりと箸が手から滑り落ちる。
そんな彼女の様子に、へぇ…と目の前で笑みを浮かべる男。
「やっぱり安易だね、栄子。」
「そ、そそそそそそそそそそそ…それって!!!!」
「俺、お酒飲んじゃったし…。」
べーっと悪戯な笑みを浮かべ舌を出す彼に、栄子はただただ叫ぶのだった。
『栄子、死なないで-…』
あの時、幼い狐が彼女に言った言葉。
自分が目覚めた事に安堵すれば青ざめ気を失う少女。
それは感じていた負の感情が一気に明確な形となった。
彼女を失うー…
それは『恐怖』だった。
だから-…
「秀ちゃんの詐欺師、ペテン師!!!大うそつき!!!!」
ホテルの一室ではこれでもかとベットの上で秀一に枕を投げる栄子。
「酷いなぁ…。」
それに笑みを浮かべながらも避ける彼。
罵声を飛ばしながらも大人しく??部屋に来る彼女は本当に根が素直なのだと思う。
もちろんそれも自分の事を信用しているからこそだと分かっている。
「私の返事も聞かずにこんな手の込んだ事!!ありえない!!!」
「本当、馬鹿だね。」
ふいに彼女の手を掴む狐。
それにびくりと肩を揺らす彼女。
「秀ちゃ-…」
「何もしないから。」
ぎゅっと抱きしめられる。
それに一気に固まる栄子の体。
「君の体温を感じさせてくれるだけでいいから。」
「………。」
「だから…こうさせて。」
「……うん。」
戸惑いがちに彼の背に回る栄子の手。
それに狐は笑みを浮かべ瞳を閉じた。
『秀ちゃん!!ほら、ミミズだよ、へへへへ。』
互いに泥だらけになって笑う君。
『ばかぁ!!本当に心配したんだよ!!勝手にどこかに行っちゃだめでしょう??』
泣きながら幼い俺を抱きしめた君。
生まれた時から、あの時から-…
あたりまえにあった脆い存在がこうも大きく変わるとは-…
だからこそ、時おり確かめなければ不安になる。
年々それはさらに大きくなって行き、ついには触れたくてしかたがなくて-…
彼女が今ここに生きているのだと-…
彼女の体温を感じる事がこんなにも幸せで嬉しいのだと。
だけど、欲とは成長するもので-…
その温かみは別の感情を刺激するにも十分なもので-…
しばらく抱き合っていれば決意もとても脆くも崩れやすい、男の性。
「あ、あの…手、手…」
背をなで上げられる感触に身を強張らす栄子。
確かに先ほどまでは大人しかった彼の手。
「…栄子。」
耳元では先程とは明らかに違う艶やかな声。
「しゅ、秀ちゃん!!!??」
どこか雰囲気も一変する。
「やっぱり少しだけ、いい??」
押し倒されれば目の前に移る熱の籠る翡翠。
「え…え、え??」
「ごめん、本当に少しで、いいから…。」
頬を滑る指。
両腕を頭の上で固定されるその体制。
そして熱を帯びた翡翠と金の混ざる妖艶な瞳がまっすぐにこちらを見下ろす。
(す、少し!!!??…絶対、これ少しって思ってない!!!??)
「愛してる、栄子。」
「わ、わわわわわ-…秀ちゃん、待って!!!」
二度と失いたくない-…
君だけは-…
僕に母親とは違う「愛」を教えてくれた人だから-…
********
あとがき
走り出すと止まらない秀一君。
どんなに長生きの狐さんでも、恋すればまだまだ思春期の男の子でした。
めでたし
めでたし
-end-